【100mmマクロレンズ】ほぼパーフェクト!「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」を実写チャートで検証

文具・ホビー・カメラ

広角・標準・望遠ズームにプラスして、100mmのマクロレンズ。プロカメラマンが仕事をする際の最低限といえるレンズラインアップのなかでも、ほぼ最初に出てくる単焦点レンズといえるでしょう。そのため、カメラメーカー純正はもちろん、さまざまなメーカーから発売されており、競争の激しいレンズでもあります。そんな100mmマクロのなかでも、多くユーザーが注目する「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」の解像力チャートなどを撮影しましたので、それを元に詳細に解説をしたいと思います。

執筆者のプロフィール

齋藤千歳(さいとう・ちとせ)

元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラバッグなどのカメラアクセサリー、車中泊グッズなどの記事も執筆している。目下の悩みは月1以上のペースで増えるカメラバッグの収納場所。

ミラーレス一眼専用設計の100mmマクロ

アマチュアにも人気のレンズ

今回の紹介する「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は、2020年10月1日に発売された、100mmマクロレンズです。100mmマクロレンズは商品撮影などに多用され、プロカメラマンのなかでも使用頻度の高いレンズです。一般的に35mm判フルサイズに対応し、焦点距離が90mmから105mm程度で等倍(1.0倍)の近接撮影が可能なレンズを指すカテゴリー名のようなものになっています。また、等倍撮影とは、35mm判フルサイズ撮像素子(36mm×24mm)で最もアップでの撮影を行った際に、36mm×24mmの範囲を撮影できることをいいます。

「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は、シグマではじめての35mm判フルサイズに対応するミラーレス一眼専用設計の100mmマクロレンズ。花や昆虫などの撮影でも多用され、アマチュアにも人気レンズカテゴリーになっています。ソニーE、ライカ Lマウントに対応。レンズ構成は12群17枚で、うち1枚がシグマの独自の特殊低分散ガラスSLDレンズです。絞り羽根枚数は9枚で円形絞りを採用、ぼけの形にも配慮されています。

最短撮影距離は29.5cm、最大撮影倍率は等倍(1.0倍)です。レンズのサイズは、最大径約74mm×約135.6mm、質量は約710g。防塵防滴構造で撥水・防汚コートを実装、フォーカスリミッターや絞りリングクリックスイッチを搭載、任意の機能を割り当てられるAFLボタンなども採用されています。ただし、レンズ内手ぶれ補正機構は搭載していません。

レンズの構成図を比較すると、従来の100mmマクロとは大きく異なる設計なのですが、数値的なスペックは従来の100mmマクロと大きく変わらず、地味な印象です。この「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」の実力を、AmazonKindle電子書籍『SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art レンズデータベース』を制作する際に撮影した、実写チャートを元に解説します。

シグマ製レンズのなかでも光学性能を最優先して設計されたArtラインで、実勢価格は85,000円前後とコストパフォーマンスも高いのです。

解像力

どの絞りでも安心して撮影できる

今回のレビューや各種チャートなどの撮影結果は、参照している電子書籍も含め、基本的に撮影時のカメラ設定は初期設定としています。そのため、「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」を装着した「Sonyα7R III」の「レンズ補正」は「周辺光量補正:オート」、「倍率色収差補正:オート」、「歪曲収差補正:オート」です。わざわざ「オフ」にするメリットはほとんどありませんが、この点は最初にご理解ください。

100mmマクロレンズにおいてはお約束ともいえる開放F値は2.8なので、絞り開放でも中央部はしっかりと解像するだろうと予想。あとは、周辺部がどこまで解像するかが見どころと考えました。結果は、有効画素数約4,240万画素のSony α7RIIIの基準となるチャートの0.8を中央部は完全に、さらに小さなチャートの0.7も一部解像。しかも、周辺部においても絞り開放からチャートの0.8をしっかり解像、0.7についても一部解像している状態です。

周辺部のチャートが、開放付近では周辺光量落ちの影響でわずかにコントラストが低下するため、解像力のピークはF8.0前後といえます。しかし、どの絞りでも安心して撮影できるパーフェクトといえる結果。注意したい点はF16よりも絞ると、絞り過ぎによる解像力低下、回折や小絞りぼけが発生するところでしょう。可能な限り、F16よりも小さな絞り値で使用したいレンズです。

歪曲や色収差についても、「レンズ補正」がカメラの初期設定である「オート」では、ほぼ発生しません。気持ちがいいほどすばらしい解像力です。

解像力のチェック方法

レンズの解像力は選択する絞り値でも変化するので、各絞り値でA1サイズの小山壮二氏オリジナル解像力チャートを撮影し、観察しています。

絞り開放のF2.8から周辺部のチャートまで、しっかり解像しているのがわかります。F8.0では、周辺部と中央部で解像感にほとんど差を感じません。

周辺光量落ち

絞っても後処理でも解決できる程度

今回のレビューでは、各種チャートの撮影時のカメラ設定は基本的に「初期設定」のままなので、「レンズ補正」の「周辺光量補正」は「オート」です。そのため、カメラ本体によるデジタル処理の周辺光量補正が行われています。それでも、絞り開放ではわずかに周辺光量落ちが発生しているのがわかる状態です。

絞り開放のF2.8では、画面の四隅のうっすらと発生している周辺光量落ちは、絞りを絞ると軽減し、F5.6まで絞るとほぼ影響を感じない状態になります。絞り開放から発生量は少ない印象です。

周辺光量落ちの影響をなくすには、F5.6よりも絞るか、RAW画像も撮影しておいてRAW現像時に補正するかのどちらかですが、元々程度が小さいのでどちらも構わないでしょう。絞りたくなくて、しかも周辺光量落ちの影響を排除したい場合はRAW現像時に補正、それ以外は絞ってと考えるとわかりやすいかもしれません。

周辺光量落ちのチェック方法

周辺光量落ちは、フラットにライティングした半透明のアクリル板を各絞りで撮影し、観察しています。

絞り開放で多少周辺光量落ちが観察されますが、実際に撮影していて周辺光量落ちが気になることはあまりないと思われます。

ぼけ描写

形も質も文句なしに美しい

ぼけ描写は、ぼけディスクの様子を観察し、チェックしています。このチェック内容は大きく2つ。ぼけの形と質です。

まず、形のほうから見ていきましょう。9枚羽根の円形絞りを採用しているだけあり、中央部のぼけの形は絞り開放はもちろん、F4.0あたりまで絞り羽根の影響を感じない真円に近い印象になっています。絞り羽根の設計のうまさを感じる結果です。ただし、口径食の影響は強めで、F8.0あたりまで絞らないと、中央部と周辺部のぼけの形はそろいません。

質については、ぼけディスクの内部のザワつきや、非球面レンズの影響といわれる同心円状のシワなどと、ぼけディスクの円のフチへの色付きを中心に観察しています。しかし、「SIGMA 105mm F2.8 DGDN MACRO | Art」のぼけディスクチャートは、円の内部はほぼフラットで気になるザワつきもなく、円のフチについても色付きは、ほとんど観察されない優秀な結果です。

そのため、近接での撮影が多いマクロレンズでは大きく発生するぼけは素直でなめらか、玉ぼけのフチの色付きが発生することもなく、非常に美しいぼけが楽しめるといえます。

ぼけ描写のチェック方法

ぼけ描写は、画面内の点光源を撮影して発生する玉ぼけの描写、ぼけディスクの様子を観察して、ぼけの形、なめらかさ、美しさなどを観察しています。

形、質ともに文句のない美しいぼけの得られる結果です。近接撮影時に発生する、大きく美しいぼけを存分に楽しめるレンズになっています。

最大撮影倍率と最短撮影距離

基本に忠実で使いやすいスペック

「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」の最短撮影距離は29.5cm、最大撮影倍率は等倍(1.0倍)です。最短撮影距離で撮影すると、画面内に写る範囲は36mm×24mmとなります。100mmマクロレンズとしては、一般的なスペックです。また、ワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)は約141mmになるといいます。この適度なワーキングディスタンスがとれるのも、多くのプロカメラマンが100mmマクロを愛用する理由のひとつ。平凡な数値(スペック)ではありますが、基本に忠実な使いやすいスペックだともいえます。筆者はチャートを撮影していて、最短撮影距離においても、描写が非常にシャープな点に気持ちよさを感じました。

最大撮影倍率と最短撮影距離のチェック方法

マクロレンズの最短撮影距離と最大撮影倍率の実写チャートには、一般的なブリッジサイズのトランプ(約57×89mm)のカードを背景に、多くの方が普段から撮影に使っているであろうSD メモリーカード(約24×32mm)を貼り付けたものを使用しています。

最短撮影距離での最大撮影倍率は等倍。100mmマクロとしては一般的なスペックですが、その際のシャープな描写が印象的です。

実写作例

細部までしっかり解像し描写がシャープ

函館山山頂から撮影した早朝の北海道・函館の様子。絞り開放のF2.8ですが、細部までしっかりと解像しています。マンションのベランダに取り付けられたパラボラアンテナが数えられるレベルです。

SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art/Sony α7R III/105mm/絞り優先AE(F2.8、1/200秒)/ISO 100/露出補正:+0.7EV/WB:晴天

生後4カ月の乳児のアップです。マクロレンズなのだから当たり前といえば当たり前ですが、最短撮影距離を気にすることなく、近接で撮影できるのが魅力といえます。ピントの合ったまつげの描写も非常にシャープです。

SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art/Sony α7R III/105mm/シャッター速度優先AE(F2.8、1/200秒)/ISO1250/露出補正:+1.0EV/WB:晴天

完成度が高い3つの理由

100mmマクロレンズは、もともと高性能で光学性能の高いレンズが多いカテゴリーです。一眼レフ時代から、完成度の高いレンズが各社から用意されており、100mmマクロレンズの性能が悪いカメラメーカーは存在しないといえるでしょう。そのせいか逆に、カメラメーカー純正では35mm判フルサイズに対応するミラーレス一眼専用設計の100mmマクロは少ないのです。2015年にソニーがE マウント用の「Sony FE 90mm F2.8 Macro G OSS」を発売して以来、シグマの「SIGMA 105mm F2.8DG DN MACRO | Art」が2社目であると、筆者は記憶しています。

そして今回、「SIGMA105mm F2.8DG DN MACRO | Art」で各種チャート撮影などのテストを行った筆者の感想は、現状もっともパーフェクトに近い100mmマクロレンズというものです。このすばらしい性能は、ミラーレス一眼専用設計が重要なポイントだと感じています。

高性能の理由は大きく3つ。

1つ目は、一眼レフ時代のマクロレンズとはまったく異なるレンズ設計であることです。一眼レフ時代の100mmマクロレンズのレンズ構成を眺めていくと、多かれ少なかれ、各社それぞれに、それぞれの影響を受けていることが感じられます。しかし、「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は、従来の一眼レフ用100mmマクロレンズの影響を感じない、マクロレンズとしては非常に独創的なレンズ構成であるといえるでしょう。また、今回テストに使用したソニー Eマウント用では使用できませんが、ライカ Lマウント用ではテレコンバーターが使用できる点も見逃せません。

2つ目は、最新の100mmマクロレンズでありながら、手ぶれ補正機構がないことです。これまでのシグマの100mmマクロといえば、一眼レフ用として「SIGMA MACRO 105mm F2.8EX DG OS HSM」がラインアップされています。この従来モデルには手ぶれ補正機構(OS)を搭載。しかし、「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」にはレンズ内手ぶれ補正機構がありません。比較的新しい一眼レフ向けの100mmマクロは、手ぶれ補正機構の搭載がはやりともいえる状況でした。これに対して「SIGMA105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は手ぶれ補正はミラーレス一眼カメラ本体側に任せて、よりシンプルなレンズ構成を選択したと考えられます。

3つ目は、カメラ側のデジタル補正を積極的に活用するレンズ設計であることです。「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」でカメラ本体側の「レンズ補正」を「オフ」にすると、周辺光量落ちや倍率色収差、歪曲収差などが発生します。特に歪曲収差は顕著に表れる傾向です。ファインダーもモニターであるミラーレス一眼のメリットを活かし、一眼レフ時代よりも積極的に、各種収差などはデジタルで補正する設計になっています。

ミラーレス一眼カメラ本体の性能に頼れる部分は積極的に頼り、フィルムや一眼レフ時代の足かせなく、シンプルに最終的に生み出す画像のクオリティを追求したレンズが「SIGMA105mmF2.8 DG DN MACRO | Art」をいえます。

まとめ

100mmマクロとしてはほぼパーフェクト

カメラメーカー純正の35mm判フルサイズ対応のミラーレス一眼専用100mmマクロは、現状、筆者が知る限り「SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」と「Sony FE90mm F2.8 Macro G OSS」の2本しかありません。そして「SIGMA105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は、絞り開放から周辺部までしっかり解像し、ぼけも美しいといった点で、現状の100mmマクロとしては最もパーフェクトに近いという印象を持っています。

最終的に生み出される画質の高さや思想は、35mm判フルサイズ対応の100mmマクロとして、従来の100mmマクロに大きく差を付けた高い完成度となっています。今後発表・発売されるカメラメーカー純正の100mmマクロレンズは、単に完成度が高いだけではなく、なんらかの差別化や特徴を盛り込む必要があるだろうと、余計な心配をしてしまうほどです。一方で、100mmマクロレンズに、新しい方向性やトレンドを生み出すのではないかという期待もあります。「SIGMA105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」は、それほどの完成度を感じるレンズです。

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壯二)

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齋藤千歳(フォトグラファーライター)

元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラアクセサリー、車中泊・キャンピングカーグッズなどの記事も執筆。現在はキャンピングカーを「方丈号」と名付け、約9㎡の仕事部屋として、車内で撮影や執筆・レビューなどを行っている。北海道の美しい風景や魅力を発信できればと活動中。

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