クラシックホテルは憧れだ。歴史と伝統、格式に飾られたオーセンティックなホテルライフを1度でよいから、送ってみたいと夢見る人は多いだろう。そんな向きに最高の贈りものがBS-TBS4Kの「ザ・ベストホテルクラシカル」だ。いつも言っていることだけど、民放は極端にピュア4Kに欠乏しているが、その中にあって大健闘しているピュア4K番組。日本各地のクラシックホテルを4Kで撮影し、旅人の目線と好奇心で語られるホテル物語が、素敵だ。
「ザ・ベストホテルクラシカル」
避暑地・軽井沢を代表する万平ホテルの回。ちょうど冬の終わりの季節に、少し雪が残る白樺の並木道を歩いて、本館のアルプス棟に入る。モダンで華麗な装飾が施されたロビーの壮麗さ。大正時代からのものを復刻した座れば心地好いだろうと思わせる、布張りの柔らかな椅子……。そんな景色に加えて、万平ホテルならではの、おもてなしの精神が4Kにて語られる。
BS-TBSの看板番組にしよう
4Kの「ザ・ベストホテルクラシカル」は、2KのBS-TBSでもう16年も放送されている世界のホテルを訪ねる「ザ・ベストホテル」の日本版だ。BS-TBSの斉藤裕之チーフプロデューサーが、番組スタートのいきさつを語ってくれた。
「16年前に、BS-TBSの大先輩プロデューサーが、30分でひとつのホテルを詳細に紹介する番組をつくろうと発想したのです。当時も今も、30分も掛けて、ホテルをひとつだけ取材する番組は、世界で唯一ですが、それをBS-TBSの看板番組にしようと思ったのですね。2019年に日本にも目を向け、日本の素晴らしいホテルの伝統と文化を採り上げようと、日本のクラシカルホテルをターゲットにしました」。
日光金谷ホテルほか12ホテル
2020年2月、ちょうどコロナが始まった時期に、日本最古のリゾートホテル、日光金谷ホテル(栃木県日光市、1873年創業)から撮影開始。これまで日光金谷ホテル、万平ホテル、雲仙観光ホテル、ホテルニューグランド、奈良ホテル、赤倉観光ホテル、蒲郡クラシックホテル、川奈ホテル、志摩観光ホテル、富士屋ホテル、山の上ホテル、東京ステーションホテルの12ホテルが放送された。
実際に撮影を指揮した翔テレビジョンの鈴木昌利プロデューサーにお話しを聞いた。
本当に30分まるまる、うちのホテルだけでやってくれるのか?
「まずは、BS-TBSの斉藤さんと相談し、ホテルを決めたら、電話を掛け、取材交渉します。日本クラシックホテル協会(50年以上の歴史を持つホテル)加盟のホテルさんは、互いに連絡していることが多いので、『ザ・ベストホテルクラシカル』のこともよくご存じで、ホテル側も歴史や文化、自分たちのおもてなしの心をぜひ伝えたいと、テーマを湯水の如く提案されます。もうひとつ、驚かれることがあって、『本当に30分まるまる、うちのホテルだけでやってくれるのか?』と聞かれることもありますね。というのも、そんなに長い尺で、ひとつのホテルを紹介する番組など、他にはないからです。オンエアまで疑問を持っていたホテルさんもありました」
テロップがない
「ザ・ベストホテルクラシカル」のユニークな点は、斉藤裕之チーフプロデューサーや鈴木プロデューサーが言った「30分・1ホテル」と、もうひとつテロップがないことだ。
地デジの情報番組では、発言内容をテロップで流すことが当たり前だが、「ザ・ベストホテルクラシカル」には、ない。「ゆったりと進める番組ですから、ナレーションも分かりやすく、ゆっくり喋ります。映像だけで、十分に理解していただけると思います」(鈴木プロデューサー)。確かに、MCも映像編集もとてもゆったりしており、4Kの高画質と相俟って、自分がその場にいて、名建築に圧倒されているような気分だ。
城郭風の屋根のディテールをドローン4Kで活写
さらに、ドローン4Kによって、絶対にその場では見ることのできない、鳥瞰的な空中撮影シーンが、挿入されるのもいい。どんな地形なのか、どんなロケーションなのか、周りには何があるのか、建物全体はどんな形をしているのか、屋根の色は……と、地上からではなかなか分からないホテルの地理的、建築的情報が実に明瞭。例えば蒲郡クラシックホテルを特徴づける、城郭風の屋根のディテールが、ドローン4Kで活写されると、こんな構造、レイアウトになっていたのかが理解できた。
究極のおもてなし
番組のハイライトは、そのホテルならではの「おもてなし」の開陳だ。
1935年創業の日光金谷ホテルでは、36種類の写真を印刷した名刺を作った。お客さんがホテルのスタッフと語らい、日光の良さを感じてもらいたいとの思いからだ。1935年創業の雲仙観光ホテル(長崎県雲仙市)では、ホテルの各所に生花が飾られている。ホテルも花も生きているということを、お客様に伝えたいとの思いから、造花ではなく生の花を使う。それは1909年創業の奈良ホテル(奈良県奈良市)も同じだ。番組では副総支配人がこうコメントしている。
「無駄という言葉がありますが、奈良ホテルを訪れるお客様にはそれがプラスになると思います。例えば、お花を飾るにしても、立派な造花はありますが、やっぱり生の花とは、違います。生の花では経費もかかる、無駄ではないかと? 思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは無駄じゃ無く、大事なおもてなしなのです。それを次の世代に伝えることが使命と考えています」
赤倉観光ホテルのバーテン、高橋幸恵さん
鈴木プロデューサーには、取材を通じて学んだ究極のおもてなしがあるという。
「赤倉観光ホテル(新潟県妙高市、1937年創業)のバーテンの高橋幸恵さんのお話しです。バーテンダーとして、入社したての頃、常連のご夫婦がいました。いつもお二人でバーに訪れていました。奥様から『女性で大変だと思うけど、応援しているから頑張ってね』と、いつも声をかけられていたそうです。正月明けのある日、旦那様がお一人で、バーにお見えになりました。高橋さんはどうしたのかな? と思っていたら、『女房は年末、病気で亡くなった。これからは一人で二人分・通わせて頂くよと』。高橋さんは、『お客様との人生の1ページがここで刻まれているんだな? と思うととても考え深くて、これからも人生の1ページを飾るカクテルを造らなければいけないな、と励みになりました』と語っていました」
心温まるエピソードが満載、臨場感の溢れるハイクオリティな画質で、ステイホームでも、豪華でエレガントなホテルライフを満喫できる(気分になれる)「ザ・ベストホテルクラシカル」をぜひ、4Kで見よう。
BS-TBS 4Kザ・ベストホテル クラシカル
<7月の放送スケジュール>
■7/1(木)よる6:30~7:30放送
7/21(水)再放送
#4「ホテルニューグランド」
#9「赤倉観光ホテル」
■7/6(火)よる6:30~7:30放送
23(金)再放送
#7「雲仙観光ホテル 特別編」
#8「奈良ホテル」
■7/8(木)よる6:30~7:30放送
28(水)再放送
#1「日光金谷ホテル」
#2「万平ホテル」
◆文・麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
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