今回はサウナではなく、その気持ちよさを支える銭湯での「交互浴」についてお伝えします。サウナブームの勢いが留まるところを知らない昨今、お気に入りの施設が混雑してしまった…という方も少なくないでしょう。そんなとき、改めて注目したいのが、温かいお湯と冷たい水風呂に繰り返し浸かる温冷交代浴です。サウナが付いていない銭湯でも、しっかり「ととのう」ことができる入浴法の魅力に迫ります。
交互浴(温冷交代浴)とは?
交互浴とは、銭湯などの施設でお湯と水風呂に繰り返し浸かる入浴法で、温冷交代浴とも呼ばれています。温かいお風呂で温めた身体を水風呂で冷やすことで、血行の促進や自律神経系への刺激が得られ、快感がもたらされます。これが、「ととのう」と形容される状態です。
一般社団法人 温泉医科学研究所が2021年に発表した論文によれば、温冷交代浴後の成人男女からは、ストレスに関係するオキシトシンやコルチゾールといったホルモン量に変化が見られ、精神状態へプラスの影響を及ぼす可能性が示されています。
そもそも水風呂自体は、サウナブームが到来する以前から、サウナのない普通の銭湯にも備わっている設備です。もちろん、この入浴法のためだけに存在しているわけではありませんが、やはり「温かい風呂→水風呂→休憩」のようなサイクルを楽しめるものとして、自然と親しまれていたことが推察できます。
交互浴のやり方
サウナよりも短い時間でゆっくり行おう
では、交互浴を実際に楽しむにはどうすれば良いのでしょうか。一般的には、
(1)40度以上の「あつ湯」に数分間しっかりと浸かり、身体を温める
(2)水風呂に30秒~1分間ほど浸かる
(3)数分間休憩する
(4)1~3を複数回繰り返す
といったように、概ねサウナと同じ流れで行われます。上記の時間はあくまで目安と捉え、負担にならない範囲で無理なく調節してください。
特に、温浴の場合はサウナと異なり、身体が温まるペースが早くなります。また、水圧などによる体への負荷も発生するため、より短い時間で、かつ、ゆっくりと各行程を進めることが大切です。長時間の入浴によってのぼせたり、湯あたりを起こしたりする可能性もあるため、体調や個々人の体質に合わせて、無理のないスタイルを見つけていきましょう。
最後はお湯?水風呂?
お湯→水風呂→お湯…と繰り返す交互浴ですが、最後はどちらで終えると良いのでしょうか。東京銭湯協会が運営するメディア「東京銭湯」によると、冷浴で完結すべきという意見と温浴で終えるべきという意見が、それぞれ存在すると紹介されています。ただ実際には、冷水浴による体温低下を回復させるためには一定以上の時間を要するため、水風呂で入浴を終えるのはあまり望ましくない旨の考察がなされています。
体質などによって異なるとは思われるものの、冷え性や身体が弱いという自覚のある方は、最後は温浴で身体を温めてから上がると良いでしょう。
また、交代浴は必ずしも「20度以下の冷水浴を実行しなければならない」と決められているわけでもありません。水風呂が苦手な方は、温浴後にやや冷ための温度設定にしたシャワーを浴びたり、露天スペースなどで外気浴のみを楽しんだりするだけでも、十分に交互浴の気持ちよさを味わえます。「東京銭湯」のコラムによれば、10℃ほどの温度差で交感神経への刺激は得られるとのこと。つまり、40度の温浴と30度のシャワーでもOK。くれぐれも無理のないようにしましょう。
過度な我慢や無理をせず、負担にならない程度のラインから、徐々に身体を慣らしていくのが交互浴を楽しむポイント。これはサウナにも共通する大原則です。
交互浴で「ととのい」が楽しめる銭湯リスト
最後に、筆者も足繁く通う銭湯の中で、特に交互浴向きの施設をいくつかご紹介します。
交互浴ファンの密かな聖地? 高円寺「小杉湯」
高円寺の老舗「小杉湯(こすぎゆ)」は、44度前後の熱い浴槽や、甘い香りと優しい肌触りが特徴のミルク風呂、そしてかけ流しでキンキンに冷やされた16度前後の水風呂を備えたハイスペック銭湯です。「交互浴と言えばココ」と連想する方も多いのではないでしょうか?
サウナや外気浴スペースこそないものの、普通の施設よりも遥かに快感を得られた記憶が多い場所です。待合室やギャラリーを備えていたり、シェアスペース「小杉湯となり」「はなれ」などもあり、お風呂以外の楽しみも。「ケの日のハレ」というコンセプトを体感できるサードプレイスとして通える銭湯です。
▼小杉湯(公式サイト)
スカイツリーを眺めつつ黒湯に浸かる 両国「御谷湯」
錦糸町・本所吾妻橋・両国の3駅の中心に佇む「御谷湯(みこくゆ)」も、交互浴スポットとして密かに人気のある銭湯です。源泉かけ流しの黒湯は43~46℃、40~42℃、25℃前後の低温風呂と3段階に分けられており、不感温度風呂(体温に近い温度の風呂)や半露天風呂なども備わっています。まずは中温からコンディションを調整して、あつ湯や低温風呂を行き来したのち、休憩替わりに不感温度風呂にゆっくり浸かる楽しみ方がオススメです。
お風呂は4階と5階にそれぞれ位置しており、5階に設置された半露天風呂からはスカイツリーを眺めることもできます。男湯と女湯は火曜の定休日ごとに入れ替わる仕組みになっており、通うたびに違う良さを発見できる施設です。
▼御谷湯(公式サイト)
「都会の隠し湯」はハードな温度設定 新大久保「万年湯」
2016年にリニューアルオープンした、大久保通りの路地裏に佇む銭湯です。奥まった立地や鳥居のような大きな門には、名作「千と千尋の神隠し」的雰囲気も。都会の隠し湯というコンセプトのもと、木の質感を活かした柔らかな雰囲気のデザインが都心部特有の気疲れを癒やしてくれます。新宿あたりから散歩で立ち寄れる距離なのも嬉しいですね。
浴室のあつ湯は44℃前後のため、厳格な江戸っ子気質の方でも満足できる仕上がりです。衝立によって仕切られた先にはしっかり冷やされた水風呂も完備されており、決して広くはないのに、どことなく探検のような気分も味わえます。ソフトで優雅な店内ですが、ビギナーの方にはオススメできないハードな温度設定の中で陶酔感に浸れること請け合いです。
▼万年湯(公式サイト)
まとめ
サウナ好きこそ銭湯の交互浴と向き合ってみよう
筆者も、十代の頃に銭湯に通い始めたことがきっかけで、全国のさまざまな施設を訪れるようになったという経緯があります。そのうち、最初は過酷なものだった水風呂やサウナが、必要不可欠なものへと変わっていきました。一時期は「サウナがないと満足できない」ほどでしたが、ある日、あつ湯と水風呂だけの銭湯を訪れ、交互浴だけでも快感を得られることに気づいてからは、さらに入浴を楽しめるようになりました。コロナがまた蔓延し始め、テレワーク疲れが溜まる昨今だからこそ、今回ご紹介した温冷交代浴をぜひ実践してみてください。