なぜコンデジは超高倍率化ができたのか―。スマホが急速に普及し、コンデジの居場所を奪っていった結果、生き残ったのが「スマホでは撮れない写真が撮れるカメラ」。高級タイプや、防水タイプ、そして、手軽に超望遠撮影が楽しめる高倍率ズーム機が該当する。超高倍率化を後押ししたのは、技術の進歩もあったという。カメラライターの北村智史が詳しく回答する。
【読者から質問】
10年前のコンパクトデジカメのズームは6~7倍程度が限界だったように記憶していますが、現在では10~15倍が当たり前で、中には30倍などのモデルもあります。デジタルズームならともかく、光学ズームで、どうしてこんな超高倍率が可能になったのでしょうか? (Y・Tさん 宮崎県 60歳)
編集部:この質問は、カメラライターの北村智史さんに聞きます。
【専門家から回答】
専門家: 手もとにある古いデータを見返してみると、高倍率ズーム機の歴史は古く、2002年にはすでに光学10倍ズームを搭載したカメラが存在していました。当時はまだ高倍率ズーム機は特殊な存在で、主流だったのは光学3倍から4倍のズームレンズを搭載した機種でした。
その後、2007年にオリンパスがCAMEDIA SP-550UZという光学18倍ズーム搭載モデルを発売。2010年には光学30倍ズームの富士フイルム・FinePix HS10や、光学35倍ズームのキヤノン・Power Shot SX30 ISなどが登場しています。
そのころから急速に普及し始めたスマートフォンがコンパクトタイプのデジタルカメラの居場所を奪っていった結果、生き残っているのが、スマートフォンでは撮れない写真が撮れるカメラ。大型の撮像センサーを搭載した高級タイプや、タフな防水タイプ、そして、手軽に超望遠撮影が楽しめる高倍率ズーム機というわけです。
主流だったコンパクトタイプが売れなくなったため、メーカー各社がそれ以外のジャンルのカメラを強化し始めた、という面もあります。
編集部:なるほど。技術的には、どういった進歩があったんでしょうか?
専門家: そうですね、技術の進歩が高倍率ズームのさらなる高倍率化を後押しした面もあります。以前は高価なために一眼レフ用レンズにさえあまり使われなかったED(特殊低分散)ガラス、さらに高性能なスーパーEDガラスや非球面レンズなどが一般的になって、以前よりも高倍率ズームの設計が容易になっているのです。また、画像処理エンジンの能力が何倍にも上がったことで、ソフトウエアでの収差補正による画質の向上も図れるようになりました。
そのおかげで、最近では50倍以上のズーム倍率を持ちながら600グラム台の軽さを実現したモデルが登場しています。50倍以上となると焦点距離で1200ミリ相当以上の超望遠撮影が可能となります。これを一眼レフやミラーレスカメラでやろうと思うと、レンズだけで4~5キロの重さになりますし、予算も200万円前後必要です。それを気軽に持ち歩けるのですからすごいです。
その反対に、性能を落とさずにレンズを小型化することも可能になってきています。ソニー・DSC-HX99のように、ポケットサイズのボディに約30倍のズームが搭載できるなんて、たぶん10年前には想像もできなかったでしょう。
しかも、手ブレ補正機構が強力になったこともあります。10年前には考えられもしなかった超望遠域での手持ち撮影が可能になったのですから、メーカーも高倍率ズーム機を出しやすいわけです。そういった状況の変化も、高倍率ズーム機の普及に拍車をかけていると考えられます。
編集部:超高倍率でもポケットサイズというコンデジはいいですね。私も一台買おうかなと思っています。ありがとうございました!
イラスト/はやし・ひろ