Q
有機ELディスプレイは、スマホや一眼カメラのモニターのような小さなものと、55V型以上の大画面テレビには採用されていますが、なぜ、中くらいのサイズの製品はないのですか? 薄くて高画質なので、いろいろな使い方に向いていると思うのですが……。 (K・Eさん 東京都 55歳)
A
確かにそうですね。この質問は、AV評論家の藤原陽祐さんに聞いてみましょう。
藤原
自発光する有機物質を画素単位で制御して画像を描き出す有機EL。
コントラスト比、応答速度、そして視野角と、総合的な表現力に優れ、消費電力も低く、次世代ディスプレイの大本命といっていいでしょう。
ご指摘のとおり、現在のところ、家庭用機器として採用されているのは、サムスン、アップルなど一部のスマホと、一眼カメラのモニターやファインダー、55V〜77V型のテレビのみです。
業務用としては、映像制作用のマスターモニター(17V〜30V型)や医療用モニター(21.6V型)などもありますが、家庭用としては、ごく少数の製品化にとどまっています。
これは、液晶テレビの価格が圧倒的に安い(競争するのが難しい)、製造メーカーが限られる(生産量が少ない)、生産コストが高いなどといった事情もあるようですが、最大の理由は、より高い付加価値で製品化したいというパネルメーカーの戦略にあると思われます。
現段階では、大型の有機ELパネルの量産化に成功しているのは、韓国のLGのみ。
ソニー、パナソニック、東芝と、日本メーカーも有機ELテレビを製品化していますが、どれもパネルはLG製です。
同社としては、もちろん30V〜40V型の有機ELパネルを量産できる能力も備えているわけですが、現段階ではその予定はありません。
『有機ELの画質の優位性をアピールするには、最低でも55V型のサイズが必要』というのが表向きの理由ですが、本音は違います。
今、競合メーカーは存在しないわけですから、あえて画面サイズを小さくして、価格を安くする必要はないということだと思います。
──技術的に難しいということではなく、経営戦略的な理由で、作らないことにしてるんですね。
藤原
そうです。この状況はもうしばらく続きそうですが、現在、中国のBOE社が家庭用テレビ向けの中・大型有機ELパネルの量産を計画中といわれています。
シャープやJOLEDなどの日本メーカーについては、当面はスマホ向けの有機ELパネルの量産を目指すようですが、その先、一般家庭向けのテレビ用パネルへの参入も十分考えられます。
また、LGについても、現在、韓国・パジュ市の工場内に新規の生産ラインを建設中で、これが完全に立ち上がる2020年度には、有機ELパネルの生産能力は飛躍的に向上することになります。
このタイミングで、中型パネルの生産が始まる可能性もあります。
極めて安価で、そこそこのクオリティが得られる液晶テレビという強敵に挑むのは、そう簡単なことではありません。
有機ELの価値を消費者が認め、中・小型の高級テレビというジャンルが確立される見通しがつけば、30V型の有機ELテレビも現実のものとなると思われます。
──有機ELテレビがもっと普及してくれば、中・小型のテレビでも有機ELパネル搭載機が出てくるかもということですね。了解しました!