エアコンは省エネ化、内部のお掃除機能、睡眠時の自動抑制機能を進化させてきました。2020年のエアコンのトレンドは「複合型」でしょう。例えば、シャープからは空気清浄機能を搭載した「Airest」が登場。家庭内に家電が増え続ける今、L-Pシリーズのような製品のヒットを私は予感しています。
24時間フル稼働をきっかけに自動制御へ
2017年頃まで、エアコンは、「省エネ」性能を追求してきました。夏でも冬でも使う「必需品家電」として、家計になるべく負担をかけないようにするために必要なことでしたし、国の指導もそうでした。その結果できたのが「タヌキ腹」のエアコン。今、省エネ型エアコンは、基本的に本体高さより奥行きの方が長いという、お腹を突き出したような形です。
省エネの次に来たのは、内部清掃技術。フィルター清掃とカビ防止です。いろいろ工夫された自動おそうじ機能でした。この最終形が出揃ったのが、昨年。そして今年は、睡眠時の自動制御。夏の24時間フル稼働が多くなった結果とも言えます。
2020年のエアコンのトレンドは「複合型」
さて、来年2020年モデルのトレンドは…。そう「複合型エアコン」と考えられています。
「温度」「除湿」といった従来のエアコンに標準装備された機能以外の空調機能を付けることです。シャープが選んだ機能は、「空気清浄機」でした。
空気清浄機能を加えたエアコンは、今までもありました。有名なのは「東芝」と「シャープ」ですね。今回はシャープの「L-Pシリーズ」を取り上げてみましょう。
シャープ
Airest
L-Pシリーズ
空気清浄機の定義
さて、L-Pシリーズのどこが新しいか。それは、付属的な「機能」ではなく、専用「空気清浄機」として認められ、使えるというところがポイントです。
日本電機工業会では、空気清浄機を次のように規定してあります。「集塵効率70%以上」「騒音値55dB以下」です。
現在の空気清浄機は、フィルターで空中浮遊物を濾し取るタイプが基本になります。
その空気清浄機で、よく使われているのが「HEPAフィルター」です。HEPAフィルターは、日本工業会規格で「定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と定められています。
よく微粒子の典型のように話されるPM2.5は、粒径が2.5μm以下の空中浮遊物の総称ですから、このHEPAフィルターの性能のスゴさが分かります。この99.9%は見栄えの良い数字でもあり、いろいろなメーカーが使っているので、みなさんもカタログなどでご覧になったことがあると思います。
このフィルターさえあれば、「集塵効率70%以上」など軽そうに思いますが、そうは問屋がおろしません。この集塵効率は、「部屋」に対してです。フィルターを通った時ではないのです。フィルターのトラップ率:99.9%と、部屋全体に均一分散されている空中浮遊物を集めて70%以上濾せるというのは、意味がすごく異なるのです。
シャープが見直した2つのポイント
(1)「ファン(羽)」
エアコンで、最も必要なのは、部屋の冷、暖房です。つまり「熱」です。
熱は空気分子の振動で、何もしなくても隣へ隣へ伝搬する性質を持ちます。部屋の中央でストーブを炊くと、じわーっと中央から、部屋の隅へ暖かさが浸透して行く様を思い浮かべていただければ、いいです。そしてその効率をサポートするのが「気流」です。しかし、風がなくても、時間が経てば、温度は伝搬します。
エアコンの中で、風を受け持っているのは「円筒状のファン」です。
最もお馴染みのファンは扇風機に使われているプロペラ型ですが、プロペラは大き過ぎてエアコンの中に収まりません。これを打破するために採用されたのが、円筒状のファン、「クロスフローファン(横断流送風機。ラインフローファンなどとも呼ばれる)」です。
このクロスフローファンは、羽根車の一方の半径方向から吸い込み、90°(直角)程度の半径方向から送風する構造です。
特長は、均一な風量を得ることが可能で、小型化をしつつ噴出し口の長さを確保できるということです。今の小型室内機ができあがったと言っても過言ではありません。お分かりですね、ラインフローファンは、風の強さとかではなく、そのサイズ、形状で採用されたのです。
言うまでもなく、欠点は、空気の吸込能力が弱いということです。
よくプレフィルターを掃除しなければ、エアコンは電気代が上がると言われますが、まさにその通り。これはクロスフローファンの吸込能力が弱いため、空気の通りが悪くなった場合、空気流量確保するためには、回転数を上げてやらなければならない=電気代がかかるためです。
もちろん、空気の抜けが悪いHEPAフィルターを装着したりすると、風が出にくくなります。シャープの実験結果では、約1/2しか風量確保できなかったとのことです。
このため、開発陣は、ファンを見直します。
目を付けたのは、現在、空気清浄機で使用されている「シロッコファン」です。このファンは、遠心ファンの一種で、回すときに少々力が必要なものの、吸込力は確保されています。なんたって「空気清浄機で使われている」のです。シャープはこれにテントウムシの羽根の仕組みを練り込んだ、改良型シロッコファンの技術を持っています。
今回は、同一の軸に、このシロッコファンを4連設置したものを使っています。
(2)カビ対策
では、空気清浄機としても使えるエアコンで、昨年のトレンドだったカビ対策はどうでしょうか?
これはかなりユニークな話になります。カビが生えると言うことは、空気中のカビの胞子、エサとなるホコリ、そして熱交換器に結露する水で繁殖しました。
しかし今回、エアコンに入る空気は、HEPAフィルター同等性能のフィルターを必ず通過します。
つまり、胞子は入らない。同様にエサになるホコリも入りません。また、後述する結露対策もしてあります。つまり、カビが発生する余地がないわけです。まあ、空気清浄機が汚染源だったら、洒落にもなりませんが。
でも、今の時代、ワンルームが増えています。と言うことは、キッチンの汚れ、空気中に飛散した細かな油の飛沫もフィルターに飛び込むわけです。あっと言う間に、目詰まりしそうですが、そこはどうなるのでしょうか?
担当者によると、お掃除は、6ヶ月に1度、外したプレフィルター、フィルターを掃除機で吸い取ればOKだそうです。
ただ、油のような物質はプレフィルターの場合は、中性洗剤で洗い落とす手がありますが、HEPAフィルターは細かい目が詰まりますのでNG。このため、徐々に能力は落ちるそうです。シャープがテストしたところ、フィルターの寿命は1.5年だったそうです。寿命というのは、70%以上あった集塵効率が50%になった時を意味します。フィルターは5000円(税抜)/回。まあ納得がいく話です。
奥行はあるのに「タヌキ腹」ではないデザイン
空気清浄機ですから、フィルターに寄った話をレポートしてきましたが、次はエアコンの心臓部と言えるヒートポンプの話です。
冒頭、今の省エネエアコンは「タヌキ腹をしている」という話を書きましたが、それはクロスフローファンを取り囲むようにヒートポンプが設置してあるためです。熱を伝える効率がベスト=省エネと言うわけです。その代わりデザインはイマイチ、というわけです。
今回のシャープは、内部へのカビ発生を避けるべく、結露の可能性も嫌いました。
ヒートポンプをファンより出口側へ近づけたわけです。結果、結露のないエアコンに仕上がったのですが、もう一つ、デザインを劇的に変えることができるようになりました。ただし、奥行きは44.7cmと超張り出してはいるのですが、厚みがないので、圧迫感がほとんどありません。
ただし、省エネ型より、ヒートポンプの効率、モーター変更により消費電力は上がっています。
皆さんは、かっこよさ&快適性、と節約、どちらをとりますか?
空気清浄機の設置場所が下から上へ。問題はない?
空気清浄機は、今まで床置きでした。それには重めの花粉、黄砂のような空中浮遊物は、時間が経つにつれ、部屋の低層を漂うからでした。
しかし、今回は壁掛け。しかも高い位置です。問題はないのでしょうか?
単純に考えると、花粉などの浮遊物を取り切れない可能性は否めません。しかし、私は、問題は極めて起きにくいと考えています。理由は、人がいるところ掃除が不可欠だからです。
まず、床に落ちた花粉などは文句なく掃除機が吸い取ります。また、掃除をするということは、部屋の空気を引っかき回すのと同義語です。このため、掃除終了後、すぐスイッチを入れれば、かなりのものをキャッチアップできるからです。
まとめ
「液晶」黎明期に似た「普及」思想
ずいぶん意欲的なエアコン「Airest」ですが、その開発理由の中の一つに「空気清浄機がまだ十分普及していない」というのがありました。
私はこれを聞いたとき、シャープの液晶ビューカムを思い出しました。
1989年に発売されたソニーの8mmムービー TR55(通称:パスポートサイズ)の向こうを張って、1992年に上市された8mmムービーです。今ではあたりまえになった巨大モニターが付いたムービーで、見やすい、使いやすいと大ヒットした商品です。
この発想は、自社が持っている「液晶」のカテゴリーをちょっとでも増やそうとしたことから来ています。
今回は、「空気清浄機」機能を搭載できる家電をちょっとでも増やそうとしたものとも取れます。
しかし私は、この商品はヒットすると思います。
一つは、空調製品が多くなり過ぎたこと。「エアコン」「加湿器」「除湿機」「空気清浄機」「イオン発生機」「扇風機」「サーキュレーター」などがあり、空気環境をよくするためには、この内から数台入れる必要があります。このため、複合機は非常にありがたいのです。
実際、エアコンの大手ダイキン工業の「加湿器」を入れ込んだ「うるさら7」が売れ続けています。また、今回のAirestは、商品として出来がいいです。
多分、このような複合機能エアコンが、来年以降トレンドになっていくと思います。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。