【聴き比べ】意外にイケてる!? 全盛期のラジカセの音は今聴いても優れているのだろうか?

家電・AV

そもそもカセットテープの音のポテンシャルは、どの程度のものなのか? また、全盛期のラジカセの音は、現代のモデルよりも優れているのだろうか。実際に聴き比べてみた。

歴史を物語る名機たちで全盛期のサウンドを聴く

デジタル音源とは異なる音の感触や、テープ記録のメカニカルな魅力などで人気が再燃しているカセット。

その音の実力とはどの程度なのか。カセットデッキの収集や修理で知られる「ビデオ工房トパーズ」の中村雅哉さんの協力のもと、カセット全盛期の名機の数々で、実力を検証した。

中村さんは、もともと音楽の録音やテレビの収録にも携わっていた経歴を持つ人物。

録音機器は仕事の道具でもあったが、生来のオーディオ好きが高じて、数々のオーディオ機器をコレクションしてきたという。自ら修理を行い、現在でも動作する数々の機器は、オーディオ家電の歴史を物語る。

試聴に協力してもらったビデオ工房トパーズの中村氏(左)。中村氏はイベントなどのビデオ撮影、編集、BD製作のほかに、オーディオ関連のコンサルティングも行う。

検証❶ カセットテープの音のポテンシャルは、そもそもどの程度のものなのか?

カセットの音には「シャーッ」というヒスノイズが含まれ、そのぶん微小な信号が埋もれてしまうし、高域特性も、CDと比べて決して高くないというイメージがある。

だが、きちんとEQ(イコライザー)とバイアス(記録電流)調整を行って録音したカセットには、十分にCDと同等の実力があるという。

録音したのは、女性ボーカルやSACDのジャズなどだが、きちんとEQとバイアス調整を行ったその音は、CDはもちろん、SACDと比較しても遜色のないものだった。

試聴で使ったCDの一つ「ローラ・フィジィ/イントロデューシング」。1990年代の録音で、カセットテープとの音の相性もいいという。

ノイズリダクションのドルビーBを加えると、ヒスノイズもほとんど消え去ってしまった。現在、手に入るノーマルテープでもこんな音が録れるのだから、正直、驚きだ。

さらに、録音に使用したA&DのGX-Z9100や、Lo-DのD-2200MBなど、昔のカセットデッキの実力の高さも思い知らされた。

ただ、中村さんによると、これはすべての機器に常に当てはまるわけではなく、デッキによっては自己録再はよくても、ほかの機器で再生すると音が変わってしまうものもあるという。

ほかの機種で再生しても音の変化が少なく、肝心の音質もいいデッキとなると、手持ちの機器ではソニーのTC-K555ESRがおすすめとのこと。

ただし、中古の場合は、録音ヘッドの摩耗など、機器の劣化もあるので、いい製品を探すのは大変なようだ。

【結論】
調整などは大変だが、テープの実力は高い。機器の状態のよしあしも重要になる。

検証❷ 昔のハイポジションテープは、現行のノーマルテープより音が優れている?

ハイポジション(クローム)やメタルと呼ばれるテープは、現在流通しているノーマルテープよりも高磁力の磁性体を使うことで、音質を向上させたもの。

カセットは、特に高域の特性が減衰しやすいが、ハイポジションなどのテープは高域特性も優れており、しかも高出力のため、ダイナミックレンジも広いといわれる。

今回、1990年代に販売されていたハイポジションテープを使って録音を試してみたが、きちんとEQとバイアス調整をして録音すると、確かにノーマルテープよりも高音域がしっかりと再現できることが確認できた。

上がハイポジションテープの「UD2」。下は現在でも入手できるノーマルの「UR」。いずれも日立マクセルの製品。確かに音質の差が確認できた。

ただ、だからといって、ハイポジションテープを使うべきとは思わない。何より、今やハイポジションテープを入手すること自体が簡単ではないし、かつて自分が使っていたハイポジションテープを改めて使うにしても、テープは何度も録再を繰り返すと、性能も劣化してしまうのだ。

しかも、現在発売されているラジカセなどでは、ハイポジションで録音しても実力は発揮できない。EQとバイアス調整ができないので、音質的にもよくないのだ。

というわけで、きちんと整備されたカセットデッキがあれば、貴重なハイポジションテープで高音質を楽しめるが、そうでなければ、現行のノーマルテープで割り切るべき。音質の差も、圧倒的に大きいわけではない。

【結論】
確かに音質は優れるが、現在は入手は簡単ではない。実用上はノーマルでも十分。

検証❸ 黄金期のビンテージラジカセの音は、最新型のラジカセより優れている?

ラジカセは、1970年代後半から1980年代前半のものが黄金期で、その後はCDの普及で衰退していった。オートリバースなどの便利な機能がもてはやされるようになり、音質的に有利な独立3ヘッドのモデルが急速に減ってしまったそうだ。

CDはアナログレコードを一気に過去のものにしてしまったが、ラジカセに対しても大きな影響を与えていたわけだ。

ここでは、そんな全盛期のラジカセと、現在も販売されているCDラジカセの音を聴き比べてみたが、その結果は明らか。ビンテージのラジカセのほうが圧倒的に音がよかったのだ。

手前にあるのが、東芝のTY-CDX9とパナソニックのRX-D47。奥にあるのがビンテージラジカセのアイワ・CS-80(1979年発売)。

これはカセットデッキ部分の差もあるが、それ以上にラジカセが備えるスピーカーやアンプ回路の出来の差が大きすぎるため。現行モデルは多くがフルレンジスピーカーであるのに対し、黄金期のラジカセは2ウエイ構成で、ウーハーも明らかにサイズが大きい。新旧というよりも、オーディオ機器としての格が違うという印象だ。

1980年代当時のラジカセは、まさしくオーディオ機器と呼べるレベルの作りになっていて、各社が盛んに競争することで、音質的な実力もかなり優れたモデルが多いという。

状態のいいラジカセは価格も高く、簡単に見つかるものでもないだろうが、音質にこだわるのなら、そうした名機を探してみるのもいいだろう。

【結論】
新旧の音の実力は明らか。オーディオ製品としての作りがまるで違う。

検証❹ 黄金期のビンテージラジカセの音はメーカーによってどのくらい違う?

1980年代前半は、まだミニコンポもそれほど普及してはおらず、本格的な単品コンポか、それらをセットにしたシステムコンポが中心だった。そして、そのサブユース的なアイテムだったラジカセは、多くの人が使う一般的なオーディオだったわけだ。

それだけにラジカセの人気は高く、オーディオメーカーはもちろん、数多くの電気メーカーがラジカセを発売し、音質や機能を競い合っていた。

当然ながら、各社ともそれぞれに音質を磨き上げていたので、メーカーそれぞれで、音質には差があるという。

試聴では、ソニーのCFS-686やサンヨーのMR-9600、パイオニアのSK-95、シャープのGF-303SBなどを聴いたが、ソニーはくっきりとした鮮明な音で、中域も厚みがたっぷり、サンヨーは高域がよく出て、低音もしっかりと伸びるワイドレンジな音という感じで、まさにラジカセごとに大きな音の違いがあった。

写真はサンヨーのMR-9600。当時のサンヨーのフラッグシップに位置するモデル。音のよさで評判が高く、現代では貴重なモデルとなっている。

これは現代のオーディオと同じで、どれがいいというよりも、自分の好みに合うかどうかという差になるだろう。

音質以外でも、アナログメーターやLEDメーターの採用など、デザインも多種多様で、それぞれに味わいがある。また、当時、音のよさで人気のあったモデルは、現在でも人気があるそうだ。中古ラジカセを探すなら、それらの個性を理解して選びたい。

【結論】
音質はもちろんのこと、機能やデザインなどもメーカーやモデルで多種多様だ。

検証❺ ビンテージラジカセは同じモデルでも個体によって音質に大きな差がある?

ラジカセのビンテージモデルは1970〜1980年代のものが多いので、故障や不具合の出たモデルも少なくない。

音が出るように修理されたはずのモデルでも、経年劣化やユーザーの使い方によって、コンディションはさまざまだという。このあたりも、じっくりと見極める必要があるのがなかなか難しいところだ。

そこで、当時から人気が高かったモデルでもあるビクターのRC-M70を4台集め、それぞれの音質の差を聴かせてもらった。

まず、個体によってはアナログボリュームが劣化して、音量調節でガリガリとノイズが出ることもある。それを別としても、音が痩せた感じで、ひ弱な印象になる個体がある一方で、同じモデルとは思えないほどに高域が伸びやかで、声も表情豊かに再現される個体もあった。

このビクターのRC-M70は、当時のヒット製品で、比較的コンディションがいい個体が多いそうだが、それでもこれだけの差がある。

RC-M70GXを含む4台のRC-M70を、同じ音源を使って比較試聴。同じモデルでありながらも、その音にははっきりと違いがあるとわかった。

中古のモデルを探そうという場合は、同じモデルでも複数のモデルをできるだけ試聴して、コンディションのいいものを選ぶことが欠かせないそうだ。

【結論】
中古で目当てのモデルを探すときは、できるだけ複数の候補を吟味したい。

解説/鳥居一豊(AVライター)

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特選街web編集部

1979年に創刊された老舗商品情報誌「特選街」(マキノ出版)を起源とし、のちにウェブマガジン「特選街web」として生活に役立つ商品情報を発信。2023年6月よりブティック社が運営を引き継ぎ、同年7月に新編集部でリスタート。

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