【麻倉怜士の4K8K感動探訪(18)】絵画の見方を変えた傑作「ミュージアムコレクション 山梨県立美術館とミレー」

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NHKの8K放送が画期的な試みを実施した。なんと民放制作番組を、抜粋や一部だけでなく、番組全体として放送する挙に出たのだ。3月21日午後9時00分~午後9時30分に放送されたテレビ山梨制作の「ミュージアムコレクション 山梨県立美術館とミレー」。山梨の誇り、県立美術館に展示されているミレー作品について深く語る8K番組だ。

NHKの8K放送による画期的な試み

NHKの8K放送が画期的な試みを実施した。なんと民放制作番組を、抜粋や一部だけでなく、番組全体として放送する挙に出たのだ。1月に関西テレビのアーティステックなショート8K「Three Trees」と「つくるということ」 が、2月に名古屋名物の“ひつまぶし”をテーマにした名古屋テレビの8Kドラマ「ごちそう~うなぎ編~」 が放送された。BS8Kでの民放参画はNHKにとっては、8Kコンテンツを増やすことにつながり、8Kの拡がりがNHK以外でも進んでいることをアピールでき、さらにNHK的とは違うユニークな切り口の8Kコンテンツも期待できる。

NHKの報道資料は、「民放テレビ局でも取り組みが進んでいる8K制作。8K映像が持つ表現力を生かし、それぞれの感性で生み出されたコンテンツの中から、より多くの方に見ていただきたい作品をNHK・BS8Kで放送します」と述べている。

ミレー作品を深く語る8K番組

その第3弾が、3月21日午後9時00分~午後9時30分に放送されたテレビ山梨制作の「ミュージアムコレクション 山梨県立美術館とミレー」。山梨の誇り、県立美術館に展示されているミレー作品について深く語る8K番組だ。

関西テレビ、名古屋テレビと今回のテレビ山梨との最大の違いは、カンテレ、メーテレともこれまでもかなりの量の8K作品を制作しており、8K経験が深いのだが、テレビ山梨にとって8Kは、初めてということだ。

テレビ山梨が8Kにトライしたワケ

テレビ山梨は、なぜ8Kにトライしたのか。テレビ山梨・営業局事業部の川野千佐氏がインタビューに応えた。

俳優の鶴田真由氏と山梨県立美術館の青柳正規館長。

「山梨県立美術館が文化庁の文化クラスター推進事業の支援を受け、ミレーの『種をまく人』『落ち穂拾い、夏』『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』の3作品を超高精細カメラで撮影しデジタルアーカイブする、という事業に弊社が携わる運びになりました。

未来にミレー作品を遺すという意味と、そのコンテンツを美術館の魅力発信と認知度向上に積極的に活用しようという狙いからです。そこでせっかく超高精細でデジタル化するのだから、その様子や、撮影したミレー画の詳細など、8Kで撮影し、番組にしたらどうかと考えました。8KならNHKさんなので、NHKさんと相談し、制作を進めました」。

8Kで一味ちがう名画の魅力を発見

作品のデジタル化から始まった珍しいケース

8Kへの道はさまざまだが、作品のデジタル化から始まるというケースは珍しい。どのぐらいの高精細かというと、1枚の絵をなんと500回も、少しずつカメラ位置を変えて撮影し、それらをすべて合成、計算処理で1350億画素相当の解像度を得るというもの。8Kは3200万画素だから、いかに高精細であるかが分かろう。

これにて人間の目の分解能をはるかに超える解像度で、ミレーの名画のマチエールやタッチのこと細かな鑑賞が可能になるのだ。番組は俳優の鶴田真由氏と山梨県立美術館の青柳正規館長との対話で進む。

8Kで浮かび上がる農夫のすがた

ハイライトが、1350億画素相当の解像度でアーカイブした『種をまく人』の画像を、8Kプロジェクターで投影し、観る場面。農民画家ミレーが1849年にパリ近郊のバルビゾン村で描いた作品だ。

それ以前の西洋絵画では、農民はのどかな牧歌的な風景の中にモチーフとして、現実とは違うきれいな姿で描かれることが多かったが、ミレーは荒々しさと迫力に満ちたエネルギッシュな農民像を描いた。野鳥が飛び交い、牛が畑を耕す光景を背景に、農民が畑の斜面を大股で下りながら、袋の中から種を右手で掴んで、取りだし、勢いよく大地に撒く、動きの力強さ。リアリズムに徹した、荒々しく厚塗りの革新的な画風は、サロン・ド・パリ(フランス王立絵画彫刻アカデミー主催の公式美術展覧会)で大きな物議を巻き起こした。

それまで誰も見たことのない『種をまく人』がみえた

ミレーの2点の『種をまく人』ひとつが山梨県立美術館にある(もうひとつはボストン美術館)。プロジェクターで投射した1350億画素の『画種をまく人』は、もの凄く明るい。番組では、前半に美術館に展示されている『種をまく人』を8Kカメラで撮った映像も見せているが、これはたいへん暗く、暗部の情報がよく分からない。でも1350億画素画像は、プロジェクターの輝度を上げると、ひじょうにディテールが明確に見える。

川野氏によると、2月に行われた試写では、この明るさが表現しているものに、皆が驚いたという。「それまで誰も見たことのない『種をまく人』が、見えたことに驚かれていました」。背景の夕陽の眩しさ、農夫の服の色、大地の様子……、暗部も明部もグラテーションと色が明瞭に出てきたので、明らかになった。

ミレーの 『種をまく人』を中心に番組は展開。

でも、肝心の種が明瞭でないのである。すごい画素数で描いても、その存在はよくわからない。青柳館長の意見が面白い。「このデジタルの画像からは、袋から取って握って、投げる瞬間までが撒くことであり、撒かれた後は、種の生命力に任せていることが見て取れます」。

なるほどそこまで”見える”のが1350億画素のデジタル画像であり、それを8Kプロジェクターで映し出し、8Kカメラで撮影し、8Kテレビで視聴しても、青柳館長の意見はビジュアル的にとても納得がいく。この明るい絵がオリジナルだとすると、展示してある絵は何なのだろう。青柳館長がその違いを解説した。「1850年代は出来上がった絵にワニスを塗ることがありました。コントラストを落とすのが目的で、ギャラリートーンといいます。輝度を上げたので、ワニスの下にあるオリジナルの彩度感が出たのかも知れませんね」。納得だ。

テレビ山梨制作の「ミュージアムコレクション 山梨県立美術館とミレー」は絵画の新しい見方を教えてくれた。ぜひ次回の8K作品も期待したい。

【NHKBS8Kの4月の放送予定】
4月18日日曜 午後6時00分~ 午後6時30分
4月20日火曜 午後6時00分~ 午後6時30分
4月22日木曜 午後0時00分~ 午後0時30分
4月24日土曜 午後8時00分~ 午後8時30分
4月26日月曜 午後0時00分~ 午後0時30分
4月28日水曜 午後6時00分~ 午後6時30分

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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