【SkyDrive スカイドライブとは】空飛ぶクルマの実用化はいつ?課題やメリットは?夢実現の「現在地」を考える

スポーツ・アウトドア

「鳥のように自由に空を飛びたい」…人類はその夢に向かって飛行機やヘリコプターを生み出した。しかし、もっと手軽に空を飛べるようにならないか。そんな新たな夢に向かって世界中で開発が進められているのが「空飛ぶクルマ」だ。どこまで実用化に近づいているのか、空飛ぶクルマの現在地をレポートする。

執筆者のプロフィール

会田 肇(あいだ・はじめ)

1956年茨城県生まれ。大学卒業後、自動車系出版社の勤務を経てフリージャーナリストとして独立。カーAVやカーナビなど、カーエレクトロニクスの分野を中心にレポート活動を展開しつつ、カメラ系の評論も行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
▼日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ会員)
▼走りも楽しいエコカーの実力(イミダス)

SkyDriveとは?

ここ数年、「空飛ぶクルマ」の姿が少しずつ見えるようになってきた。きっかけは、急速に普及している「ドローン」の存在が大きい。四隅に置いたプロペラで垂直に浮かび上がり、自由自在に空を飛ぶドローンの姿は、新たな飛行スタイルを生み出した。これを大型化すれば人が乗れる空飛ぶクルマは実現できるのではないか。多くの人がそう考えたはずだ。その着想の下、電動垂直離着陸機(eVTOL)として、空飛ぶクルマの開発を手掛けてきた日本発のベンチャーが「SkyDrive(スカイドライブ)」だ。

2020年8月下旬、有人試験飛行に成功したSkyDriveの「SD-03」。2mほどの高さでテストフィールド内を4分間にわたって飛んだ

日本発のベンチャーが初めて有人飛行試験に成功!

SkyDriveは、2012年に発足した「モビリティを通じて次代に夢を繋ぐ」ことを使命にした日本発の空飛ぶクルマを開発する有志団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」をベースに、2018年に発足。同社は、東京オリンピックの開催に合わせて「空飛ぶクルマ」のデモフライトを実現させることを目標に開発を続けて来た。その実現にこぎ着けたのが、今年8月25日のこと。同社の豊田テストフィールドにおいて、試作機3機目となる「SD-03」で有人飛行試験に成功したのだ。高さ2mほどまで上昇してフィールド内を1周して元の位置に着地。飛行時間はわずか4分でしかなかったが、飛行中の機体はとても安定している、という印象だった。

World debut SkyDrive Manned Flight by SD-03 in the summer 2020 Full Version

www.youtube.com

少し前まで、空飛ぶクルマなんて本当に実現できるのか?という想いも抱いていたが、実際に空に浮かぶ姿を見せられると、その期待はおのずと膨らんでくる。

SkyDriveの最高技術責任者・岸信夫氏は、「まず2023年には有人による運行サービスを二人の乗りでスタートさせ、2025年の大阪万博の開催時には一定の認知がされることを目標に据えている」と話す。移動のための乗り物というよりも、まずはアトラクション的なものから実現して、認知度をアップさせていこうという戦略だ。

インタビューに答えていただいたSkyDriveの最高技術責任者・岸 信夫氏

「空飛ぶクルマ」実現はいつ?

そして、空飛ぶクルマが現実のものとなるのが「2030年頃」と岸氏は予測する。具体的には「空港からタクシーやハイヤーを使うビジネスマンが相手」で、当初はパイロットの同乗が必要になりそうだが、「いずれは遠隔操作で操縦できるような態勢にまで持って行きたい」という。

“カッコ良さ”こそがポイント

そして、その先にあるのがパーソナルユースだ。岸氏は「パーソナルで使ってもらうにはカッコ良くなければいけない。価格も最初はフェラリーみたいに高価でも、いずれは多くの人が所有できるまで落とし込みたい」と話す。

SkyDriveの岸氏は「パーソナルで使ってもらうにはカッコ良くなければいけない」と話し、そのためにシトロエンも手掛ける自動車デザイナーの山本卓身氏を起用した

それだけに、試験飛行に成功した「SD-03」は、私が見た空飛ぶクルマの中でもっともカッコイイと思える仕上がりを見せていた。SkyDriveとして、将来はパーソナルでも所有してもらいたいという構想を掲げる以上、カッコイイ空飛ぶクルマを作る会社としてのイメージ作りは欠かせない。そのため、車体デザインの格好良さは当初から狙っていたという。

SkyDriveのSD-03のコックピットは、着座しても十分な広さを備えていた。内装に造りもマイカーとしても通用する仕上がりの良さだった

コックピットに座ると、シートはホールド感も良好で足元も広々としており、想像以上にゆったりとしていた。コックピットには目的地を入力するためのディスプレイが一つあるのみ。これは自動運転で、誰でも乗れる機体を目指して開発が進められているからでもある。

整備が低コスト、パイロットも滑走路も不要

では、空飛ぶクルマはどんな形で実用化されるのだろうか。2018年に設置された「空の移動革命に向けた官民協議会」では、空飛ぶクルマの特徴について、(1)電動、(2)自動運転、(3)垂直に離着陸、といった点を挙げている。

エンジンを持つ車などと比べて部品点数が少なくいことから整備が低コストで済み、自動運転を実現することでパイロットも不要。さらに垂直に離着陸できるから滑走路も必要ない。これによって、人々の移動範囲を飛躍的に広げ、交通渋滞の解消や物流サービスの効率化などにつなげようという狙いだ。

2018年に設置された「空の移動革命に向けた官民協議会」が掲げる「空飛ぶクルマ」のロードマップ

SkyDriveが考える空飛ぶクルマの特徴と利点。1.電動、2.自動運転、3.垂直に離着陸、といった点を特徴に挙げている

世界では有人飛行のテストフライトが相次いでいるが、実際に実用化されるのはこれからとなる

NECが考える空飛ぶクルマの試作機。無人ではあるものの、2019年8月に飛行試験をテストフィールドで成功させた

ベンチャー「AERONEXT」が考える空飛ぶクルマは、キャビンが常に水平になるように回転することで、飛行中でも乗員が自然なスタイルで搭乗できる

SkyDriveの課題は?

ここでの提案を踏まえ、岸氏が考える空飛ぶクルマは「自宅周辺から離発着場まではクルマとして走り、離発着場からは空飛ぶクルマとして目的地付近の離発着場まで飛んでいく。飛行中はドライブユニット(タイヤ/ホイール)をしまい込み、離発着場からは目的地までは再び道路上を走って行く」というものだ。

コンビニ駐車場「2枠分」の離発着場があればよい

離発着場というとヘリポートのようなものを想像しがちだが、SkyDriveでは、コンビニの駐車場2枠分程度の広さを想定する。これによって誰でも気軽に空飛ぶクルマを利用できるようになり、まさに「空の移動革命」がここに実現されるわけだ。

「空飛ぶクルマ」であるeVTOLが抱える課題。自動運転による実現で省人化が期待できたり、運航費の低減が期待される一方で、実現までのハードルは高い

課題を克服した先には「多くの需要」

一方で、空飛ぶクルマを実現するには課題も多い。特に、機構的な問題としてあるのがバッテリーの持続時間だ。空飛ぶクルマはeVTOLの機構を採用する以上、浮いているだけでもバッテリーは消費する。岸氏によれば「現状のバッテリーで飛べるのはせいぜい5~10分程度。二人乗りにすれば機体は重くなってバッテリー問題の解決は欠かせない」と話す。さらに、空飛ぶクルマとするには、飛行中には不要となるクルマとしての機構が“デッドウェイト”として負担になってしまう。これを解決しないと長距離飛行は難しいのだ。

これらの事情を鑑みると、まずはアトラクション的な乗り物としてスタートし、そこから技術的な積み上げを図っていくという流れが現実的なのかも知れない。

とはいえ、これら諸問題を解決できた先には、官民協議会が描く多くの需要が待っている。現状では小型セスナ機には滑走路が必要で、ヘリコプターは機体の維持費用がかさむという問題を抱えているからだ。果たしてロードマップ通りに進むのか、そのあたりは現状では判断しがたいが、空での移動が身近になって誰でも自由に飛べるようになれば乗り物の概念が一変するのは間違いない。そんな夢が実現する日が訪れることを楽しみに待ちたいと思う。

◆取材・文/会田 肇(フリージャーナリスト)

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