私たちの研究グループは、酸化ストレスを抑えることで、脂肪肝からNASHへ移行するのを防ぎ、ひいては肝硬変や肝臓ガンを予防できるのではないかと考えました。そこで注目したのが、ルテオリンという抗酸化物質の一つです。【解説】高橋智(名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学分野教授)
解説者のプロフィール
高橋智(たかはし・さとる)
名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学分野教授。1987年、名古屋市立大学医学部卒業。91年、名古屋市立大学大学院修了(医学博士)。94年、WHO国際がん研究機関研究員。2001年、米国国立がん研究所研究員を経て、12年より現職。専門は発ガン、ガン予防の実験病理学的研究。
脂肪肝からNASHへ移行するのを防ぐ
肝臓に炎症が起こり、その炎症が続くと、肝硬変や肝臓ガンへ発展する危険性があります。
肝臓の慢性炎症といえば、よく知られているのは、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎です。ところが近年は、生活習慣や食事の影響によって、さほどアルコールは飲まないのに肝炎になる「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が増えています。
NASHとは、脂肪肝に炎症が加わったものです。炎症が起こる要因にはいろいろありますが、老化や活性酸素の発生による酸化ストレスが関与していることがわかってきています。
私たちの研究グループは、酸化ストレスを抑えることで、脂肪肝からNASHへ移行するのを防ぎ、ひいては肝硬変や肝臓ガンを予防できるのではないかと考えました。
そこで注目したのが、ルテオリンという抗酸化物質の一つです。
ルテオリンは、数ある抗酸化物質のなかでも、かなり強い抗酸化力を持っています。
このルテオリンを使って、私たちが行った研究内容を紹介しましょう。
まず、肝臓の恒常性を保つたんぱく質を欠損させ、炎症を起こしやすくした「老化ラット」を用意しました。
そして、正常なラットと老化ラットをそれぞれ二つの群に分け、一方には脂肪肝を起こさせる特殊なエサを、もう一方にはそのエサにルテオリンを混ぜたものを食べさせました。
すると2週間後、老化ラットでは有意差は確認できませんでしたが、正常ラットではルテオリン入りのエサを食べた群で、脂肪肝が35%も抑制されていました。
さらに、実験開始から3ヵ月後、老化ラットでは、ルテオリン入りのエサを食べたほうが、炎症が35%、肝細胞の変性が25%、線維化(硬くなること)が65%抑制されていることが確認できました(下図参照)。
《ルテオリンの肝臓改善効果》
線維化を抑えることは肝硬変を防ぐことになるので、これはとても意義のあることです。
正常ラットでも、ルテオリン入りのエサを食べた群では、炎症、肝細胞の変性がそれぞれ50%抑制されていました。線維化は、有意差こそ出なかったものの、減少傾向にありました。
発ガンに関与している遺伝子の発現も抑制
また、ルテオリン入りのエサを食べた群では、炎症性サイトカインの発現が抑えられていることも確認できました。
炎症性サイトカインは、酸化ストレスの指標です。ルテオリンを摂取することで酸化ストレスが減り、炎症が抑えられたと考えられます。
そして、私たちはこの老化ラットにおいて、NASHからの発ガンに関与している遺伝子も突き止めました。
ルテオリンが、この遺伝子の発現を抑制することも明確になっています。
将来的にガン化する病変の発生数を調べたところ、その数は老化ラットで50%も減少していました。病変した細胞の面積も小さくなっていました。
以上の結果から、ルテオリンは酸化ストレスを減らして炎症を抑え、脂肪肝からNASHへ移行するのを防ぐとともに、肝硬変や肝臓ガンへの発展リスクも抑えることが結論づけられたのです。
この研究結果は、2015年に英科学誌電子版で論文発表しています。
加熱しても壊れないので炒めて食べてもいい
では、NASH予防のために、日常生活のなかでルテオリンを摂取するには、どうすればよいのでしょうか。
ルテオリンは、私たちが口にする食物の中に含まれています。
ルテオリンを特に多く含むのは、エゴマです。そのほか、シソの葉、セロリ、パセリ、ピーマン、シシトウ、シュンギクにも含まれます。
普通の食生活をしていれば、成人で1日1〜2mgのルテオリンを摂取しています。
NASHを予防したり、NASHが悪化して肝硬変や肝ガンになるのを防いだりするには、ルテオリンを含む食物を意識してとるといいでしょう。
例えば、エゴマ油をサラダのドレッシングがわりにしてみてはいかがでしょうか。
ルテオリン自体は加熱しても壊れないので、ピーマンやシシトウを炒めて食べてもかまいません。そうすればたくさんの量を食べられるので、ルテオリンの摂取量も必然的に増えます。
なお、NASHは脂肪肝から発展するものです。日ごろから脂肪のとり過ぎに注意し、バランスのよい食事を心がけ、まずは脂肪肝を予防しましょう。