音質を理由にTWS(完全ワイヤレスイヤホン)を敬遠していた(筆者のような)音楽好きに朗報だ、ついにTWSでも「音が良い」と言えるモデルが出てきた。それが今回取り上げるag「TWS04K」だ。これまでも「良い」と言われてきたTWSはいくつかあったが、今回のものはひと味もふた味も違い、TWSの中では“ずば抜けて”音が良い。
TWSの音に満足できない
Bluetoothで、プレイヤー/左右耳間のケーブルを排除することに成功したイヤフォンから、完全ワイヤレスへ。appleの「ear Pods」が嚆矢となったこのジャンルは、業界ではTWS(True Wireless Stereo earphone)などと呼ばれており、利便性が大きな支持を受けてここ数年で一気にポータブルオーディオの表通りへと躍り出た。
その存在感はなかなか凄まじいもので、雨後の竹の子の如く次々と新製品が登場し、家電量販店へ行けば専門のコーナーが売り場の中心に鎮座している。だがしかし、音楽・オーディオ好きの中にはこう思っていた人も少なくないのではなかろうか。
「確かに楽で便利だけど、音楽を聴き込んだり没頭したりするにはちょっと音質がなぁ……」と。
音質向上を阻む「完全ワイヤレス三重苦」
実のところTWSはオーディオとして見ると、大まかに言って3つの理由でなかなか難しいジャンルなのだ。
まず1つ。
TWSは発音/調音/無線といった多様な目的の部品を、耳に入れる小さなイヤフォン内に詰め込まないといけない。オーディオの音質は基本的に“物量は正義”。振動板の大口径化や空気室の大容量化といった様な “大規模化”が、手っ取り早く音質を上げる近道である。言うまでもなく、耳に入れる程の小型化とは正反対のアプローチだ。
2つめ。
同じ無線接続でもヘッドフォンと違い、TWSは左右にそれぞれ独立した電池を組み込まないと“ステレオ”として機能しない。ただでさえ小型化でスペースに限りがあるため、搭載できるのは必然的にボタン電池サイズのものに限られてしまい、バッテリーライフの要求から極限の省エネ運転が求められる。少ない電力で振動板を思う存分贅沢に動かすことはなかなか難しく、これも音質向上における大きな障壁となっている。
そして3つめ。
接続に使うBluetooth自体の通信容量が結構限られている。理論的には無圧縮音源の伝送も可能なはずだが、実用的にはaacやaptXといった音質劣化を伴う圧縮をかけなければ音を飛ばせない、という規格になっている。従来の有線型と比べると、TWSは音を出す以前に信号受信の時点で厳しいハンデを背負っているのだ。これらの「完全ワイヤレス三重苦」が、TWSの音質向上を阻んできたのである。
日本のオーディオブランドが“三重苦”と真っ向勝負
今回取り上げる「ag」というブランドだが、大多数の人にとっては初耳だろう。その正体は「final」を擁する川崎の会社S’NEXTが昨年秋に興した、新コンセプトラインだ。
finalはおよそ2000円ちょっとのイヤフォン「E1000」から、40万円オーバーの「D8000pro edition」まで、イヤフォン/ヘッドフォンで多彩なラインナップを揃え、耳の肥えたオーディオファン諸氏を唸らせているオーディオブランド。落ち着きの中に音楽の深みを感じるサウンドで、前述の2モデルをはじめ近年はヒット作を連発している。
ポータブルオーディオの酸いも甘いも噛み分けてきたfinalが、そのノウハウを惜しげもなく投入して作り上げた一本、それが「TWS04K」である。例えば6mm径の振動板は生産段階で徹底した品質管理体制を敷き、試作品を山のように実験にかける。あるいはイヤフォン全体の設計に立ち戻ってmm単位で変更をかけるなどなど、挙げればキリが無い。
音質劣化を招くイコライザーも最小限
また、TWSはコストを下げるため、一般的にイコライザーによる信号操作で音の粗を抑える。だが本機は元々の素性が良いので、ほとんどイコライザーは使っていない。唯一の例外は3000~5000Hz近辺の女声音域で、ここはBluetoothに起因するザラザラしたノイズが出やすいため、それを抑える操作を最低限でかけているという。その様相はまさに、TWSの限界への挑戦だ。
こうしたアプローチは端的に言って手間もコストもかなりかかるし、音楽的センスを要求されるある種の職人芸でもあるため、ガジェット系ブランドでは見過ごされがちだ。しかしこれらは正統派オーディオで言えば当たり前で、高級オーディオが高価格な所以でもある。TWS04Kの質を保証するこれらの仕事こそ、パッケージにある「SOUND TUNEDBY final」の意味なのだ。
使い勝手を考慮しつつ、細部に至るまで音質第一
スペック的な話をすると、まずIPX7防水に対応している点を挙げたい。使い勝手はもちろん、ここでも音質への影響を最小限にするべく、新開発の防水機構を搭載。あらゆる要素において音質第一という思想が、ここでも表れている。
イヤーピースは新設計の「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」が付属する。装着時の快適度における重要なファクターでもあるパーツだが、ケースに収納するTWSのイヤピは、丈が浅く耳穴の手前の方でふわっと挿す様なスタイルとなる。押し込まず、密閉度を下げつつ、それでていて外れやすくてはいけないという要求に対して、素材を限界まで柔らかくし、厚みをコンマ1mm薄くして柔らかさを出して対応している。
ケースはモバイルブースターに。落としても片耳だけ買い足せる
ケースはシボ加工されたレザー調で、バッテリー容量2600mAhのモバイルブースター機能を搭載。イヤフォン本体のバッテリーは一回の充電で最大9時間の音楽再生が可能。付属の充電ケースを使えば最大180時間の再生ができる。また万一の本体紛失時は、公式サイトで片耳のみの購入が可能だ。
こと音質において、右に出るTWSは無い
本製品最大の魅力は、何と言っても音の良さ。まず音楽としての全体的なまとまりが凄まじく良い。音色は色気ムンムンなものではないが、スッキリとしていて細部までしっかりと表現し、とにかく音楽としての嫌な感じ、耳に付く不快な音がほとんど無い。それでいて聴かせるところはちゃんと聴かせる、抑えるところはちゃんと抑えるという様に、音楽のツボを心得ている。
TWSで従来「高音質」と言われていたモデルは、ほとんどがキンキンとしたサウンドで、曲がらない鋼の針金の様に音がカチカチだった。でもコレは違う、音の繋がりが滑らかでおと自体が実にしなやかだ。アコースティックサウンドがこんなに上質なTWSは、本機をおいて筆者に思い当たるものはない。
細かく言うと低音が若干ボワついていたり、高音に僅かな強調感があったり、あるいはaptXの限界として、空間的な広がりももう一声だったりする。しかしそれらを差し引いても、声でも弦でも管でもちゃんと響く、というサウンドは圧倒的な魅力だ。つまり本機は「クラシック音楽がキチンと聴ける1本」なのだ。
もちろんオーセンティックなジャズトリオも、ポップスのエネルギッシュなヴォーカルも、躍動感あふれるラテンミュージックのリズムセッションも、リスナーを説得力のある音色で音楽の世界へ引き込む。これは今までのTWSでは無かった快挙であり、もしかするとこれを聴いた後は現存する他のTWSでアコースティックサウンドが聴けなくなるかもしれない。
音楽好きにこそ聴いてほしい“特選TWS”
他製品との比較で言うと、ノイズキャンセリングやパーソナルイコライジングといった機能は非搭載で、専用スマホアプリも無い。スペック的には至ってシンプルだが、「オーディオは音楽を楽しんでナンボだろう」という一点突破においては妥協を許さない。こと音に関して、TWSで比較が出来そうなモデルはほとんど皆無とさえ言ってよく、場合によっては1万円までの有線イヤフォンとも比較が出来るかもしれない。
とにかく音楽が好きな方、この“特選TWS”を聴き逃がすと、後悔するかもしれないデスヨ。
途切れにくく高音質なaptX 対応 SBCやAACに加え、途切れにくく高音質なコーデックであるaptX にも対応。iPhoneやAndroidの幅広い機種に対応し、ペアリングも簡単。 防水性能と音質を両立 新開発の防水機構により、音質を損なうことなく高い防水性能を実現しました。
最大180時間の音楽再生 一回の充電で最大9時間の音楽再生。付属の充電ケースを使えば最大1…