敷地の広さや形状、日当たりの具合などによって、庭にしにくいと感じる場所があります。しかし、目隠しを用意したり、植物の選び方を工夫したり、構造物をプラスするなど、アイデア次第で花が咲く素敵な庭に変えることができます。日照条件に応じた上手な庭活用について、書籍『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』著者でガーデンデザイナーの阿部容子さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
阿部容子(あべ・ようこ)
ガーデンデザイナー・造園家。岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンの「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共・企業・個人の庭を全国各地でデザイン、施工。「ぎふ国際ローズコンテスト」審査員。岐阜県「ぎふワールド・ローズガーデン」でも活躍。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、ホスピタルガーデンも施工する。
二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダなどで研修後、長野県飯田市「セイセイナーセリー」にて宿根草などを栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザイン。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年英国チェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダル受賞など受賞歴多数。
本稿は『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
実例に学ぶ小さな宿根草ガーデン
敷地の広さや形状、日当たりの具合などによって、庭にしやすい場所もあれば、庭にしにくいと感じる場所もあります。
しかし、目隠しを用意したり、植物の選び方を工夫したり、構造物をプラスするなど、アイデア次第で花が咲く素敵な庭に変えることができます。
庭づくりのヒントが詰まった10の実際の庭を紹介します。狭いスペースも方法次第で見どころいっぱいの庭になります。
植物が映える装飾壁のある庭
日陰の花壇とくつろぎのテラス
奥行き2mのクレマチスとバラの前庭
フレームを利用した立体的な庭
家を一周ぐるりと散策できる庭
鉢植えと壁面を最大限生かした庭
花々と緑で彩られた前庭と帯状花壇
目隠しにもなるクレマチスのカーテン
つるバラの前庭と宿根草リーフの小道
ベンチを備えたサークル花壇
本稿は『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
日照条件に応じた上手な庭活用 日陰の花壇とくつろぎのテラス
▼花壇
サイズ:奥行60cm、幅3.3m
方 角:北東向き
植物数:宿根草7種、樹木4種
庭 歴:3年
隙間時間でつき合える庭
以前は緑化用の樹木が3本植えられていた玄関横のスペースです。
公道に面し、家の顔にもなるこの場所を明るい雰囲気に変えようと、日陰でも育つ樹木と下草を選んで花壇につくり替えて3年。
タイムとアジュガが自然に這い広がり、ねらい通り花壇の縁を這って、より緑豊かに見えます。
丸見えだった配管や排水溝の蓋を隠すことにも成功。
枯れ葉を除去する程度のお手入れで、花や緑の変化が年中楽しめる、見飽きない庭になっています。
▼下草が花咲く4月
▼アジサイが咲く6月
(1)オステオスペルマム
クリーム色の花が4~5月に咲いて明るさを添えてくれます。
紫がかった花心がアジュガの花色とも調和。花期以外も緑の葉が豊かに茂ります
(2)アジュガ
這って広がる植物がタイム・ロンギカウリスだけでは物足りないと一緒に植えたアジュガ。
花がない時期は銅葉がナチュラルな雰囲気をつくります。
(3)タイム・ロンギカウリス
花壇の手前はライトの配線が埋まっているため、土が少なく浅くても育つ植物をセレクト。
花壇の縁を隠し、石張りの面まではみ出しながら育っています。
(4)アジサイ
(5)カシワバアジサイ
大ぶりの花が咲き、日陰でも育つカシワバアジサイとアジサイは葉がよく茂って基礎の立ち上がり部分を隠してくれています。
また、カシワバアジサイの背後にある配管もすっぽり隠れて一石二鳥。
(6)シロタエギク
シルバーリーフが美しいシロタエギクを花壇のアクセントとしてセレクト。
初夏に黄花を咲かせながら夏を越し、元気に成長。
オベリスク
オベリスクつきのアイビーの鉢植えの下は、じつは排水溝の蓋。
植物が植えられない悪条件を鉢植えを使ってクリアしました。
プロからのコメント
どういう花壇にしたいか、目標と課題を見つけてから植物を選び、配置したことで希望を叶えた事例です。
見る人に、配管や排水溝の蓋の存在を感じさせない工夫は見事ですね。
敷地をフェンスで区切らずにオープン外構にしたことで、植物にも日光が十分に当たり、道ゆく人にも楽しんでもらえます。
植えつけて3年とのことですが、これから先は茂ってくるものも増えるので、間引いたり、剪定する引き算のコツを身につけながら、長く維持していくのがポイントです。
本稿は『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
俯瞰図
家屋を囲むスペースに花壇とテラスを配置。手前が公道。
敷地を区切るフェンスを設けないオープン外構です。
砂利敷きの庭の一部を石張りのテラスに変えたことで、一段と庭らしい雰囲気に。
育ててみたかった宿根草を樹木の下に植えながら、理想の風景になるよう試行錯誤している段階ですが、成功や失敗から植物の性質を学ぶ時間を楽しむ場にもなっています。
テラスには、70cm四方の樹脂製のテーブルと、スタッキングできる椅子を置いてランチも楽しめる場所に。
4.5×3mほどの小スペースでもこのように十分くつろげる場所になります。
足元の石張りが緑と調和して明るい雰囲気。南東側に茂る樹木が周囲の視線をさえぎってくれています。
樹木の1本は、果実が食用できるジューンベリー。
お手入れポイント
以前は一面に白い砂利が敷き詰められていたため、夏の照り返しが眩しく、鉢植えを置いても殺風景でした。
施工店に依頼してクリーム色の石張りのテラスにしたところ、掃き掃除もしやすくなり、汚れたら水をまいて洗い流すこともできるように。
また、雑草が生えるスペースが減ったことも大きな利点です。
▼Before
▼After
本稿は『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
食事やお茶、作業もできる青空リビング
▼テラス
サイズ:奥行4.5m、幅3m
方 角:南東向き
植物数:宿根草8種、樹木7種、バラや灌木16種
庭 歴:3年
樹木の下は好きな植物を植えられるスペースで、春先はチューリップが咲き、バラの季節はジギタリスやギボウシが彩りを添えます。
狭い場所なので、小さな株からゆっくり育てていますが、まだ地面の隙間が多く寂しくなりがち。
それを補うために季節の花を鉢植えにして置いてみたら、気分転換やイメージチェンジに役立っています。
隣家との境のフェンスはステンレス製。軽やかな雰囲気のメッシュで、つるバラをからめるのにもぴったりです。
日差しをさえぎらず風通しもよいので、狭い庭に向いています。
7月に実がつくジューンベリー。
外にテーブルがあると、食事やお茶はもちろん、庭の花を摘んでフラワーアレンジメントをつくる場所にも。
植え替えなどの作業台としても役立ちます。
プロからのコメント
外にテーブルと椅子があるだけで、座ってすごす時間ができて庭の使い方が変わります。
周囲をゆっくり眺めているうちに、庭づくりのアイデアが浮かんだり、日頃気づかなかったことに目が向いたりして、庭にいるからこその発見も。
下草の宿根草は、まだ植えながら様子を見ているとのこと。
すぐに仕上げることを求めず、試行錯誤しながら好みの景色を目指す。これぞガーデニングの醍醐味。
思ったよりもここは日が当たらないとか、寒いとか暑いとか…。そういった周辺環境に敏感になるのも、ガーデニングの面白いところです。
素敵な庭が完成する日が楽しみですね。
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なお、本稿は書籍『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。宿根草は、一度植えると翌年以降も長く庭を彩ってくれます。季節の変わり目に少し手をかけるだけで、庭づくりを無理なく楽しめます。何度も植えつけたり掘り上げたりする手間がかからず、お財布に優しいのも魅力です。本書は、植物の選び方から、プロのガーデンデザイナーのテクニックまで、豊富な写真とともにやさしく丁寧に解説しています。