〈止まらないコーヒー偏愛〉手網を使った焙煎から本気度120%の喫茶室まで|このミュージアムがすごい(3)

エンタメ

日本には訪れてみたくなるミュージアムがたくさんある。大学や企業が威信をかけて作り上げた大がかりなものから、個人の思いが詰まった尖りまくりのニッチなものまで、実にさまざま。今回は“コーヒーの街・神戸”にある「UCC コーヒー博物館」を探訪する。

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展示室を見学した成果を試せるコーナー

コーヒーの起源にはじまり、栽培、精製、焙煎、抽出、そしてカップに至るまで、一杯のコーヒーが出来上がるまでのプロセスを、らせん状の回廊を巡りながら見学できる「UCCコーヒー博物館」。前回【このミュージアムがすごい(2)】では、博物館のメインとなる展示ルートを紹介してきた。しかし、まだまだ終わらない 。ここはコーヒーの香りや味わい、そしてカルチャーを楽しみ尽くせる体験型のミュージアムでもあるのだ 。

テーマに沿ってコーヒーを飲み比べ

まずは1Fのテイスティングコーナー。 ここでは月ごとに変わるテーマに合わせてコーヒーの飲み比べが無料でできる。開催は11:00~、13:00~、14:30~、16:00~の4回で、それぞれ30分間のプログラム(※コロナ感染拡大防止中の現在は休止中。再開情報は公式サイトを確認)。

飲み比べのテーマは、「ブレンドとストレート」「マンデリンとジャバ・ロブスタ」「グアテマラとコロンビア」「エチオピアとタンザニア」「ブラジルとコロンビア」「エチオピアとグアテマラ」「水出しアイスコーヒーとお湯出しアイスコーヒー」「ブルーマウンテンとハワイコナ」「粗挽きと中細挽き」「深煎りと中煎り」など。いずれもコーヒー好きならピンとくるお題ばかり。

テイスティングにチャレンジ!(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

入館料が一年間無料になるクイズに挑戦!

テイスティングを体験したら、次はコーヒークイズ Q&Aコーナーに挑戦したい。ここでは展示ルートで見学した内容からクイズが出題されるので、タッチパネルでそれに回答していく。問題は全部で5問。5問すべて正解すると、通常は300円(高校生以上)かかる入館料が1年間無料になる顔写真入りの「コーヒー大博士認定証」が発行される。

出題されるクイズは、例えばこんな感じだ。

●コーヒーの花の色は何色? A黄色 B赤色 C白色
●日本にコーヒーがやってきたのはいつ頃? A明治時代 B江戸時代 C戦国時代
●インスタントコーヒーが発明されたのは、どこの国? Aアメリカ B日本 Cフランス

どうだろう? わずか5問とはいえ、全問正解しようと思うと、ちょっとピリッと緊張しないだろうか。

タッチパネルでクイズに解答(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

5問正解したら発行機で顔写真を撮る(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

入館料が1年間無料になる認定証(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

コーヒー豆のブレンドや手網焙煎を体験できる

館内にあるアカデミーで専門的に学べる

UCCには、国内最大級のコーヒー専門教育機関「 UCCコーヒーアカデミー」があり、東京校と神戸校の2拠点で講座を開催している。コーヒー全般についての教養を深められるベーシックなコースから、焙煎士やカフェ開業などのプロを養成するコースまで、多彩なプログラムが用意されているが、その一部をこの博物館内のセミナールームにて行っている。

現在、博物館内のセミナールームで受けられるのは、「プロ仕様の豆を使ったオリジナルブレンド作り」と「手網を使ったコーヒー豆の焙煎」。いずれも博物館見学ツアーとセットになったプログラムで、受講料も税込3300円/3850円とリーズナブル(2022年8月現在)。各回定員12人の少人数授業なので、アカデミー講師にどんどん質問をしながら見学や体験をするといい。セミナーは公式ページから申し込むことができる。

博物館内にあるセミナールーム。「UCCコーヒーアカデミー」の開設以前は、ここで「コーヒー・キャンパス」というコーヒー講座が行われていた。

これは手網を使ってコーヒー豆の焙煎を行うための道具。左上のガスコンロの上で手網に入れた生豆を炒っていく。豆を炒る熱量を調節するために、かなりダイナミックに網を振ることになるので、手袋は必須。ある程度炒り終えた豆は、そのまま焙煎が進まないように左下のうちわで冷ましてやる。うちわには焙煎の度合いの例を示す色見本が載っているので、これを目当てに作業を進める。

手網を使て焙煎にチャレンジする道具もあり、初心者でも気軽に学べる環境が整っている。

アカデミーでは、この手網焙煎講座の内容をインスタグラムで配信している(2022年7月6日配信分.以下のリンクをクリック)。初心者向けのやさしい語り口で講座は進むが、やっていることはなかなかマニアック。手網を振っていくとだんだんパチパチと豆がはぜる音がして、飛んだチャフ(豆の外側の殻)に火がついている様が見て取れる。

ほかに類を見ない”ガチ”の喫茶室

一杯2500円のレジェンド級も!

たいていのミュージアムにはコーヒーラウンジがつきものだが、この博物館1Fにある喫茶室「UCCコーヒーロード」ほど本気のラウンジは、ほかにないだろう。何せこれだけコーヒーのことをたくさん学ばせておいて、そのお膝元で供されるコーヒーがフツーなはずがない 。まさに本気度120%、"ガチ" のコーヒーラウンジなのだ。

「UCCコーヒーロード」では、インド洋レユニオン島の幻のブルボンポワントゥ(税込2500円/1杯)、直営農園のブルーマウンテン(税込1050円/1杯)、ハワイコナ(税込1050円/1杯)といったレジェンド級のほか、パナマ、ルワンダ、ホンジュラスなどの超有名生産者のスペシャルティコーヒー(税込700~950円/1杯)を味わうことができる。提供されるシングルオリジン(同じ生産者が同じ品種、製法で生産した銘柄)のコーヒー豆は、すべてコーヒーアカデミーの講師が焙煎したもの。これらは100グラム単位での豆の量り売りにも対応している。

「本日のコーヒー」のお品書き。

三つの抽出方式でプロのワザを堪能

コーヒーをオーダーする際には「ペーパードリップ」「サイフォン」「カフェプレス」のいずれかの抽出方式を選択することができる。もちろん、抽出を行うのは競技会などで優秀な成績を収めたアカデミーのプロフェッショナルだ。同じコーヒー豆をチョイスして、それぞれの抽出方法で、プロのワザを堪能できるとは、なんとぜいたくなことだろう。

最もポピュラーな抽出方式のペーパードリップ(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

クリアな味わいを楽しめるサイフォン (画像は「 UCCコーヒー博物館」サイトより)

豆の特徴が最も出やすいカフェプレス(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

アカデミーのスペシャリストが抽出を行う(画像は「 UCCコーヒー博物館」サイトより)

3種のスペシャルティコーヒーをチョイスして飲み比べられるセットは税込1500円(画像は「UCCコーヒー博物館」サイトより)

華麗なアレンジコーヒーの世界も満喫

ここまでの話を聞くと、この喫茶室は"ガチ"すぎて敷居の高さ感じてしまうヒトもいそうだが、もちろん通常のブレンド(といってもこだわりのブレンドだが)など、気楽にコーヒーを楽しめるメニューも用意されている(税込450円/650円)。

また、ホット10種類、アイス10種類、計20種類のアレンジコーヒーのメニューもある。エスプレッソベースのコーヒーにチョコレートシロップを混ぜ、オレンジピールやシナモンなどを添えた「カフェ・ボルジア」(税込600円)など、バリスタの卓越した技術が堪能できる逸品ぞろいだ。

「カフェ・ボルジア」(税込600円)

「カフェ・マリアテレジア」(税込600円)

「カフェ・ア・ラ・カプリ」(税込580円)

「アイス・ジュレ・オーレ」(税込560円)

博物館に入館しなくても単体利用可能

と、ここまでいろいろと紹介しておきながら、実は今回の取材、筆者はこの喫茶室でコーヒーを味わうことはできなかった。2022年8月現在、この喫茶室はコロナ感染拡大防止のため休業中。コーヒーの提供はおろか、豆の販売も行っていない。まさに痛恨の極み! だが、ここまでお読みいただければ、店の特徴はおおかたご理解いただけたのではないかと思う。ちなみにこのコーヒーロードは、博物館に入館しなくても単体利用が可能。豆のみを購入することももちろんできる。営業再開の日を心待ちにしたい。

豆のみの購入も可能なUCCコーヒーロード。取材時は残念ながら休業中だった。

コーヒーカルチャーを堪能できるラウンジ

博物館の1Fにはコーヒーにまつわる音楽や本、美術などのカルチャーを楽しめるラウンジがある。ここで音楽を聴きながら本や雑誌をながめ、ひと息ついたのちに、もう一度、気になる展示室を見て回るのもいい。とにかくコーヒーざんまいの一日をゆったりと過ごすことができるのだ。

コーヒー関連のカルチャーを集めたラウンジ。コーヒー豆のカタチをしたベンチがかわいい。これに限らず館内の施設にはコーヒーをモチーフにした意匠がとにかく多い。

コーヒーをテーマにした音楽を聴きながら過ごす

フランク・シナトラ、ボブ ・ ディラン、 ボブ・マーリー、西田佐知子、 キャロル、モーニング娘など 、コーヒーをテーマにしたさまざまな曲を聴くことができるコーナー。ボタンを押すとラウンジに音楽が流れる。これがまたいい感じ。

「一杯のコーヒーから」(1939年)の直筆楽譜もある。なんとも洒脱でエモい昭和の名曲だ。

書籍や雑誌などのライブラリーも充実

コーヒー関係の書籍や雑誌が並ぶライブラリーや、コーヒーをテーマにした切手や紙幣のコレクションも展示している。

ライブラリーには「神戸ポートピア博」の写真集もあった。

コーヒーの香りがする切手もある。

壁にはコーヒーを題材にした文学作品の一節が

ヘミングウェイや村上春樹など、 文学作品の中に登場するコーヒーについての一文が書かれた壁。とにかくあっちを向いてもこっちを向いてもコーヒー、コーヒー、コーヒー。コーヒーへの偏愛が止まらないのである。

ヘミングウェイや村上春樹など、文学作品の中に登場するコーヒーについての文章が書かれた壁。

UCCヒストリーコーナー

UCCの歴代製品が並ぶ展示コーナー

UCCの企業博物館としての側面ももちろんある。ここは同社の歴史についてのスペース。それほど広いコーナーではないが、展示されている品の中には懐かしさを感じさせるモノもけっこう多い。

1970年代のビン入りコーヒーや業務用コーヒー袋。

青のパッケージに赤い楕円のロゴをあしらったデザインは現在もレギュラー缶に使われている。

茶、白、赤の 3色のミルクコーヒーの缶は、今なおスタンダードな存在。中央のアメリカンコーヒーやコーヒー農園のおじさんの缶は、かつて自販機でよく見たデザインだ。

懐かしさで時間を忘れるCMライブラリーコーナー

CMライブラリーのコーナー。UCCといえば、さまざまな有名人を起用したCMが有名。懐かしいものから近年のものまで、たくさんの動画を楽しむことができる。「ああ、こんな人もコーヒーのCMやってたなぁ…」「昔はコーヒーをはじめオトナっぽい嗜好品のコマーシャルがたくさんあったなぁ」などと、このコーナーにて、しばしノスタルジーにふけってしまった。

写真に寄った撮影はNGでした。

超貴重な歴史的アイテムの展示も要チェック

博物館のエントランスまわりには、歴史的な存在の貴重な品も展示されている。そんなアイテムも見逃せない。

オール・アバウト・コーヒー初版本

ウイリアム・ H・ユーカースによって書かれた「オール・アバウト・コーヒー」の初版本(1922年 アメリカ)。 100年を経た現在もコーヒー研究者のバイブルともいわれる一冊だ。

歴史的名著「オール・アバウト・コーヒー」

ドゥ・ベロワ式ポット

初めてコーヒーを濾したドゥ・ベロワ式ポット(19世紀中期フランス)もあった。それまでは、コーヒーは煮出して飲むものだったが、このポットは内部に金属網があり、濾して飲むドリップ式抽出器具の原型となった。

ドゥ・ベロワ式ポット

缶コーヒーの第一号

世界で初めて缶コーヒーを作ったのがUCCというのは有名な話。下の展示は1969年、UCCの創業者である上島忠雄氏が先頭に立って開発した「UCCコーヒー ミルク入り」(通称「3色缶」)の最初の缶。現在、世界中に無数に存在する缶コーヒーの一本目がまさにこれだ。

発売当初はあまり売れなかったこの缶入りコーヒーがブレイクしたきっかけは1970年の大阪万博。この会場で多くの人が缶入りコーヒーを体験し、美味しさを知ったことで、以降注文が殺到。それとともにUCCの知名度も大きく広がったという。振り返ってみれば、1981年の神戸ポートピア博へのパビリオン出展、そしてこのコーヒー博物館の誕生へとつながる道のりは、大阪万博が出発点だったといえるのかもしれない。

世界初の缶コーヒーは大阪万博の会場で飲まれたのをきっかけにブレイクした。

ならではの品が並ぶミュージアムショップ

ロゴ入りのミニカップや鑑定士用グッズが注目

ミュージアムショップではオリジナルのグッズや雑貨、アクセサリー、書籍、CD、おみやげなどを販売。筆者のおすすめは「UCC」のロゴが入ったミニカップ。テイスティングコーナーで使われているものと同じで、ドリップ、カフェオレ、エスプレッソなど、どんなコーヒーにも合う形状 。数個まとめて買って帰るべし 。また、クラシフィケーションシートや鑑定用スプーン、カッピンググラスなどの鑑定士用のアイテムを購入することもできる。

テイスティングコーナーでも使われるUCCロゴ入りのミニカップ。

クラシフィケーションシート、サンプルパン、鑑定用スプーン、カッピンググラス。

オリジナルデザインの ミニヘンプバッグ 。小物入れやプレゼントのラッピングにぴったり。

書籍や雑誌も販売。「オール・アバウト・コーヒー」の翻訳版(TBSブリタニカ)もある。

雑貨や文具などおみやげ関連も多数。

お約束の「顔ハメ」。公式キャラクターの「マメゴン」といっしょに記念撮影。

おまけ~ UCC本社ビルにも潜入!

コーヒーのプロを養成する「道場」も!

今回は「特選街Web」の取材ということで、特別に本社ビルのほうも見せていただいたので、その一部をご紹介しよう。

UCC神戸本社。コーヒー博物館のとなりにある。

本社の2階にあるプロバット社の焙煎機。「UCCコーヒーロード」で販売されているコーヒー豆はここでアカデミー講師が焙煎している。

プロバットの焙煎機。

2Fにある 「上島道場」というモノモノしい看板が掲げられた部屋。この奥ではコーヒースペシャリストを養成するための厳しい鍛錬が日々、行われているらしい。

「上島道場」の看板が掲げられた部屋。

「上島道場」の中にある実際のカフェをそのまま模したスペース。ここでさまざまなプラクティスが行われる。さらにその奥の部屋では 、 SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)のQグレーダー(コーヒー技能の国際資格)の認定試験が 、まさに実施されているところだった。

実際のカフェを模したスペース。

まとめ

というわけで神戸のポートアイランドにある「UCCコーヒー博物館」について、3回にわたってレポートしてきた。ご興味がわいた方はぜひ足を運んでいただきたいが、ここまでも何度か触れたとおり、2022年 8月現在、同館は、コロナ感染拡大防止のため、一般観覧は基本的に休止している状態だ 。

現在は「博物館見学ツアー」などを月3~4回程度開催中

ただし、「 UCCコーヒーアカデミー 」の1dayセミナーとして、人数を絞ったカタチで見学すること は可能。無料の特別開館日のほか、コーヒー豆の焙煎体験やブレンド体験ができる有料セミナーコースもある。詳しくは「UCCコーヒーアカデミー」のサイトまたは UCCコーヒーアカデミー神戸校( TEL: 078-302-8288)のほうへお問い合わせいただきたい。

この「UCCコーヒー博物館」の存在も理由のひとつだが、神戸は 古くから「コーヒーの街」と呼ばれる。 開港150年余りを数えるこの街は、 明治時代からいち早くコーヒー豆の輸入がはじまり、日本のコーヒー文化をけん引してきた。 日本で初めてコーヒーを提供し、教科書にも載っている元町の老舗茶屋「放香堂」や、日本で初めてストレートコーヒーのメニューをそろえたといわれる「にしむら珈琲店」、200客のカップの中から客の好みのカップでコーヒーを出す「茜屋珈琲店」など、コーヒーの歴史を作ってきた名店がギュッと集まっているのが神戸の魅力。「UCCコーヒー博物館」とともに、"コーヒーの街・神戸"をいろいろと味わってみてはいかがだろうか。

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