新潟県燕三条市にある、従業員300人の中堅家電メーカー「ツインバード」が、リブランディングしました。どのような理由でリブランディングしたのでしょうか?また、製品にどのような影響をもたらすのでしょうか? 今回は、商品化が垣間見えるお話です。
ツインバードのリブランディング
商品力とは何か?
「性能が良ければ、黙っていても売れる。」 そう豪語する人がいます。もっぱら技術系に多く見られるます。これは「正義は必ず勝つ」というお題目と同じで、嘘とは言いませんが、そういかないことが多いです。理由は簡単。色々な好みを持つ人がいる世の中、多種多様な視点があるので、そんな性能、品質一辺倒では成り立ちません。
では、商品の構成要素は何かと言うと、「性能・品質」「設計を含む広義な意味のデザイン」「価格」です。そして、その方向性を決めるのが「コンセプト」。商品力がある商品は、しっかりとした「コンセプト」の下、「性能・品質」「デザイン」「価格」がコンセプトに沿う形で、バランスよく展開されています。
高い技術を持つツインバード
では、多くの中小のメーカーに欠けているものは何でしょうか? それは「性能・品質」と「デザイン」です。しかし、ツインバードは「性能・品質」に凄いものを持っています。それは「世界で唯一」スターリング冷蔵庫の量産に成功したことでもわかります。
熱力学に、カルノーサイクルと言う、温度の異なる2つの熱源の間で動作する可逆な熱力学サイクルがあります。理想的な熱交換システムの一つです。これができると、ほとんどエネルギーをロスすることなく、モノを温めたり、冷やしたりすることができます。この熱交換システムに最も近いのがスターリング冷蔵庫です。要するに理想的な冷蔵庫なわけです。
似たものに、クルマのロータリーエンジンがあります。理論上では、1回転で得られる爆発によるエネルギーは、ロータリーエンジンは同排気量のレシプロエンジンの3倍あります。理論的には、ロータリーエンジンがレシプロエンジンに比べ圧倒的に排気量が少なく、燃焼効率がいいエンジンなのです。
このため、色々なメーカーが開発着手します。しかし、実用化に成功したのは、トヨタ、日産、ホンダ、三菱などの大企業ではなく、広島の一メーカー マツダでした。日本の地方メーカーが、アメリカの3大モータース、ヨーロッパの老舗メーカーができないことをやってのけたのです。
スターリング冷蔵庫も同様ですね。量産できたのは、新潟の地方都市の一メーカー。しかし、このツインバードはポッと出てきたわけではありません。古くから金属加工を生業としてきた燕三条というエリアですからね、当然、高い技術は尊敬されます。そんななかで、育ったメーカーですから、技術には高い誇りと職人魂があるわけです。
このスターリング冷蔵庫ですが、宇宙開発にも使われていますし、厚生労働省からもコロナウイルスワクチンの輸送、保管用に指名され、大活躍中です。
「匠プレミアム」と「感動シンプル」に商品をカテゴライズ
さてツインバードが優れた技術を持っていることはわかっていただけたと思います。実力があるので、プライドもあります。
しかしそれは、商品とは直接結びつきません。ツインバードがうまく羽ばたくためには、色々と直すべきところがあるのです。今回のリブランディングで一番大きいのは、商品群を意識的に3分割したことです。「匠プレミアム」「感動シンプル」そして「その他」です。
「匠プレミアム」の例は、バッハ・コーヒー代表、田口護氏が監修した全自動コーヒーメーカーです。このコーヒーメーカーは、非常にマニアックな仕様で、コーヒーも美味しく淹れることができます。今ある全自動コーヒーメーカーの中では、ベスト3に入るでしょう。抽出条件は非常に繊細。詰めに詰めてあります。田口護氏監修は伊達ではありません。しかし誰にでも使える仕様になっているのも事実です。確かに「匠」の技が色濃く反映された「プレミアム」製品です。現在、コーヒーメーカー以外で、一製品、ラインナップされています。
「感動シンプル」は、新しい視点で見直され、再デザインされた商品群です。例えば、コードレススティック型クリーナー TC-E263GYは、この商品群に含まれます。この掃除機、コードレスですが紙パックが使えるのです。サイクロン系の掃除機は、ダストボックスに直接ゴミを溜めます。しかしこれが曲者。ゴミを捨てる時、飛び散る可能性があるのです。それを見直した掃除機。ハウスダストアレルギーを持つ人には、とても嬉しい掃除機です。このカテゴリーには、現在16機種が含まれます。
「その他」もツインバードの重要な商品です。上記2つの商品ほどの特徴はないものの、通販カタログなどに適切な価格で掲載されている商品群です。
こう分類すると、どこに力を入れるべきかがわかりますね。「匠プレミアム」は、マニアが見ても感心するレベルのモノ。自社薬籠中の技術を使うか、作るか、もしくは強力な助けが必要とします。また、「その他」は今までの延長線上で作れます。
つまりツインバードが一番力を入れるのは「感動シンプル」のカテゴリーです。ここでツインバードらしさを出そうと言うわけです。
コンセプトのキーワードは「こころにささる」
さてラインナップイメージは決まりましたが、全体を同じ方向へ向ける必要があります。商品毎のコンセプトではなく、全体を貫くコンセプトです。
それがキーワード「こころにささる」。
これをデザイン化したのが、新しい「メーカーロゴ」と、「匠プレミアム」「感動シンプル」のロゴです。
「感動シンプル」の第一弾はスチームオーブンレンジ
リブランディングの発表と共にお披露目されたのが、「スチーム オーブンレンジ DR-F871W」です。これは過熱水蒸気を使ったオーブンレンジとは異なります。普通の構成のオーブンレンジに、スチーム機能を加えたモノです。
DR-F871Wの特殊な構成は、「せいろ蒸し」からとられています。実は、蒸しものと電子レンジの相性は最悪です。電子レンジは、料理が持つ水を沸騰させて温めます。蒸し料理は外から水分を入れ込む料理ですから、その外側の水分が抜けます。肉まんを電子レンジで温めると、妙にパサつくのはそれが理由です。そんな時、私は電気圧力鍋を使います。塩梅はいいのですが、ちょっと面倒。もう少し楽にできればなぁと思います。そんな時にジャストなのが、DR-F871Wです。
そしてもう一つの特徴は「シンプル」です。まず左ボタンで「オーブン」「スチーム」「レンジ」「オート」「調理方法」「お手入れ」を決めます。以降は、中央の液晶を見ながら、右の「決定」「選択」「取消」ボタンで、どのようなことをするのかを決めます。慣れるまでは、「調理方法」から、「蒸す」「低温調理」「煮込む」「揚げる」をセレクト、温度など設定します。
これは、今まで、付属のレシピ集、オートメニューにがんじがらめにされたところがありましたが、それからの脱却と言うわけです。シンプルと言うのは、断捨離と同じく、ある種の自由があります。実際かなり使いやすそうです。
ツインバードの今後
大型家電はともかく、今、調理家電は、どんどんツーンバード、シロカ、アイリスオーヤマなどが、どんどん力を伸ばしています。もう少しすると、大手家電メーカーが強いのは大型家電だけと言う形になる可能性が強いと思います。
そんななか、ツインバードは次の一歩を踏み出しました。確かに、「機能」「デザイン」は納得モノですが、問題がないわけではないです。それは「価格」です。49,800円(税抜)。正直、少々高いのではと思います。これが10年前なら、問題ないでしょうが、しかし、今の日本人の世帯収入は下がっていますからね。今回の値付けは、なかなか微妙です。あと、5000円安ければ、即推しなのですが…。とにかく、新しい一歩を踏み出した、ツインバード。今後の「感動シンプル」の新製品に注目です。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。