【シドニアの騎士 あいつむぐほし】本格SFアニメ完結編 迫真の戦闘シーンはBDでの視聴がおすすめ

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『シドニアの騎士 あいつむぐほし』は、弐瓶勉による原作をアニメーション化した作品で、TVシリーズ『シドニアの騎士』、TVシリーズ第2期『シドニアの騎士 第九惑星戦役』につづく完結編。劇場公開作品として制作され、音響はこれまでの5.1chサラウンド(BD版で収録)からグレードアップして、ドルビーアトモスを採用。制作はこれまでと同じくポリゴン・ピクチャアズで、第1期から制作スタッフとして活躍していた吉平“Tady”直弘が監督を務めている。物語は謎の生命体ガウナによって地球を滅ぼされた人類が、巨大な宇宙船「シドニア」でガウナと戦いながら航海を続けるというもの。本作では、人類が居住可能な惑星をめぐり、ガウナとの最後の戦いを描いている。

成長したキャラクターたちを最新の映像で描く

今まで以上に迫力のある戦闘シーン

TVシリーズでの戦いから10年が経過し、シドニアでも平和が訪れていた。各キャラクターも成長しており、主人公の谷風長道をはじめ、顔付きが変わっている。本作は3DCGでキャラクターなども描いている作品だが、TVシリーズで使用した3Dモデルではなく、ほぼすべてのキャラクターを新規にモデリング。最新の技術で作り上げている。

日常的なシーンでも、キャラクターの表情やアングルの自由度など、クオリティーが大幅に高まっているのがわかるが、戦闘シーンではさらに迫力のある映像になっている。冒頭の場面では新人のパイロットによる模擬戦闘訓練が行われるが、スピーディーなカット割りと迫力のある衛人(戦闘用ロボット兵器)の動きによって、今まで以上に迫力のある戦闘シーンが楽しめる。

ガウナと戦う人類の兵器、衛人。ヘイグス推進機関は独特な粒子が飛び散るのが特徴。

(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

主人公の恋の行方も大きな見どころ

本作の大きな魅力は、SF作品ならではの大胆な設定だ。ガウナとの対抗手段として、ガウナと人間を融合した兵器が生み出されるが、ガウナと同じ身体でありながらも人間の心を持った個体である“つむぎ”は、戦闘でのパートナーでもある谷風長道と特に親しくなり、恋人のような関係になっていく。

その身長差15m(15cmではない)。滑稽とも思えるロマンスなのだが、つむぎをはじめとするキャラクターの行動や気持ちを豊かに描くことで、見ている者もつむぎに愛らしさを感じてしまう。激しさを増す戦闘の中で、ふたりの恋がどのような結末へと至るのかも本作の大きな見どころだ。

復活した重力祭の一場面。左端にいるのが谷風長道。右端が白羽衣つむぎ(の一部)。

(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

つむぎと谷風長道のデートシーン。身長差15mの恋。

(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

ドルビーアトモスの音響は今年No.1

映像の迫力をよりリアルにする立体音響

素晴らしいのが音響だ。最新の立体音響であるドルビーアトモスは、海外の映画でもすでに数多く採用されているが、日本のアニメ作品でも採用が増えている。「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」のような大ヒット作でも採用され、認知度を大きく高めている。「シドニアの騎士 あいつむぐほし」での音響監督と務める岩浪美和は、これまでにも数多くのドルビーアトモス作品を手掛けているが、本作ではその集大成とも言える音響に仕上げている。

まず驚かされるのが、衛人のヘイグス推進機関の音。ロケットエンジンのようなものだが、推力を得るときの爆発音にも似た音が、バンッと弾けるような音で響く。破裂音にも似ているが、低音がたっぷりと含まれていて身体にズシンと響く。そして、噴煙には独特な光の粒子が舞い散る。また、攻撃のための武器の音も銃弾とはまた違った感触の音になっていて、いわゆるロボット物とはひと味違う迫力とリアリティーがある。こうした音が、映像の中の衛人の配置に合わせてさまざまな場所から鳴り響く。巨大なガウナに対して多数の衛人が周回しつつ攻撃をするような場面では、あらゆる方角から攻撃をする音が鳴り響き、映像の迫力をよりリアルなものに感じさせてくれる。

距離や空間、場面の変化を「音」で巧みに表現

そして声。戦闘シーンでは、衛人のコクピット内での通信、戦闘を指揮するシドニアの司令室などで会話があるが、コクピット内での通信音は、ごくわずかだがマイクを通して音の感触があるし、仲間のパイロットとの通話ではコクピットのモニターの右と左に通信相手が表示され、それぞれの声も右と左から聴こえる。これによって、コクピット内のシーンでは自分がコクピットに居るような感覚になるし、司令室ではやや広い室内の響きが加わっていて、その場の緊迫したムードも伝わる。

このように、映像で映し出されるシーンに応じた空間がきちんと再現されている。しかも、素早いカット割りでコクピット内と司令室が切り替わるような場面でも、空間の変化が違和感なく表現されているのが凄い。声優たちによる熱のこもった演技と合わせて、こうしたその場の空気感まで描くことで、物語への没入度を高めているのだ。

そして、宇宙空間ではその空間感が広大だ。巨大なシドニアはもちろん、衛星と同じくらいのサイズと思われる大シュガフ船(ガウナの本体)の巨大感を、部屋中が震えるような重低音で再現しつつ、粒立ちのよい定位で四方から攻撃を加える衛人の移動音や射撃音を描く。画面の奥にいる味方の衛人と、手前にいる衛人の出す音の距離感も、しっかりと再現されている。細かな音の定位と空間感のバランスの良さ、音の大小のコントラスト、さまざまな要素をバランスよく配置して、目の前で宇宙戦争を見ているような感覚が味わえる。

最終決戦を繰り広げるガウナの大シュガフ船。

(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

動画配信もあるが、ぜひBDで見てほしい

ドルビーアトモスの音響は、前述の通り海外の映画でも数多く採用されていて、優れた音響の作品はたくさんある。同じアクション映画でも、海外の作品は迫力重視の音響になるものが多いが、本作は戦闘シーンの迫力だけでなく、日常シーンでの心地良い空気感やあまり大きな音のないシーンでの静寂感なども実に緻密に出来ていて、映画として通して見たときの満足度が違うと感じる。おおげさなことを言ってしまえば、自分が今年見たたくさんの映画でもNo.1と言っていいくらいの優れた音響だと思う。ドルビーアトモスに対応した機器を導入した、ぜひとも導入したいと思っている人は、ぜひとも本作のBDも見てほしい。ドルビーアトモスの素晴らしさがよくわかるソフトのひとつだ。なお、本作は動画配信サービスでも見ることができるが、動画配信では音声がステレオ音声となっている。ぜひともBDでドルビーアトモス音響を楽しんでほしい。

本格SFアニメの迫力と面白さが凝縮

ラストバトルは鳥肌ものの名場面

ガウナとの最終決戦では、さまざまなトラブルなどもあり、敗色濃厚なムードが漂う。そこでようやく最新鋭機の衛人が完成し、発進する。その時にTVシリーズ第1期の主題歌である「シドニア」が流れる。そのシーンは壮観で、映像と音が一体となって最後の戦いを盛り上げる。まさしく鳥肌ものの名場面だ。

このシーンでは、イントロとなる独唱では衛人の発進態勢を描き、音楽が鳴り始めたところで出撃するふたりの声が重なる。主題歌に合わせてカット割りをし、歌声と会話がそれぞれ引き立つように場面が構成されている。主題歌と効果音、声のバランスもカットごとに最適に調整され、その絶妙なバランスに感激してしまう。

息詰まる最後の死闘も、スピード感のある映像とカット割りが気持ちいいし、クライマックスの感動は何度見ても感極まってしまうものがある。「シドニアの騎士」は、本格SFとして、宇宙での戦闘を描くアクション作品として非常に質の高い作品だが、本作はまさにその面白さがすべて詰まっている。

まとめ

音の良いシステムで見てこそ、アニメはさらに面白くなる

2021年は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」をはじめ、数々のヒット作や話題作が目白押しだったが、劇場公開作品ならばサラウンド音声は当たり前で、本作のようなドルビーアトモス作品も増えている。最近は音響の優れた映画館も増えてきており、そうした映画館で見ると作品の満足度もさらに高まると実感している。もちろん自宅でも、ドルビーアトモス対応のシステムで楽しんでほしい。たくさんのアニメがもっと好きになるはずだ。

BD(通常版のパッケージ)キングレコード KIXA-917 6380円(税込)

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鳥居一豊(AVライター)

オーディオ、AVの分野で活躍するAVライター。専門的な知識をわかりやすく紹介することをモットーとしている。自らも大の映画・アニメ好きで自宅に専用の視聴室を備え、120インチのスクリーン、有機ELテレビなどを所有。サラウンド再生環境は6.2.4ch構成。

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