最近は無料の公衆無線LANサービス(フリーWi-Fi)が増えてきているが、その一方で、利用者からは「速度が遅くて使いものにならない」という声もよく聞かれる。確かに、いくら無料でもWebページを開くのに数分も掛かるような低速しか出ないのなら、正直なところ、実用性はほぼ皆無といっていいだろう。しかし、速度が遅い理由さえ把握できれば、まったく打つ手がないわけではない。今回は、そんな遅い公衆無線LANに効果てきめんな奥の手を紹介しよう。
公衆無線LANの速度は場所によって大きく変わる
学校の授業などで聞いたことがあると思うが、電波は「距離が離れるほど減退する」という特性を持つ。もちろん、公衆無線LANサービスで利用している「Wi-Fi」も電波の一種だから、この特性から逃れることはできない。
つまり、Wi-Fiのアンテナからあまりに離れた場所にいると、満足な通信速度は期待できないということだ。
自宅なら無線LANルーターのなるべく近くに移動すれば済む問題だが、公衆無線LANサービスの場合、なかなかそうもいかない事情もある。
例えば、飲食店では、座席を自由に移動できない場合もあるし、そもそもアンテナの近くに行くといっても、どこにルーターが設置しているか皆目見当つかないに違いないはずだろう。
他にも公衆無線LANサービスを使えるスポットには、コンビニや図書館、駅のホームなどもあるが、やはり似たり寄ったりな理由でベストポジションを確保できない場合が多い。
一方、他にも公衆無線LANサービスが「遅い」理由としては、「時間帯や場所による混雑」が挙げられるが、残念ながらこれはユーザーの創意工夫ではどうにもならない問題だ。基本的には、こうした時間帯や場所は避けて利用するほかないだろう。
ただし、アンテナからの距離の問題だけなら、実はちょっとした工夫で速度を上げられないこともない。
スマホとパソコンで大幅に通信速度が異なる理由とは?
少し話題が逸れるが、遅い遅いと思っていた公衆無線LANサービスで、試しに他の端末につなぎ替えたら一気にスピードがアップした、という経験はないだろうか。
パソコンからスマホ、あるいはその逆でも、どちらにせよ、異なる二つの端末で大幅に通信速度が異なるということは実はよくあることではある。
論より証拠ではないが、以下が同じ公衆無線LANサービスに接続中のパソコンとスマホ、それぞれの実効速度となる。
なお、計測に際しては、同じ測定サービス&サーバーを用いたほか、同一地点、同時刻で測定を行った。若干の誤差はあるかもしれないが、異なる端末でどの程度の速度差が出るものか、大体の目安にはなるだろう。
・ノートパソコン(Windows10)
・Androidスマホ(Galaxy Note9)
ご覧のとおり、ノートパソコンのほうはわずか「下り0.17Mbps」とギリギリつながっているような状態であるのに対し、スマホでは「下り3.21Mbps」とまずまずの速度を実現している。
意外に思うかもしれないが、このようにWi-Fi性能というのは思いのほか端末によって差があるというのが実情だ。
処理速度やカメラ性能の違いなどはビギナーでも比較的把握しやすいかもしれないが、Wi-Fi性能というのは、処理性能のようにベンチマークでスコアを出しにくいものであるし、カメラの写真のように目に見える対象があるわけでもない。
Wi-Fi性能を決定づける要因としては、「アンテナの利得」「アンテナ数」「対応Wi-Fi規格」などさまざまな要素があるが、やや専門的な話になるし、そもそも初心者がそこまで気にする必要はない。端末によって、Wi-Fi性能には思ったより差があるとだけ覚えておけば十分だ。
速いほうの端末を「Wi-Fi中継機」化してしまおう!
遅い無線LANを改善する方法とは、実はこの「Wi-Fi性能は端末によって差がある」という問題を逆手に取ったものだ。
例えば、ある端末ではどうしようもならないほど遅かった無線LANが、別の端末では問題なく利用できる場合は意外に多くある。
こうしたときは、安定した速度が出ている端末のほうを「Wi-Fi中継機」化して利用するといい。
Wi-Fi中継機とは、Wi-Fiの電波を中継してくれるネットワーク機器のことだが、実はWindows10パソコンのほか、一部のスマホではこうした機能を標準搭載している場合がある。
こうした中継機能のことを「Wi-Fiブリッジ」や「Wi-Fi共有」と呼ぶこともあるが、いずれにせよ、端末のWi-Fi接続を「中継して」他の端末にも利用できるするという点は変わらない。
「テザリング機能」と似ていると感じるかもしれないが、テザリングは端末の「モバイルデータ通信」を共有するのに対し、Wi-Fi中継の場合は端末がつないでいる「無線LAN」を他機器と共有する機能となる。したがって、当然、モバイルデータ通信を消費することもないので、キャリアのデータ使用量を気にせず利用することが可能だ。
Windows10パソコンをWi-Fi中継機化する場合
まず「設定」から「ネットワークとインターネット」を選択。
サイドメニューの「モバイルホットスポット」をクリック。
「インターネット接続を共有する」の項目を「Wi-Fi」に設定したうえで、「モバイルホットスポット」のスイッチをオンにする。これでWi-Fi中継機能が有効になるはずだ。
接続先のSSIDと接続パスワードは画面の「ネットワーク名」「ネットワークパスワード」項目に掲載されているほか、「編集」ボタンから変更することも可能だ。
AndroidスマホをWi-Fi中継機化する場合
まず前置きしておくと、現状、Wi-Fi中継機能を利用できるスマホは、一部のAndroidスマホのみとなる。サムスンやファーウェイなど、海外メーカーの機種が対応していることが多いが、だからといって当該メーカーのスマホならすべて使えるというわけでもない。
また、iPhoneはUSBケーブル経由でWi-Fi接続をパソコンと共有できるものの、ワイヤレスで使えるWi-Fi中継機能は備わっていない。「インターネット共有」という似た名称の機能があるが、こちらはいわゆる「テザリング」のことで、Wi-Fi中継とは別物なので注意してほしい。
なお、ここではサムスンのAndroidスマホ「Galaxy Note9」を使って、Wi-Fi中継機能を有効にする方法を紹介していく。もちろん、端末によって操作方法は異なるが、多くの場合はネットワーク関連の項目から設定できるはずだ。
まず、設定を開いて「接続」をタップ。
「テザリング」をタップ。
「Wi-Fiテザリング」をタップして開く。
画面下にある「Wi-Fi共有」のスイッチをオンにする。これでWi-Fi中継機能が有効になる。
テザリングをオンにして起動したら、あとは他の端末からテザリング用のSSIDに接続すればOKだ。
まとめ
公衆無線LANサービスに限らず、電波状況がイマイチでWi-Fiがつながりにくいケースは多くある。例えば、自宅でも自分のスマホは問題ないのに、友人や知人の端末は思うように通信速度が出ないという場合もあるだろう。
そんなときは、自分のスマホのWi-Fi中継機能をオンにして、無線LANの電波を取り次いであげれば、ストレスなくネットを利用できるようになる。Wi-Fiがつながりにくいときの対処法として、覚えておいてソンのないテクニックのひとつだ。
◆篠原義夫(フリーライター)
パソコン雑誌や家電情報誌の編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。専門分野はパソコンやスマホ、タブレットなどのデジタル家電が中心で、初心者にも分かりやすい記事をモットーに執筆活動を展開中。