「初回無料」や「無料サンプル」など、世の中には多種多様な無料サービスがあふれています。成り立つのでしょうか? 無料をコンセプトにしたビジネスモデルは、「フリー戦略」と呼ばれます。フリー戦略について、著者で多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
真壁昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学大学院政策創造研究科教授などを経て、2022年から現職。「行動経済学会」創設メンバー。『ディープインパクト不況』(講談社+α新書)、『2050年世界経済の未来史: 経済、産業、技術、構造の変化を読む!』(徳間書店)、『MMT(現代貨幣理論)の教科書』(ビジネス教育出版社)、『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社新書)など著書多数。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/桔川シン、栗生ゑゐこ、フクイサチヨ、北嶋京輔
無料なのに商売が成り立つ?「無料」のパワーとヒミツ
「初回無料」や「無料サンプル」など、世の中には多種多様な無料サービスがあふれています。成り立つのでしょうか?
「1円も損したくない」という心理を利用した無料サービス。無料の有効性は、行動経済学者アリエリーの実験が有名です。
この実験では、まず高級チョコを15セント、普通のチョコを1セントで販売しました。
すると、73%の人が高級チョコを購入し、普通のチョコを購入したのは27%でした。
次に、高級チョコを14セントで販売し、普通のチョコを無料で提供したところ、高級チョコの購入者は31%に減り、69%が無料のチョコを選んだのです。
どちらも1セントずつ安くなったので、合理的に考えれば高級チョコの購入者が増えるはずが、実際には、無料の魅力に圧倒されたのです。
無料の魅力はビジネスで幅広く活用され、無料(フリー)をコンセプトにしたビジネスモデルは、「フリー戦略」と呼ばれます。
フリー戦略には大別して4種類あります。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
フリー戦略の種類
▼直接的内部的相互補助
「ピザ2枚目は無料」のように、無料サービスを示して有料サービスを購入させる。
▼フリーミアム
試食や無料サンプルのように、商品やサービスを無料で提供し、一部の人に有料サービスを利用してもらう。
▼三者間市場
民放テレビやネットの検索サービスのように、提供者と利用者とは別の広告主(第三者)が費用をまかなう。
▼非貨幣市場
ネット通販のレビューや、SNSの投稿など、注目や評判を得るために無料サービスを提供する。
基本的に、フリー戦略は、「他人に何かをしてもらったら、お返しをしたくなる」という「返報性の原理」を利用して、無料から利益を生み出すことをねらっています。無料につられないためには、フリー戦略の意図を理解して、不必要なモノを購入しないように心がけましょう。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。近年、注目されている「行動経済学」は、心理学の理論を応用した、比較的新しい経済学のことです。伝統的な経済学の理論では、人間は常に合理的という条件を前提にしています。しかし、人間は、ときにはおかしなことをする。ダメといわれると余計にやりたくなってしまう。常に合理的とは限らない“私たち”がつくっている社会や経済も、理屈通りではありません。それを考察するのが行動経済学です。行動経済学で使われる言葉には、一般的に理解しにくいものがありますが、具体的なイメージをつくることで理解しやすくなります。それを実現したのが本書です。わかりやすいイラストを見ることによって、行動経済学のおもな理論をより深く理解できるだけでなく、日常の生活にも十分に役立ちます。豊富なイラストとともにオールカラーでやさしく解説しています。