まぶたは「眼瞼挙筋」によって持ち上げられています。眼瞼挙筋とまぶたの連結が弱まると、眼瞼が下垂することによって交感神経の緊張状態が起こり、肩こり・頭痛・疲労感・不眠・不安障害・うつ・自律神経失調症などの症状が起こります。【解説】金沢雄一郎(形成外科専門医・医学博士)
解説者のプロフィール
金沢雄一郎(かなざわ・ゆういちろう)
形成外科専門医。医学博士。1974年生まれ、宮崎県出身。新潟大学医学部医学科を卒業後、千葉大学形成外科学教室へ入局。その後、千葉大学形成外科で眼瞼専門外来を開設。現在は、まぶたの治療に特化した形成外科医として、眼瞼下垂などの治療にあたっている。
眼瞼下垂とは
まぶたが下がり視界が狭まる
「最近、まぶたが下がってきた」「視界が狭まった」と、感じている人はいませんか。それは、「眼瞼下垂」が進んでいるせいかもしれません。
眼瞼下垂という言葉を、聞き慣れていない人は多いと思います。「眼瞼」はまぶた、「下垂」は垂れ下がるという意味で、眼瞼下垂とは、文字通り「まぶたが垂れ下がる」ことです。
それが原因で困った症状が起こると、医学的に「眼瞼下垂症」と呼ぶようになります。
実際には、どこまでが眼瞼下垂で、どこからが眼瞼下垂症なのか、ハッキリとは区別できません。ここでは、どちらも含めて眼瞼下垂と呼びます。
眼瞼下垂には、生まれつき、筋肉や神経に問題がある「先天性眼瞼下垂」もありますが、今回取り上げるのは、大人になってから起こる「後天性眼瞼下垂」です。
後天性眼瞼下垂の多くは、加齢に加えて、後述するような、さまざまな生活上の要因によって起こります。
眼瞼下垂がひきおこす症状
眼瞼下垂がひどくなると、いろいろな問題が起きてきます。
特に深刻な問題は、まぶたが下がって視界がふさがれてしまうこと。こうなると、車の運転をするときなどは、非常に危険です。もちろん、それ以外でも、視野が狭まって事故に遭う危険性が高まったり、生活に支障をきたしたりします。
軽度の眼瞼下垂でも、実は、さまざまな症状を引き起こすことが分かっています。
代表的なものは、肩こり・頭痛・疲労感・不眠・不安障害・うつ・自律神経失調症(内臓や血管の働きを調整する神経の不調によって起こる症状)です。
眼瞼下垂が起こるしくみ
まぶたへの刺激が眼瞼下垂のきっかけに
眼瞼下垂によって、こうした症状が起こるのは、不思議に思われるかもしれません。その関係をご理解いただくために、眼瞼下垂が起こるしくみをご説明しましょう。
私たちのまぶたは、「眼瞼挙筋」という筋肉(腱膜という筋肉のすじ)によって持ち上げられています。眼瞼挙筋は、目玉の裏から上に回り込み、まぶたの縁に連結しています。この眼瞼挙筋がギュッと縮むと、まぶたが引っ張り上がるのです。
この構造の中で、1ヵ所だけ元から弱い部分があります。それは、眼瞼挙筋とまぶたの縁の連結部分です。
若いうちはしっかりしていますが、年を取るにつれて、この連結がゆるみやすくなります。すると、眼瞼挙筋が縮んでも、その力がまぶたに伝わりにくくなり、眼瞼下垂になるのです。
加齢以外に、物理的な刺激も連結をゆるめる原因になります。
目を触ることや、コンタクトレンズの着脱、女性ならアイメイクをしたり、落としたりといった、まぶたへの刺激をくり返すことで、連結がゆるんできます。まぶたのむくみや肥満、まぶたのケガなども、きっかけになることがあります。
加齢に加え、目を強くこすっていたり、長年、コンタクトレンズを使っていたり、アイメイクのやり方や落とし方が乱暴だったりすると、眼瞼下垂はより起こりやすくなるのです。
その他、白内障(目のレンズに相当する水晶体が濁る病気)の手術でまぶたを固定することで、まぶたの連結がゆるんだり、切れたりすることもあります。切れた場合は、指などで支えない限り、まぶたが落ちて開けられなくなります。
ネコ背やうつの原因になることも
さて、眼瞼挙筋とまぶたの連結がゆるんでくると、それを補おうとして、体のバックアップシステムが働き始めます。
その一つは、額の筋肉を縮めてまぶたを持ち上げる方法。眼瞼下垂が進むと、額の横ジワが増えるのはこのためです。そして、額の筋肉でまぶたを持ち上げ続けることで、頭痛や肩こりが起こりやすくなります。
もう一つのバックアップシステムは、眼瞼挙筋の裏側にある「ミュラー筋」という筋肉です。
ミュラー筋は、まぶたを持ち上げるのを助ける他、交感神経(心拍数や血圧を上げるなど全身の活動力を高める神経)に信号を送る役目をしています。
本来は補助的な筋肉ですが、眼瞼挙筋とまぶたの連結が弱まると、ミュラー筋は両者をつなぐ役目をすることになり、綱引き状態になります。ミュラー筋は交感神経のセンサーでもあるので、それによって体の緊張状態が起こります。
逆に、交感神経が緊張すればミュラー筋を縮めることができるので、体はまぶたを上げるため、交感神経を緊張させます。
それによっても、先ほど述べた症状が起こります。その影響が、覚醒や情動に関係する脳の部分に及び、不安障害やうつにつながるのです。
なお、多くの人は、眼瞼下垂と連動して、あごが前に出て、ネコ背になってきます。こういう姿勢をとらないと、ものが見えにくくなるからです。
まずは自分が眼瞼下垂かどうかを確かめ、進行を抑える生活面の対策から始めてみるとよいでしょう(チェックと対策については次項参照)。
眼瞼下垂チェック法と予防法
まぶたを優しく扱うのが眼瞼下垂を防ぐコツ
「眼瞼下垂」の存在を知ると、みなさんの中にも「もしかしたら、自分もそうなのでは?」と思う方がおられるでしょう。
明らかにまぶたが下がって開きにくくなっていれば、眼瞼下垂を疑うことができますが、軽症の段階では分かりにくいものです。確定診断は、眼科や形成外科などで受ける必要がありますが、その前に自分でチェックする方法をご紹介しましょう。
下の「眼瞼下垂チェックリスト」をご覧ください。16項目のうち、あなたはいくつ当てはまりますか。
■眼瞼下垂チェックリスト
□額のシワがある(まゆが上がる)
□頭痛が月に1回以上ある
□慢性の肩こりがある
□慢性の腰痛がある
□ドライアイで点眼している
□不眠がある
□体が疲れやすい
□コンタクトレンズを20年以上使っている
□花粉症もしくはアトピー性皮膚炎がある
□メイクをする習慣がある
□40歳以上である
□目が落ちくぼむ
□あごを突き出している
□背中が丸くなってきた
□顎関節症がある
□不安障害がある
このリストは、眼瞼下垂に伴いやすい症状や、原因になりやすい条件を列記したものです。
・結果が10個以上の人は、かなり強く眼瞼下垂が疑われます。
・6〜9個の人は、眼瞼下垂の疑いがあります。
眉ブロックテストをしてみましょう。
・4〜5個の人は、関連は弱いと考えられます。
・3個以下なら、今のところ心配はないでしょう。
これだけではハッキリしないという人や、もう少し調べてみたい人は、下の「まゆブロックテスト」をやってみましょう。
このとき、瞳孔(黒目の中心の色の濃いところ)にまぶたの縁がかかっていたら、眼瞼下垂が疑われます。
まゆブロックテスト
※片目ずつ行う。
❶鏡と対面し、優しく目を閉じる。
❷閉じたまぶたの中で、足元を見るイメージで、黒目を下に向ける。
❸額の力を抜き、まゆが下がるイメージでリラックスする。
❹まゆの上に人さし指を載せ、動かないように固定する。
❺まゆが動かないよう、そっと目を開く。
眼瞼下垂が起こると、代わりに額の筋肉を使って目を開けようとします。そこで、額の力をブロックしておいて、目の開き方を調べるのがこのテストです。
まゆを上げる癖がある人は、指で押さえていてもまゆを上げてしまうことがあります。そんな人は、まゆを動かさないように意識しましょう。
これらのチェック法は、あくまでも目安です。前述の通り、確定診断は眼科や形成外科などで受けてください。
眼瞼下垂を予防するには?
眼瞼下垂の進行をできるだけ抑えるには、いくつかの生活上の注意が役立ちます。
例えば、まぶたに負担をかけるコンタクトレンズの着脱やアイメイク、メイク落とし。これらを行うときは、まぶたを優しく扱うようにしてください。
また、花粉症やアトピー性皮膚炎などで、目のかゆみがあるときも、乱暴にこすらず、目薬などで対処すれば、まぶたへの負担を減らせます。そういった普段の生活からの心がけが、眼瞼下垂の予防や進行の抑制に役立ちます。