朝食にトーストを食べるときや、お菓子・パンづくりに欠かせないバター。有塩バター・無塩バター・発酵バターなどの種類がありますが、その違いは何なのでしょう。料理には「有塩バター」、お菓子なら「無塩バター」というイメージがあるけれど、どうして? 今回は、そんな疑問と向き合ってみたいと思います。また、バターの風味が決め手となるお菓子の一つ「フィナンシェ」をバターの種類を変えて作り、食べ比べてみたレポートもお届けします!

バターって何?

そもそも「バター」とは、どんな食品なのでしょう。『新版 日本食品大事典』によれば、次のように説明されています。

牛乳から分離したクリームを攪拌によって乳脂肪を結合させて固まりとし、これを練り上げたもの。(中略)紀元前2000年に東インドで製造したと伝えられる。旧約聖書に、バター、チーズの記載がある。わが国では寛政年間(1789〜1801)あるいはその後につくり始めたといわれる。
〜『新版 日本食品大事典』医歯薬出版株式会社,2017年.P617・バターの項目より抜粋〜

みなさんもご存知の通り、バターの原料は牛乳。搾ったままの生乳を遠心分離で脱脂乳とクリーム(※1)に分け、クリームに含まれる乳脂肪を集めて固めたものがバターです。もう少し詳しく説明すると、クリームを強く撹拌(チャーニング)すると、その衝撃で乳脂肪を包んでいるタンパク質の皮膜が破れ、水分と脂肪に分離し、脂肪同士がくっついて粒になります。この脂肪の粒を集めて練り合わせた塊がバターです。200gのバターを作るには、約4.2〜4.4リットルの牛乳が必要といわれます。それにしても、紀元前2000年も昔からバターが作られていたとは驚きです。

※1)乳から乳脂肪分以外の成分を除去し、乳脂肪分を18.0%以上にしたもの。脂肪分の濃度によってホイップ用のヘビークリーム(乳脂肪分30〜48%)、コーヒーなどに入れるライトクリーム(18〜30%)に分類されています。乳脂肪分35%以上のクリームがバターの原料に適しているといわれています。

画像: 日本でも江戸時代からバターがあったとは! (写真AC)

日本でも江戸時代からバターがあったとは!

(写真AC)

主成分や栄養・色について

バターの成分は80%以上が乳脂肪分(※2)、残りの主な成分は水分、微量のタンパク質などです。食品分類でも、オリーブ油などと同じ「油脂類」にグループ分けされています(チーズやヨーグルトは「乳類」)。

※2)バターは、乳等省令により「生乳、牛乳または特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもの」で、成分は乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下と定められています。乳等省令は食品衛生法に基づく厚生労働省令で、正式名称は「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」。牛乳・乳製品やこれらを主要な原料とする食品について、その成分規格や表示の要領、容器包装の規格、製造方法の基準などについて定めたものです。

「脂肪分が多い」となると、コレステロールが気になるかもしれませんが、食パン1枚に塗るバター(有塩)の量を10gとした場合、含まれるコレステロールは21mg。うなぎの蒲焼1串(100g)のコレステロールは230mgなので1/10以下です。バターばかりを食べ過ぎない限り、通常の食生活では気にしなくて大丈夫でしょう。

※「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に記載の「バター(有塩)」と「うなぎ かば焼」の栄養成分を比較した数値です。脂質異常症や動脈硬化などで脂質の食事制限がある場合は、医師に相談してください。

むしろ、バターの脂肪分には良い面がたくさんあります。バター特有の香りとコクの正体は、たっぷり含まれた乳脂肪によるもの。バターの乳脂肪には、他の食用油脂にはない、酪酸(らくさん)やカプロン酸など、香りのもとになる脂肪酸が多く含まれています。バターは28〜33℃で溶ける性質があるので、口に含むと体温で揮発し、ふわっと良い香りが広がります。さらに、加熱するとバターのタンパク質と糖質が反応(アミノカルボニル反応)し、香ばしさも高まります。バターを加えた焼き菓子、ムニエルやバターソテーなどは、これらの性質や反応を利用した調理法になります。また、乳脂肪は食用油脂の中でも消化が良く、子どもや高齢者、胃腸が弱っている人の食事にも利用しやすいんですよ。

栄養成分では、ビタミンA(体内でビタミンAに変わるレチノール、β-カロテン)が多いことも特徴。バター10gあたり52μgRAE含まれます(※3)。女性(15〜29歳)の1日必要量650μgRAE(※4)には届きませんが、「マーガリン(家庭用・有塩)」のビタミンA含有量が10gあたり2.5μgRAE、オリーブオイルの10gあたり1.5μgRAEと比べると、油脂のなかでは相当多いことがわかります。ビタミンAは、ほうれん草やニンジンなどの緑黄色野菜にもβ-カロテンとして多く含まれ、油と合わせると吸収が高まります。「緑黄色野菜のバター炒め」などは、ビタミンAをとるのによいメニューです。

ビタミンAは肌や粘膜の健康を保ち、生活習慣病を招く活性酸素を取り除く機能性が注目されている成分。さらにバターには、微量のカルシウム、カルシウムの吸収に欠かせないビタミンD、抗酸化力が期待されているビタミンEも含まれています。

※3)文部科学省『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』記載のレチノール活性当量の数値より筆者が計算した目安 ※4)厚生労働省『日本人の食事摂取基準2020年版 八訂』記載の1日あたりの推奨量より

なお、バターの黄色は、乳脂肪に含まれるβ-カロテン(体内でビタミンAに変換する色素成分)によるもの。β-カロテンは、乳牛が餌として食べる牧草に多く含まれます。夏季に青草をたくさん食べた牛の乳からつくるバターは黄色が濃く、冬季に乾草(ほしくさ)をたくさん食べた牛の乳からつくるバターは黄色が薄い傾向があります(※5)。お気に入りのバターを買い続けていると、季節によってバターの色が変わることに気づくかもしれません。

※5)乾草のほかに穀類や大豆類などをブレンドした飼料を食べている乳牛の場合は、乳脂肪の色に影響が出にくいともいわれています。また、賞味期限が近い場合など、酸化が進んだ場合も黄色が濃く出る場合があります。

バターの主な種類とそれぞれの特徴

では、バターの種類によって、何がどう違うのでしょう。バターは主に、原料のクリームを乳酸菌で発酵させない「非発酵バター」(有塩バターと無塩バター)、乳酸発酵させる「発酵バター」に大別されます。それぞれの特徴や違いを調べてみました。

◆非発酵・有塩バター

日本でおなじみのバター。「加塩バター」とも呼ばれる。乳酸菌は加えず、重量の1〜2%の塩分を加え、保存性を高めている。バター自体に適度な塩味があり、トーストに塗ったりパスタに絡めたり、料理に幅広く使われる。

画像: 私はムニエルのソースなどに有塩バターを使います。

私はムニエルのソースなどに有塩バターを使います。

◆非発酵・無塩(食塩不使用)バター

乳酸菌も塩も加えずに作るバターで、クセの少なさが特徴。保存性は有塩バターに比べると劣る。原料となる牛乳に微量の塩分が含まれるため、バターの商品パッケージには「無塩」ではなく「食塩不使用」と記載されている。お菓子づくりやパン作りによく使われる。

画像: パンを焼くときは食塩不使用バターをよく使います。

パンを焼くときは食塩不使用バターをよく使います。

◆発酵バター

原料のクリームに乳酸菌を加え、乳酸発酵させてから作る(近年はバターを作ってから乳酸菌を後で加えて練り込むタイプの発酵バターもある)。バター本来の香りとコクに加え、乳酸菌の働きによるヨーグルトのような爽やかな酸味と香りをあわせ持っているのが特徴。乳酸菌入りの発酵食品なので、腸の働きを整える整腸作用も期待できる。また、加える乳酸菌の種類によって風味が異なり、それが発酵バターの個性となる。有塩・食塩不使用の2タイプがある。

画像: バウムクーヘン作りで発酵バターと出会いました。

バウムクーヘン作りで発酵バターと出会いました。

製造法(乳酸発酵させて作るか否か)成分(食塩の添加をしているか否か)の違いで、バターは種類分けされているのですね。非発酵の「有塩バター」と「無塩(食塩不使用)バター」は、「発酵バター」と区別するため、総称して「無発酵バター」「フレッシュバター」「甘性バター」とも呼ばれています。

歴史を辿ると、バターの始まりは「発酵バター」で、現在でもヨーロッパでは発酵バターが主流です。昔はバターづくりの道具と技術が整っておらず、牛乳からクリームを分離させる際に時間がかかり、空気中の乳酸菌が偶然混入して自然に乳酸発酵が進み、できあがるバターはすべて発酵バターでした。やがて、技術や道具が改良され、殺菌などの衛生的な設備も整い、天然の乳酸菌が混入しない非発酵バターが誕生。日本には近代的な製造技術とともにバターづくりが本格導入されたため、非発酵バターが先に市場に多く出回り、発酵バターはレアな存在として後に注目されるようになった、という逆転現象が起きたと考えられます。

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