【実写チャートレビュー】50mmフラッグシップの黒船!?『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』は解像力もぼけもパーフェクトな標準単焦点レンズ

レビュー

50mmのフラッグシップレンズといえば、純正の独壇場。シリーズを代表する超高性能レンズが君臨してきたのですが、この聖域にレンズサードパーティーメーカーの雄シグマが『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』で参戦。その高性能ぶりを実写チャートで検証してみました。

純正レンズと完全競合する50mmF1.2

実勢価格22万円はよほど性能に自信がある強気の戦略なのか?

Sony α7R IIIに装着した『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』。大口径の開放F1.2でありながら、非常にコンパクトでボディとのバランスもいい。

 

2024年4月18日に発売された『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』。実勢価格は220,000円前後と非常に強気な価格設定です。筆者は、よほど性能に自信があるのだろうと推察しました。

 

なぜなら『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』にはSony Eマウント用とLマウント用がそれぞれ用意されているのですが、Sony Eマウント用には『SONY FE 50mm F1.2 GM』実勢価格260,000円前後と、Lマウント用には『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』実勢価格220,000円前後すでにラインアップされているからです。

 

『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』はSony Eマウント用としては『SONY FE 50mm F1.2 GM』と、LUMIX用としては『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』と、真っ向勝負となるハイエンドな50mm単焦点レンズになるわけです。それぞれが純正レンズといえるポジショニングのフラッグシップ標準レンズに対して、ほとんど価格差のない『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』を投入してきたのは、SIGMAはよほど性能に自信があるとしか思えないのです。

『SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art』のLマウント用(写真:奥)と『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』。同社のF1.4の50mmレンズよりも小さくて軽いのです。

 

実際に撮影した各種チャートの結果をみる前に、『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』の概要をみていくと、35mm判フルサイズに対応するレンズで開放F値はいうまでもなくF1.2ですが、ソニー Eマウント用でφ81.0mm x 110.8mm、質量が740g、Lマウント用がφ81.0mm x 108.8mm、質量は745gとなっています。『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』のφ90mm × 130mm、質量955gに比べるとかなり小さく軽いのです。また『SONY FE 50mm F1.2 GM』のφ87mm x 108mm、質量778gと比べても大きさはほとんど変わらず、わずかに軽くなっています。

 

レンズ構成については12群17枚、うち4枚が非球面レンズ。気になるポイントとしては、ぼけの形に大きな影響を与える絞り羽根枚数で『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』は13枚、それ以外の2本は11枚となっています。

 

また、精密で高速なAF動作を実現するために「高い駆動精度と静粛性が特徴のリニアモーターHLA(High-response Linear Actuator)から、推力はそのままに体積を大幅に削減した新方式を開発。2つのフォーカス群それぞれに採用しています。この技術革新により、高速なAF撮影とコンパクトなレンズボディの両立が実現しました。」という新方式のHLAを採用しています。

 

そんな最強、最軽量レベルのフラッグシップ50mmを目指した『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』で解像力やぼけなどのチャートを撮影した結果をみなさんにご紹介します。

 

小型軽量で絞り開放から解像力が高く、ぼけも美しい『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』

開放F値1.2の50mmとしてはコンパクトですが、フォーカスモード切り替えスイッチ、AFLボタン、絞りリングクリックスイッチ、絞りリングロックスイッチなどを搭載。

設定を間違ったかと思ったほど、絞り開放から高い解像力は秀逸

筆者はレンズ評価の師匠である小山壯二氏といっしょに小山壯二氏オリジナルの各種チャートを使いながら、カメラレンズのテストをライフワーク的に行っており、その結果をAmazon Kindleで「レンズラボ」「レンズデータベース」といった電子書籍にまとめています。今回も『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』でのチャートを撮影結果「SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Artレンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0D2XJVPH1)にまとめたのですが、解像力、ぼけのほかに軸上色収差、周辺光量落ち、近接撮影などの実写チャートを撮影したのですが、かなりマニアックな内容のため、そこから一部のデータを転載してみなさんに紹介します。

『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』の絞り開放F1.2と少し絞ったF1.4で撮影した解像力チャートの結果。周辺部までの解像力の高さに驚きます。

 

今回の『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』のテストには『Sony α7R III』有効画素数約4,240万画素を使用したので、画素数から基準となるチャートは0.8となります。チャートの0.8を基準にその前後のチャートを含めて、どのくらい解像しているかを観察しているのですが、『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』はちょっと信じられないくらい高性能です。

 

普通、開放F値が1.4とか、1.2といった標準レンズでは、絞り開放の描写は中心部でもややあまめでソフト。多くの場合、開放はポートレートがソフトの仕上がるようにあまめの設定なのです、などいったりするのですが……。しかし『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』の撮影結果は上に掲載したチャートのとおりです。

 

開放F1.2から中央部はもちろん、周辺部に至るまで基準となる0.8のチャートをしっかりと解像し、さらに小さな0.7のチャートの一部まで解像しています。ちょっと驚くべき結果です。あまりにも周辺部の解像力が高いので、筆者はなにか設定を間違って撮影したのかと思い、再確認したほどです。撮影設定は間違っていなかったのですが、それほど驚きました。

 

開放のF1.2で周辺部のチャートがややコントラストが弱く感じる原因は、おもに周辺光量落ちです。F1.2とF1.3で多めに発生するので、これをどう活用するかも腕のみせどころといえるでしょう。チャートを観察する限り、倍率色収差や歪曲収差もほとんど発生していません。

開放付近では周辺光量落ちの影響が感じられましたが、F2.0、F2.8付近では、周辺光量落ちの影響も感じられません。こちらも素晴らしい解像力です。

 

絞り開放のF1.2から周辺部を含めた画面全体で解像力は十分なのですが、絞ると周辺光量落ちが改善され、画面全体の解像力がアップするため、解像力のピークはF4.0からF11くらいまでと筆者は判断しました。非常にスイートスポットの広いレンズといえます。

 

ただし、掲載したF2.0、F2.8の解像力チャートの結果からもF2.0あたりで周辺部を含めて一般的なレンズの解像力を軽く超えてしまうので、どの絞りで撮影しても解像力に不満を感じることはないでしょう。解像力を上げるために絞る必要はほとんど感じないので、せっかくのF1.2を積極的に使いたいレンズに仕上がっています。

 

『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』で選択できるもっとも大きな絞り値はF16なのですが、さすがにここまで絞ると絞り過ぎによる解像力の低下がみられます。逆にいうと、F16以外は絞り過ぎによる解像力の低下もほとんど感じられないので、開放のF1.2からF14まで好きな絞りで撮影しても、卓越した解像力が得られるとんでもないレンズです。

形もなめらかさも最高級レベルのぼけが堪能できる『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』

13枚と絞り羽根の枚数が非常に多い『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』。絞り開放F1.2付近のぼけの形はほとんど真円です。ぼけの質も素晴らしい。

ちょっと考えられないレベルの解像力を発揮する『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』ですが、そのぼけはどうなのでしょうか。筆者たちは超小型のLEDを使って玉ぼけを発生させ、その形や玉ぼけの円周上に発生する色つきやフチつき、内部のザワつきなどを観察してぼけの形やなめらかさなどを評価しています。

 

『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』のF1.2およびF1.3でのぼけは、上に掲載したチャートのとおりで、13枚羽根という豪華な仕様が効果を発揮し形はほぼ真円に近く、玉ぼけの円周上には色つきはほぼなく、フチもほとんど観察されないので、二線ぼけやぼけのフチへの色つきもなく、玉ぼけ内部のザワつきなどもない、最高級レベルの美しいぼけが楽しめると判断しました。

 

ただし、1点だけ気になるのが、極わずかではありますが同心円状に発生したシワです。多くの場合、非球面レンズの影響をいわれることが多いのですが、このタマネギぼけの傾向が観察されます。『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』の場合、非球面レンズを4枚と多めに採用していることが理由なのでしょうか。この点だけが残念です。

F4.0やF5.6に絞ってもぼけの形が崩れることなく、真円に近い形を保っています。画面全体に玉ぼけが発生するシーンなどで力を発揮してくれるでしょう。

 

極わずかにタマネギぼけの傾向がある点を含めても、最上級レベルのぼけが得られる『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』ですが、13枚羽根の絞りの効果は大きく、掲載したF4.0やF5.6の玉ぼけでもほとんど形が真円を保っており、絞り込んでも美しい形のぼけが楽しめることがわかります。ある意味ちょっと贅沢過ぎるほどのぼけが楽しめるレンズに『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』は仕上がっているといえるのです。

 

なにを撮っても絵になる魔法のようなレンズ

こちらも絞り開放のF1.2で撮影。前ぼけは信じられないことに『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』に蹴りを入れてきた息子の足、それすらも絵にしてしまう恐ろしさ。

すべてを絞り開放F1.2で撮影したくなる高性能ぶり

絞り開放のF1.2から、絞り過ぎによる解像力低下が顕著になるF16以外すべての絞りで脅威的な解像力を発揮する『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』。絞っても、絞らなくても十分以上の解像力を発揮するので、ほかのレンズではなかなか体験できない開放のF1.2での撮影が多くなるのは仕方のないところです。というか、筆者は『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』での撮影のほとんどを開放F1.2で行っていました。

 

すると高い解像力にプラスして、圧倒的に大きく美しいぼけが発生するため、ある意味なにを撮影しても絵になってしまうのです。上に掲載した作例では、YouTubeをみながらアイスを食べている息子を撮影したのですが、3歳児の小さな顔でも左目にピントを合わせると右目が完全に被写界深度外でぼけているのがよくわかります。また、画面左側の前ぼけはなんと撮影している筆者のカメラを蹴りつけた足。これがしっかりとぼけて、見る人の視線をピントの合った左目に誘導する効果を発揮しています。

 

絞り開放F1.2で撮影した工場夜景。拡大すると画面左手の煙突の階段にある手すりまで解像しています。四隅をみると空の部分で周辺光量落ちの様子がわかるでしょう。

 

ほぼ完璧にみえる『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』ですが、好みのわかれるのは絞り開放付近で比較的大きく発生する周辺光量落ちかもしれません。掲載した作例は2枚とも開放のF1.2で撮影したものですが、どちらも周辺光量落ちが発生しているのがわかります。圧倒的な解像力と大きく美しいぼけ、これに開放時に発生する周辺光量落ちの相乗効果で画面中央に写真を見る人の視線を誘導する魅力的な効果という解釈も成り立ちますし、逆にここまで完璧に近いなら絞り開放で風景などを撮影する際に周辺光量落ちはマイナスという考え方もあります。筆者はどちらもありだと思っていますが、風景を絞り開放で撮るならできれば周辺光量落ちは少なめで、必要なときは後処置で周辺光量落ちを発生させるほうが便利かと思います。

 

ライバルとなるフラグシップの50mmと比べての感想

絞り開放のF1.2から画面全体にシャープで、ぼけも美しい『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』ですが、『SONY FE 50mm F1.2 GM』や『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』といったライバルレンズからどれを選ぶかと聞かれると難しい問題です。Sony Eマウントの『SONY FE 50mm F1.2 GM』については過去にテストを行っていないので比べてみるまでわかりません。

 

Lマウントの『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』については、過去に小山壯二氏が同じチャートを使ってテストした「Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4 レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B08278XSFS/)の記録と比較してみたところ、絞り開放からの画面全体での高い解像力については『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』に軍配が上がり、ぼけについては非球面レンズの影響なのか、うっすらとタマネギぼけの傾向がある『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』よりも『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』のほうがぼけの質は高いという結果でした。実勢価格がほぼいっしょということを考えると、筆者は性能を重視なので、より明るいF1.2で解像力の高い『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』を選択するでしょうが、LUMIX純正という意味ではぼけがより美しい『Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4』を選択するのもありでしょう。

 

『SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art』はいわゆる純正レンズとほぼ差のない価格でSIGMAが発表した50mmフラッグシップの標準単焦点レンズだけあり、卓越した性能を発揮します。特に絞り開放からの圧倒的な解像力と同時に発生する大きく美しいぼけはぜひ一度体験してほしいレベルです。現在、最高峰レベルの50mm単焦点レンズに仕上がっていると筆者は思いますので、ぜひ店頭などでも確かめる機会があれば、その描写を試してみてください。一度、その描写を味わってしまうと後戻りできないのが恐ろしいところですが。

 

 

<公式サイト>SIGMA

<データ出典>「SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art レンズデータベース」

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齋藤千歳(フォトグラファーライター)

元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラアクセサリー、車中泊・キャンピングカーグッズなどの記事も執筆。現在はキャンピングカーを「方丈号」と名付け、約9㎡の仕事部屋として、車内で撮影や執筆・レビューなどを行っている。北海道の美しい風景や魅力を発信できればと活動中。

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