アドレナリン発見で神経伝達物質研究に貢献した、高峰譲吉(1854-1922)について、書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』著者で埼玉医科大学名誉教授の荒木信夫さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
荒木信夫(あらき・のぶお)
埼玉医科大学名誉教授、よみうりランド慶友病院院長。1978年慶應義塾大学医学部卒業。1982年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。1988年米国ペンシルバニア大学脳血管研究所留学。日本鋼管病院内科医長、埼玉医科大学神経内科講師、同助教授、同教授、埼玉医科大学医学教育センター長、同副医学部長を経て、2019年埼玉医科大学を定年退職。2021年より、よみうりランド慶友病院院長、現在に至る。日本自律神経学会理事長を務めている。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/平松 慶、北嶋京輔、栗生ゑゐこ
アドレナリン発見で神経伝達物質研究に貢献
高峰譲吉(1854-1922)
たくさんの功績を残す
高峰譲吉は加賀藩(現在の石川県)の御典医(大名に仕えた医師)の元に生まれました。
若いころから西洋科学を学び始め、イギリス留学も経験。人造肥料製造や醸造発酵技術を開発し、その過程でタカジアスターゼという強力な消化酵素を発見するなど、たくさんの功績を残します。
そして、タカジアスターゼの独占販売権で得た莫大な富を、日米親善のために惜しみなく投資しました。
アドレナリンの結晶化
高峰は、牛の副腎からアドレナリンを純粋に結晶化して抽出することに成功し、高く評価されました。
アドレナリンの結晶化は、その後の製薬やノルアドレナリンの研究に多大な貢献をしています。
疑惑がかけられ…
アメリカではアドレナリンは長きにわたってエピネフリンと呼ばれてきました。
エピネフリンは高峰に先んじてアメリカ人のエイベルが副腎から抽出した物質ですが、不純物が含まれていました。
そのため純粋に結晶化された「アドレナリン」の名称に置き換えられてもよいはずでしたが、高峰が過去にエイベルの研究室を訪れていたことから研究手法を盗んだという疑惑がかけられ、アメリカはおろか日本でもアドレナリンという名前は使われませんでした。
汚名をそそぐ
しかしその後、高峰の助手の研究ノートが見つかったり、エイベルの手法では結晶化は不可能であることがわかったりして、汚名をそそぐことができました。
日本では現在、一般的に「アドレナリン」の名が使われています。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。近年、「なんとなく体の調子が悪い」「気分がすぐれない」といった理由のわからない不調の原因として、自律神経の乱れがフォーカスされるようになってきました。自律神経がはたらくことで体の組織は活動しているので、体の司令塔ともいえる自律神経が乱れると、体のあちこちに不具合が起きてしまいます。つまり、自律神経を正常に保つことこそが、病気を予防し健康的な生活をおくるうえで最重要課題ともいえます。本書は、豊富なイラスト図解とともにオールカラーで自律神経のしくみをやさしく解説しています。