カーナビで地デジを受信するときは、方向に関係なくきれいに映るが、どうして車ではそのような受信が可能なのだろうか。複数のアンテナとチューナーを駆使して、ワンセグも利用しつつ、移動しながら受信しているというのだが、カーAV評論家がその仕組みを詳しく解説してくれた。
なぜカーナビは、移動中も地デジを受信可能?
読者からの質問
自宅で地デジを受信するときは、アンテナを放送波の送信塔のほうに向けますが、カーナビで地デジを受信するときは、方向に関係なく、きれいに映ります。どうして車ではそのような受信が可能なのでしょうか?(I.Tさん 宮城県 75歳)
編集部:
この質問は、カーAV評論家の会田肇さんに聞いてみましょう。
専門家の回答
専門家:
「地デジにはHD(ハイビジョン)画質の『フルセグ』と、モバイル向けの『ワンセグ』の二つの放送があります。使用する電波は、家庭用でも車載用でも一緒で、同じ電波塔からUHF帯を使って送信されてきます。
各チャンネルごとに使われる周波数帯域を14のセグメントに分けていますが、そのうちの1セグメントは隣のチャンネルとの混信を防ぐ緩衝帯となっており、地デジに使われるのは残りの13セグメントです。
そのうちの12セグメントをフルセグとして利用し、残りの1セグメントを、低画質で携帯機器向けのワンセグとして使っています。
なお、フルセグにはスタンダード画質の『SDモード』も用意されており、その場合は4セグメントずつ、最大3種の同時放送が可能です。これが地デジの基本的な仕組みです」
編集部:
なるほど。まず、フルセグとワンセグとSDモードがあるということですね。
「ここからが、ご質問に対する回答です。地デジを受信するとき、家庭用テレビは固定アンテナで受信状態が安定していることから、一つのチューナーでフルセグだけを受信します。
これに対して車載テレビは、移動を前提としているので、それに対応する受信システムが必要となります。その一つが、複数のチューナーとアンテナを組み合わせること(大半が4チューナー×4アンテナ)。もう一つは、フルセグとワンセグを電波状態に応じて切り替えること。この2段構えで、移動中の受信を可能にしているのです。
複数のチューナーとアンテナを組み合わせるのは、一つでも正常な電波が受信できるようにするためです。カーナビは、アナログ放送時代も、受信状態がよくなるように工夫して対応していましたが、チューナーは一つだけでした。
これに対して、地デジでは複数のチューナーとアンテナを使い、受信したデータをいったんメモリーに蓄積します。そして、エラーを補完する処理をして正常なデータとして出力。これにより、移動で発生した受信エラーを最小限に抑えることが可能となっています。
そして、電波がさらに弱くなり、この補完レベルを超えるエラーが生じると、低画質のワンセグへと自動的に切り替えるのです。
実はこの処理を行うため、地デジでは、映像が送出時より数秒遅れて映し出されます。アナログ時代に行われていた時報がデジタル化で放送されなくなったのは、受信機によって映し出されるまでの時間がまちまちで、時報として役に立たなくなったからなのです」
編集部:
複数のアンテナとチューナーを駆使して、ワンセグも利用しつつ、移動しながら受信しているんですね。了解しました。