「ミニPC(ミニパソコン)」とは、コンパクトサイズの筐体を採用したデスクトップパソコンを示す。ひと昔前は「筐体が小さい=ローエンド」という傾向があったが、いまや小型サイズながらハイエンド級の性能を備えたモデルも数多く登場している。例えば、動画編集やフォトレタッチ、さらには3Dゲームも快適にこなせるモデルも少なくない。今回は、そんなミニPCの魅力や選び方、おすすめモデルを詳しく解説しよう。
ミニPCの魅力とは?
置き場所に困らない「コンパクト筐体」!
ミニPCとは平たくいえば、コンパクト筐体を採用したデスクトップパソコンのこと。特にサイズにこれといった基準があるわけではないが、おおよそ片手で持ち上げられる1~2キロ程度の軽量筐体を備えていれば「ミニPC」といっても差し支えないだろう。
テレワークなどで急遽、自宅用のパソコンが必要になった人も多いだろうが、ミニPCなら小さな机でもちょっとした空きスペースがあれば楽々と置けるので、設置場所に困ることもない。
ディスプレイやキーボードを自由に選べる!
ミニPCは、15.6型程度の「A4ノートパソコン」とサイズ感が近いこともあって、立ち位置が微妙と感じるかもしれないが、それはさにあらず。というのも、良くも悪くもノートパソコンはディスプレイ&キーボード一体型ゆえ、手っ取り早く使える反面、自分好みの作業環境を作り上げようとすると思いのほか融通が利かないところがあるからだ。
一方、ミニPCは当たり前だが、ディスプレイやキーボードは外付けとなっているため、柔軟に設置場所を決められる。例えば、机の隅にディスプレイを置いたり、使わないときはキーボードを引き出しに収納しておいたりなど、自分好みの作業スタイルを追求可能だ。
高性能なデスクトップ用CPU採用モデルもある!
デスクトップとノートパソコンの違いはあっても、同じCPUを搭載していれば処理性能も一緒と思うかもしれないが、実は決してそうとはいえない。というのも、インテルの「Core」シリーズには、デスクトップとノートパソコン向けのモデルがあり、性能については、ノートパソコン向けよりデスクトップ向けのほうが高性能となっているからだ。
パソコン愛好家のあいだではノートパソコンよりデスクトップが好まれる傾向があるが、その理由にはCPUの種類による「処理性能の違い」がある点も大きい。
もっとも、ミニPCはデスクトップパソコンのひとつではあるが、コンパクト筐体ゆえ、冷却ファンを搭載できないなどの事情から、ノートパソコン向けCPUを採用している場合もある。もしスペックには妥協したくないなら、デスクトップ向けのCPUを搭載した機種を選ぶようにしよう。
ノートパソコンとデスクトップ向けCPUの違いだが、インテルのCore iシリーズなら「CPUの型番」から見分けることが可能。特にメジャーな型番のみ例に挙げると、型番末尾が「U」「H」はノートパソコン向け、末尾のアルファベットなし、「K」「T」はデスクトップ向けと判断できる。
▼デスクトップとノートパソコン向けCPUの処理性能の違い
CPU種類 | CPU名称 | PassMarkスコア | 末尾型番 |
デスクトップ向け | Core i7-10700 | 17,480 | なし/通常版 |
Core i7-10700K | 19,578 | K/オーバークロック対応版 | |
Core i7-10700T | 12,931 | T/超省電力版 | |
ノートパソコン向け | Core i7-10710U | 10,083 | U/省電力版 |
Core i7-10870H | 16,019 | H/高性能版 |
ノートパソコンより拡張性が断然高い!
ミニPCはデスクトップパソコンとしては小型だが、それでも一般的なノートパソコンより豊富な端子を備えている。端子の種類は機種によって異なるが、USB端子を始め、HDMIやDisplayPort端子などの映像出力、さらには有線LAN端子など、ひと通りの端子類を用意している場合がほとんどだ。
さらにミニPCでは、メモリーやストレージの増設にも対応している場合が多いのも大きな魅力。ノートパソコンもメモリー増設が可能な機種は多いが、作業時には精密ドライバーで各部のネジを外すのは当たり前、場合によってはヘラを使って本体の裏蓋を慎重に剥がしたりしなければいけないど、作業の難易度は決して低くはない。
一方、ミニPCは天板や側部のカバーさえ外せば、メモリースロットやドライブベイに手間なくアクセスできる場合がほとんど。ビギナーでも手順さえしっかり守れば、比較的簡単にメモリーやストレージの交換や増設を行えるはずだろう。
なお、ユーザー自身による増設や交換作業はメーカー保証外となる場合もある。気になる場合は、事前にメーカーのサポートなどに確認しておこう。
高性能ミニPCの選び方
CPUはデスクトップ向け、メモリーは8Gバイト以上
ミニPCに限らず、パソコン選びの最重要事項といえば、やはり「スペック」だろう。なかでも純粋な処理性能を大きく左右する要素として、「CPU」と「メモリー」は必ずチェックしたい。
CPUについてはハイスペックを望むなら、インテルの「Core i」シリーズやAMDの「Ryzen」シリーズがベスト。ただし、いずれのCPUもデスクトップ向けとノートパソコン向けのモデルがあるので、処理速度にこだわるなら高性能なデスクトップ向けCPUを選びたい。
メモリーについては、最低8Gバイトもあれば実用性は十分確保できる。パソコン動作のさらなる安定性を求めるなら、16Gバイト以上は欲しい。
ストレージは処理性能に直結するわけではないが、データのアクセス速度はパソコンの体感速度を大きく左右する。従って、使い勝手を重視するなら、OSをインストールする起動ドライブには高速な「SSD」がベストだ。アクセス速度と大容量を両立したいなら、少々値は張るが、SSDとHDDを両搭載した「デュアルストレージ」採用モデルを選択する手もある。
USB端子は4基以上、映像出力は2基以上
据え置き型のデスクトップパソコンの大きな魅力として、豊富な端子を搭載し、多彩な機器をつなげられる点がある。当然、デスクトップパソコンのひとつであるミニPCも、ノートパソコンよりは多彩な端子を備えている場合が多いが、なかには「スティックPC」のように端子類を極限まで削ぎ落として、筐体サイズを可能な限り極小化している製品も存在する。
省スペース優先なら、こうした「超」ミニPCを選んでもいいが、正直なところ、パソコンとしての使い勝手は決して優れているとはいえず、良くも悪くもユーザーを選ぶ。一般的なパソコン感覚で使いたいなら、やはり十分な端子類を備えているほうが当然無難だ。
具体的には、HDMIやDisplayPort端子などの映像出力は2画面ディスプレイを利用するためにも「2基以上」、USB端子はType-C込みで「4基以上」、さらにWi-Fiに加えて「有線LAN」も使えれば、一般的なデスクトップパソコンとして不足なく活用できるはずだ。
自分にとって最適なサイズを見分ける!
ミニPCといっても、サイズに厳密な基準があるわけではない。スティック型や手のひらサイズの極小筐体もあれば、ミニタワー型のほどの大きさもある。
せっかくミニPCを買うのだから、できる限り小さいサイズを──と思う人も多いだろうが、筐体がコンパクトになるほど、基本的にはスペックや拡張性、端子数など、パソコンとしての使い勝手がそのぶん犠牲になっていく。パソコンとしての使いやすさもしっかり確保したいなら、大体の目安として筐体サイズは最低でも厚めなハードカバー本程度はあったほうがいい。
なお、ミニPCでは、筐体サイズを小型化するため電源ユニットを内蔵せず、大型のACアダプターを採用していることもある。パソコン本体は小さくてもACアダプターが巨大だと、思いのほか設置場所を選ぶ場合もあるので注意したい。
高性能ミニPCのおすすめ機種5選
マウスコンピュータ
mouse CT6 [AMD Ryzen]
性能とサイズのバランスに優れた一台。幅194ミリ×高さ28ミリ×奥行き150ミリとハードカバー本程度のコンパクト筐体を実現しつつも、CPUはノートパソコン向けの「Ryzen 5 4500U」、メモリーは8Gバイト、ストレージは256GバイトのSSDと十分な基本性能を確保している。さらなる高性能が必要なときは、メモリーやストレージなどをカスタマイズして注文できる点もうれしい。
さらに、Wi-Fi6を始め、Type-Cを含む全7基のUSB端子、有線LANのほか、映像出力としてHDMIとD-Subの2基を用意するなど、機能面も抜かりなし。取り外し可能なPCスタンドに加え、ディスプレイ背面への取り付け用にVESA対応マウントを標準で付属している点も気が利いている。
●おもなスペック
CPU:Ryzen5 4500U/メモリー:8Gバイト/ストレージ:256Gバイト SSD/USB端子:USB2.0 Type-A×2、USB3.0 Type-A×4、USB3.0 Type-C×1/映像出力:HDMI×1、D-Sub×1/Wi-Fi:Wi-Fi6/有線LAN:○/サイズ・重量:幅194ミリ×高さ28ミリ×奥行き150ミリ・591グラム
●製品情報
デル
New Vostro 3000 (3681)
ベーシックモデル
(大容量メモリ・SSD搭載)
全高290ミリとミニPCとしてはやや大ぶりだが、書込み可能なDVDドライブやメモリーカードリーダーなど、そのぶん豊富な機能を搭載。基本スペックも申し分なしで、CPUにはデスクトップ向けの第10世代Core i5プロセッサー、メモリーは8Gバイト、ストレージは256GバイトのSSDと、十分な高性能を実現している。
USB端子はType-Cは非搭載だが、Type-Aについては前面に4基、背面4基の全8基と十分な拡張性を確保。ネットワーク機能も有線LANに加えて、Wi-Fi5にもソツなく対応している。
256GバイトのSSDに加え、1TバイトのHDDを両搭載したデュアルストレージ搭載モデルも用意。
●おもなスペック
CPU:Core i5-10400/メモリー:8Gバイト/ストレージ:256Gバイト SSD/USB端子:USB2.0×4、USB3.2 Gen1 Type-A×4/映像出力:HDMI×1、VGA×1/Wi-Fi:Wi-Fi5/有線LAN:○/サイズ・重量:幅92.6ミリ×高さ290ミリ×奥行き292.8ミリ・3.52キロ
●製品情報
iiyama
STYLE-ISH4-iX4-UHX
容量約1.2Lのコンパクト筐体を採用したミニPCで、CPUにはデスクトップ向けの第10世代Core i5を搭載。メモリーは8Gバイト、ストレージは250GバイトのSSDと、その他の基本スペックも盤石の布陣だ。2.5インチの内蔵ベイを1基備えており、ストレージの増設に対応している点も見逃せない。
端子類も小型筐体とは思えぬほど充実しており、有線LANのほか、Type-Cを含む全7基のUSB端子、映像出力としてHDMI1基とDispalyPort2基、ミニD-Sub15ピン1基の3系統を用意。Wi-Fi6にも対応し、高速かつ安定したワイヤレス通信を実現している点もうれしい。
●おもなスペック
CPU:Core i5-10400/メモリー:8Gバイト/ストレージ:250Gバイト SSD/USB端子:USB3.0 Type-C×1、USB3.0 Type-A×2、USB2.0 Type-A×4/映像出力:HDMI×1、DispalyPort×2、ミニD-Sub15ピン×1/Wi-Fi:Wi-Fi6/有線LAN:○/サイズ・重量:幅205ミリ×高さ33ミリ×奥行き176ミリ・重量非公開
●製品情報
レノボ
IdeaCentre Mini550i
品のあるミネラルグレーのコンパクト筐体に、テキスタイル素材による天板をあしらったデザインに優れた一台。スタイリッシュな外観とは裏腹に、デスクトップ向けの第10世代Core i5プロセッサーを始め、8Gバイトのメモリーや256GバイトのSSDを搭載するなど、妥協のない性能を備える。
USB端子はType-Cを含む全6基、さらにギガビット対応の有線LANや映像出力としてHDMIとDisplayPortの2系統を用意しており、拡張性も申し分なしだ。さらに、「Microsoft Office Home & Business 2019」が標準で付属する点も重宝する。
●おもなスペック
CPU:Core i5-10400T/メモリー:8Gバイト/ストレージ:256Gバイト SSD/USB端子:USB3.0 Type-C×1、USB3.0 Type-A×5/映像出力:HDMI×1、DispalyPort×1/Wi-Fi:Wi-Fi5/有線LAN:○/サイズ・重量:幅40ミリ×高さ194ミリ×奥行き182ミリ・1.5キロ
●製品情報
iiyama
SOLUTION-INFR-
iX1U-UCX
幅117ミリ×高さ51ミリ×奥行き112ミリの手のひらサイズを実現した「超」ミニPC。CPUにはノートパソコン向けの第10世代Core i3、メモリーは8Gバイト、ストレージは250GバイトのSSDと、まずまずの基本性能を実現している。
Type-Cを含む全5基のUSB端子のほか、ギガビット対応の有線LANやHDMI端子など、サイズはコンパクトでもタワー型デスクトップに引けを取らない端子類をしっかり用意。さらに、VESAマウントブラケットが付属しており、ディスプレイへの取り付けにも対応する点も便利だ。
●おもなスペック
CPU:Core i3-10110U/メモリー:8Gバイト/ストレージ:250Gバイト SSD/USB端子:USB3.1 Type-A×3、USB3.1 Type-C×1、USB3.1 Type-C(Thunderbolt3)×1/映像出力:HDMI×1、DispalyPort(USB Type-C経由)×1/Wi-Fi:Wi-Fi6/有線LAN:○/サイズ・重量:幅117ミリ×高さ51ミリ×奥行き112ミリ・非公開
●製品情報
まとめ
ちょっとしたパソコン作業であればノートパソコンでも問題はないが、テレワークのような本格的な業務をこなすとなると話は別だ。手狭なキーボードやディスプレイを使い続けるのはストレスが溜まるし、知らず知らずのうちに肉体にも負荷を与えていく。そんな悪環境では作業もはかどるわけがないし、それなら思い切って新しいパソコン環境を手に入れたほうがよっぽどいい。
ミニPCならコンパクトサイズでありながら、性能面や拡張性の高さはデスクトップパソコン譲り。さらに、キーボードやマウス、ディスプレイも自由に選択できるので、本格的なパソコン作業もノートパソコン以上に快適にこなせる。さらに、コンパクト筐体ゆえ、小さい机でも楽々と設置できるほか、ディスプレイ背面への取り付けに対応しているモデルもあり、限りあるディスクスペースを有効活用することが可能だ。
気になる実売価格も10万円以下が中心と、比較的気軽に購入できる点もうれしい。おざなりなパソコン環境を抜本的に見直したいなら、コンパクトで性能十分な「ミニPC」は真っ先に検討したい選択肢だ。
◆篠原義夫(フリーライター)
パソコン雑誌や家電情報誌の編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。専門分野はパソコンやスマホ、タブレットなどのデジタル家電が中心で、初心者にも分かりやすい記事をモットーに執筆活動を展開中。