【麻倉怜士の4K8K感動探訪】NHK BS 8K「国際共同制作 恋する生きものたちの挑戦」は自然科学番組の最高傑作(2)〈連載28〉

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BS8Kで放送されたNHKとイギリスのプロダクション、シルバーバックフィルムとの共同制作による自然科学番組「国際共同制作 恋する生きものたちの挑戦」。被写体の色の種類や鮮やかさなど8Kの恩恵を存分に享受できる自然番組の最高傑作といえる。イギリスチームとの撮影の様子や、2話以降の見どころについても紹介する。

NHKとイギリスのプロダクションが自然科学番組を共同制作

先月報告したNHKとイギリスのプロダクション、シルバーバックフィルムとの共同制作による「国際共同制作 恋する生きものたちの挑戦」の続き。

前回はシリーズ第1話の「草原 恋敵に囲まれて」からアフリカ南部はナミビアのダチョウの恋の闘いを紹介したが、今回は同じ回から、フィンランド北部のエリマキシギを紹介しよう。

オスは恋の季節になると首の周りに飾り羽を蓄え、メスにアタック。彼らはレックという出会いの場所に集まり、共同で求愛活動を行う。合コンのためのダンスホールだ。高く頭上を飛ぶメスからよく見えるように、ジャンプを始める。オスたちの必死の飛び跳ねを見たメスたちが、降りてきた。オスたちは認めてもらおうと、さらに激しく踊る。

そのさなか小さな体の鳥が入ってきた。オスのエリマキシギなのだが、襟がないので、オスにはみられない。なので、攻撃されることもない。だから、実にやすやすと、メスと結ばれたのである。MCは語る。「オスもメスも欺く、驚くべき恋の駆け引き術が何世代にも渡り続いているのです」。

イギリスチームとの合同撮影で得たもの

では、実際の撮影はどのように行われたのか。井上大志氏(NHK放送総局大型企画開発センターディレクター)に話を聞いた。井上氏はプロジェクトの始まりから、シルバーバックフィルムズと合流し、どの動物を狙うかから始め、多くの8K合同撮影に赴いた。

「ひじょうに苦労が多かったです。NHKで自然番組を作るには、機動性を重視します。カメラ、三脚、レンズは持ち運びがしやすさから選ぶことが多いのですが、イギリスのクルーは使う機材がまったく違いました。最初から映画の撮影用の大型の三脚、シネマレンズを使って高精細を撮ることに、とてもこだわりがありました」

確かにBBCの自然科学作品は、題材もダイナミックだが、画質が素晴らしく良い。その秘密のひとつが、機材にあった。動体を撮る姿勢もまったく違ったという。

「動物が画面を横切る時には、われわれは横にパンして動物の動きをずうっと追いかけるのですが、イギリスはフィックスで撮影します。動物が横に移動する時も、固定画面の中に左から入って、右に出るという映像になります。これは映画の撮影の手法です。それも本番組の映像の良さにつながっています。画面全体にピントが合う、パンフォーカスじゃなくて、背景をアウトフォーカスにすることでも、こだわっていました。また野外の撮影では、少しでも曇っていると、もう撮影をしない日が結構ありました。自然の太陽光や角度に非常にこだわって撮影しました。なので、陰翳がひじょうにきれいに出ています」。

撮影の進め方も勉強になったという。デイリー(その日撮った映像の試写)では、厳しく評価した。「その日に撮れた映像を夜にスタッフが見直します。お目当の映像が撮れたと思っても、少しカメラがブレたり、パンしたり、画面が動いていたりすると、NGになってしまいます。星を 1 つ、星を 4 つという感じで採点し、使えるか使えないかの判断を数で決めることを毎日の習慣にしていました。イギリスチームの映像へのこだわりは、時間をかけられる大型シリーズならではのものでした」

自然科学番組における8Kのメリットとは

自然科学番組における8Kのメリットは何だろう?岩崎弘倫氏(NHKエンタープライズ第2制作センター自然科学部エグゼクティブ・プロデューサー)はこういう。

「まず色の種類が多く、鮮やかに表現できることです。『密林 秘密の恋のささやき』編にマンドリルが登場するのですが、オスはメスの気を惹くために、より鮮やかな色をまといます。色の鮮やかさが、異性を引きつける鍵なので、オスは色で競争するのです。だから8Kの色表現力が求められるのです。『草原 恋敵に囲まれて』のフィンランドのエリマキシギの顔のクローズアップでは横から太陽光が当たり、光が当たってない方は暗くなっている。でも暗部でもきちんとグラテーションがある。それによって羽の艶など陰の部分でも、まっくらにならずに、色の情報を見ることができるのは、まさに8Kの恩恵なのです」。

マンドリルのオスは、メスの気を引くためにより鮮やかな色をまとう。

第2話以降の見どころ

警戒心の強い「セイラン」の撮影に初めて成功!

さてこれまで第1話の「草原 恋敵に囲まれて」をもっぱらご紹介してきたが、続きのシリーズでの注目ポイントも岩崎氏に教えてもらった。まず第2話「密林 秘密の恋のささやき」について。

「密林は草原とは全く違って、覆い隠されるところなので、その中でいかに目立つかがポイントになります。恋を実らせるには、いかに目をつけてもらえるかが大事です。そこで、いろんな方法で進化させています。インドネシアでは、セイランというキジ目の鳥のオスが、孔雀みたいに羽根を拡げてアピールします。セイランはものすごく警戒心が強く、これまで撮影されたことがありませんでした。今回は初めてセイランのディスプレイの様子の撮影に成功しました。このセイランがなぜ有名かというと、あのダーウィンの話です。あまりにも美しい羽の模様、水玉の模様を見て、こういう羽根を持つということは、オスとメスの恋の駆け引きこそが、まさに進化の大きな原動力になるのだという考えを得たと言われています」(岩崎氏)

第3話「海洋 出会いはいつも突然」については、「海はあまりにも広すぎ、どうやって出会うのがテーマです。多くの動物は出会う場所を決めています。いちばん見ていただきたいのはザトウクジラです。出会う約束の場所に集まり、プロポーズの歌を歌ってメスを集めます。このこと自体はよく知られてることですが、実はその後のヒートランと呼ばれる、ものすごいそのチェイス合戦が凄いのです。 30 トンもあるオスクジラ達がデッドヒートを繰り広げながら、メスを追走する迫力シーンをぜひご覧ください」(岩崎氏)。

30 トンもあるオスクジラ達がデッドヒートを繰り広げる迫力の映像は必見!

第4話「淡水 タイミングはすべて」については、「生き物には水はとても大事なものです。雨期と乾期の両方で、いつ雨が降るのかが、もの凄く大きな恋の鍵になっていきます。 ブラジルのパンタナール大湿原で、カイマという大きなワニが低周波の唸り声を上げます。その背中で水滴が魔法のように跳ねるんですよ。レインダンスと呼ばれます。NHKも参加した部分で撮影に成功しました。低周波自体は人間が聞こえないほどのものですが、その振動で水面を揺らすことでメスにアピール。面白い恋の仕方を見ていただければと思います」(岩崎氏)

自然科学番組のベテラン・岩崎弘倫氏。

早速、8Kテレビを買って、「国際共同制作 恋する生きものたちの挑戦」を見よう!

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◆文・麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)

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麻倉怜士(AV評論家)

デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。

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