2020年春から日本での正式販売がはじまったアイリックス(Irix)レンズ。なかでも、今回紹介する、Irix 15mm F2.4は、「インフィニティクリック」「フォーカスロック」「フォーカスキャリブレーション」を採用し、明るい超広角レンズながらねじ込み式丸型フィルターに対応、リアフィルタースロットも装備することで暗闇でカメラを操作する星の撮影を、驚くほど簡単、快適にしてくれます。何がそんなに快適なのか、Irix 15mm F2.4の秘密を解説していきます。
執筆者のプロフィール
齋藤千歳(さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータ元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラバッグなどのカメラアクセサリー、車中泊グッズなどの記事も執筆している。目下の悩みは月1以上のペースで増えるカメラバッグの収納場所。
「写真家によって考案された、写真家のための究極のレンズ」
設計はスイス、マーケティングはポーランド、製造は韓国
アイリックス(Irix)をご存じでしょうか?
カメラ好きでも知らない方も多いのではないでしょうか。新しくできた深センあたりの新興中国ブランド? と思われた方はかなりマニアックな知識をお持ちだと思います。アイリックスは設計をスイス、マーケティングはポーランド、製造は韓国で行っている多国籍なレンズブランドです。ユニークなのは、多国籍なだけではなく、メインキャッチフレーズが「写真家によって考案された、写真家のための究極のレンズ」という点です。
写真家にしか思いつかないような工夫が満載されたアイリックスレンズ
2020年3月から、日本国内での正規販売がはじまったアイリックスレンズは、現在、11mmと15mmの超広角、150mmのマクロ、そして6月に45mmの標準レンズが追加され、4つの焦点距離がラインアップされています。どのレンズも実際に普段から撮影をしている写真家にしか思いつかないような工夫が満載されており、筆者はIrix 45mm F1.4以外すべてのレンズをテストしました。
なかでも、Irix15mm F2.4はMFレンズながら、とても使いやすく、特に暗闇でのカメラやレンズの操作が必要で初心者には少し難易度の高い、星景写真や夜景撮影を容易にしてくれます。あまりに便利なため、このところの星の撮影では筆者のメインレンズです。カメラメーカー純正でもなく、AFも装備されていないIrix 15mm F2.4がなぜそんなに便利なのかを紹介していきます。
Irix 15mm F2.4なら暗闇での星へピント合わせは1秒で終了
インフィニティクリックなら暗闇でもピント合わせは誰でも一瞬
アイリックスの広角レンズ、Irix 11mm F4やIrix 15mm F2.4には、インフィニティクリックという機構がついています。どんなものかというと、ピントリングを回してピントを合わせる際に、正確に無限遠にピントが合う位置でピントリングに「カチッ」というクリック感があり、その位置にリングを回すことで星などの無限遠にある被写体にピントを正確に合わせることができるのです。多くの方が、「ただそれだけ?」と思う機能ですが、このインフィニティクリックが星や夜景の撮影を驚くほど快適にしてくれます。個人的にはすべてのレンズで採用してほしい機能です。
インフィニティクリックがないレンズで、星を撮影するのに無限遠にピントを合わせるには、かなりの苦労があります。代表的な方法のひとつは、明るいうちに風景などで正確な無限遠にピントを合わせて、ピントリングをその位置でテープなどを使って固定しておく方法、この方法はあらかじめ準備をしなくてはなりません。
撮影時にその場でピントを合わせる方法としては、デジタルカメラではライブビューなどで比較的な明るい星を拡大してMFで背面モニターをみながらピント位置を決定します。言葉にすると簡単ですが、慣れていないと暗闇で、このピント合わせを行うのは初心者にはかなりのストレスでしょう。インフィニティクリックがあっても、暗闇でのピント合わせが不安という方は、明るい場所でインフィニティクリックを使いピントを合わせて、フォーカスロックで固定しておけば、さらに簡単です。
ねじ込み式にもリアフィルターにも対応する超広角レンズ
95mm径のねじ込み式丸型フィルターに対応
画角、レンズから写る角度の広い超広角レンズは、多くの場合、レンズ先端部のレンズ(前玉)がドーム状に大きくせり出した出目金レンズといわれるものが多く、レンズ先端にねじ込んで装着するもっとも一般的な丸型フィルターが使えないことが多いのです。そのため、大型の角型フィルターといったより専門性の高いフィルターを使うのですが、筆者も所有していますが、星景撮影の場合、暗闇でのより煩雑な取り付け操作が必要になり、とても簡単とはいえません。しかも、残念ながら高価です。そのため、Irix 15mm F2.4は95mm径とかなり大型ではありますが、取り付け操作も簡単なねじ込み式丸型フィルターに対応しています。
標準搭載のリアフィルタースロット
レンズ前玉が大きくせり出した超広角レンズにフィルターを装着する方法は、大型の角型フィルターなどをレンズ前面に配置する方法のほかに、レンズの後ろ側(後玉)の後にフィルターを配置する方法もあります。多くのレンズでは、薄いフィルムタイプのフィルターをテープで貼り付けるなどして、ユーザー自身が工夫して装着するのが一般的です。しかし、Irix 15mm F2.4では、レンズに最初からリアフィルタースロットが装備されており、リアフィルタースロット用のNDフィルターセットも用意されています。
リアフィルタースロットを利用すると、スロットのサイズに切りとったフィルムタイプの各種フィルターが利用でき、とても便利です。
星景撮影ではフィルター2枚が最近の流行
地上の風景と星空を同時に撮影する星景写真の分野では、最近地上部分の街灯、水銀灯やナトリウム灯の光をカットする光害カットフィルターと、画像に写る星の大きさを光の強さによって変化させるソフトフィルターの2枚を使うのが最近の定番になりつつあります。ソフトフィルターはケンコーのプロソフトンやLEEのポリエステルフィルターなどが定番です。
Irix 15mm F2.4はねじ込み式丸型フィルターであればレンズ前面に2枚、もしくはレンズ前面にねじ込み式丸型フィルター1枚、リアフィルタースロットにもう1枚というフィルターの取り付けが簡単にできます。フィルターの使用が定番といわれる星景写真ですが、どうしても暗闇のなかでカメラやレンズを設定することになるので、フィルターの取り付けが非常に簡単なIrix 15mm F2.4は大きなアドバンテージを持つことになります。
レンズ光学性能は変わらないBlackstoneとFirefly
各種一眼レフマウント用が用意され、さまざまなボディで使える
Irix 15mm F2.4は35mm判フルサイズセンサーに対応し、各社一眼レフ用にキヤノン EF、ニコン F、ペンタックス Kマウント用のモデルがそれぞれ用意されています。そのため、キヤノン、ニコン用のモデルであれば純正のマウントアダプターを使えば、基本的にそれぞれのブランドのミラーレス一眼にも装着可能です。また、純正以外のマウントアダプターを使えば、多少の制限などもあることがありますが、かなり種類のカメラで使用できるのも魅力のひとつといえます。動作が完全に保証されるわけではありませんが、筆者は実際ソニー Eマウントのα7R IIIでも撮影に使用しました。
※使用するマウントアダプターやレンズ、カメラの組み合わせによって動作条件が異なりますので、事前によく確認することをおすすめします。
コストパフォーマンス重視ならFireflyがおすすめ
Irix 15mm F2.4に興味をもって、実際に購入しようと考えたときに、多くの方が戸惑うであろうことがあります。実はIrix 15mm F2.4には、Irix 15mm F2.4 BlackstoneとIrix 15mm F2.4 Fireflyがあり、実勢価格はBlackstoneが128,000円前後、Fireflyが82,000円前後と46,000円ほどの価格差があるのです。しかし、レンズ光学性能は同一になっています。大きな違いはレンズの外装です。Blackstoneは外装がマグネシウムハウジング、ピントリングがアルマイト処理されたメタル製でセミハードケース付き、一方Fireflyは軽量樹脂ハウジングにピントリングは滑り止めコーティングのみでソフトポーチ付きになります。価格差が大きいので、個人的には外装に特別なこだわりがないのなら、実勢価格の安いFireflyがおすすめです。
まとめ
Irix 15mm F2.4 Fireflyで今年の夏こそ星景撮影デビュー
Irix 15mm F2.4 Fireflyで実勢価格82,000円前後と決して安価なレンズではありません。しかし、普段からカメラメーカー純正レンズでも星景撮影をしている筆者でも、Irix 15mm F2.4なら、ついでに星を撮影していいかと思えるレベルで操作や設定が楽なので、星空撮影に挑戦してみたいと思っている初心者にこそおすすめしたいレンズです。当然、中上級者にも納得してもらえる機能性と性能を備えています。高性能なレンズはほかにもたくさんあるのですが、使いやすくてクセになるIrix 15mm F2.4のようなレンズは珍しい存在です。ぜひ今年の夏こそ、Irix 15mm F2.4で頭上に輝く天の川を撮影してみてはどうでしょうか。