こりや痛みの多くが「首の骨のバランス」に深く関係しています。コマの軸がちょっとずれるだけで回り方が不安定になるのと同じで、背骨の第一頸椎と第二頸椎、この「環軸関節」のわずかなバランスのくずれが体全体に影響するのです。【解説】金井克行(かない鍼灸接骨院院長)

解説者のプロフィール

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金井克行(かない・かつゆき)
かない鍼灸接骨院院長。1965年兵庫県生まれ。柔道整復師、鍼灸師、理学博士。鍼灸治療、テーピング療法、電気治療、背骨骨盤矯正、リハビリ運動の五つの治療方法から、体質や症状に合わせたベストな治療を行う。体のケアのみならず心のケアの重要性を痛感し、メンタルトレーナーとしても活躍。テレビ、ラジオ、雑誌への出演も多く、ラジオ関西『ラジ王』にレギュラー出演中。著書に『頭のツボトレ』(BABジャパン)がある。

こりや痛みの多くに首の骨のずれが関係

腰が痛い、ひざが痛い、肩こりがひどい。そんなとき、それぞれ痛む部分を直接もんだりほぐしたりしようとする人が多いと思います。

それよりももっと簡単で、効果的なのが、後頭部に指を当てて、頭を軽く前後左右に動かす「後頭部もみ」(詳しいやり方は下記)です。

力もいらず、とても簡単な方法ですが、その場でこりや痛みが軽くなります。続けていれば再発予防にも役立ちます。

なぜ、直接の患部ではなく、首と頭蓋骨の境をほぐすことが、全身のこりや痛みに効くのでしょうか。それは、こりや痛みの多くが、「首の骨のバランス」に深く関係しているからです。

背骨は、椎骨と呼ばれる短い骨が、ダルマ落としの積み木のように積み重なってできています。その首の部分が頸椎、背中の部分が胸椎、腰の部分が腰椎です。

椎骨は、どの部分もほぼ同じ形ですが、背骨のいちばん上の第一頸椎と、その下の第二頸椎だけは特殊な形をしています。

第一頸椎は、輪っか状の構造をしているので「環椎」と呼ばれます。英語では「アトラス」といい、これは天体を担ぎ上げているとされるギリシャ神話の神様の名前です。天体ならぬ重い頭を支えているところから、この名前がついたのでしょう。

第二頸椎は、コマを逆さにしたような構造で、軸状の突起が上に出ているので「軸椎」ともいいます。英語では軸を意味する「アクシス」と呼ばれます。

この軸(突起)が、輪っか状の第一頸椎を貫いて上に突き出し、頭蓋骨のくぼみにはまっています(下の図参照)。

《環軸関節の構造》

画像: 軸椎の突起が環椎の輪を貫いて頭蓋骨のくぼみにはまっている

軸椎の突起が環椎の輪を貫いて頭蓋骨のくぼみにはまっている

この部分を「環軸関節」といいます。環軸関節が、このように特殊な構造だからこそ、私たちは上下左右に自由に顔を向けることができるのです。

しかし、自由自在に動かせる分、環軸関節には「バランスをくずしやすい」という弱点があります。

コマの軸がちょっとずれるだけで回り方が不安定になるのと同じで、環軸関節のわずかなバランスのくずれが、体全体に影響するのです。

背骨は、体を支える屋台骨であると同時に、脳から続く脊髄という中枢神経の通り道でもあります。脊髄は脳からの指令を全身に伝え、全身からの感覚を脳に伝える情報の主要幹線です。特に脳に近いところほど、全身への影響は甚大です。

つまり頭蓋骨と背骨の境である環軸関節が正常に機能していないと、全身の骨格がゆがむだけでなく、神経系にも大きな負担がかかるということです。

運動神経や知覚神経の働きが悪化し、血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の流れも悪くなります。その結果、全身でこりや痛みが起こりやすくなるのです。

ごく弱い刺激だからこそ深部の筋肉に届く

では、この重要な環軸関節のバランスをくずしてしまう原因は何でしょうか。

環軸関節を支えているのは、頭と首の深いところにある「後頭下筋群」という筋肉群です(下の図参照)。この筋肉群の過度の緊張が、環軸関節を不安定にする主因となっています。

画像: 後頭下筋群は頭蓋骨と環椎・軸椎をつないでいる深層筋

後頭下筋群は頭蓋骨と環椎・軸椎をつないでいる深層筋

実は多くの現代人が、後頭下筋群を緊張させる生活を続けています。目をこらしてスマホやパソコンの画面を見たり、読書やデスクワークで細かい字を読んだりすることで、この筋肉群は緊張するからです。

だからといって、簡単にはいつもの生活は変えられないでしょう。だからこそ、後頭下筋群をまめにほぐして、緊張を解くことが重要になります。

そのために効果的なのが、後頭部もみです。

私が長年の治療経験から、後頭下筋群に「肩・腰・股関節・ひざ・足首」の各部位につながる「反応点」を発見しました。症状に対応する反応点を刺激することで、目的の部位に重点的に効かせることができます。

画像: こうした姿勢が環軸関節に負担をかける

こうした姿勢が環軸関節に負担をかける

やり方は下記で詳しくご紹介しますが、いたって簡単です。効果を高めるコツは、指は反応点に当てるだけにして、決して押さないことです。指を反応点に当て、頭を動かして伝わる程度のごく弱い刺激であることが重要です。

より弱い刺激であるほど、深い部分の筋肉の緊張はよく取れます。力を入れると、体表近くの筋肉(僧帽筋など)が緊張してしまい、深い部分の筋肉、つまりほぐしたい後頭下筋群に刺激が届きにくくなります。

頭を動かす順番も意識してください。こんがらがった糸をほぐすときに、最初からいちばん引きつれた部分を無理に引っ張ったら、より絡まりがひどくなってしまいます。無理なくほどけるところからジワジワと順にゆるめていくと、スルッとほどくことができます。

環軸関節の位置を正すのも、同じことです。最初に顔だけを正面から右、左、上、下とゆっくり動かしてみて、いちばん動かしにくかったり、引っ掛かりを感じる方向を見つけましょう。

そして、左右のどちらかが引っ掛かる場合は、まず動かしやすい上下に顔を動かして環軸関節の引っ掛かりをほぐします。

その後、左右の動きでもやりやすいほうを先にほぐし、最後に引っ掛かりの強かった方向をほぐします。

また、目を閉じ、息を吐きながら頭を動かすことで、よりリラックスでき、筋肉がほぐれやすくなります。できれば「ああ気持ちいい」と自分に語り掛けながら行うと、脳のストレスも解消でき、より効果的です。

最初にこりや痛み、関節の可動域を確認してから後頭部もみを行い、比較してみてください。すぐその場で痛んでいた関節がらくに、スムーズに動くようになっているのが自覚できるでしょう。仕事や家事の合間に、ぜひ取り入れてください。

指を当てて揺らすだけ「後頭部もみ」のやり方

準備

顔を正面に向け、正面からゆっくりと右、左、上、下にそれぞれ動かしてみて、いちばん動かしにくい方向を見つける。

画像1: 指を当てて揺らすだけ「後頭部もみ」のやり方

【後頭部もみの反応点の位置】

画像2: 指を当てて揺らすだけ「後頭部もみ」のやり方

・肩…右の乳様突起の下
・腰…左右の乳様突起の骨の際と生え際との交点
・股関節…第五頸椎の中央
・ひざ…ぼんのくぼから左に約1.5cm
・足首…後頭隆起の下

症状別の指の当て方

画像1: 首のズレが関節痛の原因に!足首痛・腰痛・股関節痛を解消する「後頭部もみ」のやり方

「肩こり、四十肩・五十肩」
右耳のすぐ後ろにある骨の隆起(乳様突起)の下端のくぼみに右手の親指の腹を当て、人さし指から小指を頭に添える。バランスをとるため、左手も同様に添える。

画像2: 首のズレが関節痛の原因に!足首痛・腰痛・股関節痛を解消する「後頭部もみ」のやり方

「慢性腰痛、ぎっくり腰」
耳のすぐ後ろにある骨の隆起(乳様突起)を上にたどり、髪の生え際とぶつかるところに左右の親指の腹を当て、人さし指から小指を頭に添える。

画像3: 首のズレが関節痛の原因に!足首痛・腰痛・股関節痛を解消する「後頭部もみ」のやり方

「股関節痛」
首を後ろに倒したときにできるシワの左右中央に両手中指(ほかの指でもよい)を当てる。

画像4: 首のズレが関節痛の原因に!足首痛・腰痛・股関節痛を解消する「後頭部もみ」のやり方

「ひざ痛」
後ろ首から頭蓋骨に向けて指でたどったときに指が止まるくぼみ(ぼんのくぼ)から左に1.5cm行ったところに左手親指を当て、人さし指から小指を頭に添える。バランスをとるため、右手も同様に添える。

画像5: 首のズレが関節痛の原因に!足首痛・腰痛・股関節痛を解消する「後頭部もみ」のやり方

「足首痛」
後頭部の骨の出っ張り(後頭隆起)の下を支えるように両手の親指を当て、人さし指から小指を頭に添える。

後頭部もみのやり方

ゆっくりと息を吐きながら、ひじ、手の位置を保ったまま顔だけを動かす。
指で頭を押さえつけず、添える程度でよい。
目をつぶり、「気持ちいい」と声を出しながら行うと効果が高まる。

【右に動かしにくい人の例】
正面を向き、改善したい反応点に軽く親指を当て、ひじを張る。
ゆっくりとあごを高く上げるようにを向き、正面に顔を戻すのを7回くり返す。
ゆっくりとあごを引くようにを向き、正面に顔を戻すのを7回くり返す。
ゆっくりと顔をに向け、正面に戻すのを7回くり返す。
ゆっくりと顔をに向け、正面に戻すのを7回くり返す。

いちばん動かしにくい方向を最後に行う。
左に動かしにくい人:上→下→右→左
上に動かしにくい人:右→左→下→上
下に動かしにくい人:右→左→上→下
*最初の2方向の順序は逆でもよい。

画像3: 指を当てて揺らすだけ「後頭部もみ」のやり方
画像: この記事は『安心』2019年6月号に掲載されています。

この記事は『安心』2019年6月号に掲載されています。

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