【とろけるチーズ】なぜ伸びる?加熱せず食べるのはNG?「とろける」と「溶ける」の違いなど素朴な疑問を徹底調査

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すっかり日本の食卓になじんだチーズ。今では、世界中のさまざまなチーズを手軽に食べることができますが、筆者が子供のころは、チーズといえばブロックタイプのプロセスチーズ一択でした。その後、スライスチーズが現れ、さらに「とろけるチーズ」が登場したときには、「ハイジのチーズだ!」と感激したものです。それにしても、とろけるチーズって、とろけないチーズと何が違うのでしょうか?そんな素朴な疑問を解明すべく、雪印メグミルク株式会社 広報IR部に取材しました。

「とろける」「とろけない」は乳化剤の違い

*以下、太字は筆者の質問、並字は雪印メグミルク株式会社 広報IR部 の回答です。

雪印メグミルクのホームページには、1980年代後半に「とろけるスライス」(スライスタイプのとろけるチーズ)を開発したとの記載があります。「とろけるチーズ」と「とろけないチーズ」との一番の違いは何でしょうか

今回のお問い合わせはプロセスチーズのお話ですね。プロセスチーズの場合、「とろける」「とろけない」の一番の違いは、「使用している乳化剤」です。使っている乳化剤の違いにより、熱をかけた際の溶融性(溶け方)に違いが出ます。加熱による溶融性は、たんぱく質の状態によって変わります。たんぱく質がつながっているチーズは加熱すると糸を引くようにとろけ、たんぱく質の分解が進んだチーズは、加熱しても糸を引くようにはとろけません。

プロセスチーズ製造における乳化剤の働きは、大きく2つあります。

(1)原料チーズのたんぱく質とカルシウムの結合を組み替える。
(2)たんぱく質(カゼイン)をほぐす。

とろけるチーズは、(1)(2)の働きが弱い乳化剤を使用し、たんぱく質がつながっているため、熱で糸を引くようにとろけます。一方、とろけないチーズは、(1)(2)の作用の強い乳化剤を使用して、たんぱく質がほぐしています。そのため、加熱しても糸を引くようなとろけ方はしません。

【参考】雪印メグミルク チーズクラブ「チーズがとろける秘密」

たんぱく質のつながりは目に見える

とろけないスライスチーズの原材料は「ナチュラルチーズと乳化剤」ですが、「とろけるスライス」には安定剤が添加されています。安定剤で、たんぱく質の分解を抑えるということですか。

安定剤の用途は、「たんぱく質の分解を抑制する」ためではありません。「とろけるチーズ」に使用されている安定剤(=増粘多糖類)は、粘度を付与し、なめらかな食感に仕上げるため使用しています。先述したように、「とろけるスライス」は、たんぱく質(カゼイン)をほぐす作用の弱い乳化剤を使って、たんぱく質の結合の組み替えを抑制しています。

「たんぱく質がほぐれている」「ほぐれていない」というのは、見た目にはわからないことですよね?

実は、わかるんです。

とろけない「スライスチーズ」と「とろけるスライス」は、見た目にあまり違いはありません。もし、パッケージからはがしたあと、「どっちがどっちかわからない!」というときの見分け方があります。

チーズを手で裂いてみてください。一定方向にだけ、きれいに裂けるのが「とろけるスライス」です。これは、たんぱく質がつながっているためです。どんな方向にもちぎれるのが、とろけない「スライスチーズ」。たんぱく質がほぐれているからです。

やってみました。ほんとだ!

プロセスチーズの「とろける」「とろけない」の違いはわかりました。では、ナチュラルチーズはどうでしょう?ナチュラルチーズのなかにも、加熱してとろけるチーズと、とろけないチーズがありますよね。その違いは何でしょう。

まず、ナチュラルチーズの説明をしましょう。ナチュラルチーズは、生乳などを乳酸菌や凝乳酵素で凝固させ、ホエイ(乳清)の一部を除去したもの、または、これを熟成させたものをいいます。熟成タイプと非熟成タイプがあり、熟成タイプは時間が経つごとに味の変化が楽しめます。
プロセスチーズは、ナチュラルチーズに乳化剤などを加えて加熱して溶かし、再び成形したものです。加熱処理により乳酸菌は死滅しているので、熟成が進むことがなく、ナチュラルチーズに比べて保存性に優れています。

さて、ナチュラルチーズのとろける性質は、チーズ中のカルシウム含量と脂肪含量に関連しています。

・カルシウム含量:カルシウム含量が低いチーズは溶けにくくなります。
・脂肪量:脂肪量が高くなると軟らかく溶けやすくなります。

チーズがとろける性質を「メルト性」と言います。100gあたりのカルシウム含量が約500mg未満のチーズは、メルト性がありません。例えば、カッテージやフェタなどです(*)。これらは加熱しても軟らかくならず、逆に硬く締まってきます。
*一部例外があります。例:クリームチーズ…カルシウムの量は少ないですが脂肪が多いのでとろけます。

また、熟成タイプのナチュラルチーズは、熟成すればするほどコクが出ますが、そのかわり、たんぱく質が分解するので、加熱したときに糸を引かなくなります。たんぱく質が分解するととろけなくなるのは、プロセスチーズと同じです。

「加熱用チーズ」は絶対に加熱すべし!

ピザ用チーズに「加熱してお召し上がりください」という表示を見ることがありますが、加熱しないと食べられないのでしょうか。「加熱したほうがおいしい」というだけですか。

パッケージに「加熱用」と記載されているのは、法令に基づく表示です。リステリア菌による食中毒を防ぐために、加熱殺菌が必要なチーズに表示が義務づけられています。

パッケージに「加熱用」と記載されているシュレッドタイプのナチュラルチーズは、必ず加熱してからお召し上がりください。

ちなみに、当社の「とろけるスライス」はプロセスチーズで、すでに加熱処理してあるため、リステリア菌の心配はありません。「とろける」状態で食べることを前提としたチーズなので、加熱した方がおいしいですが、そのままでもお召し上がりいただけます。

【参考】雪印メグミルクお客様センター よくある質問「チーズのリステリア菌が心配です。」

我が家にあったピザ用チーズ、2つとも「加熱用」でした。

チーズケーキのレシピはなぜ「とろけないチーズ」なのか

「加熱用」の文字、今までよく見てなかったかもしれません……。食中毒のリスクがあるのですね。気をつけます。

最後に、「スライスチーズで作るケーキ」について伺います。雪印メグミルクのホームページでも、スライスチーズを使ったケーキのレシピが紹介されていますが、「とろけるスライス」ではなく、とろけない「スライスチーズ」を使うのはなぜでしょう。なんとなく、「とろけるスライス」のほうが滑らかに溶ける気がするのですが……。

最初の質問でお答えしたように、「とろけるスライス」は、たんぱく質をほぐす働きが弱い乳化剤を使っているため、水に溶けにくい性質を持っています。レシピでは、チーズを牛乳で煮溶かす過程がありますが、その際に完全に溶融せず粒々が残り、膨らみや口当たりに影響が出ると考えられます。そう言った理由で、とろけない「スライスチーズ」を使用したレシピを紹介しています。

【参考】「雪印メグミルクのお料理レシピ スライスチーズで作る!スフレチーズケーキ」

やってみた。とろけない「スライスチーズ」(左)は牛乳に入れて加熱したら跡形もなく溶けたが、「とろけるスライス」(右)は長時間煮ても粒々が残った。「とろける=溶ける」ではないのだ。

まとめ

「とろけるチーズと、とろけないチーズの違いを知りたい」という、素朴な疑問から始まったこの企画。今まで気づかなかったことや、知らなかったことをたくさん教えていただきました。雪印メグミルクのホームページは、読み応えのある記事がたくさんあり、写真もキレイで、おもしろすぎて私は今回、完全に沼にハマってしまいました……。ぜひのぞいてみてください。
▼雪印メグミルク(公式サイト)
▼チーズクラブ(雪印メグミルクのチーズ情報サイト)

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