【麻倉怜士の4K8K感動探訪(15)】ウルトラセブン 4Kリマスター版 常識外れの高画質を実現した、大いなるこだわり(後編)

家電・AV

NHK BS4Kの『ウルトラセブン』の4K・HDRリマスター版はたいへん素晴らしい。前回の「前編」に続いて、その魅力を紹介する。

執筆者のプロフィール

麻倉怜士(あさくら・れいじ)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

「そもそも4Kにする必要があるのか」と葛藤している

前回は、16ミリフィルムにして、ここまでのコントラスト、ディテール、そして色を引き出したことに感心したことを書いた。そうとう苦労があったに違いない。

フェイストーンも問題だった。『ウルトラQ』は白黒なので、顔色の問題はなかったが、4K『ウルトラセブン』では、4K/HDRでは色域がBT.2020まで広がり、表現できる肌色の数が多くなったことで、役者による顔色の相違度が大きくなった。

ウルトラセブン 第3話『湖のひみつ』から。©円谷プロ

金属感、輝度、彩度などまったく別物だ。©円谷プロ

円谷プロダクション製作本部長の隠田雅浩氏は、振り返って、とても重要なことを言った。

「ウルトラ警備隊の面々が一列に並んだシーンでも、フェイストーンにかなりばらつきがあることが分かりました。4K/HDRにはそれくらいの表現力があるのですね。でもここで、ある疑問が出てきました。当時は、ブラウン管テレビでどんな風に映るかを意識して撮影していたはずです。とすると、ここまで肌色のばらつきが分かるのは、本来の狙いとは違うのではないか、4Kでも肌やメイクの違いがあまり前にでないようにすべきではないか、と思い始めました。当時は、見えない前提で作っていたかもしれないことまで、4Kで分かるようになるのは、どうなのかなと考えるようになったのです」(隠田雅浩氏)

実は、これは過去作品を手直しする時の普遍的な問題である。レストア技術や表示機器が進化したことで、製作者自身が意図していなかった情報まで出てきてしまう。厳密にいうと、それをジャッジできるのは監督やカメラマンだけだ。今回の4Kリマスターはこの問題に、どのように対応したのか。隠田氏が言った。

「僕たちが関わっているのは、先代の皆さんが作ってきた、しかもテレビで放映されて多くの人の記憶に残っている作品です。そんな作品に対して、そもそも4Kにする必要があるのか、うまくいかないのならやめた方がいいんじゃないかと、いつも葛藤しています。本作の映像には当時のスタッフの意図も含まれていますし、長く本作を見てきた方の思い出になっている作品でもあるので、その印象は絶対に壊さないようにしなくてはならない」(隠田雅浩氏)

HDRの教科書に載せたいくらいの素晴らしさ

しかし、もうひとつの考えもあった。当時のスタッフが今の技術を知ったなら、絶対に使ってみたくなるはず…と、いうものだ。「それがHDRです」と、円谷プロダクション製作部の池田遼氏は、言った。

「『ウルトラセブン』は、暗部からハイライトまでの表現がもの凄く豊かな作品です。暗闇のシーンも多く、宇宙空間もよく出てきます。その意味ではHDR技術としても凄くチャレンジングだと思いました」(池田遼氏)

その典型が、この写真の第8話「狙われた街」のアンヌを逆光で捉えたカット。2K/SDRとは、まったく違う。4K/HDRでは背景の煙突がきちんと描かれているし、その横の「交通ルールを守る家」と書かれた張り紙の文字も識別できる。2K/SDRではアンヌの肩のラインが太陽の光の中に溶け込んでいた。4K/HDRでは、それが明確に再現された。太陽が白く飛ばずに光輪を持ち、そこから光軸が放たれ、フレアーが肩に掛かる。撮影時に太陽の位置まで考えて構図を練ったことが、わかる。しかもバックの野球中継のラジオの音も入っているから、そこからも時間も識れる。

『ウルトラセブン』第8話『狙われた街』。©円谷プロ

4K/HDRでは、太陽が白く飛ばずに光輪を持ち、そこから光軸が放たれ、フレアーが肩に掛かる。©円谷プロ

太陽をバックに、ここまで人物の表情を活かした映像が撮れていたとは。夕景でなければ撮れないカットだ。ネガにはあったけど、その先のプロセスで失われていた情報が今回の4K/HDRで甦ったのだ。これにて本当のオリジナルを見ることができた。本カットはHDRの教科書に載せたいくらいの素晴らしさだ。

2K、4K、8Kという進化はビデオ映像を人間の目に近づけようという狙いからのものだ。高精細化という意味では重要だが、でもそれってわれわれが見ている世界に到達するに過ぎない。一方でフィルムは、本物を写したとしても、リアルとは違うファンタジックな世界観が得られる。

ウルトラセブン第17話『地底GO!GO!GO!』。©円谷プロ

光の粒子が眩しい。©円谷プロ

今回の『ウルトラセブン』4K・HDRはひじょうにフィルムルック。表現もリアルなCGとはまったく違う。それこそがアートであり、人の英知の所産だ。2K、4K、8Kというビデオの進化は「写真の進化」、つまり「真を写す」ことの進化であり、フィルムは「真を描く」ものであることが、『ウルトラセブン』4K・HDRを見て、はっきりと分かった。

放送予定

「ウルトラセブン4Kリマスター版」
BS4K 毎週火曜 午後11時15分~

▼2021/1/5(火)
第30話 栄光は誰れのために
第31話 悪魔の住む花
▼2021/1/12(火)
第32話 散歩する惑星
第33話 侵略する死者たち
▼2021/1/19(火)
第34話 蒸発都市
第35話 月世界の戦慄
▼2021/1/26(火)
第36話 必殺の0.1秒
第37話 盗まれたウルトラ・アイ
▼2021/2/2(火)
第38話 勇気ある戦い
第39話 セブン暗殺計画(前篇)
▼2021/2/9(火)
第40話 セブン暗殺計画(後編)
第41話 水中からの挑戦
▼2021/2/16(火)
第42話 ノンマルトの使者
第43話 第四惑星の悪夢
▼2021/2/23(火)
第44話 恐怖の超猿人
第45話 円盤が来た

スポンサーリンク
家電・AV
シェアする
麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

麻倉怜士(AV評論家)をフォローする
特選街web

PR

【ドライブ中に純正ナビでテレビ視聴!】データシステム・テレビキットシリーズから最新車種対応のカー用品『TTV443』が登場!
長時間のドライブで同乗者に快適な時間を過ごしてもらうには、車内でテレビや動画を視聴できるエンタメ機能が欠かせない。しかし、純正のカーナビは、走行中にテレビの視聴やナビ操作ができないように機能制限がかけられているのがデフォルト……。そんな純正...

PRガジェット