IoTで家電が変わる――と言われてはいるものの、単にインターネットにつながるだけでは、面白みがありません。それは、未だにIoT家電で大ヒット商品がないことでも分かります。そんな中、IoTを積極展開し始めた日立がとったのは、「インターネットで人気のコンテンツを使う」という「メーカーオリジナルにこだわらない」手法でした。
IoTで成功しない理由
ヒット商品というのは、人の予想の「半歩から一歩だけ」先を行く商品です。
2016年の正月、ラジオでIoTの解説を頼まれた時、IoTができることの一例としてあげたのが、有名シェフのレシピ売り。オーブンレンジが、そのレシピを受け調理する、というものでした。
まぁ、レシピを「秘伝」にして、必ず店に食べに来てもらうのも、一つのビジネス形態ですが、家庭に浸透させ、自分のレシピの魅力をより多くの人に知ってもらうのも、ビジネスとしてはあり得るのではと考えたわけです。
また、魅力的なサービスを見せることにより、面倒臭いIoTの機器接続もしてもらえる、と考えたわけです。
かなり分かりやすい例だと思ったのですが、一歩どころか、二歩ぐらい早かったようで、それから3年。IoTは機能的に当たり前になりつつあるのですが、まだキラーコンテンツと呼ばれるほど面白いサービスは見つかっていません。
既存人気コンテンツ「クックパッド」と連携
一方、ネットには、いろいろな面白いネタがどんどん書き込まれます。
調理関係でいうと「クックパッド」もその一つ。「クックパッド」はもう説明も不要だと思いますが、料理レシピのコミュニティウェブサイトです。言うなれば、素人のレシピ集。玉石混合なのですが、ここまで数があるとビッグデータ。いいレシピも数あります。
メニューには「みんなのレシピ」「プロのレシピ」などいろいろありますが、その中にある、有料プレミアムサービス(280円/月)には「殿堂入りレシピ」というものがあります。
クックパッドに掲載されるレシピの判定は、SNSと同様にあります。ただ、「いいね」ではなく「つくれぽ」を用います。自分で作った写真と一言コメントを添えるのです。そして殿堂入りレシピは、「つくれぽ」が1000人以上集まったレシピを指します。
2019年7月29日時点で、クックパッドには、314万件のレシピが登録されています。
しかし、殿堂入りはわずか1621件。314万件はビッグデータなのですが、ここまであると、個人が使うには検索性が悪くなり、どれが玉か、どれが石か、分からなくなります。
が、「殿堂入りレシピ」は、1000人以上に再現されているわけですから「相当イイ」というわけです。
今回、日立が「いいね」したのが、この「レジェンドメニュー」。
つまり、そんじょそこらの料理本より、多くの人に支持されたレシピを取り入れた、ということです。
使ってみて驚いたのは、メニュー名。クックパッド掲載のメニュー名そのもの。
例えば「つくれぽ6000感謝やみつき無限ピーマンby tokuherb」。
それに対し、今までのだと「鶏のハーブ焼き」。短く簡便なのですが、どうも色気がありません。
私は、ネットをそのまま持ち込んだ様なこの試み、わりと好きです。
「ミキサー不要☆簡単!牛乳でカボチャスープ by 陽だまり日記」を作ってみた
当然、レジェンドメニューが必ずしも電子レンジを使うわけでもありません。
このため、実際は、野菜の下ごしらえ、煮る、焼くなどを、実際に調理して味を確認しながら、電子レンジメニューに落とし込みます。
今ドキなら「AIでパッパとレシピ変換できないのか」と言われそうですが、まぁ家事、中でも料理はアナログの集大成的なところがあります。
私も、スーパーでカボチャの安売りをしていたので、「ミキサー不要☆簡単!牛乳でカボチャスープby 陽だまり日記」を作ってみました。
レンジ機能は、カボチャの下ごしらえ、そして最後の温めに使うのですが、ガスと違うのは、「早い」「焦げない」「安全」に加え、ガスほど「部屋が暑くならない」ことでした。
簡単に、たいそう美味しくできました。夏は、どうしても食欲減退の時期。手軽に、楽に、暑くなくできるのは大いにプラスです。
しかし、「カボチャスープ」だと作らなかったかも知れませんね。「ミキサー不要☆簡単!」というので、ちょっと気になっていたところへ、スーパーでのカボチャの安売り。見事にハマったという感じでした。
クックパッド・メニューは賛否両論ありますが、基本的には、日本人の「簡単」「ヘルシー」「お安く」の3点嗜好を含んでいます。このため、下手な料理本より、より身近なレシピといえます。
今回、プログラム化されたのは30レシピ。秋口から本格運用されるIoTサービスです。
スマホ連携なので、検索、買い物も楽
ここまで電子レンジ本体を中心に話をしてきましたが、当然、スマートホン(以下スマホ)と連動しています。スマホでいろいろな設定もできるのですが、イイのは買い物時。レシピブックをスマホに入れて持ち歩いているようなモノですから、安い食材を見つけて検索、レシピ、調理法を見て、メニューを決めることもできます。
家で、幾つかメニュー候補を決め、最終的にスーパーで決定する私にはとても楽です。
とにかく、検索が楽なスマホを味方に付けているのは、家でメニューを決める場合でも、スーパーで決める場青でも楽です。
今後のオーブンレンジ
日立 スチームオーブンレンジ
ヘルシーシェフ
MRO-W10X H
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上下二段、30L、300℃、スチーム機能を持つオーブンレンジは、ことオーブンに関しては完成域に達しています。
そして、野菜の下ごしらえが短時間で次々できる電子レンジは、中食の温めを含め、便利というより「なければ不便でしょうがない」と言えます。
このため機能は、メーカー毎に異なると言えども大同小異。このため、今後のオーブンレンジは、どこまで使いやすくなるのかがポイントになります。
今回の日立は、そういう方向へ舵を切り、成功していると思います。
それはメーカー独自ではなく、ネットで普段使いするコンテンツを活かした結果だと思います。今後、その様な形態が当たり前になり、IoTがゆっくり浸透して行くのだと思います。
ちなみに、今回、ヘルシーシェフ MRO-W10Xは、デザインもグッと変えてきています。
後付けでなく、扉から削り出したような取っ手がポイントです。正面から見ると、どことなくスマホライクに見えます。
「新しい酒は、新しい革袋に」ではありませんが、新世代オーブンレンジは、新しいデザインで。今までと、一線を画すオーブンレンジの登場です。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーを繋ぐ商品企画コンサルティング「ポップアップ・プランニング・オフィス」代表。米・食味鑑定士の資格を所有。大手メーカーでオーディオ・ビデオ関連の開発に携わる。趣味は東京散歩とラーメンの食べ歩き。