【伝説巨神イデオンの考察】モノラル音声でも凄い音「THE IDEON 接触篇/発動篇」人の業を描いた神アニメ

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「音の良さ」をキーワードに、新旧を問わずさまざまなアニメ作品を紹介するシリーズの第3回は、1982年に劇場公開された「THE IDEON 接触篇/発動篇」。「ガンダム」の富野由悠季監督の代表作のひとつだ。TVアニメ「伝説巨神イデオン」を元にした作品のため、決して高品質とは言えず、音声はモノラルだ。しかし、そこに流れる音楽、そしてキャラクターを生々しく描いた作画と声優たちの迫真の演技は、今見ても魂を震わせるような”凄さ”がある。

「伝説巨神イデオン」の音楽を担当は?

www.ideon.jp

「ドラクエ」シリーズのすぎやまこういち

アニメに限らず、映像作品に欠かせない音楽。誰もが知っている名作は、タイトルを思い出すだけで主題歌や作品を象徴するテーマが頭に蘇るはずだ。「伝説巨神イデオン」の音楽を担当したのは、すぎやまこういち。後に「ドラゴンクエスト」シリーズでその名を知られる作曲家だ。劇中の音楽だけでなく、TVシリーズの主題歌とエンディング、劇場版の主題歌の作曲も担当している。後になって聴くと、ロボットが活躍するアクションパートの音楽のオーケストレーションやスリリングな曲の展開は、まさにドラクエのバトル曲に通じるものを感じるし、悲しい場面や楽しげな日常の場面など、情感の豊かな曲は実に魅力的だ。

「伝説巨神イデオン劇場版」Blu-ray。湖川友謙描き下ろしのボックスセットだ。発売元:(株)フライングドッグ/販売元:ビクターエンタテインメント(株)

BD版に収録されているモノラル音声(リニアPCM収録)は、オリジナルそのものであるが、音圧的なダイナミックレンジがやや狭いTVアニメ的な音だ。当時のアニメは、まだ子供向けのものとされていて、突然に大きな音が出ると子供たちはびっくりしてしまう。そのため、絶対的な音量などに制限があったのだ。秋に、4Kでリマスターされた映像とドルビーアトモス音声でリニューアルされる劇場版「機動戦士ガンダム」3部作のように、こちらも映像も音も一新してほしいとは思う。しかし、改めて今、本作を見直してみると、古さはあるが映像的にも十分に質は高く、なによりも音はまったく古さを感じさせずに心に響く。それは、音楽の質の高さと、声優による演技の凄さがよく伝わるからだ。

キングレコードから発売された「接触篇」と「発動篇」のオリジナルサウンドトラック(絶版)。すぎやまこういちファンも必聴のアルバム。

伝説巨神イデオンとは?

宇宙を舞台に地球人と異星人の戦いを描いたロボットアニメ

「伝説巨神イデオン」をあえてわかりやすく紹介するなら、宇宙でロボットが戦いを繰り広げる戦争アニメだ。宇宙に進出した地球の人類は、ソロ星を植民星として移民が始まっていた。そこには、人類が出会った6番目の知的生命体である、第6文明人が残した遺跡があった。同じとき、バッフクラン星の人々も、ロゴ・ダウ(ソロ星)にたどり着こうとしていた。ロゴ・ダウには、無限のエネルギーがあると伝説で伝えられている。それを求めての探索だ。突然の遭遇により、2つの人類は戦争状態に陥ってしまう。戦争が始まれば人が死に、憎しみが憎しみをよんで戦いは激化していく。

ブルーレイの映像特典として収録されたキャラクター紹介。バッフクラン側の人物が並ぶ。

キャラクター紹介その2。こちらは主に地球側の人々。伝説の勇者と女王もいる。

キャラクター紹介その3。こちらはソロシップの乗員たち。1枚の描き下ろしイラストであることがわかる。

その物語は、とても子供向けには思えない。戦いに巻き込まれた子供たちが大人に交じって戦うのはロボットアニメだから仕方がないが、敵も味方もたくさん死ぬ。バッフクランの攻撃で親を殺された少女は、地球人に捕虜として捕らえられたふたりの女性のひとりを憎しみをもって殺してしまう。地球側もバッフクラン側も憎しみの感情を隠すことなく相手にぶつけ合う。また、植民地の移民と軍人が一緒になった艦の中でも、いがみ合いが絶えない。敵と味方の戦いだけでなく、味方通しのいがみ合いも繰り返される。

このように、むき出しの感情のぶつかり合いが繰り広げられていくハードな展開が続く。ドラマとしては高く評価される一方で人気は出ず、TVシリーズは結末に至る前の39話で打ち切りとなってしまった。その直後に制作された劇場版「THE IDEON」は、TVシリーズの総集編である「THE IDEON 接触篇」と39話以降の結末を描いた「THE IDEON 発動篇」があり、2本が日替わりで上映されるスタイルで同時公開された。

TVシリーズ総集編の「接触篇」

魂のこもった作画と声の演技が最大の魅力

「接触篇」のブルーレイのトップページ。映像特典はこちらに収録。

TVシリーズ総集編である「接触篇」では、地球とバッフクランが戦争を始める発端と、物語を理解するうえで外せない重要なエピソードをつなぎ合わせたもの。各キャラクターの掘り下げや心情の変化を描くエピソードが省略されているため、TVシリーズを見ていないとストーリーは理解できるものの、感情移入はしづらい。だから、生々しい感情のぶつかり合いに不快な印象を持ってしまうかもしれない。湖川友謙の骨格が見えるようなリアルな造形のキャラクターは、憎しみや怒りに満ちた表情を露わにする。そして、声優たちも迫真の演技でキャラクターに命を吹き込む。総集編に凝縮されたことで、その凄みが全編に満ちている。一見さんお断りの敷居の高さがあるが、そんな魂のこもった作画と声の演技が本作の最大の魅力だ。

モノラルで決して上質とは思えない音だが、その生々しい感情がダイレクトに伝わってくる。デジタルの高音質で、サラウンド収録も当たり前の現代のアニメを見慣れている人は、その声の迫力に驚くはずだ。そこに、すぎやまこういちの音楽が時にドラマチックに、時に楽しく、場面を彩っていく。そして、謎に包まれた無限エネルギー「イデ」の力の増大とともに、人々はもはや引き返せないところにまで来てしまったことに気付く。

本来の結末である「発動篇」

戦争の行方を鬼気迫る映像と音で描く

「発動篇」のブルーレイのトップページ。

本来の結末である「発動篇」で描かれるのは、地球人とバッフクランの戦争の決着だ。打ち切りになったスタッフの悔しさか、その作画は今見てもうなるほどの入魂の出来。だが、そこで描かれるのは爽快なロボットバトルというよりも、戦争の中で主要なキャラクターたちが次々と死んでいく姿だ。ある者は誰かを守るために、またある者は自分たちの種族の存続のために、それぞれが必死に戦って死んでいく。

映像特典の湖川友謙イラスト集。キャラクターデザイン/アニメーションディレクターの手による美麗なイラスト集だ。

誕生の後から始まるオーケストラ曲

皮肉な見方をすれば、この物語は地球とバッフクランの滅亡で決着しており、来世への期待は描かれるものの、人類の滅亡という悲惨な結末でしかないとも言える。しかし、それがイデの導きかどうかは別として、憎しみや怒り、増大したエゴをぶつけ合い、最後まで戦い尽くしたからこそ、そうした負の感情をすべて昇華させることができたのだと思う。それを伝えるための凄絶な描写だ。だから、イデの発動の後は、あまりにも美しい映像で新たな誕生を祝う様子が描かれる。そこには、もはや遺恨やわだかまりはない。この場面での朗らかで楽しげな音楽も素晴らしいが、誕生の後から始まるオーケストラ曲は、「接触篇」の主題歌である「海に陽に」のテーマをモチーフとした悲しげな曲調から、やがて宗教曲を思わせる壮大な歌曲へと展開していく。この壮大な楽曲構成も見事だ。

余談だが、すぎやまこういちはドラクエの音楽でも、メインテーマをモチーフとした楽曲を豊富に取り入れ、音楽だけで交響組曲として成立する構成を得意とするが、本作でもTVシリーズの主題歌とエンディングをそれぞれモチーフとした楽曲を使っており、愁いをおびたバラード調で流れる「復活のイデオン」や、慈しみに溢れたメロディーの「コスモスに君と」が流れると、ついついTVシリーズを思い出してしまう。

ブルーレイの映像特典には各種のグッズも紹介。こちらは主題歌のCDシングル。

まとめ

リマスターも良いがオリジナル版も捨てがたい魅力

有名な名作は、「ガンダム」のようにDVDやBD、4K版とリニューアルされて再び発売される。ファンならばついつい発売されるたびに買ってしまうが、古くなったオリジナル版の価値が下がってしまうわけではない。本作のように、オリジナル版にこそ、画質や音質を超えて伝わっている“絵の良さ”、“音の良さ”がある。「伝説巨神イデオン」に感動したことのある人は、ぜひとも最新の映像と音のシステムで、音量も大きめでもう一度見てみてほしい。上映が終わっても感動の余韻でしばらく席を立てなかった最初の上映の時の思いが蘇るはずだ。

「伝説巨神イデオン」劇場版 Blu-ray(接触篇、発動篇)
¥21,000
2020-07-30 21:20
家電・AVエンタメ
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鳥居一豊(AVライター)

オーディオ、AVの分野で活躍するAVライター。専門的な知識をわかりやすく紹介することをモットーとしている。自らも大の映画・アニメ好きで自宅に専用の視聴室を備え、120インチのスクリーン、有機ELテレビなどを所有。サラウンド再生環境は6.2.4ch構成。

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