この度のコロナ禍によって、飲食業界は大きな影響を被った。特にアルコールや夜営業が支えてきた居酒屋系の企業では、売上の落ち込みに夥しいものがあった。しかし、このような動向に相反して売上を伸ばしたのが、ファストフードである。そして、外食大手では次々とこの分野に参入する事例が見られている。これらの中で最も注目される事例は、焼鳥居酒屋チェーンの「鳥貴族(とりきぞく)」を展開している会社が、チキンバーガーのファストフードショップを出店したこと。実に大胆な展開であるが、その狙いには大いなる展望が託されている。
背景にコロナ禍の「ファストフード特需」
今年の飲食業界は、ハンバーガーやフライドチキンのファストフードショップの出店が相次いでいる。昨年11月にオープンした「Blue Star Burger」(ダイニングイノベーション)にはじまり、「BEX BURGER」(GYRO HOLDINGS)、「Lucky Rocky Chicken」(ロイヤルホールディングス)、「DooWop」(ダイニングイノベーション)などがそれである。
このように、外食大手がこの分野を手掛けるようになっているのは、このコロナ禍にあってマクドナルド、KFCに代表されるファストフードの業績が「特需」のように好調だったからである。
今回紹介する「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」も同様。焼鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」が初めて手掛けるファストフードで、「鳥貴族」の真逆のような業態であることが興味深い。ちなみに「鳥貴族」は関西・関東・東海の三大商圏で、615店舗を展開(2021年6月末現在)している。
「トリキバーガー」1号店は、8月23日に大井町駅(東京都品川区)近くにオープン。大井町駅中央口(東)に立つと、左方面に黄色の看板がよく目立つ。京浜東北線、りんかい線、大井町線の3線が接続する大井町駅は、JRだけでも1日21万人強の乗降客数があり、JR御茶ノ水駅(東京都千代田区)やJR錦糸町駅(東京都墨田区)に並ぶ規模だ。その駅前とはファストフードショップとして絶好の立地と言えるだろう。
「国産食材」にこだわるチキンバーガー専門店
トリキバーガーは「鳥貴族」のコンセプトを踏襲していて、それが大きな特徴となっている。
まず、店舗デザイン。トリキバーガーのカラーは「鳥貴族」と同じ赤・黄を使用。視認性を高め、遠くからでも目に飛び込んでくる外装デザインにしている。内装は白と木を基調としたデザイン。アクセントとして、アイデンティティである黄色を配色している。
次に、メニュー。「鳥貴族」と同様「国産」にこだわっている。チキンや野菜などの生鮮食品をはじめ、バンズに使う小麦、サイドメニューの食材も全てが国産である。チキンは九州や四国など複数の産地に分かれている。野菜は時期によって変わるが、例えばトマトは愛知県や石川県など、それぞれ国内の主要な産地から食材を調達している。
そして、価格設定。「鳥貴族」では、全品が327円(税込、以下同)均一となっているが、トリキバーガーでは、単品メニュー、セットメニューがすべて同一価格となっている。
メニュー構成は、7時~10時30分までは「MORNING MENU」(モーニングメニュー)、10時30分からクローズまでは「DAY MENU」(デイメニュー)となっている。
モーニングメニューは「たまごロール」「あんバターロール」「ベーコンエッグ」「サラダチキン」「サラダチキン~柚子胡椒マヨ~」「サラダチキン~バジル~」「コロッケバーガー」の6品目で、それぞれ単品が、290円(ロールの2品のみドリンクS付き/税込、以下同)。
デイメニューは「トリキバーガー」「焼鳥バーガー~てりやき~」「サラダチキン~柚子胡椒マヨ~」「サラダチキン~バジル~」「チキンカツ」「つくねチーズバーガー」「チキン南蛮」「ヤンニョムチキン」の8品目で、それぞれ単品が390円、セットメニュー(ポテトS+ドリンクM付き)が590円となっている。
モーニングメニューのバンズは一般的な茶色のバンズではなく「白バンズ」としている。これは材料に米粉を使用していて、もっちりふんわりした食感になっている。
サイドメニューでは鶏関連のスイーツとして「エッグタルト」「トリキプリン」各190円がラインアップされている。ポテトS190円、M250円、L350円もある。
この他、単品メニューに「クリスピーチキン」390円。トッピングが「チーズ」「トマト」「たまご」各50円。ポテト、ドリンクが+50円でサイズアップできる。
メニュー構成は分かりやすく、価格設定はリーズナブルで、顧客にとって同店の使い勝手は既存のファストフードよりも早く浸透するのではないだろうか。
経営トップはマクドナルド出身者
株式会社鳥貴族は、2021年2月に持株会社体制に移行し、株式会社鳥貴族ホールディングス(HD)へと商号を変更。「鳥貴族」を運営する事業会社の株式会社鳥貴族は、2020年8月に設立された。トリキバーガーを運営する、株式会社TORIKI BURGER(本社/大阪市浪速区)は、2021年8月に設立された。
同社の代表取締役社長は高田哲也氏。高田氏は、1988年日本マクドナルド株式会社に入社し、統括マネジャー、営業部長等を歴任。2010年株式会社鳥貴族(現・株式会社鳥貴族ホールディングス)に入社。営業企画、商品開発等の幅広い領域で部門責任者を歴任。株式上場準備における店舗管理体制整備の他、店舗運営に関わる各種システムの構築や、商品戦略の策定・導入等に従事。2020年8月より、チキンバーガー業態の「TORIKI BURGER」開発のプロジェクトリーダーを担当。2021年8月に代表取締役社長に就任した。「鳥貴族」創業者の大倉忠司氏は、同社の取締役会長に就いている。
前述したトリキバーガーの斬新な価格構成は、どのようにして考えられたのか、高田氏はこう語る。
「お客様がいつも利用しやすいリーズナブルなプライス、ということ。『価格で選ぶのではなく、一番食べたいものを選んで欲しい』という願いを価格に込めている。プライシングは、原価を考えて行っているのではなく。納得できる価格を優先した。現状、原価率50%ですが、サイドメニューとのシナジーを工夫して下げていく」(高田哲也氏)
鳥貴族HDのポートフォリオが拡大
同社の発表によると、トリキバーガー事業の概要は、以下のようになっている。
- 想定ターゲット:お一人様、ファミリー、若年層の男女。
- 想定客単価:800円(会計単価ベースで算出、ファミリーなど複数名分のテイクアウトも加味したもの)。
- 売上目標:店舗あたり年商2億円。
- 出店計画:3カ年で直営店10~20店舗を目指す。立地は、駅前や繁華街など都内を中心とする予定。郊外出店の場合はドライブスルーの導入も検討。
- 今後の展開:3カ年以降は、フランチャイズ制度を構築し、直営とFCによって展開を加速させる予定。長期的には海外にも展開し、「鳥貴族」と比肩する事業に育てる。
これらからは、トリキバーガー事業を堅調に育てていく姿勢が感じられる。
トリキバーガーの立地は、ファストフードのセオリーとして「店前通行量」が充実していることがポイントとなる。そこで「都内の駅前や繁華街を中心に検討」(高田氏)することになり、さらに路面に出店する必要がある。鳥貴族HDとしては、「鳥貴族」と同じコンセプトであるが、まさに別のビジネスモデルを展開することになる。事業ポートフォリオの開拓である。トリキバーガーの事業展開に、しばらくは目が離せなくなった。
執筆者のプロフィール
文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)