C型、B型肝炎が減少するなか、新たな脅威になっているのが、脂肪肝から起こる肝炎です。最近増えているのが、お酒をあまり飲まないのに脂肪肝になる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。このNAFLDが炎症を起こすと、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になります。NASHが怖いのは、脂肪肝炎から肝硬変や肝臓ガンに進展する可能性が高いことです。【解説】泉並木(武蔵野赤十字病院院長・日本肝臓学会専門医)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

泉並木(いずみ・なみき)
1978年、東京医科歯科大学医学部卒業。その後、同大学附属病院勤務を経て、武蔵野赤十字病院へ。現在、同病院の院長を務める。東京医科歯科大学医学部臨床教授、近畿大学医学部客員教授も兼任。日本肝臓学会専門医・指導医。最新の遺伝子診断を取り入れた肝臓病治療は、大きな成果を上げており、肝臓病に対する新しい治療に常に前向きに取り組んでいる。著書に『肝臓病 ウイルス性肝炎・肝臓がん・脂肪肝・肝硬変』(主婦の友社)など多数。

機能が3分の1になって初めて症状が現れる

肝臓は、重さが約1.2〜1.5㎏ある、体の中で最も重い臓器です。その働きは500以上あるといわれ、よく「人体の化学工場」にたとえられます。

しかし私たちは、肝臓がどんな働きをしているのか、ふだん気づいていません。肝臓は黙々と仕事をこなしており、そのおかげで私たちは生きていられるのです。

肝臓の働きのなかで、特に重要な仕事は次の三つです。

一つめは栄養の代謝です。

食べた物は胃や腸で消化・吸収され肝臓に運ばれます。糖質、脂質、たんぱく質をはじめ、さまざまな物質は、肝臓で、生命維持に必要な物質に作り変えられたり、体内で利用できるように再合成されたりします。

例えば、小腸から運ばれたアミノ酸は、肝臓で組み換えられ、筋肉組織や血液成分になるたんぱく質に合成されます。

二つめは解毒です。

肝臓は血液中に入り込んだ有害物質を分解し、体に無害な物質に変えます。無害化した物質は、尿や便といっしょに排出されます。薬やアルコール、大腸菌が作るアンモニアなどの有害物質も、肝臓が解毒します。

三つめが胆汁の分泌

これが脂肪の分解・吸収を助け、体内の不要な物質を便といっしょに排出します。便が黄色いのは、胆汁に黄色の色素が含まれているからです。

こうした働きは、肝臓が悪くならないとわかりません。肝臓は忍耐強い臓器で、少々悪くても気がつかず、機能が3分の1以下になって初めて自覚症状が現れます。それは、もう働けないという、肝臓の悲鳴です。

下の肝臓病の自己チェック表で確認してみるといいでしょう。

【肝臓病・9つの自己チェック表】

・チェック項目・
該当項目の末尾数字が、下の“肝臓病の主な症状”の数字に対応します。

□ 食べ物のにおいで吐きけを催す。➡
□ 朝起き抜けの尿が、紅茶のような色。➡
□ 38度以上の熱が続く。➡ ❶ ❹
□ 食欲がない。油物が食べられない。➡ ❶ ❷ ❺ ❻
□ 痔になった。➡ ❷ ❺
□ だるい。特に夕方に悪化。➡ ❷ ❺
□ 以前のようにお酒を飲みたくない。お酒をおいしいと感じない。➡ ❸ ❺
□ 夜に目がさえ、不眠ぎみ。➡
□ ダイエットしていないのに体重が減少。➡ ❺ ❻

・肝臓病の主な症状・

❶急性肝炎
急性肝炎の初期症状に、吐きけや食欲の低下、38度以上の発熱などがあります。また、黄疸が出る前に、尿の色が濃くなることがあります。特に朝の起き抜けの尿は、紅茶のような色に変化します。

❷慢性肝炎
食欲が低下し、油物を欲しがらなくなります。常に体がだるく、特に夕方になると症状が強くなります。また、肛門周囲の静脈の血液循環が悪くなり、痔を患うこともあります。

❸アルコール性肝炎
アルコールによって肝機能が低下し、お酒がおいしく感じられなくなり、飲みたくなくなります。

❹薬剤性肝炎
薬のアレルギーで肝炎を起こしていると、38度以上の発熱が続くことがあります。

❺肝硬変
肝機能の低下により、体がだるく疲れやすくなります。お酒がおいしく感じられなくなり、食欲も低下し、やせることもあります。肝臓の血流が悪くなり、肛門周囲の静脈血も滞り、痔になることもあります。

肝硬変の合併症の肝性脳症になると、夜に目がさえ、昼間に眠くなることもあります。

❻肝臓ガン
食欲がなくなり、揚げ物などの油物を欲しがらなくなります。体重が減少する場合は要注意。

ウイルス検査は国の肝炎対策として無料で実施されている

肝臓の機能を低下させる病気として注意すべきは「肝炎」です。

かつて、肝炎はほとんどがウイルス感染によるものでした。日本ではB型・C型が多く、慢性肝炎の7割はC型、2割がB型でした。

慢性肝炎で炎症が長く続くと、肝臓が硬くなります(線維化)。これが進行して機能低下になった状態が、「肝硬変」です。

肝硬変になると、ガンが発症しやすくなります。肝臓ガンの原因の60%はC型肝炎、15%がB型肝炎ですから、C型・B型肝炎の予防・治療は最大の課題でした。

そこで日本では、1980年代以降、ウイルス性肝炎へのさまざまな対策を取りました。

B型肝炎に対しては、母子感染の予防を実施。多くは、母親から子供への感染ですから、B型キャリアの母親から赤ちゃんが生まれたら、乳児期にワクチン接種を行い、母子感染を防いだのです。(キャリアとは、ウイルスに持続感染している人のことです。)

こうした対策のおかげで、現在、30歳以下のB型キャリアはほとんどいなくなりました。

C型肝炎は、近年非常によく効く薬が開発されました。従来の治療は、インターフェロン注射が中心でしたが、日本人に多い1b型ウイルスには、あまり効果がありませんでした。

しかし、2014年以降、抗ウイルス薬でウイルスを完全に殺せるようになったのです。

この抗ウイルス薬には3種類あり、これを組み合わせて3ヵ月服用すると、約95%の人がC型肝炎を克服できます。

したがって、C型肝炎から肝硬変に進行する人は激減しました。しかし、ウイルスが駆逐されても、肝臓ガンにならないわけではありません。長年ウイルスに感染していた肝臓は、ガンになりやすい素地があります。

ですから、早期の発見・治療が有効です。肝炎ウイルス検査は、国の肝炎対策として無料で実施されています。地域の保健所や指定医療機関で受けられるので、気になる人はぜひ足を運んでください。

2年続けて脂肪肝ならNASHの検査を受けよう

このようにC型、B型肝炎が減少するなか、新たな脅威になっているのが、「脂肪肝」から起こる肝炎です。

脂肪肝は、肝臓に脂肪が蓄積した状態をいいます。過度の飲酒や食べ過ぎによって起こりますが、最近増えているのが、お酒をあまり飲まないのに脂肪肝になる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。

このNAFLDが炎症を起こすと、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になります。

NASHが怖いのは、脂肪肝炎から肝硬変や肝臓ガンに進展する可能性が高いことです。NASHの5〜20%は、5〜10年で肝硬変になり、そのうち11%が5年で肝臓ガンになるといわれています。

C型肝炎が治る病気になった現在、肝硬変や肝臓ガンの最大のリスクはNASHなのです。

NAFLDになっても、NASHになるのは10〜15%程度で、多くは脂肪肝のままで終わる単純性脂肪肝です。

しかし問題は、どちらも自覚症状がなく、いつの間にか炎症が起こっていることです。したがって、単純性脂肪肝とNASHを区別するのは非常に難しいのです。

そこで、検査が大事になります。ただし、NAFLDは血液検査だけではわかりません。肝臓の障害を示すAST(GOT)やALT(GPT)が低くても、脂肪肝になっていることがあるのです。

ですから、必ず超音波検査も受けてください。脂肪肝なら画像で肝臓が白く見えるので、すぐにわかります。

検診で2年続けて脂肪肝と診断されたら、NASHになっていないか、検査を受けることをお勧めします。

これまでNASHを確実に診断できるのは、肝生検だけでした。これは腹部に針を刺し、肝臓の組織を取って調べる細胞診で、入院が必要です。

最近、もっと簡単にNASHが診断できるエラストグラフィという超音波検査が開発されました。肝炎が起こると肝臓が硬くなりますが、音波の伝わり方でそれが判定できるのです。また、MRI(核磁気共鳴画像)を使ったエラストグラフィも行われています。

これらの検査を行っているところはまだ限られています。日本肝臓学会のホームページには、全国の肝臓病専門医が掲載されていますから、そのような検査が受けられるかどうか、尋ねてみるといいでしょう。

肝臓は「沈黙の臓器」です。早期に肝臓の病気を発見するには、定期的な健康診断が欠かせません。脂肪肝といわれたら、放置しないことが大事です。

【NASHの進行過程】

ダラダラ食いと就寝前の食事をやめよう

脂肪肝や、そこから起こる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、生活習慣病の一つです。

特に、肥満と関係が深く、男性で子供のころから太っている人は、30代でもNASHから肝硬変や肝臓ガンになる危険性があります。

一方女性は、閉経後の50代後半以降、急激に脂肪肝になる人が増えます。女性ホルモンが減り、エネルギーが使われにくくなるからです。

そのため、NASHになると進行が早く、肝硬変、肝臓ガンになることも少なくありません。ですから、閉経後の女性は注意が必要です。

生活習慣で気をつけなければならないのは、まず食生活です。

あたりまえのことですが、食べ過ぎないことです。そして、脂肪肝を防ぐために、特に意識してやめてほしいのが、ダラダラ食いと就寝前の食事です。

食事をすると、食事からとった糖を細胞に取り込むために、インスリンが分泌されます。そして糖を取り込むと、インスリンは出なくなります。これは食事のたびに、くり返されます。

ところが、食後もちょくちょく間食を続けていると、インスリンが出っぱなしになります。インスリンは、取り込んだ糖を脂肪に変えて蓄積する働きがあるので、常に脂肪が作られ、肝臓に蓄えられます。

つまり、脂肪肝を作りやすくしてしまうわけです。

また、寝る前に飲食をすると、肝臓に取り込まれた糖は、すぐに使われないので、すべて脂肪に変わって肝臓や内臓にため込まれます。

こうした内臓脂肪からは、インスリンの効きを悪くする、悪玉ホルモンが分泌されます。そのため、さらに肝臓に脂肪が蓄積されやすくなるのです。

NASHは、糖尿病とも大いに関係があります。脂肪肝からNASHになる人の半数は糖尿病を合併しています。これには、インスリンの過剰な分泌が関係しています。

脂肪肝やNASHを防ぐには、三度の食事をきちんととり、間食をしないことです。どうしてもおやつを食べたいなら、カロリーオフや低糖質の物を選び、少なめにしてください。

甘い物のなかでもいちばんよくないのは、ジュースなどの清涼飲料水です。血糖値が急激に上がるので、インスリンを大量に分泌させます。のどが渇いたら、お茶や水などの飲み物をとりましょう。

筋肉を増やせば脂肪がより燃焼する

脂肪肝と診断されたら、すぐに取り組んでほしいのが、運動です。

すでに脂肪肝になってしまったら、食事の見直しだけではなかなか改善しません。運動をして、肝臓にたまった脂肪を燃やすことが大事です。

脂肪を燃やすには、有酸素運動が有効です。呼吸とともに取り込まれる酸素によって、脂肪が燃えやすくなります。運動はなんでもかまいませんが、日常生活に取り入れるなら、ウォーキングがいいでしょう。

有酸素運動は15分持続して行うと効果があるといわれています。少なくとも15分以上、止まらずに歩いてください。軽く汗ばむくらいの速歩きを行うといいでしょう。

信州大学で研究されているインターバル速歩もお勧めです。

速歩きとゆっくり歩きを、3分ずつ交互に行うウォーキング法です。肥満や糖尿病、高血圧の改善、筋力アップなどの効果が明らかになっています。

通勤している人なら、降車駅の一つ手前の駅で電車を降りて歩けば、わざわざ歩く時間をつくる必要がありません。

ウォーキングに慣れてきたら、筋肉を増やす運動にも挑戦してください。筋肉が増えると、脂肪はより燃焼しやすくなるからです。

ふだんからよく歩いたうえで、週に一度は、自分の体重を使って筋肉に負荷をかけるスクワットなどの運動を行うといいでしょう。

スクワットで下半身に筋肉がつくと、基礎代謝(安静時でも使われるエネルギー)が増えて、ウォーキングの脂肪燃焼効果も高まります。

今のところ、NASHそのものを治療する薬はありません。運動や食事が治療の基本です。ですから、脂肪肝やNASHを進行させないように、生活習慣を見直すことが大事です。

脂肪肝、NASHを予防・改善するポイント

食べ過ぎない
 ゆっくり噛んで食べ、腹八分程度にする。

ダラダラ食いをしない
 間食は控え、3食きちんとる。間食をするなら、カロリーオフ、低糖質の物を選ぶ。

就寝前の食事をしない
 肝臓に取り込まれた糖は、すべて脂肪に変わると思え。

画像2: 【NASH(非アルコール性脂肪肝炎)とは】どんな人がなりやすい?検査でわかる?

15分以上の速歩きを行う
 毎日15分以上、休まずに軽く汗ばむくらいの速度で歩く。徐々に時間を延ばし、速度も上げる。
※楽しく続けられるなら、ジョギング、水泳、ダンスなどでもよい。

お勧め!「インターバル速歩」
速歩き」と「ゆっくり歩き」を3分ずつ行うのを1セットとして、5セット(計30分)行う。

《速歩き》少し息がはずむ「ややきつい」速度。
《ゆっくり歩き》散歩くらいの楽な速度。

画像3: 【NASH(非アルコール性脂肪肝炎)とは】どんな人がなりやすい?検査でわかる?

スクワットを行う
 ゆっくり腰を落とし、ゆっくり立ち上がることをくり返す。10回から始め、少しずつ回数を増やす。週に2〜3回行う。

画像: この記事は『壮快』2019年1月号に掲載されています。

この記事は『壮快』2019年1月号に掲載されています。

This article is a sponsored article by
''.