そろそろ、自分自身、もしくは家族の免許返納を検討した方がよいのではないか──。そんな不安がある場合には、高齢者安全運転支援研究会が作成し公開されている「運転時認知障害・早期発見チェックリスト30」を活用するのも一案です。【解説】小山朝子(介護ジャーナリスト)

解説者のプロフィール

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小山朝子(こやま・あさこ)

介護ジャーナリスト。20代から約10年間、洋画家の祖母を介護した経験をもとに、当事者・ジャーナリスト・介護職の視点から各地で講演。執筆活動のほか、各種メディアで独自の論を展開している。現在、ラジオNIKKEI『大人のラヂオ』パーソナリティー。近著『世の中への扉 介護というお仕事』(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財」に選ばれる。日本在宅ホスピス協会役員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウトガイドなどを務める。

事故件数は少ないが死亡事故率が高い

高齢者の運転事故のニュースが目立つ昨今ですが、2018年の免許保有人口10万人当たりの交通事故件数(警察庁)によると、事故を起こした年齢層は10代がトップで、次いで20代前半となっています。

若年ドライバーが事故を起こす要因は、違反や危険性を容認する意識傾向や攻撃的・性急・集中欠如といった運転行動などが挙げられます。

一方、同じ統計で「交通死亡事故」に限定すると、事故を起こした年齢層は85歳以上が圧倒的に多く、70代以降から死亡事故率が高くなっていることが分かります。

上記の結果から、高齢ドライバーによる事故は、他の年齢層と比較すると、被害者が死亡に至るような大事故である確率が高いために、大きく報じられているとも考えられます。

この「大事故」で記憶に新しいのが、2019年4月に87歳の男性が東京・池袋で起こした例でしょう。男が運転する乗用車が歩行者などを次々にはね、母娘が死亡しました。

さかのぼると、2018年2月には、78歳の男性弁護士が運転していた高級車が暴走し、対向車線の歩道を歩いていた37歳の男性が死亡した事故がありました。

一般に高齢ドライバーによる事故の要因として、身体能力や認知能力の低下が指摘されますが、私は加齢によるパーソナリティの変化も無関係ではないように感じます。

高齢になるほど自分の運転能力を過信

具体的には、年を重ねるほど自己肯定感、自尊感情が高くなるという点です。

ある調査で主観年齢(自分が実感する年齢)と暦年齢とのずれを調べたところ、40代では4~5歳、50~60代では6歳、70~80代では6~7歳と、主観年齢と暦年齢の差異が大きくなる傾向にありました。

つまり、高齢になるほど「自分は若い」と感じ、ひいては「自分はまだ免許返納を考える段階にはない」と思う傾向があるということです。

先に挙げた高齢ドライバーによる事故の共通点は、加害者がいずれも社会的地位が高いという点です。はからずもそのキャリアが自己を過大評価し、その運転能力をも過信していたと推察されます。

さらに、2018年5月、90歳の女性ドライバーが茅ケ崎市の国道の交差点で4人を死傷させた事故が起きました。彼女は認知機能検査に問題がなく、ゴールド免許でしたが、事故を起こす数年前に縁石に乗り上げる自損事故を起こしていたとか。

にも関わらず、運転を続けていたのは、やはり自分の運転能力を過信していたからなのではないでしょうか。事故後、彼女の長男は「母はこれまで大きな事故も起こしていなかった」「油断していた」と述べています。

このように、家族でも危険性を察知できない場合もあるのです。

免許の返納を検討するタイミングとアドバイス

そろそろ、自分自身、もしくは家族の免許返納を検討した方がよいのではないか──。

そんな不安がある場合には、特定非営利活動法人・高齢者安全運転支援研究会が作成し、ネット上でも公開されている「運転時認知障害・早期発見チェックリスト30」を活用するのも一案です(下記参照)。一定数チェックが入るようなら、免許の返納の時期といえるでしょう。

5つ以上、チェック項目に当てはまったら要注意!
《運転時認知障害・早期発見チェックリスト》
□ 車のキーや免許証などを探し回ることがある。
□ 今までできていたカーステレオやカーナビの操作ができなくなった。
□ トリップメーターの戻し方や時計の合わせ方がわからなくなった。
□ 機器や装置(アクセル、ブレーキ、ウィンカーなど)の名前を思い出せないことがある。
□ 道路標識の意味が思い出せないことがある。
□ スーパーなどの駐車場で、自分の車を停めた位置が分からなくなることがある。
□ 何度も行っている場所への道順がすぐに思い出せないことがある。
□ 運転している途中で行き先を忘れてしまったことがある。
□ よく通る道なのに、曲がる場所を間違えることがある。
□ 車で出かけたのに、他の交通手段で帰ってきたことがある。
□ 運転中にバックミラー(ルーム、サイド)をあまり見なくなった。
□ アクセルとブレーキを間違えることがある。
□ 曲がる際に、ウインカーを出し忘れることがある。
□ 反対車線を走ってしまった(走りそうになった)。
□ 右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった。
□ 気がつくと自分が先頭を走っていて、後ろに車列が連なっていることがよくある。
□ 車間距離を一定に保つことが苦手になった。
□ 高速道路を利用することが怖く(苦手に)なった。
□ 合流が怖く(苦手に)なった。
□ 車庫入れで壁やフェンスに車体をこすることが増えた。
□ 駐車場所のラインや、枠内に合わせて車を停めることが難しくなった。
□ 日時を間違えて目的地に行くことが多くなった。
□ 急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど、運転が荒くなった(と言われるようになった)。
□ 交差点での右左折時に歩行者や自転車が急に現れて驚くことが多くなった。
□ 運転している時にミスをしたり危険な目にあったりすると頭の中が真っ白になる。
□ 好きだったドライブに行く回数が減った。
□ 同乗者と会話しながらの運転がしづらくなった。
□ 以前ほど車の汚れが気にならず、あまり洗車をしなくなった。
□ 運転自体に興味がなくなった。
□ 運転すると妙に疲れるようになった。
30問のうち5問以上にチェックが入った方は要注意です。専門医の受診を検討しましょう。
日本認知症予防学会理事長、鳥取大学医学部教授、特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会理事
浦上克哉 監修(特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会より)

「もう年なのだから」という言葉は禁句

では、実際に免許返納した人はどのような動機があったのでしょうか。

内閣府が2017年に行った調査で最も多かったのは、「自分の身体能力の低下を感じたとき」で64.8%。次いで「家族や友人、医師等から運転をやめるよう言われたとき」で37.4%、「交通違反や交通事故を起こしたとき」が17%でした。

上記に「友人や医師等」とありますが、親の免許返納を促すに当たってはどうしたらよいかと悩んでいる人は、第三者の力を借りてみるのも一案です。

親の仲のよい友達に相談し、それとなく免許返納について促してもらうなど根回しをしておくとよいかもしれません。

親に免許返納を促すに当たっては、「説得より納得」を心がけて話してみることが望ましいといえます。

例えば、私が過去に取材した例では、長男が年金で暮らす父親に免許返納を促すに当たり「車を所有していることのコスト」という点から切り出して成功したケースがありました。

長男は父親に納得してもらえるよう、ガソリン代、オイル交換代、自動車税、任意保険、車検代、駐車場代など具体的な費用を示し、「この古い車にそれだけのコストをかける価値があるのかどうか」と尋ねたと言います。

一方で避けた方がよいのは、「もう年なのだから」と頭ごなしに言い、本人に高齢者であるという自覚を促すこと。相手を傷つけ、怒りを招く可能性があります。

実際に事件も起きています。2018年5月、愛知県一宮市で80代の男性が放火事件で逮捕されました。この男性は、県警からの事情聴取に「家族から運転免許を返納するよう言われて口論になった。自暴自棄になり、死んでやろうと思って放火した」と供述したといいます。

加害者の男性がこのような犯行に及んだ背景には、「高齢者扱い」をされたことで自尊心が傷ついた可能性もあります。

特に高齢期になると、他者からの批判や、家族や友人との感情的な対立による心理的影響が大きくなる傾向があります。

免許返納は「介護」が近づいているサイン

最後になりますが、私はこの問題を、「免許をいかに返納するか(させるか)」という視点ではなく、いわば「プレ介護」、介護の前段階で生じる課題の一つだと捉えています。

実際、免許返納で悩んでいた家族のお宅を訪問し、その3年後には、ご本人が運転どころか介護が必要な状態になっており、さらにその5年後には亡くなっていたというケースもありました。

免許返納の問題は、言ってみれば「いよいよ介護や老いについて考えることが必要になりますよ」という予告です。

免許返納に対する家族の対応が、この先に生じるかもしれない介護と「しっかり向き合えるかどうか」の試金石となるように思います。

加えて、家族の免許返納はゴールではありません

親が免許返納をした後、ウォーキングなど新たな楽しみを提案したり、免許の自主返納に伴う自治体などのサービス(タクシーや公共交通機関の割引など)について情報を提供するなど、生活の変化をサポートしていく配慮も大切だと感じます。

免許返納の問題を考えることが、家族のコミュニケーションを深めるきっかけになればと思っています。

この記事は『安心』2019年9月号に掲載されています。

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