避難所生活はただでさえ過酷です。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が重なれば、台風から助かっても二次被害で命を落とす危険性まで考えられます。ぜひ台風に対する防災意識を高めてください。日本全国どこにお住まいでも「台風への備え」を怠るべきではありません。【解説】国崎信江(危機管理研究所代表)
解説者のプロフィール
国崎信江(くにざき・のぶえ)
危機管理研究所代表。内閣府「中央防災会議首都直下地震避難対策等専門調査会」専門委員、東京都「子どもを守る災害対策検討会」委員などを歴任した防災のプロフェッショナル。『災害時の食のお役立ちBOOK』(メイト)など著書、監修多数。
令和は常識破りの台風が続々襲来
従来、日本に来る台風は「沖縄の沖合で発達した台風が九州や四国へ上陸後、北上して日本海側へ抜ける」といった進路が典型的でした。ですから、きっと多くの人が「台風被害が多いのは西日本」というイメージをお持ちでしょう。
ところが、近年は地球温暖化の影響により、強力な台風が関東を直撃したり、関東から西日本へ逆走したりと、従来と異なる進路で日本を苦しめることが増えています。
2018年9月、兵庫県を中心に近畿を襲った台風第21号は死者・行方不明者14名、負傷者980名という甚大な被害なもたらしました。
2019年9月の台風第15号(令和元年房総半島台風)は、関東に上陸したものとしては観測史上最強クラスで、千葉県を中心に猛威を振るいました。台風で生じた停電の復旧がなかなか進まず、多くの人が苦しい生活を強いられました。
同年10月の台風第19号(令和元年東日本台風)は、関東、甲信、東北に記録的な大雨をもたらしました。死者・行方不明者102名、負傷者484名。阿武隈川や千曲川の氾濫によって、甚大な被害があったことを、皆さんもご記憶でしょう。
この例からも分かるように、これまでは比較的、台風被害の少なかった東日本も、もはや台風の要注意地域です。日本全国どこにお住まいでも「台風への備え」を怠るべきではないのです。
特に昨今では、新型コロナウイルス感染拡大の第二波が懸念される状況です。
次項で詳しく紹介しますが、避難所生活はただでさえ過酷です。そこに感染拡大が重なれば、台風から助かっても二次被害で命を落とす危険性まで考えられます。命を守るためにも、ぜひ台風に対する防災意識を高めてください。
台風が来る前に自宅の危険度を調べよう
真っ先にしていただきたいのは、ハザードマップ(被害予測地図)の確認です。
ハザードマップとは、自然災害が発生した場合に被害が想定されるエリアや避難場所などが地図上に示されたものです。
洪水、土砂災害、地震・津波、火山噴火が予測される自治体には、ハザードマップの公表が義務づけられています(現状では未公表の自治体もあり)。役所に問い合わせたり、ホームページを確認したりしてみましょう。
国土交通省「ハザードマップ・ポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp)も便利です。住所を入力し、災害の種別を選ぶと、想定される被害の程度や避難所の場所などを見ることができます。
もし河川が氾濫したら、自分の住んでいる場所はどのくらいの浸水が起こるのか? 土砂災害の起こる危険度はどのくらいか? しっかりと認識しておきましょう。
自然災害の情報をいち早く知るため、スマートフォンに防災アプリを入れておくのもお勧めです。「NHKニュース・防災」「Yahoo!防災速報」「Goo防災アプリ」(いずれも無料)などが代表的です。
浸水や土砂災害の危険がある地域に住んでいたら、住宅の保険に入っておくことを、強くお勧めします。
火災保険や共済には、台風による水災、風災への補償も含まれることが多いものです。補償の内容、かけ金や保険金の額などをよく吟味し、必要な保険に加入しましょう。
台風の際、「田畑の様子を見に行って洪水に巻き込まれ、命を落とす」といった不幸な事故がよく起こります。家屋や所有地を守りたい気持ちは分かりますが、最も大事なのは命を守ることだと、再確認しておきましょう。
屋根と窓の点検が大切
家屋の点検や補強も大切です。特に注意すべきは、屋根と窓。屋根瓦は台風で飛ばされ、雨漏りだけでなく、周囲に危険を及ぼす恐れもあります。
建築から10年以上たっている家は、業者に屋根の点検をしてもらうのがいいでしょう。最近は、台風や地震にも耐えられるように防災性を高めた瓦や工法も開発されています。
窓ガラスは、暴風で物が飛んでくるなどして、割れて飛散すると危険です。予算に余裕があれば、合わせガラスの導入がお勧め。これは、簡単に割れないばかりか、遮音性や遮熱性にも優れています。
飛散防止のために、窓に養生テープなどをはり付ける方法も紹介されますが、あれはあくまでも応急処置です。その都度はったり剥がしたりも、面倒でしょう。
ですから、あらかじめ透明の飛散防止フィルムをはっておくことをお勧めします。そう高価な物ではなく、自分ではることもできますし、業者に依頼することもできます。
次項では、より具体的に「いざ台風が来たら、どう行動すべきか」をお話しします。
台風は予測可能な災害
突然起こる地震とは違い、台風は「いつ、どこに、どの程度の被害が及ぶか」が予測可能です。台風が来る際、自宅待機するか、または避難するか、避難方法はどうするかなど、日頃から家族で話し合って、決めておくとよいと思います。
私見を述べれば、「避難所への避難」はできれば避けたいものです。
被災地支援のために多くの避難所を訪れ、実態を見てきましたが、劣悪な環境となることが少なくありません。プライバシーがないばかりか、盗難や性被害も実際に多発しています。特に、停電して照明がつかなくなると、夜間は本当に怖い思いをします……。
加えて、今は新型コロナウイルス感染症が懸念されます。避難所が過密になることも予想され、感染拡大につながるリスクがあります。
しっかりと備えをした上で、自宅待機で問題ないと判断できれば、その方が快適で、安全に過ごせると言えます。
ただし、避難の判断は正しく行わないと命取りになります。だからこそ、ハザードマップを確認しておくことや、最新情報をしっかりとキャッチすることが重要なのです。
時間に余裕があるなら、台風の進路から外れている安全な地域に、早めに避難するのも手です。親戚や友人を頼って泊めてもらったり、ホテルに宿泊したりといった具合です。
「留守の間に家がどうなるか心配……」と思うかもしれませんが、なによりも大事なのは命です。かつてないほど強力な台風が、台風被災に不慣れな地域を襲う可能性が高まっている時代。いざとなれば、命を守るための避難はやむを得ないと考えておくべきです。
避難の判断は原則、自治体や警察・消防の指示に従ってください。台風に伴う避難情報は、以下三つのレベルがあります。
(1)避難準備
河川が増水し、避難の準備が必要なときなどに発表。いつでも避難できるよう準備。高齢者や障がい者など避難に時間を要する人は、避難を開始。
(2)避難勧告
河川が溢れる恐れがあり、避難が必要なときなどに発表。近くの避難場所や近親者の家などに立ち退き避難を開始。自動車の利用は渋滞が予想されるため、極力避ける。
(3)避難指示
河川が溢れた場合、大規模な被害が発生した(する恐れのある)場合などに発表。避難しそびれた人も直ちに避難。外出や移動が危険な場合、なるべく高い場所(高台)や建物ならば上階へ避難。
避難情報は防災無線やテレビ、ラジオからも流れますが、聞き逃し・見逃がしがないように防災アプリ(前項参照)を入れておくと、緊急警報で知らせてくれます。
そして、避難場所と経路は事前にちゃんと確認しておくことが重要です。暴風雨の中、スマホを手に持ち、地図アプリを見ながら歩いたりはできません。どこへ、どうやって行くのか、頭に入れておきましょう。
次に、自宅でどんな備えをしておけばいいかを解説します。
まず、食料と飲料水の備蓄です。これは台風に限らず、地震や、今回のコロナ禍のように家から出られなくなる事態への備えにもなります。
わが家では常時1ヵ月分程度の備蓄をしています。非常食ではなく、普段から食べるものを余分にストックしておくのがコツ。特に、米、餅、めん類などの主食類、簡単に調理できるレトルト食品を多めにストックしておきます。
賞味期限を見ながら、普段から使いつつ、使った分を補充して備蓄量を保っています。
ガスや電気などライフラインの寸断に備えて、カセットコンロとボンベ、鍋も用意しています。
また、寝室のすぐ出せるところに、靴と手袋を備えておくと安心です。寝ている間に事態が悪化し、緊急で行動しなければならないとき、手足の保護が最優先だからです。地震や火災への備えにもなります。
暴風時の傘は危険!避難に役立つ雨具とは
台風対策としては、
「防水ヘッドライト」
「ヘルメット」
「防水仕様のアウトドアウェア(上下)」
「長靴」
の4点セットを準備しておくといいでしょう。
緊急避難で、激しい風雨の中を歩かなければならない可能性があります。傘は役に立たないどころか、あおられて危険。普通のレインコートやポンチョは、体にまとわりつき、意外と動きづらいです。
少し値段は張りますが、登山やハイキング用のアウトドアウェアは動きやすく、風雨で体力が消耗するのを防げます。
避難生活に役立つグッズも、「防水リュック」にまとめておきましょう。中の物がぬれて使えなくならないように、防水であることが重要です。(入れる物は下記を参照)。
今年も、甚大な台風被害が予想されます。しっかり備えておきましょう。
■避難生活に役立つもの
●タオル
●ウェットティッシュ、液体歯磨きなどの水不要の衛生用品
●マスク
●応急手当て用具(止血パッド、ガーゼ、包帯など)
●ラジオとイヤホン
●レジャーシート
●飲料水、非常用食料
●スマホのバッテリー、充電器
■この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。