アイロボットが「ルンバ i3+」を発表しました。同じダストボックス付きの「ルンバ i7+」より、10万円を切り、ずいぶん手頃な価格になりました。なぜ、「ルンバ i3+」は、低価格化と同社の目標である「ユーザーに床掃除を忘れてもらう」の両方を実現できたのでしょうか。
iRobotが「ルンバ i3」「ルンバ i3+」を発表
2010年代の前半、ルンバのプログラムがまだ、第一世代だった頃、あるメーカーさんと、ここだけの話をしたことがあります。それは、「『ロボット掃除機』の掃除は、どの位満足できるのか?」と言うものでした。丁度、日本メーカーの主だったメーカーがロボット掃除機を出した頃だと思っていただければと思います。彼の見立ては、日本メーカーは75点。iRobotは85点。私の見立てとほぼ一緒でした。「では、未来は?」と聞くと、「92〜93点。やはり吸引力の高い掃除機には敵わないだろうし、ゴミは千差万別だから、そう上手くは行かないだろう。」と言う見立てでした。
私は、「100点は絶対ないだろうが、95点位までは行くのでは?」と思っていました。その後、iRobotは研鑽を重ね、ルンバ M960が出てきた時、「ヤバイ、完成度が高い(93点オーバー)」となり、「ルンバ i7+」(ダストタワー付き)をテストした時は、返却する日まで、掃除はしませんでした。(97点レベル)
そんなiRobotが、現在のメイン品番、「ルンバ i」「ルンバ i+」の末っ子、「ルンバ i3」「ルンバ i3+」を発表しました。どんな感じか、レポートします。
iRobotの市場でのポジションは
iRobotは、2つの顔を持ちます。1つは、優れたロボット掃除機を開発するメーカーです。もう一つは、ロボット掃除機の市場を拡大するということ。ようするに業界の広報会社としての立場です。
広報、広宣と言うと、テレビCMを思い浮かべる人も多いと思いますが、話はそう単純ではありません。確かにテレビで、認知度は上がります。しかし、それは、お客様を商品棚の前に誘導するまで。その後は、商品が頑張らなければなりません。
このため、この2つは、似ていますが、正確には違います。2つ目、ロボット掃除機の市場を拡大するということは、今、すごい勢いで掃除機の主役となったスティック型掃除機を上回る掃除機を開発して、使ってもらう必要があります。トップメーカーが、維持ではなく、拡大を狙う限り、避けては通られぬ課題です。
iRobot社は、トップメーカーとして、この課題に取り組んでいるのです。
「ルンバ i3+」はダストタワー付きで10万円以下
「ユーザーに床掃除を忘れてもらう」と価格ダウンを実現
人を魅力する商品というのは、「デザイン」「機能」「価格」のコンビネーションが見事です。よく日本人は「機能」「品質」と言いがちですが、機能なんて、見た瞬間にわかるモノではありません。このためにあるのが「デザイン」(色、形)です。「デザイン」は「機能」の代弁者なのです。
ただし、それは言葉を用いません。「いい感じ」「やってくれそうな感じ」をデザインで表現するのです。私も、それなりの人数のデザイナーの方に会いましたが、共通しているのは、文章より絵や形で自分を表すのに長けた人ということです。掃除機などの、工業デザインとは、そういうセンスと、理論の融合です。例えば、耐久性があることをアピールする時、「岩」のモチーフなどを巧みに入れます。部屋に岩があるのは決してスマートではありません。が、岩が人が生きているうち変わらないだろうということは、山の形がそう簡単に変わらないのと同じように、皆知っています。そういう要素でデザインを構築していくわけです。
次に人を魅了するのは「価格」です。今の日本のユーザーは、どういったものが、どの位するのか、よく知っています。例えば、スティック型掃除機だと、メイン(普段使いから大掃除までという意味)に使える掃除機は、5〜8万円します。このレベルの掃除機は、ワンルームではなく、いわゆる2人以上で構成される世帯だと、ちょっと高めですが、納得できる範囲でもあります。
では、それにぶつけるロボット掃除機はいくらでしょうか?「20万円」?、「15万円」?、「10万円」?。これどんなにモノがよくても、「20万円」、「15万円」だとほとんどの人が、うわのそらになります。手が出せないと、人の興味は急速に薄れます。よって答えは「10万円」です。
また、アマゾンUSAをウォッチしているとよくわかるのですが、彼らは$999を、大きなポイントとしています。為替レートを入れると異なるのですが、感覚的には、日本の98,000円のお買い得価格と同じ。大台に載せないのが重要なのです。
購入してもらえると、ロボット掃除機は、すごく便利ですので、口コミも広まろうってモノです。
これのサイクルを作り上げる時の、もう一つのポイントは、「何が目的なのか?」です。
今回のポイントは、iRobot社の夢、「ユーザーに床掃除を忘れてもらう」ことです。このための「ダストタワー付き」で10万円を切るモデル、「ルンバ i3+」がプロデュースされたのです。
どこをコストダウンしたか?
このように、マーケットを引っ張って行くためには、10万円以下、ダストボックス付きのモデルが必要なのですが、一番近いモデル「ルンバ i7+」の価格は、142,868円(税込、オンラインショップ価格。以下同じ)。タワーボックスのない「ルンバ i7」でも、109,868円と、10万円をラクラク越します。これは大きな差です。タワーボックスは、作りがシンプルなため、どちらかというと、量産効果によるコストダウンを狙った方がいいですが、ここまでのコストダウン効果は見込めません。さりとて、物理スペックを変えると、耐久性テストなどをする必要があります。
では、どうしたのかというと、最も高価格なセンサーをなくすことにしたのです。最も高いセンサーというのは「デジカメ」です。デジカメは、今いる位置などを室内のブツなどで確定させるためのセンサーです。あと付記しますと、そのままのデーターをネットに流すと個人情報問題になるため、クラウドAIとの共有も最低限。ルンバ内で必要な部分だけ抽出、暗号化しますので、セキュリティーにも十分配慮しています。逆に言うと、これだけでも相当お金がかかっているのです。
実際にルンバ i3+を使ってみると
このため、ルンバ i3はデジカメを持ちません。しかし、iRobotは、デジカメ非搭載時から、ルンバを作ってきました。一番有名なのは、一点を4回、4方向から横切ることにより、掃除するランダムモデルですが、今回は落ち着いた感じで、人がレーンに沿って泳ぐように、掃除していきます。(一筆書きモデル)ランダムモデルより、安定しており、見てても気持ちがいいです。
あと売りは、ここのところ新モデルに搭載されるパワーアップしたモーターですね。しかも、以前のルンバと違い、変に大きな音はしないのもプラスですね。以前のモデルは、時折、ドギューンボーーーーと表現すべき最強音が時々したモノですが、このモデルは淡々とやるべきことをやっている感じです。本来ロボット掃除機は、人がいない時に使うことが前提なので、動作音が大きくても仕方がないと言えますが、コロナ禍で、在宅時間が増えた以上、少しでも小さいのに越したことはありません。
丸い黒で、どちらかと言うと台所で顔を合わせたくない昆虫No.1にも似ていると言われたデザインも今回は一新。美猫で有名なロシアンブルーを思わせる、品のあるグレーです。馬子にも衣装ではないですが、見違えます。何より、ダストボックス下で充電中でもきれいです。
トップモデルはマップがあるので、汚くなったエリアだけ掃除という、ほとんどスティック型掃除機にも似た掃除も可能ですが、そこまでの機能はありません。しかし、毎日丁寧に頑張ってくれるので、とても満足できると思います。
万人に勧められるモデルです。私は、子供のいる方、ペットがいる方、共働きの方に特にお勧めできますね。
最後に
【お掃除からゴミ捨てまで全自動】取りにくいホコリやゴミも3段階クリーニングシステムでしっかり除去。吸引力が大幅にアップしたパワーリフト吸引でゴミを逃さず取り除きます。
【ゴミや汚れを感知】無駄なく効率的に床を清掃。バッテリー残量が少なくなると、自動でホームベースに戻り充電します。充電後は中断したところから再開し、掃除を最後までやり遂げます。
【ゴミが溜まりやすい場所を感知。障害物を回避】リアクティブセンサーテクノロジーで清掃中の立ち往生を防ぎます。ダ…
今後、家電にAIが取り入れられれば、取り入れられるほど、便利になる一方、一過性の考えに基づいた機能は意味をなさないと言えます。
今回紹介したiRobotの野望は「床掃除を忘れさせること」。このために徹底的に磨き上げられたルンバは、すごいモノがあり、冒頭の未来予想より遥先にいます。当時の共通認識は、絶対掃除機としてモノ足らない部分が出てきると読んでいたのですが、遥かに高い目標を持つiRobotは、それを遥かに凌駕する答えを出しています。
「ルンバ i3+」はちょっと高いのですが、今後、掃除機を買い直す時の候補に加えて欲しいモデルです。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。