NHKのBS8Kには音を愉しむ番組が多いが、なかでも最右翼に挙げられるのが「22.2chで楽しむ日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」だろう。今回は、この「エコー遺産」で採用されている22.2チャンネル音響について述べることにする。

22.2チャンネルで収録した番組

本作は銭湯や廃坑などの残響の多い場所で、ヴォーカルグループのゴスペラーズがハンドマイクなしのアカペラで歌い、発生した響きを22.2チャンネルで収録するという、たいへんユニークな番組だ。ジェントルな響き、スウィートな響き……という建物の形、大きさ、その材質など収録場所によって違う残響の量と質を、楽しむ。編成としては、まず8K/22.2チャンネルで初回放送し、4Kも同じく22.2チャンネルで、BSプレミアムでは2K/5.1チャンネルで放送している。再放送も多い。

第2弾で放送された大岡川の橋の下が、とくに面白い

2021年1月に第1弾として駒込の銭湯、宇都宮の大谷石の廃坑、上野の旧博物館動物園駅の響きを放送。2021年12月に第2弾、横浜の各所の響きを放送。横浜三塔の1つであるクイーンの塔(横浜税関)、みなとみらいへと注ぐ大岡川にかかる橋(万国橋)の下、日産スタジアム下にある巨大空間の3か所だ。特に面白いのが、大岡川の橋の下。川を下りながら船上で歌うのだが、オープンスペースでは響きが拡散し、その(響く)量もたいへん少ない。橋に掛かるととたんに量が増え、空間がもの凄く濃密になるのである。

画像: 「万国橋の下(大岡川)」©NHK

「万国橋の下(大岡川)」©NHK

"お風呂で歌う"が番組づくりのきっかけ

このユニークな音響番組はどう発想されたのだろうか。東京ビデオセンター・ディレクターの御堂真則氏が、明かした。

「コロナ禍で家にいると、風呂に入りながら、歌うことが多くなりました。とっても楽しいんですね。いつも新しい番組のアイデアを考えていますので、"お風呂で歌う"という番組は面白いのではないかと、思いつきました。それを日本全国に拡げたらどうか、と。そこで、作家さんと別のプロデューサーを交えて企画を揉む中で、そのプロデューサーが以前、NHKさんと8Kの仕事をしたことがあり、22.2チャンネルで、風呂の響きが録音できれば面白いという話になりました」。

御堂氏のコメントを受け、企画が持ち込まれた側のNHKエンタープライズ・シニア・ブロデューサーの谷宮崇文氏は、「ゴスペラーズさんに出演依頼をしたところ、ベースの北山陽一さんが、トンネルなどで歌って、その響きを録画し、SNSに上げていることがわかりました。偶然の出会いではありましたが、この番組にとってとても大きな推進力になりました」。

収録現場では、30本近いマイクを縦横に配置

収録現場では響き空間を囲うように30本近いマイクを広く縦横に配置する。大谷石の廃坑では高いポールにマイクを掲げた。「サウンドが命ですから、MA(音編集)は一番組としては異例ですが、3週間を掛けています。現場で録音したエンジニアが、MAも担当するのです」と、当時NHKチーフ・ブロデューサーであった柴田直之氏が言う。

横浜の「クイーンの塔」では、五階建ての建物の5階でゴスペラーズに歌ってもらい、4階と1階にマイクを設置、上方から来る響きを録った。22.2チャンネルならではの垂直方向の音場再現を狙ったのだ。「でも、録ったままの音場の音だと、あまり上から降ってくるような感じは薄かったです。そこでMAの段階で、響きの降臨を体験した音声エンジニアが、現場感覚で編集を行い、その場で耳で聴いたような立体的な音場をつくりました。放送で聴いてもらう音は、まさに現場の音場になっていますね」(柴田氏)。

画像: 「クイーンの塔」©NHK

「クイーンの塔」©NHK

独特な絵づくり

絵づくりも独特だ。ルーズショット(被写体と画面フレームとの間に余裕をもたせる構図)が主体なのだ。一般には、タイトショットとルーズショットを混在させるのだが、「初めは、まずはルーズで、次にタイトと撮影計画を立てていましたが、でも編集してみると、22.2チャンネルのスピーカーからは広い空間の豊かな響きが出ているのに、人物の映像が近くにあるというのは、変な感じでした。そこで、空間の広さに合わせて、映像の距離感を調整することにしました」(柴田氏)。

カメラとマイクの位置も独特

カメラとマイクが視聴者位置というのも独特だ。音楽番組では、スイッチングでいろいろ場面が変わっても、音場配置、音像バランスは変えないのが普通だが、「ゴスペラーズの響歌」では、ゴスペラーズがカメラに向かって近づいてくると、音も近づき、通り過ぎると、音像は後ろに行くというユニークなMAが採用され、場の臨場感、響きの臨場感、現場感覚を視聴者に与えている。「MAは現場忠実がこだわりです」と東京ビデオセンターの御堂氏は言う。

まとめ

「22.2chで楽しむ日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」は、BS8Kの大傑作番組だが、これまではなかなか22.2チャンネルが体験できなかった。でも、パナソニックの功績で、4KBDレコーダーDMR-ZR-1→Dolby Atmosの系が出来た。4Kの22.2チャンネル番組を4KBDレコーダー、DMR-ZR-1で録画/再生すれば、AVアンプのDolby Atmos環境でイマーシブ・オーディオとして聴ける。

今後、ぜひ広く、多くのユーザーが体験できる22.2チャンネル再生環境の普及を望みたい。

◆文・麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
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