【麻倉怜士の4K8K感動探訪(12)】大傑作 NHKBS8Kの「オカバンゴ 水の魔法が生み出すアフリカの奇跡」で自然の驚異を見よ!

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BS8Kでこれは傑作だと快哉を叫んだ番組がある。8K自然科学ドキュメンタリーの「オカバンゴ 水の魔法が生み出すアフリカの奇跡」だ。NHKと英ICON Films/ボツワナNHFUとの共同制作による90分番組。アフリカ南部、ボツワナのカラハリ砂漠の中にある、四国ほどの面積もある「オカバンゴ・デルタ」が砂地から大湿原に変わるドキュメンタリーだ。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

植物と動物の楽園に変身

オカバンゴが水で満たされるのは乾季。5月からの乾季の砂漠が4か月だけ広大な湿原に変わる。普通ならば水はない。実際に周りは砂漠だ。しかし、1000キロ以上離れたアンゴランの山に降った雨が、オカバンゴ川を増水させ長い時間をかけてカラハリ砂漠に洪水を起こす。すると草が芽吹く。それを目当てに多くの草食動物が集まる。バッファローやゾウが群れをなす。それらを狙ってライオンなどの肉食動物が狩りをはじめる。まさに植物と動物の楽園に変身するのだ。

ワニと子どものゾウ。

©NHFU/Icon Films/NHK

8Kが語ったダイナミックな自然の営み

何に感動したのか。8Kならではの高画質で語られる自然の営みだ。上空からの蛇行する河の流れ。葦やパピルスの草の群れのひとつひとつが細かく見えるようだ。黒い水が、いよいよ砂漠にやってくる。遙か彼方の上流で降った雨が川を氾濫させ、途中で栄養分を蓄え、黒くなった水が、乾ききった大地に注ぐ。アップされた砂地に一筋の水が流れる。表面張力で盛りあがった砂を含んだ水の描写が実に生々しい。大地の砂の一粒一粒が、微細に太陽を浴びて輝く。

不毛の砂漠が楽園に変った。水しぶきを蹴って疾走する鹿。逆光に映える飛沫がみずみずしい。砂に描かれた年輪のような風紋の幾何学模様が美しい。黒い川に空の白い雲が写り、太陽光線がキラキラと鋭い反射を与える。そこで暮らす人。肌の皺、黒褐色の深み、厚い唇の意志の強さ、鋭い眼光……アップの8Kは、その人物のパーソナリテイを映すようだ。

バッファローの大群。

©NHFU/Icon Films/NHK

砂漠に忽然と水が流れてくるオカバンゴ

なぜ、8K番組のテーマにオカバンゴを? NHKエンタープライズ制作本部、自然科学番組部エグゼクティブプロデューサー、早川正宏氏に聞いた。

「私は以前から”淡水”に興味を持っていました。地球でわずか0.01パーセントの面積しかない淡水のおかげで、動物や植物、そして人間が生きられるのです。以前、BBCとの共同制作で、ライオンが象を襲うシーンの撮影現場へ向かう途中、マウンから小型飛行機で飛んでいたら、砂漠の中に突然、まるで湖のような巨大な水場が目に飛び込んできました。水面に雲が映り、とても神秘的でした。この光景は何だ!?と。その時、オカバンゴに興味が湧いたのです。砂漠に忽然と水が流れるオカバンゴは、多様な命を育む“淡水”の貴重さを実感できる類いまれな場所なのですね」(早川プロデューサー)

NHKとの共同制作で本作を手掛けたのは、ボツワナをベースに活動するカメラマンのブラッド・べスリング氏。オカバンゴの玄関口、マウンという町で暮らし、観光業に携わってきた。オカバンゴの大自然に囲まれて育った彼に、早川氏は全幅の信頼を置いた。

カメラマンのブラッド・ベステリンクさん。

©NHFU

「撮影は2018年9月から2020年1月にかけて行われました。撮影に入る前に、番組の内容に関して多くの議論を重ね、番組のねらいや撮影対象、映像イメージなどを共有しました。また2か月に1回の割合で、撮影の進捗状況、それに応じた構成の修正などを話し合いながら撮影を進めました。ベステリンクさんは現地に住んでいるため、撮影するのにいちばんベストな時間や光の具合を熟知しています。なので映像のクオリティーに関して、ベステリンクさんの感覚を信じました」(早川プロデューサー)

現場を熟知した現地カメラマン

ベステリンク氏は適切な場所に、適切なタイミングで撮影する。彼の奥深くに染み込んだ感覚が、野生の物語を捕らえる。

「ベステリンクさんの撮影のスタイルは『チームワーク』です。オカバンゴのさまざまな場所で撮影している彼のチームが、絶えず生きものたちの情報をアップデートしてきます。ある時、仲間のカメラマンがリカオンの巣穴の前で1週間ほど粘ったところ、普通ではなかなか撮影できない狩りに出そうだと、彼はその場で察し、すぐにベステリンクさんに連絡しました。ベステリンクさんはヘリコブターで駆けつけ、撮影が難しいリカオンの狩りの様子を地上と空の両面から撮影することに成功したのです。まさに地の利を活かした撮影でした」(早川プロデューサー)。

オカバンゴの名ハンター、リカオン。

©NHFU

「オカバンゴ 水の魔法が生み出すアフリカの奇跡」は、アフリカ大地のヴィヴットな情景、空気感を見事に伝える、必見の8Kコンテンツだ。8Kテレビを持っているユーザーは、ぜひ観よう。4Kにダウンコンバートしたバージョンは、4Kテレビでも鑑賞できる。

NHKBS8Kでは、10月18日(日)午後5時00分~ 午後6時30分、NHKBS4Kでは10月1日(木)午後6時00分~ 午後7時30分に放送だ。

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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