私事で恐縮ですが、子どもが生まれました。第1子です。数多くのレンズを試してきた身としては、どのレンズで最初の1枚を撮るかをさんざん悩みました。その結果、やはり子どもを撮るならなにかと便利で写真の基本である50mmの単焦点に立ち戻りました。結果、アンダー10万円で最高峰の画質を誇る「SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art」を選択。この記事では子ども撮影における50mm単焦点レンズのメリット、撮影のコツ、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artの魅力を紹介していきます。
執筆者のプロフィール
齋藤千歳(さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラバッグなどのカメラアクセサリー、車中泊グッズなどの記事も執筆している。目下の悩みは月1以上のペースで増えるカメラバッグの収納場所。
子ども撮影に筆者がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artを選んだ理由
AF50mm標準単焦点としては最高峰の画質
私事なのですが、子どもが生まれました。第1子です。
妻が出産のため入院してから、新型コロナウイルスの影響で子どもの会えるのは約1週間後になります。
この間、筆者が悩んでいたのは「はじめての1枚をどのレンズで撮るか」です。
多くのレンズをテストしてきたため、はじめての子どもをはじめて撮るレンズはお気に入りの1本で、と考えていました。
いろいろと悩んで、やはり、はじめての1枚は、基本に立ち戻って標準50mmの単焦点と思ったわけです。
とはいえ、単純に50mmの標準単焦点といっても、さまざまなレンズがあります。
できることなら、はじめての1枚は最高の画質で、そして、その後も最高峰の画質で、子どもの写真を撮影したいと考え、選択したのが「SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art」です。
筆者がライフワークとして制作を続けているAmazon Kindle電子書籍の「SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art レンズデータベース」の結果を持ち出すまでもなく、レンズ好きの多くが認める現行のAF(オートフォーカス)を搭載した50mm標準単焦点レンズの最高峰クラスの1本でしょう。
レンズそのものの細かな説明は省きますが、シグマ SA、ソニー A、ニコン F、キヤノン EF、ソニー E、ライカ Lのそれぞれに対応するモデルが用意され、多くの一眼レフやミラーレス一眼で、その高画質が楽しめ、多くのユーザーに愛されているレンズです。
最高峰クラスの描写でありながらアンダー10万円
筆者がはじめての子どもを撮る、はじめてのレンズをSIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artに決めたのには、その最高峰クラスの性能だけでなく、価格のメリットがあります。
現在の主流である35mm判フルサイズミラーレス一眼用のレンズは非常に高性能なものが数多くあるのです。しかし、最高峰クラスの性能と言い切れるレンズになると数十万円、ものによっては百万円を越えるようなレンズになってしまいます。
自分の子どもを最高画質で撮影したいと思っても、お財布からは無尽蔵にお金は湧いてこないのが現実でしょう。
SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artの実勢価格は9万円台です。決して安いレンズではありません。しかし、50mmAF単焦点レンズとして最高峰の性能であることを考えると、かなりお買い得です。
50mmの単焦点といっても安いもので1万円程度からエントリーモデルでも数万円はします。これに比べるとSIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artの9万円台は安くはないですが、プラス数万円と非現実的ではありません。
はじめての1枚から、その成長を最高峰レベルの画質で撮影できると思えば、むしろ安いといえるでしょう。
子ども撮影に明るい単焦点標準レンズがおすすめの理由
筆者は性能とコストパフォーマンスから、自身の子どもをはじめて撮影するレンズをSIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artに決めました。
50mmの標準単焦点レンズのなかでも、最高峰レベルの性能であることが、その理由です。しかし、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artを含む、明るい50mmの標準単焦点レンズは子ども撮影におすすめといえます。
その理由を解説していきます。
(1)主役の子どもがより目立つ
ピントを合わせた人物の目などに比べて、その背景などの画像が鮮鋭ではなくなり、ぼやけた状態になるのがぼけです。
基本的に、F値が明るく、焦点距離が長いレンズほど、同じように撮影してもぼけが多く、大きくなります。
SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artであれば、50mmが焦点距離、F1.4が明るさです。焦点距離は数値が増えるほどの長い(望遠)になります。また、明るさを示すF値は小さいほど明るいレンズです。
50mmの標準単焦点レンズは焦点距離が50mmとさほど望遠ではありません。しかし、開放F値が1.X台などと明るいものが多く、明るい絞りを選択すると普通に撮影してもズームレンズに比べて大きなぼけが発生します。
その結果、ピントを合わせた主役(子ども)が写真のなかでより目立ちます。
(2)大きなぼけで背景が整理されるのが◎
我が家の場合、子育て中だからというわけではないのですが、いつでも、どこでも撮影ができるほど家のなかはキレイではありません。しかし、生まれたばかりの子ども撮影するのはどうしても家のなかになります。
そんなときに、ピントを合わせた子ども以外の部分が大きくぼけてくれる明るい単焦点標準レンズは便利です。家のなかの掃除をしていないゴチャゴチャとした状態を隠してくれます。
撮影した写真をSNSなどにアップしても、家の中の細かな様子などはぼけてしまうので、余計な情報を不特定多数の人に与えづらいです。そのため、セキュリティにも貢献してくれているように感じます。
我が家では、筆者の母などに掃除をさぼっているのが、ばれづらいのが意外なメリットです。
(3)光量の足りない家のなかでもぶれにくい
赤ちゃんを寝かせている室内をピーカンの屋外のように明るくしているという方は少数派でしょう。それ以前に一般的な住宅はオフィスなどに比べても暗いことが多いです。
そのためシャッター速度が遅くなり、写真がぶれてしまうこともあるのではないでしょうか。
最近のデジタルカメラは高ISO感度でも高画質だから、レンズは暗いけど手ぶれ補正機構がついているから、明るい単焦点レンズでなくても大丈夫という意見もあるでしょう。
しかし、手ぶれ補正機構は構えてカメラのぶれに対応してくれるもので、被写体(子ども)が動くことによって発生する被写体ぶれは防げません。
また、撮影設定のところでも解説しますが、筆者はISOオートによる高ISO感度の活用肯定派です。そのため高ISO感度の使用には賛成なのですが、掲載した作例のように室内のやや暗いシーンでは、開放のF1.4でもISO感度は2500となっていました。
明るい高級ズームレンズでも開放F値はだいたいF2.8程度です。同じシーンをF2.8で撮影するとISO感度は5000となります。
さすがにISO 5000くらいまで上げると最新のデジタルカメラでも画質の劣化が発生しはじめます。
赤ちゃんの肌を美しく再現するためにも、明るい標準単焦点レンズとの組み合わせが、ぶれも少なくおすすめです。
(4)クロップ機能で75mm相当、よりアップで撮影可能
50mmの標準単焦点レンズは、35mm判フルサイズのカメラでクロップ機能を使ったり、撮像素子サイズがAPS-Cのカメラに装着したりすると、ほとんどのカメラで75mm相当の画角が得られます。
この80mm前後の焦点距離は85mmの単焦点レンズがポートレートレンズと呼ばれるように、人物を撮影しやすい画角です。35mm判フルサイズのカメラのクロップは、撮像素子の中心部APS-Cエリアのみ使用するデジタル的なズームアップ機能といえます。とはいえ、撮影した写真を後から切り抜くトリミングとはまったく違い、1本の単焦点レンズでズーム撮影するような感覚が得られるので、ぜひ試してみてください。
筆者は、画角を変化させるというより、掲載写真のようにみせたい部分をよりアップで撮影する手法として活用しています。新生児は予想以上に小さいので、クロップが特に有効な被写体といえるでしょう。
撮影設定
絞り優先AEもしくはシャッター速度優先AEが使いやすい
今回掲載した写真を含め、筆者は絞り優先AE(AやAvモード)で撮影していることが多いです。
基本的にモード設定で絞り優先AEを選択、ISO感度はオート、ホワイトバランスもオート、カラーモードのあるカメラでは、ポートレートもしくはスタンダードを選んでいます。
絞り優先AEでは、絞り値を自分で選択することになります。筆者は難しく考えずに、大きくぼかしたいときは絞り開放、そこそこぼかすときはF2.8、ちょっとシャープ目にするときはF4.0、きっちりシャープにしたいときはF5.6〜F8.0でといったイメージです。ただし、暗い場所では絞りはあまり絞りません。
また、画像の明るさを調整する露出補正という機能があります。こちらは+1.0EVで設定して、撮影した画像を見ながら微調整するのがおすすめです。
ISO感度オートで、明るい標準単焦点レンズの開放付近を使用していれば、あまりぶれこともないと思います。しかし、それでもぶれるという方はシャッター速度優先AEを使ってみるとよいでしょう。
モード設定でシャッター速度優先AE(SやTvモード)を選択します。それ以外の設定は、絞り優先AEと同じです。絞り優先AEでは絞り値を自身で選択しましたが、シャッター速度優先AEではシャッター速度を選択します。大ざっぱな目安としては、ぶれやすい方は焦点距離の2倍程度と考えるとわかりやすいです。50mmの標準レンズなら1/100秒当たりが目安になります。
赤ちゃんは撮影の都合などに関係なく、意外と細かく素早く動くのでシャッター速度優先AEでの撮影も覚えておくと便利です。
最後にピント合わせて、オートフォーカス(AF)の設定は、顔や瞳を自動で検出してくれる機能が搭載されているカメラでは、それを使います。ただ、生まれたばかりの赤ちゃんは目をつぶっていることが多いので、顔や瞳が検出されないときは、画面の中の一点を選択して基本的に瞳にピントを合わせるとよいでしょう。AFの動きの少ない新生児はシングルAF、動きが大きくなってきたらコンティニュアスAFやサーボAFを使うことをおすすめします。
明るい標準単焦点レンズとの組み合わせでは、かなり薄暗い条件でも、最近のカメラは赤ちゃんを優しくなめらかな画像で仕上げてくれるので、ぜひたくさん撮影してみてください。実は上手に撮る最大のコツはたくさんシャッターを切って、いっぱい撮ることです。
まとめ
親の自己満足だがSIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Artの最高画質で撮影して満足
単焦点標準レンズ Art 50mm F1.4 DG HSM
311544
SIGMA 50mm F1.4 DG HSM |Artは50mmの単焦点レンズとしては、決して安いレンズとはいえないでしょう。それ以上に高いレンズもたくさんありますが……。ただし、現行のAF50mm単焦点標準レンズにおいて、最高峰の性能であることも間違いありません。
せっかくなら最高のクオリティで、子どもの最初の写真を撮影したいという、筆者の自己満足はすっかり満たされました。
はじめての子どもで知らなかったのですが、新生児は生まれてから数週間で驚くほど顔つきが変わります。毎日みているのに、写真で見返すと同じ子どもか不安になるほどです。
当然、前の日の顔を、今日撮影することはできません。今日の顔も明日には変わってしまいます。やっぱりあのときの顔をもっとよいレンズで撮り直したいという希望は絶対に叶わないのです。
ですから、せっかく子どもが生まれるのに合わせて、明るい単焦点レンズを買うなら、ちょっと奮発して最高峰レベルのレンズを選択してはどうでしょうか。筆者は、やっぱりちゃんとしたレンズで撮影しておいてよかったと思っています。ぜひ、子どもが生まれる前に標準単焦点レンズを、できれば高画質なものを用意することをおすすめします。
文・写真/齋藤千歳