筆者に子どもが生まれて約1カ月、日に日に成長する息子を撮影しています。そんななか予想以上に活躍してくれているのが100mmマクロレンズです。大きくアップで花や昆虫、小物などを撮影するイメージの強いマクロレンズ、いったいなにが普通にレンズと違って、どうして子ども撮影に便利なのか? 筆者が選んだ、最大撮影倍率が2.0倍という、普通のマクロレンズの2倍の超近接撮影が楽しめる「LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APO」の魅力を含め、子ども撮影に100mmマクロが必携の理由を解説していきます。
執筆者のプロフィール
齋藤千歳 (さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラバッグなどのカメラアクセサリー、車中泊グッズなどの記事も執筆している。目下の悩みは月1以上のペースで増えるカメラバッグの収納場所。
マクロレンズは普通のレンズと何が違うの?
最大撮影倍率が0.5倍を越えるものがマクロレンズ
マクロレンズというと、「被写体を画面内に大きくとらえてアップで撮影できるレンズ」というイメージでしょう。しかし、ただ「アップで大きく撮影できる」というだけでは、かなりあいまいな解釈です。
レンズのなかでも、最大撮影倍率が大きなレンズをマクロレンズといいます。一般的には、レンズのスペック表にある最大撮影倍率が0.5倍から1倍(等倍)程度のレンズを、マクロレンズと呼ぶことが多いです。
では、何が等倍であったり、0.5倍であったりするのでしょうか?
35mm判フルサイズを基準に、撮像素子やフィルムの撮像面(36mm×24mm)に、36mm×24mmの範囲をそのまま写すことのできるレンズを、1倍(等倍)のマクロレンズと定義しています。
1倍(等倍)マクロレンズのイメージ
10円玉の直径は23.5mmです。ですから、写真の短辺(24mm)ほぼいっぱいに10円玉を撮影できるレンズは1倍(等倍)マクロといえます。
単純に考えると、10円玉をほぼ画面の短辺いっぱいに撮影でき、500円玉(直径26.5mm)だと少し画面の短辺からはみ出すと覚えておくとよいでしょう。
0.5倍マクロレンズのイメージ
また、撮影倍率0.5倍、ハーフマクロなどと呼ばれる撮影倍率で撮影すると、10円玉は下記にように写ります。画面全体に写る範囲は、72mm×48mmになります。
画面中央に写る10円玉は、予想以上に小さくなったと思いませんか? 「0.5倍マクロといっても、意外とアップにできないんだな」と感じた方も多いでしょう。0.5倍マクロでも、アップには限界があるわけです。
最大撮影倍率0.12倍レンズのイメージ
では、一般的な85mmのポートレートレンズでは、どのくらいアップにできるのでしょう。85mm単焦点レンズは、最短撮影距離が85cm程度、最大撮影倍率は0.12倍程度です。
85mmで最大撮影倍率0.12倍のポートレートレンズで撮影すると、10円玉は最大のアップでも以下の写真程度のサイズになります。
赤ちゃんのパーツを撮るにはマクロレンズが必携
実際のところ、赤ちゃんは非常に小さいのです。我が家の息子は、1カ月検診で約5,400gとかなり大柄ですが、例えば目は10円玉よりずっと小さい。当然、生まれてすぐのころは、目や鼻、耳、手足などのパーツはさらに小さくなります。
ですから、生まれたての赤ちゃんのパーツをアップで撮影すると考えるなら、1倍(等倍)マクロクラスの近接撮影性能が必要といえるでしょう。そのため筆者は、赤ちゃんの撮影には等倍クラスのマクロレンズが必携と考えます。できれば、生まれる前に用意しておきたいレンズです。
各社から発売されている100mmマクロレンズ
マクロレンズのなかでも100mmといえば、プロカメラマンで持っていないという方は少数派だと思います。花や昆虫などの撮影だけではなく、100mmの中望遠が生み出す遠近感は商品撮影などでも多用するので、ほとんどのプロカメラマンにとっては必携です。
そのため、カメラメーカーの純正レンズはもちろん、多くのレンズメーカーからさまざまな特徴をもつ100mmマクロレンズが発売されています。その一例を紹介します。
Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACRO
Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACRO実勢価格4万円台~と、カメラメーカー純正の100mmマクロレンズに比べてコストパフォーマンスの高さが魅力の1本です。当然、等倍マクロに対応します。
赤ちゃんの身体のパーツのなかでも筆者が好きな足をアップで撮影しました。AFは若干遅いですが、高い解像力が魅力の100mmマクロになっています。
SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM
マクロ撮影では通常の撮影に比べて、ぶれが目立ちやすくなります。そのため、手ぶれ補正が搭載されているSIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSMは安心感があります。
赤ちゃんの手の指を撮影しています。握った状態で、人さし指から小指まで約4.5cmしかありません。マクロレンズでなくては画面いっぱいに撮影できないでしょう。
LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APO
LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APO は、AF非搭載のマニュアルフォーカスレンズですが、等倍マクロを越える最大撮影倍率2.0倍での撮影が可能です。
最大撮影倍率2.0倍と、等倍マクロを凌駕するとアップでの撮影が可能です。そのため、赤ちゃんの手というより、指の先だけを被写体にして撮影できます。
赤ちゃん撮影に筆者がLAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOを使う理由
赤ちゃんの爪の先をアップできる最大撮影倍率2.0倍
生後約1カ月で体重が5kg台後半のうちの子で実測したところ、握りこぶしは約4.5cm、足のサイズは8cm、目頭から目尻までは約2.5cm程度しかありません。当然、新生児はもっと小さいわけです。
しかし、子どもを撮影しているうちに、手の指の爪やおへそ、足の指といった細かなパーツまで鮮明に残しておきたい衝動に駆られます。
それを可能にしてくれるのが、一般的な100mmマクロレンズの最大撮影倍率1.0倍を超える、LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOの最大撮影倍率2.0倍です。これが赤ちゃん撮影に筆者がLAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOを使う最大の理由になっています。
2.0倍マクロレンズのイメージ
10円玉を撮影しました。画面全体に写る範囲は18mm×12mmになります。10円玉の中心部だけを切り抜くように、アップで撮影できていることがわかります。
赤ちゃんだけでなく花や昆虫の撮影にも
いくら赤ちゃんが小さいとはいえ、等倍マクロで十分という考え方もあるでしょう。しかし、逆に最大撮影倍率2.0倍のLAOWA100mm F2.8 2X Ultra Macro APOであれば、等倍マクロでは絶対に不可能な描写が可能だといえます。
これは赤ちゃんの指の爪のアップを撮影するときだけでなく、花や昆虫などを撮影するときも同じなので、他の人とは差別化された表現が手に入るわけです。また、LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOでは、当然等倍マクロの撮影も可能です。
以下の写真は、撮影倍率等倍付近で撮影した、我が子の瞳です。まつ毛がどのように生えているのかがわかるレベルのアップになっています。
無限遠はもちろん通常距離での撮影もできる
最大撮影倍率が等倍を越えるようなレンズでは、マクロ撮影には強いがマクロ以外の距離での撮影ができないというレンズもあります。しかし、LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOは、最大撮影倍率2.0倍のマクロ撮影も、ピントが無限遠にあるような遠景の風景撮影も、レンズ1本で可能です。
そのため、開放F2.8の近接に強い中望遠レンズとしても活躍してくれます。多くのマクロレンズがそうであるように、LAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOも解像力が高く、ぼけも美しいので、優秀な中望遠レンズとして活躍してくれるわけです。ピーキング機能を使えば、通常距離の撮影はマクロ撮影に比べてピント合わせも簡単です。解像力が高く、ぼけも美しいのがみてとれるでしょう。
マクロでの赤ちゃん撮影設定
絞り値とシャッター速度の設定
マクロ撮影時にも、筆者はだいたい絞り優先AEを使うことが多いです。撮影モードをAv もしくはAに設定するカメラが多いでしょう。すると絞り値を撮影者が設定し、シャッター速度をカメラが自動で決定してくれるモードになります。ISO感度はオートに設定しましょう。これで基本的に、比較的手ぶれしづらいシャッター速度になるように、カメラがISO感度を自動で設定してくれるはずです。
ただし、今回メインで使用しているLAOWA 100mmF2.8 2X Ultra Macro APOなど、カメラ本体とレンズが各種情報のやりとりを行わないタイプのレンズでは、カメラが選択してくるシャッター速度が遅くなることがあります。そんなときはシャッター速度優先AEを選択して、レンズで絞り値を設定、ISO感度オートで画像の明るさを調整するという撮影方法も便利です。100mmマクロでは1/100秒前後が撮影しやすいと思います。
ピントがシビアなので状況によってはMFも活用
次に、ピント合わせについてです。顔が入るシーンでは、顔や瞳を検出してピントを合わせてくれる機能のあるカメラなら、顔・瞳AFを使うのがおすすめです。ただし、目を閉じているシーンや各部のアップでは使えないので、画面内の1点を選択してピントを合わせる1点AFとAF-Sなどと呼ばれるシングルAFを組み合わせて使うとよいでしょう。
とはいえ、マクロ域の撮影ではピントが非常にシビアなので、それでも思うようにピントが合わないときはマニュアルフォーカス(MF)を試してみてください。ミラーレス一眼などでは、ピーキングと呼ばれる機能でピントの合っている部分に色をつけて表示してくれたり、ピント位置を拡大表示する機能が搭載されたりすることも多いです。一眼レフよりも容易にMFでピント合わせができることも多いので試してみてください。
ぼけの調整
撮影距離の短いマクロ撮影では通常の撮影に比べて、大きなぼけが発生しやすくなっています。そのため、100mmマクロの多くは開放でもF2.8程度とさほど明るく感じないのに、ぼけ過ぎるという問題が起きることがあります。そんなときは、絞りを絞ってF4.0やF5.6なども試してみましょう。
さらに赤ちゃんを撮影するときにカラーモードを指定できるカメラなら、ポートレートモードやスタンダードをおすすめします。また、露出補正という撮影画像の明るさを調整する機能、調整するボタンなどに「+/-」と描かれていることが多いです。この露出補正を最初は+1.0EVぐらいに設定して、撮影の画像の明るさを確認しながら調整するとよいでしょう。
多めにシャッターを切るのが成功のポイント
マクロ撮影は、ピンぼけや各種ぶれが非常に発生しやすいシビアな撮影です。プロのカメラマンでも1枚だけ撮影してオッケーということは、ほとんどない撮影なので、同じようなシーンでも最低3枚、気に入ったシーンなら10枚くらいは撮影しておく、多めにシャッターを切るのが成功のポイントといえます。
以下の写真は、成長と共になくなるという臍ヘルニア(出べそ)です。将来、本人に見せてやろうと最大撮影倍率等倍をやや越えるアップで撮影しました。
まとめ
小さな赤ちゃんをより大きく撮影できるマクロレンズは必携
赤ちゃんは非常に小さく、普通のレンズでは「思ったよりもアップにできない」という問題が発生します。そのため筆者は、普段から使い慣れている100mmマクロ、しかも、最大撮影倍率が2.0倍であるLAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOを赤ちゃんのマクロ撮影のメインに選択しました。
しかし、100mmでなくても、最大撮影倍率2.0倍でなくても、赤ちゃんが生まれる前にマクロレンズは1本用意しておくことをおすすめします。握りしめられた小さな手や、真っ赤になって泣き叫ぶ顔など、もっとアップで撮影したいと思うシーンがたくさんあるはずなのです。特に生まれた直後は本当に小さいので、普通にレンズでは思うようにアップにできず、せっかくのシャッターチャンスに残念な思いをすることもあるので、マクロレンズは必携といえます。
筆者の場合は、等倍のマクロレンズでは不可能な、さらなるアップで手足のツメ、ヘソの先端といった、より細かな表情を撮影したいと考え、最大撮影倍率が2.0倍のLAOWA 100mm F2.8 2X Ultra Macro APOを自分の子を撮影するメインのマクロレンズと考えました。ただし、AFのないMFレンズであること、最大撮影倍率の2.0倍付近でのピントのシビアさなど、誰にでも使いやすいレンズとはいえない部分のあります。そのかわり、ほかの人とは違った表現でわが子を撮影できるもの事実です。
このあたりを理解したうえで、最大撮影倍率を優先するのか? 価格か? 手ぶれ補正か? やはりカメラメーカー純正か? ご自身の好みで100mmマクロを選択してみてください。100mmマクロは基本的に優秀なレンズが多く、どの100mmマクロを選択しても、生まれてくる赤ちゃんのために100mmマクロを用意したことを後悔することはないと思います。