写真を撮る際、多くの人は “色” に注目するはずです。肉眼に近い色調が得られているか? 主題となる被写体の色再現性が満足できるか? そういった点を意識しながら、画質関連の機能の使用や設定変更をおこなうのです。しかし、実物の色を排除した「モノクロ写真」には、カラー写真とは違うアプローチが必要になります。
モノクロ写真の魅力と撮影方法
カラー写真とは違うアプローチ。それは、単にデジタルカメラの設定を、カラーからモノクロモードに切り替えるだけではありません。撮影する風景や被写体の見極めに関しても、“モノクロ写真の意識”に切り替える必要があります。
あまり難しく考える必要はありませんが、カラー写真とは違うモノクロ写真の特性は、ある程度、把握しておいた方が良いでしょう。そうすれば、普段撮影しているカラー写真とは違う、モノクロ写真の味わいや魅力が堪能できるでしょう。
写真を表わす英語「photograph」の語源は、光(photo)と、書く・描く(graph)です。この名前からも分かる通り、写真撮影にとって「光」は極めて重要な要素に挙げられます。
“白から黒までの階調再現”で表現されるモノクロ写真は、実物の色彩を排除しているぶん、その光の存在感や質の違いを「より強く」意識できます。また、肉眼とは異なる描写ゆえに、見る側のイメージ(想像)も膨らんでくるのです。そのあたりが、モノクロ写真の魅力的な部分と言えます。
私が作品創作活動に勤しんでいた若かりし頃、撮影旅行に持参するフィルムを、主に使用していたモノクロに絞るか、カラーリバーサルも持参するか(カメラボディも追加する前提)で、大いに迷ったものです。
しかし、デジタルカメラの場合は、撮影機能の設定変更だけで、簡単にカラーとモノクロの使い分けができます。写真の出来映えを選択する、仕上がり設定(一般的な呼称=ピクチャースタイル、ピクチャーコントロール、ピクチャーモード、クリエイティブスタイル、など、メーカーによって名称は異なる)の設定を、通常のスタンダードやナチュラルから「モノクロ」や「白黒」に変更するだけです。
ただし、被写体や撮影シーンによっては、後から「これはカラーで撮った方が良かったかも」と、後悔する場合もあるでしょう。それに対処する方法は、撮影時の画質設定を、RAWやRAW+JPEG(同時記録)モードに設定する事です。そうすれば、撮影時の仕上がり設定とは関係なく、後からRAW現像によって、カラーでもモノクロでも好きな仕上がり設定の画像が得られるのです。
「暗い室内」と「日差し」の対比で、奥行きや静寂感を表現
メリハリのあるモノクロ描写で、カリヨンの堅硬な材質感を表現
フィルター効果を積極的に活用する
色彩と明暗のギャップを補正
最初の方で、モノクロ写真では「カラー写真とは違うアプローチが必要」や「モノクロ写真の特性を把握する」といった助言をしました。それは、肉眼で「これは良い!」と感じた風景や被写体が、モノクロ設定では必ずしも良い仕上がりになると限らないからです。
その、カラーとモノクロの印象ギャップの要因に挙げられるのが、“色彩の違いによる明暗再現の差”です。
たとえば「赤色」。
この派手で目立つ色彩も、通常のモノクロ設定で撮影すると、“暗くて地味な描写”になります(赤色の濃度にもよりますが)。それによって、狙った赤い被写体が、周囲の絵柄に埋没した残念なモノクロ写真になったりするのです。
そういう場合には、モノクロ撮影用の「フィルター効果」が有効です。
橙色や赤色のフィルターを設定すれば、赤系統の色が明るく再現されます。フィルムカメラでは、フィルターをレンズ前面に装着していましたが(後部に装着するレンズもありますが)、デジタルカメラではメニューなどで機能を呼び出して設定するだけです。
通常のカラーモード撮影
モノクロモード撮影:フィルター効果なし
モノクロモード撮影:赤色フィルター使用
フィルターワークでイメージを追求
モノクロ(白黒)用のフィルターには、黄色、橙色、赤色、緑色、などがあります。
黄色、橙色、赤色のフィルターは、コントラストを高めたり、青空に深みを出したりする、などの用途で使用されます。そして、緑色のフィルターは、人物の唇の濃度を適度に高めたり、新緑風景を明るく表現する場合などに使用されます。モノクロ撮影の場合、フィルターの色と同系統の色は明るく写り、その補色(対象色)にあたる色は暗く写るのです。
先ほどは、赤色の被写体を明るく再現するために、赤色フィルターを使用しました。
しかし、風景のモノクロ撮影では、別の目的で赤色(もしくは橙色)フィルターがよく使われています。それは、晴れた日の青空を暗く再現するためです。まあ、この場合は「暗く」という表現よりも「深み」という表現の方が適切でしょう。その深みを出す事で、重厚な雰囲気などが演出できるのです。
このように、カメラの「フィルター効果」を利用すれば、自分が求めるイメージに近いモノクロ写真に仕上がります。
赤色フィルター使用
フィルター効果なし
「調色」や「硬調モード」で表現の幅を広げる
モノクロ撮影では、いかに自然な明暗や階調が再現できるか…という所が、基本的な調整ポイントになります。ですが、自分の創作イメージや被写体によっては、自然な再現から逸脱するのもアリだと思います。
一般的に「モノクロ写真」と「白黒写真」を混同しがちですが、実はその定義は異なります。
モノクロは、モノクローム(monochrome)の略であり、“単色”を意味します。ですから、白黒写真も、モノクロ写真に含まれます。
しかし、白黒(色彩のないニュートラルグレー)でなくても、単色であれば「モノクロ写真」と呼べるのです。デジタルカメラの「調色」機能を使用すれば、色を変えたモノクロ写真が簡単に楽しめます。ちなみに、調色で代表的なのは、セピア、青、紫、緑、といった色になります。
また、自然な明暗や階調再現とは異なる独特な描写のモノクロモードも面白いでしょう。
特におすすめしたいのが、ハイコントラストで光や影が強調される硬調なモードです。今回の作例撮影に使用したメーカーだと、オリンパス(現在はOMデジタルソリューションズ)なら「ラフモノクローム」(※)、ニコンなら「グラファイト」(※)。これらが硬調なモノクロモードにあたります。
※オリンパスの「ラフモノクローム」はピクチャーモードの項目から設定できるが、機能としては「アートフィルター」に属する。ニコンの「グラファイト」も通常のピクチャーコントロールではなく、より細やかに作り込んだ「クリエイティブピクチャーコントロール」に属する。
調色「セピア」でノスタルジー感が増す
硬調で粗い「ラフモノクロームI」で絵柄を強調!
「グラファイト」で晴れの光景をドラマチックに
まとめ
“モノクロ限定”の撮影で、被写体や撮影テーマを追求したい
私が、フィルムカメラをメインに使用していた頃、前述の通り“モノクロに絞るか、カラーリバーサルも持参するか”で、大いに迷いました。ですが、両方持参してみると、無意識のうちに一方に片寄っていました。この事は、モノクロ写真を意識した視点とカラー写真を意識した視点は、両立させるのが難しい…という事の証明のような気がします。
もちろん、デジタルカメラの場合には、フィルムカメラのような物理的な問題(持参する物が増える)は生じません。ですが、モノクロで撮るか、カラーで撮るか…の、撮り分けの問題は生じてきます。
ですから、モノクロ写真にトライする際には、被写体や撮影テーマなどで「ここはモノクロだけで撮る!」と、ある程度腹を括る事をお勧めします。そうすれば、肉眼での光景をモノクロ化した時の感覚ギャップも、自然と少なくなるでしょう。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。