【なぜ?】4K放送でHDR番組を見たが、画面が暗い。HDRは高輝度表示じゃなかったっけ?

家電・AV

2018年12月1日からスタートしたBS・CS4K放送は、思った以上に視聴者の関心を集め、業界の予想よりも多くの人が4K放送を視聴したようだ。しかし、4K解像度の高精細な映像を高く評価される一方で、多くの人にとって初めて体験する高輝度表示技術のHDRは、従来のSDR制作の番組と比べて画面が暗く感じるなど、違和感を感じた人が少なくなかったようだ。こうした原因やHDR映像の見え方の特徴について、詳しく解説する。

4Kコンテンツの多くで採用されるHDRとは

HDRは、High DynamicRangeの略で、より明暗の幅の広い映像表現を可能にする技術だ。
従来の放送(SDR:Standard Dynamic Range)が最大100nitに対し、多くのソフトでは1000〜3000nit、規格上は最大1万nitもの高輝度表示が可能な技術だ。

単純に言えば、従来よりも10倍以上の強い光の表現が可能になる。
現行の4KテレビはほとんどがHDR対応で、4K放送で採用されているHLG方式にも対応している。
これらは、テレビ放送だけの話ではなく、UHD BDや4K動画配信サービスの映画ソフトの普及が進んでいるほか、PC、PS4などのゲーム機、デジタル一眼カメラやスマホの内蔵カメラなどもHDR対応となっており、HDR撮影を自分で行うこともできるのだ。

4KテレビでHDRコンテンツを視聴する場合、設定の見直しが必要。格安テレビはHLG対応を確認。

HDRコンテンツは、UHD BDや4K動画配信などでもたくさんのタイトルが揃っているが、まだまだBDやDVDのようには普及していない。
だから、BS・CS4K放送で初めてHDR番組を見たという人も多いかもしれない。

そこで、ひとつ注意したいことがある。
特に、BS・CS4Kチューナーとの組み合わせで4K放送を見ている場合、薄型テレビに接続したHDMI端子の設定を確認する必要がある。

多くの4Kテレビの場合、HDMI入力の設定は、「標準モード」や「互換性優先モード」が初期値となっている。
この状態では、BS・CS4K放送の4K/60p、HDRの信号をそのまま受け取ることができない。
4K/60pのままでもSDRに変換されてしまう可能性が高い。

4K/60pのコンテンツを視聴する場合、HDMI入力の設定は「高速モード」などに切り替える必要がある。
また、格安の4Kテレビでも、今やHDR対応の製品が増えているが、HLG方式に対応していない場合がある。この場合でも、4K放送は4K/60pだがSDR表示となる。

HDR表示を見ているつもりでも、実はSDR表示のままだった、ということが少なくないのだ。
多くの4Kテレビでは、視聴しているコンテンツがHDRだと、画面にも「HDR」と表示されることが多い。一度確認してみるといいだろう。

筆者の個人的な感想だが、HLG収録の番組をSDR表示で視聴すると、高輝度の表示ができないだけでなく、全体に映像が暗いと感じることがある。せっかくの4K放送なのに期待したほど高画質でないと感じた場合は、設定を確認してみるといいだろう

同じテレビで見比べると、HDRもSDRも輝度ピークは同じ。

設定も間違いないし、きちんとHLG対応の4KテレビでHDR表示をしているのに、画面が暗いと感じる人もいるようだ。

特に、民放のBS4Kチャンネルは、従来のBS民放チャンネル(2K)とサイマル編成になっているので、リモコンでチャンネルを切り替えると、2K SDRと4K HDRの違いを見比べることができる。
NHKでも、大河ドラマ「いだてん」などは、放送時間は異なるが従来のBS放送、地デジ放送でも放映されているので、録画しておけば見比べることが可能だ。

実は、これは決して不思議なことではない。
HDR(HLG)対応の4Kテレビで見ているとして、HDRの番組とSDRの番組を見比べると、SDRの方が確かに明るく感じる。

この理由は、第1に、同じ4Kテレビならば、HDRでもSDRでも最高輝度は変わらないということ。第2に、BS・CS4K放送はおおむね最大1000nitで収録されているが、実際に1000nitの高輝度表示ができる4Kテレビは、有機ELテレビや液晶テレビの高級モデルなどの一部に限られること。
一般的なHDR対応の4K液晶テレビの場合、最大輝度は500〜700nit程度だ(HDR非対応の従来放送用のテレビは300〜500nit程度)。

このため、HDRコンテンツ本来の最高輝度が表現しきれていないことが少なくない。
これについては、規格上1万nitの信号が入力される可能性があるHDR表示では、テレビ側で自ら表現できる輝度の範囲内で、HDR信号の情報を表示する機能を持つため、映像的に破綻が生じるようなことはない。
とはいえ、制作者が意図した本来の眩しい光が表現しきれていないのは確かだ。

HDRは高い輝度ピークを表示する技術。画面全体の明るさはSDRの方が明るい場合もある。

HDRは、高輝度の表示が可能だが、従来の放送の10倍近い明るさを表示するため、明暗の幅が広い。
だから、暗闇の中の眩しい光が表現できるし、日向と日陰の微妙な明暗の違い、白一色になりがちな晴れた空の青さや雲の陰影といった微妙な階調が描ける。これがよりリアルな映像を楽しめる理由だ。

SDRは明暗の表現力の幅が狭いので、HDR対応の輝度の高いテレビでは、映像全体が均一の明るく表示されがちだ。
つまり、画面全体の明るさの平均値(平均輝度)は、HDRよりもSDRの方が高いことが多い。このため、同じ番組をHDRとSDRで見比べると、HDRは画面が暗いと感じるのだと思われる。

一般的に、人間の目は平均輝度が高い映像の方が「高画質」と感じる。
これは、原始時代の人類が闇の中で獣などに襲われることが命の危機の直結したため。
暗い場所で漠然とした不安を感じるのも同じ理由だ。
環境と同じように、テレビの映像も明るい方が安心感があり、高画質だと感じやすいのだ。

では、SDRの方が高画質かというと、そうではない。
極端な例で言えば、「テレビ」よりもずっと暗いシーンの方が多い「映画」は、画質的に言えば明らかにテレビ放送よりも高画質であることが多い。
肝心なのは、情報量だ。

HDRは、たしかに単純な画面の明るさはSDRよりも低いこともあるが、その薄暗さの中でもしっかりと情報量があり、細部まできちんと見通すことができる。
SDRでは、暗部は暗く潰れ、明部は白く飛ぶことが多いため、明るく見えても情報量は決して多くはない。
このあたりは勘違いしないように、じっくりと見比べてみてほしい。

HDRは、明暗の幅が広い。だから、暗闇の中の眩しい光が表現できるし、日向と日陰の微妙な明暗の違い、白一色になりがちな晴れた空の青さや雲の陰影といった微妙な階調が描ける。

まとめ

ちょっと難しい話になってしまったが、今まで見慣れていたSDR表示の番組と比べると、HDRは明暗の幅が広がったぶんだけ、画面の明るさは暗く感じるかもしれない。

人間の目は、暗順応や明順応といって、ある程度の時間同じ明るさの環境に居ると、次第に目が慣れて見え方が変わってくる。
ほんの数秒ごとにSDRとHDRを比べていれば、パッと見て明るいSDRの方が高画質に感じやすいのは確かだ。これについては、ある程度HDR表示の番組を見て慣れる必要もあるだろう。

もしも、HDRとSDRを見比べるならば、同じ番組を最初から最後まで見て、もう一度見直してみるといいだろう。
2K放送と4K放送では、解像度の違いからしてその差は歴然だが、一見暗くなったと感じるHDR映像が、暗部の階調感や明部の陰影の豊かさなど、実に情報量豊かであるかがわかると思う。

HDRは、まだまだ登場したばかりの技術でもあり、視聴者が見慣れていないだけでなく、制作側でもさまざまな試行錯誤を繰り返して、よりリアルな表現を追求している。
番組や映画の制作者は、HDRの表現力の豊かさを高く評価し、今後はますますHDR制作の番組が増えてくる。
気がつけば、SDRの映像には物足りなさを感じるようになってくるだろう。

鳥居一豊(AVライター)
オーディオ、AVの分野で活躍するAVライター。専門的な知識をわかりやすく紹介することをモットーとしている。自らも大の映画・アニメ好きで自宅に専用の視聴室を備え、120インチのスクリーン、有機ELテレビなどを所有。サラウンド再生環境は6.2.4ch構成。

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