子どもが生まれ、写真を撮っていると、掲載した作例のように「子どもの背景をぼかして撮影するにはどうしたらよいのか」という質問が受けることがあります。あまり考えずに「明るい単焦点レンズ、50mmなら1万円程度から入手できますよ」と答えていました。しかし、みなさん、回答にやや不満のようです。そう、新しい機材を買うのではなく、今あるもので、なんとかする方法を知りたかったのでしょう。そこで、この記事では開放F値の暗いキットレンズであるNIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3を使って、背景をぼかすための4つの基本を紹介していきます。
執筆者のプロフィール
齋藤千歳 (さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラバッグなどのカメラアクセサリー、車中泊グッズなどの記事も執筆している。目下の悩みは月1以上のペースで増えるカメラバッグの収納場所。
背景をぼかすには「開放」「望遠端」「近づいて」「離す」が基本
背景をぼかすための4つの基本を理解しよう
ピントを合わせた被写体以外が大きくぼけて、主役を強調してくれる背景のぼけ。プロのカメラマンなどは、明るい単焦点レンズなどを使って効果的に利用しています。
実は、このぼけが発生させるには、4つの基本があります。
(1)明るい(F値の小さい)レンズほどぼける
(2)同じF値なら焦点距離(○○mmの数値が大きい)の長いレンズがぼける
(3)カメラ(レンズ)からピントを合わせる被写体までの距離が短いほどぼける
(4)ピントを合わせた被写体(ピント位置)から背景を遠いほどぼける
ぼけの基本は、ほぼこれだけです。
ですからプロカメラマンなどは、85mmF1.4といった、焦点距離が長く、明るいレンズを使うなどして、効果的に背景をぼかしています。
カメラとセットのキットレンズはぼけづらい
多くの場合、購入してから気付くのですが、カメラとセットで販売されているキットレンズ、なかでもキットの標準ズームレンズは、ぼけづらい要素が多いといえます。
先日、筆者が電子書籍『Nikon NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3 レンズデータベース』を制作するためにテストしたNIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3も、低価格でコンパクト、しかも軽量でよく写るキットレンズなのですが、やはりぼけといった点では、暗くてぼけづらいレンズといえます。
今回は、このぼけづらいキットの標準ズームレンズを使って、ぼかすための基本を解説していきます。
絞り開放のもっとも小さな数値を選ぶ
ぼけをコントロールしようと思う場合、カメラの撮影モードは絞り優先AE(AやAvモード)を選択しましょう。ISO感度はオートがおすすめです。次に、F○○などと書かれている「絞り値」を、選択できるいちばん小さな値にします。
今回使っているNIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3なら、広角端の24mmでF4.0、望遠端の50mmでF6.3が、選択できるもっとも小さな値です。使っているレンズのズームした焦点距離で選択できる、もっとも小さなF値を開放F値といいます。
単焦点レンズなどではF1.4といった値を選択できるものもあり、F4.0の8倍明るいのです。これだけで、キットレンズがぼけについて不利なのがわかります。
実際に50mmの絞り開放F6.3とF11で撮影した画像を見てみましょう。
もっとも望遠の焦点距離を選ぶ
レンズの明るさが同じなら、基本的に焦点距離の長いレンズのほうがぼけます。ズームレンズの場合、広角端よりも望遠端のほうが開放F値の暗いこともありますが、基本的には望遠端で開放F値を選んだほうが大きくぼけることが多いです。
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3であれば、望遠端の50mmを選択して、開放F値のF6.3を選択します。実際に同じ位置から、24mmF6.3と50mmF6.3で撮影した画像を見比べてみましょう。
できるだけ近づいて撮影したほうがぼける
同じ明るさ、同じ焦点距離で撮影しても、マクロ撮影(近接撮影)は背景が大きくぼけます。これは、カメラ(レンズ)から被写体(ピントを合わせた位置)までの距離が近い(撮影距離が短い)ほうが、背景がよくぼけるという法則のためです。
そのため、望遠端開放で、できるだけ被写体に近づいて撮影するほうが背景はぼけます。
ただし、レンズごとに最短撮影距離というものがあり、この最短撮影距離よりも近づくとピント合わせができません。スペック表をチェックしましょう。NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3であれば、最短撮影距離はズーム全域で35cmです。レンズ交換式のカメラの場合、最短撮影距離はレンズ先端からではなく、撮像素子の位置からなのですが、レンズの根元部分からやカメラボディの中央部分からと考えるとわかりやすいでしょう。
実際に、最短撮影距離の35cm付近から撮影した画像と、さらに離れた位置からの画像を比較してみましょう。
背景をできるだけ遠くにする
ピントを合わせた被写体から背景が離れているほど、基本的にぼけは大きくなります。例えば、壁の前に立つ子ども撮影するなら、壁に密着するほど背景(壁)はぼけづらくなります。背景を大きくぼかしたいなら、子どもと壁を離したほうがいいわけです。
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3の望遠端50mm、絞り開放F6.3、最短撮影距離の35cm付近で撮影して、違いを確認しましょう。我が家の場合、寝ている子ども撮るため、一つは上から撮影して、寝具を背景にします。もう一つは、横から撮影し、離れた壁を背景としました。
まとめ
キットレンズでも背景はぼかせる
最近のミラーレス一眼用のキットレンズは、カメラ本体が高ISO感度でも高画質を確保できるようになったためか、開放がF4.0やF6.3といったものが珍しくありません。
NIKKORZ 24-50mm f/4-6.3も、そういった最新の標準キットズームレンズです。開放F値は暗いですが、35mm判フルサイズの対応する標準ズームレンズでありながら、200gを切る軽量コンパクトで、しかも周辺部までよく写ります。
ただし、背景をぼかすという点については、開放F値が暗いため、不利であることは間違いありません。キットレンズの標準ズームでぼかそうと思うと、レンズによって違いはありますが、選択できる望遠端と開放F値にはおのずと制約が出てきます。
そこで、撮影時には被写体にできるだけ近づく、そして背景と被写体の距離を確保する、この2点に特に注意してみてください。これだけは背景のぼけ方は大きく変わるはずです。
また、ぼかすための基本は、標準ズームレンズ以外でも変わらないので、ほかのレンズを使うときも意識してみてはいかがでしょうか。