2021年、コロナ禍において新しい生活様式とともに家電のニーズも変化してきました。日本人は元来「清潔」好き。その気質に拍車がかかり、家電もどんどん進化しています。そのなかの一つが身だしなみに欠かせないシェーバー。本記事ではシェーバーの今年の動きをまとめてみました。
コロナ禍の「清潔」ニーズはシェーバーにも
「手洗い」「マスク」「ソーシャルディスタンス」。日本が今のところ、コロナの大流行を押さえ込んでいる理由は未だに結論付けられていませんが、「ワクチン」に加え、この3つが影響していることはまず間違いないでしょう。しかし、その基本となるのは、日本人の「清潔感」だと思います。
とにかく今は家電を含め、清潔であることがどこででも求められています。
シェーバーも例外ではありません。2021年は、洗浄機付きモデルが好調だったようです。コロナ禍ですからね。当たり前と言えば当たり前です。
しかし、改善してほしい点があります。それは洗浄液についてです。メーカーの洗浄液を使っているうちは問題ないのですが、結構値が高めなのも事実。ダイソーなどで安いアルコールを用意し、代替え品を作りたい気持ちもよくわかります。メーカー品は、洗浄するときれいになる上、オイル分が若干含まれており、外刃、内刃を激しく擦れるシェーバーの物理メンテナンスも行います。自作の場合、このオイル分が不十分な時があると聞きます。
洗浄という用途以外にメンテナンスもするつもりで使った方がベターと思います。
シェーバーの永遠の課題
剃刀とシェーバーの違い
シェーバーの役目はヒゲを剃ることです。しかし、剃刀とシェーバーではそのニュアンスが大きく異なります。剃刀は肌に刃を触れさせます。そして滑らせるように使います。そうしてヒゲを付け根からカットしてしまいます。今の剃刀は多枚刃ですから、ちょいとヒゲに刃を引っ掛け、ヒゲを引き出しカットすることもできます。これが剃刀でいう深剃りです。
一番の特徴は刃が常に肌と触れ合っていること。このため肌を傷つけない様に刃を滑らせるシャボン、シェービングフォーム、ジェルは必需品となります。それでも刃を直接当てるので肌への負荷は大きいわけです。また刃を直接肌に当てますので、手が滑ると実に危ない。
課題は「肌を傷めず深剃りできる」
一方、シェーバー(電気剃刀)は、より安全性をあげることと、シャボンなどを使わないというところから発想されました。採用したのは、ハサミの考え方です。刃を肌に触れさせるのではなく、刃と刃の間にヒゲを誘い込みカットします。そして刃の逆側を肌にあてるというという考え方です。要するに網刃の刃がない方を肌に当てると、カットされる部分と肌とは網刃の厚み分だけ離れるという考えです。
安全で、シャボンも要らないというメリットを確保し、順調にシェアを拡げたシェーバーですが、ユーザーの中には、剃りが甘いとして、網刃を押し付けるユーザーが出てきます。網刃に肌が食い込みヒゲごとジョキン。「肌を傷めず深剃りできる」という課題はここから出てきます。
以降、この課題にいくつもの提案がなされます。その中で今のメインは、刃があるヘッドと肌の接触面積を増やすことです。「多枚刃」による接触面積の増大は、接触面積が広ければ広いほど、同じ力で押し込んでも、網刃の目を抜けてくる肌は少なくなります。「肌を傷めず深剃りできる」という課題は、現在、多枚刃で鋭意対応中です。
では、その考え方で設計されたパナソニック、フィリップス、ブラウン、マクセルイズミの4社のフラッグシップモデルをレポートします。
4メーカーのフラッグシップモデルの特徴を見る
パナソニック
ラムダッシュ ES-LS9AX
パナソニックのフラッグシップ、6枚刃モデル。多枚刃も6枚刃まで来ると、行き着くところまで進化したという感じがします。パナソニックの使用感は「静謐(せいひつ)」という言葉が相応しい。静謐と書きましたが、動作音が静かというわけではありません。甲高いモーター音がするのですが、振動が少ないのです。振動が少ないのは、約14,000ストローク/ 分のリニアモーター採用のためです。当然、剃刀のコントロールもしやすい。とても落ち着いて使えます。刃の切れ味もよく、「日本刀」という言葉が浮かんできます。
こうした性格なので、どうしてもゆっくりと顔に当ててしまうが、スンナリ、グングン剃れます。「アゴ下トリマーをW搭載で、あのやっかいな長いくせヒゲもすばやく仕上げる。」というのがパナソニックの謳い文句ですが、嘘偽りはありません。このタッチと切れ味こそ、パナソニックのシェーバーの本骨頂と言えます。
後述するマクセルイズミの6枚刃モデルとの違いはヘッドの自由度です。パナソニックの方が自由度が大きい。左右上下、如何様にも振れるヘッドが採用されています。ヘッドの追従性が良いのも、このモデルの大きな特徴です。これら技術もったモデルに、樹脂の黒と金属光沢を巧みに使った質感の良いデザインを纏わせています。「大人」にこそ使ってほしいモデルと言えます。
フィリップス
S9000 プレステージ
全世界でNo.1シェアを叩き出しているフィリップスですが、日本では、そうなっていません。多分、ドイツ製品のクオリティ、日本メーカー製品への信頼が厚いのが、その理由だと思われます。また日本人は、大同小異を好む国民性があります。独自路線は、どんなにすごくても日本ではマイノリティーになりやすいです。
フィリップスの独自性は、刃の形状。フィリップス以外のメーカーは内刃が左右に振れるのに対し、フィリップスは回転する丸刃を採用しています。これは何を意味しているのかというと、肌に当たる面積が大きいことの意味します。実際使ってみてもフィリップスの3枚刃の肌への接地面積は大きいです。
この様に肌への密着が高い上、面積が大きいため、フィリップスのシェーバーは、剃刀のように直線的ではなく円を描くように使うのが基本です。ちょっと難しい。フィリップスは元々、最も肌に優しいという評価を得ていましたが、これが理由です。フィリップスは、この独自技術を詰めに詰めてきました。今ではヒゲ密度感知センサーもあり、強さもシェーバーが勝手に決めてくれます。慣れれば使いやすいモデルです。
ブラウン
シリーズ9 Pro
今年100周年を迎えるブラウン社のシェーバー・フラッグシップモデル。
現在、刃を多くするのが常套手段ですが、ブラウンは一休み。このため、ブラウン シリーズ9 Proは、独特の雰囲気を醸し出します。
まず刃には「5カットシステム」を採用。これは4つの刃と1枚プレートを組みわせたモノ。狙うは「深剃り」で「夕方でもヒゲが伸びているように見えない」のが目標です。肌対策として、今回ブラウンが取ったのは、10000回/分のヘッド振動。振動で肌を傷めず深剃りをするのは「剃刀」ではP&Gのフュージョンで実績があります。
使ってみると、シリーズ9 Proのヘッドは、それなりに大きいので、ブゥォーと言う感じで肌にあたります。まず「音」に驚かされます。ヘッドと刃が別々の動きをするわけですから、かなり五月蝿い。肌も震えるので強烈。肌へのあたりはさほど強くありません。また、ヒゲの引っ掛かりが全くと言っていいほどないことにも、やはり驚かされます。それでいて深剃りですから、本当にスゴイと思いました。当然、肌のピリピリ感もありません。実に良くできたモデルです。
マクセルイズミ
Z-DRIVE IZF-V991
昨年、6枚刃で、パナソニックと共に、刃の枚数でトップに立ったマクセルイズミ。昨年 出来のいい6枚刃のフラッグシップを出し、今年はもう1モデル追加。どうかと思ったのですが、手にとってみると「むむっ」となりました。持ちやすいのです。肌への当たりもかなり違います。実に繊細なのです。
昨年モデルと、刃他 パーツ、技術はほぼ同じです。それでは、どうしてこんな差が出てきているのかというと、それは重心の位置だと思われます。
昨年のモデルは、掴みよりやや上、刃に近いところに重心があります。が、今年のモデルの重心は、剃るときに刃の下に添える感じの親指の下にあります。直線を活かしたデザインになり、握りがややスリムになったことに加え、バランスがよくなっており、実に使い良いです。たった数cm、たった数十gですが、重力を持つ地球にいる限り、この重量バランスから逃げることはできません。高性能車も同じ、ほんのちょっと差が、投入された技術をフルに使えるか、どうかを決めます。
何度使っても、ヘッドの動きが実に滑らか。肌への追従性がよいです。何度も往復させずに済むので、結果的に肌にも優しいです。大いに推せるモデルです。
新しい課題も
以上のように各メーカーとも独自性を保ちながら、すごく進化したシェーバーですが、新しい課題も出てきています。
それは、重くなりつつあるということです。持つとずしっときますし、ハードケースも大きく重い。最近のハードケースは見た目、ドラキュラの棺、ミイラ男の石棺を思わせます。ハードケースに入れると、キャリーバックでないと持ち歩く気がしません。
要するに、大きな刃、高性能モーター、高容量充電池、高精度センサーとコントローラーで、中身パンパン。ちょっと重くなり過ぎた感じです。
このためでしょうか?100周年でラインナップを充実させたブラウンは、ちょい剃り用のシェーバーBRAUN miniを出しています。
また今以上に重要になるのがリサイクルです。何気に使われる充電池はかなり高性能なのです。こちらもブラウンが古い機種の店頭回収を提案しています。
深剃りの問題に目処が立ちつつある今、シェーバーは小型家電の代表として、リサイクル他、ユーザーを引っ張っていくポジションにいるのかも知れませんね。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。