〈SDGsで変わる消費生活〉何がどう問題なの?コロナ禍で増えた家庭のプラごみと海洋プラ汚染との関連性について

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プラスチック問題というと、まず「海洋プラスチック汚染」を挙げる人は多いと思います。海岸に打ち上げられているプラスチックごみ(プラごみ)の山や、プラごみを巻き付けた生き物の写真などを目にして、心を痛めた人も少なくないはずです。こうした海のプラごみは、私たち家庭が出すプラごみと、関係あるのでしょうか?一方で、コロナ禍以降、家庭のプラごみも増えたと感じています。気になる「海のプラごみ」と「家庭のプラごみ」。その関連も含め、調べてみました。

<その1>では家庭のプラごみを中心に
<その2>では海のプラごみを中心に
<その3>では解決策について検討して行きます

家庭ごみを調べてみたら…

プラごみが容積比率で55.8%

プラスチックごみ(プラごみ)の問題と聞くと、「海洋プラスチック汚染」のことを思い起こす人は多いでしょう。例えば、ストローが鼻に刺さったウミガメ、漁具などのロープやひもが絡まって動けなくなったり、ポリ袋を飲み込んで死んでしまった鳥や魚などの写真や映像を見かけて、心に深く記憶されているのでなおさらです。

一方、毎日の生活のなかでも、プラごみが増えているように感じませんか?

コロナ禍以降、在宅時間が増えて、家庭で食事をする機会も増え、気づけば、ごみ箱がいっぱいになっているようなケースも少なくないように思います。特に、テイクアウトの容器や宅配の梱包材などは、かさ張ります。また、それらの素材は、プラスチック製のものが多く、その材質によって食品を衛生的に、鮮度や美味しさ、見栄えなどを保ってくれる頼もしい存在ですが、中身を食べてしまったら、それらの容器はごみと化してしまいます。

「再使用(リユース)しましょう」と言われたりもしますが、とても追いつきません。こうした家庭のプラごみと海のプラごみには関係があるのでしょうか?調べてみることにしました。

まずは、家庭ごみの実体から

図表(1)-1は、2021年度の家庭ごみの内訳です。湿重量比率では「厨芥類(台所から出る野菜くずや食べ残しなど、いわゆる生ごみ)・他」や「段ボール・紙類」が、それぞれ3割前後に上るものの、一方で容積比率では「プラスチック容器」が50.4%と家庭ごみの半分以上を占めました。

容器包装以外の「プラスチック」も合わせると、55.8%になります。「繊維」の多くにもプラスチックは使われているので、プラごみとしての割合はさらに増えるでしょう。

これじゃ、かさ張るわけです。

次いで、図表(1)-2のように約10年前(2009年度)とも比べてみました。すると「プラスチック容器」の割合が急増しているのが分かります。一方で「厨芥類・他」は半分以下に減っています。台所から出る生ごみが減った分、テイクアウトやデリバリーなどを利用する機会が増えたからかもしれません。

実際に、どんなプラスチック製の容器包装ごみが増えたのでしょうか?

「個包装」もプラごみを増やす原因?

有料化でも減ってない!レジ袋

図表(1)-3のように、プラスチック製の容器包装ごみのうち、「発泡スチロールトレイ」を除く、「PETボトル」「パック・カップ・弁当容器」「レジ袋」「その他のプラスチック」が増加しました。一方、プラスチック製以外の紙製・金属製・ガラス製は、金属製(アルミ缶やスチール缶など)を除いて減少しています。これは、プラスチック製への移行が進んだためでしょう。

急増した「その他のプラスチック」で、最も多いのは「商品の袋・包装」です。どんなものが含まれるかと言えば、お菓子や加工食品、野菜などの袋、外装フィルム、ボトルのキャップやラベルなどです。少量ずつに分けて包装する「個包装」も、プラごみを増やす原因のひとつかもしれません。それぞれの包装は小さくても、チリも積もれば……です。

もっとも、個包装には「食品ロス」を減らすという役割を担っている一面もあります。プラスチック包装は密封性が高く、酸化や湿気、細菌などの侵入を防いでくれるので、賞味期限を延ばすことができます。包装を開封した後は「できるだけ早くお召し上がりください」といった記載をよく目にしますが、食べ切れる量ごとに個包装されていると、まだ開封していない分は安心して取って置けますよね。

野菜の袋では、逆に、野菜の呼吸を助けるため、目に見えない小さな穴を開けて鮮度を長く保っています。野菜の種類によって、どのくらいの大きさの穴をいくつ開けるか異なると言われます。それだけ多くの野菜の鮮度を保つために、包材の開発がされてきたということです。

食品によって、プラスチック素材を複合したり、添加剤を加えたりすることも、プラごみのリサイクルを難しくしている原因になっています。さらに、「その他のプラスチック」には、緩衝材や梱包材、PET以外のプラスチックボトルも含まれます。

「パック・カップ・弁当容器」も、「その他のプラスチック」と同じくらいの割合で増えました。先述した「テイクアウトやデリバリーなどの利用が増えたからかも」という推測を裏付けるような結果です。

そして、気になるのが「レジ袋」です。レジ袋は、2020年7月に「有料化」されたのに、減っていません。それはなぜなのでしょうか?!

レジ袋有料化とセットで導入された無料配布していいレジ袋

いつもマイバックを持ち歩き、レジ袋を断っている人は多いと思います。コンビニでさえ、レジ袋有料化によって、レジ袋を断る客の割合が7割を超えたと言います。しかし、テイクアウト店舗とか、駅や空港の売店などではどうでしょう。買った商品を無料でレジ袋に入れてくれることがありませんか?

レジ袋有料化と同時期に、環境省令によって有料にしなくてもいいレジ袋も決められました。以下のような「環境性能」を示すマーク(記号)を付けたり、記載したりしているレジ袋なら配布していいというのです。

(1):フィルムの厚さが50㎛(マイクロメートル)以上で、繰り返し使用を推奨するマークや記載がある。➡事例として図表(2)-1

(2):海洋生分解性プラスチックの配合割合が100%であることを第三者により認定か認証されたマークや記載がある。➡20年7月時点で国際基準となるような技術的手法は確率されていない

(3):バイオマス素材の配合率が25%以上であることを第三者により認定か認証されたマークや記載がある。➡事例として図表(2)‐2

図表(2)に挙げた事例のレジ袋は、(1)、(2)ともに私が住む近所のスーパーマーケットでもらったものですが、こうしたマークや記載を目にする機会が増えました。

図表(2)-2には、2つもマークが付いています。左は日本有機資源協会による認定マーク、右は日本バイオプラスチック協会による認証マークです。

左のマークは、日本有機資源協会による認定マーク、右のマークは、日本バイオプラスチック協会による認証マーク。

このような例外がつくられたことで、レジ袋のごみは減らなかったのでしょうか?

しかし、一方で図表(3)のように、レジ袋の国内出荷量は、2017年以降2021年まで減り続けているうえに、レジ袋にも利用されるポリエチレン袋の輸入量も2019年以降は減っています。

つまり、レジ袋そのものが減っているということで、今後はレジ袋のごみも減っていくことになるのでしょうか?

「プラ新法」の背景

今年4月に「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」が施行されました。使い捨て(ワンウェイ、シングルユース)されやすいプラスチック製のスプーンやフォーク、ストローなど12品目を「特定」し、「使用の合理化」によってプラごみの排出を抑制するとともに、適正なリサイクルを促すことを目的とした法律です。

当初は、レジ袋のときのように有料化されるのかと思いましたが、コンビニやファミリーレストランの多くでは、軽量化・肉薄化してプラスチックの使用量を減らしたり、木や紙、金属製など他の素材に変更したり、有料化を避ける対応が目立ちました。有料化だけが、プラごみの排出を抑制する「使用の合理化」ではないということなのでしょう。

では、使用の合理化とはどういうこと言うのでしょうか?

使用の合理化とは

「使用の合理化」とは、有料化を含め、先述した軽量化・肉薄化、他の素材への変更の他に、客への声掛け等で意向を確認したり、断ってもらえたらポイント等の還元を行ったり、繰り返し利用を促したりすることだそうです。レジ袋の有料化のときより選択肢が増えたように見えますが、レジ袋でも有料化の前にはされていたことです。

同法で「特定」した12品目も、レジ袋のように徐々に減らし、必要な場合だけ使用しようということなのでしょうが、レジ袋有料化のときとは異なり、なぜ、わざわざ新しい法律をつくったのでしょうか?

その「背景」も確認しておきましょう。

海洋プラごみ問題など3つの課題

環境省では「海洋プラスチックごみ問題気候変動問題諸外国の廃棄物輸入規制強化等への対応」としています。海洋プラごみは、冒頭にも述べた「ストローが鼻に刺さったウミガメ」に象徴されるように、生き物を苦しめています。しかも、海の生き物だけに留まらず、小さく砕かれたマイクロプラスチック、さらに砕かれたナノプラスチックとなって、陸の生き物にも(もちろんヒトにも)影響を及ぼしています。➡次回の記事を参照

気候変動との関わりでいえば、日本はプラごみのほとんどを焼却しているので、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を発生させています。

諸外国の廃棄物輸入規制強化とは、中国が2018年から「廃プラスチック(プラごみ)」の輸入を規制したことで、代わって輸入が集中した東南アジアを中心とした国々でも、規制強化に乗り出していることを指します。

日本はプラごみを輸出している?

日本のプラごみのリサイクル率は世界的にも高いと言われているけど、実は焼却していたの?

家庭では、リサイクル表示(プラマークやPETマークなど)に従って、水洗いし、分別してごみ集積場に出しているのに……、どういうことでしょう。

日本のプラごみリサイクル率86%!その実態は……?

図表(4)は、プラスチック循環利用協会がまとめている「廃プラスチックの処理状況」です。同協会によれば、2020年の廃プラスチックの排出量は822万トンで、有効利用率86%に上っています。

有効利用率は、「マテリアル・リサイクル」と「ケミカル・リサイクル」、「サーマル・リサイクル」の3つを合わせた割合です。

62%はサーマル・リサイクル

リサイクルとは「再生利用」することですから、マテリアルは物質的に、ケミカルは化学的に、サーマルは熱として再生利用したことを示します。つまり、リサイクル率は86%ということになります!ただし、86%のうち62%はサーマル・リサイクルです。「焼却」によるエネルギーを発電や熱として利用します。

図表(4)には「単純焼却」もあり、十数年前より減っています。代わって、サーマル・リサイクル(「発電焼却」や「熱焼却」など)が増えてきました。単に焼却して二酸化炭素を発生させるのに比べれば、発電や熱として利用するほうがいいでしょう。

しかし、世界的にはサーマル・リサイクルはリサイクルとは認めらていません。燃やしてしまったら、新しくプラスチック製品をつくることになり、リサイクルより多くの二酸化炭素が発生するからです。ところで、図表(4)では、プラごみの輸出について、全く触れられていません。

図表(5)は、日本の「廃プラスチックの輸出量の推移」です。確かに、2018年以前には中国へ(香港を含めて)7割以上を輸出していました。その中国による輸入規制によって、輸出量自体も減っていますが、ゼロにはなっていません。

そこで、プラスチック循環利用協会に問い合わせてみたところ、「マテリアル・リサイクルに含まれている」と言われました。

えっ、どういうこと?

「廃プラスチックを輸入するのは、リサイクルを前提としているためで、わざわざ焼却はしないだろうし、ケミカルの技術もないだろうから、マテリアルと推測している」

この推測が正しかったら、海洋プラごみの問題も、こんなに深刻にはならなかったのではないでしょうか?

もっとも、家庭から出たプラごみは、輸出されたものを除けば、単純焼却や埋立処理を含めて、海洋を汚染する原因にはなっていないように見えます。

ところが、家庭のプラごみと海のプラごみの意外な接点が見えてきました。

次回の記事へ続く……

まとめ

家庭のプラごみがコロナ禍以降に増えたように感じたので調べてみると、約10年の間に容積比率で大幅に増えていたことが分かりました。テイクアウトや宅配、食品ロスを防ぐ「個包装」なども、プラごみを増やす原因になっているようです。さらに、20年7月から有料化されたレジ袋も、ごみとしては減っていませんでした。

今年4月に施行された「プラ新法」は、使い捨てされやすい12品目のリデュースやリユース、適正なリサイクルなどを目的としていますが、背景には「海のプラごみ」や「気候変動」、「諸外国の廃棄物輸入規制強化」などの課題があります。

一方で、家庭のプラごみは回収後、何と86%も!有効利用されていました。しかし、62%まではサーマル・リサイクルとして焼却し、二酸化炭素を発生させています。さらに、マテリアル・リサイクルの約3分の1は輸出したプラごみでした。

家庭のプラごみが、海のプラごみとどう関連しているのか、引き続き次回の記事で考えます。

執筆者のプロフィール

加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

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加藤直美(消費生活コンサルタント)

愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

加藤直美(消費生活コンサルタント)をフォローする
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