現在、フラボノイドの中でも炎症を抑える力が最も強いと注目されているのが、タマネギの皮に豊富に含まれている「ケルセチン」という物質です。タマネギの皮は、なんと可食部の20~30倍ものケルセチンを含んでいるのです!【解説】熊沢義雄(順天堂大学医学部非常勤講師・前北里大学教授)

解説者のプロフィール

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熊沢義雄(くまざわ・よしお)

医学博士。順天堂大学医学部非常勤講師。前北里大学教授。株式会社Vino Science Japan代表取締役社長。感染免疫と生薬成分の免疫薬理作用について研究。現在はフラボノイドに関する研究とフラボノイドの力を活用するための健康食品の開発を行っている。

玉ねぎの皮は薬効の宝庫

炎症を抑える「ケルセチン」を豊富に含む

タマネギを調理するとき、多くの人は皮を捨てていると思います。ですが今日からは、もったいなくて捨てられなくなるかもしれません。というのも、タマネギの皮は、薬効の宝庫だからです。

タマネギの皮には、ポリフェノールの一種「フラボノイド」が豊富に含まれています。そして現在、フラボノイドの中でも炎症を抑える力が最も強いと注目されているのが、タマネギの皮に豊富に含まれている「ケルセチン」という物質です。

少し難しい話ですが、炎症についてご説明いたします。

生活習慣病の引き金になる「慢性炎症」

最近の研究では、〝慢性炎症〟が血管や臓器の細胞を傷つけ、がんをはじめ、動脈硬化や糖尿病など、さまざまな生活習慣病の引き金になっていることがわかってきました。 慢性炎症とは、同じ場所で何度もくり返される刺激によって長い間起こり続けている炎症のことです。

もともと炎症は、体内で起こった異常な状態を元に戻すための防御反応の一つです。例えば、傷口から細菌が体内に侵入したとします。このとき患部には、細菌と戦う白血球が集まります。白血球の一種である好中球は、侵入者を取り込み、分解し処理します。

好中球は寿命が短く、どんどん討ち死にします。その死骸の片づけや、好中球を助けるために集まるのが、マクロファージ(白血球の一種)です。

マクロファージは、周囲の細胞に対し「現在、攻撃を受けています。対抗しましょう」というお知らせも発します。このお知らせは「サイトカイン」というたんぱく質の一種です。

サイトカインによって臨戦態勢に入った周囲の細胞は、血管を広げたり、リンパ液を集めたりします。その結果、患部は熱を持ったり赤く腫れ上がったりします。これが炎症反応です。

サイトカインは、周囲の細胞に対して「炎症を起こせ」という指令を発する、炎症の旗振り役というわけです。

慢性炎症が続くと病気を引き起こす

過剰な炎症を引き起こす「TNF‐α」

このように、炎症は体を守るための反応です。しかし、反応が強くなりすぎたり、長期にわたって刺激が続いたりして、無害なものやもともと体内にあるものを攻撃したりすることがあるのです。

サイトカインは数百種類が発見されていますが、なかでも過剰な炎症を引き起こす最大の旗振り役は「TNF‐α」です。このTNF‐αは、動脈硬化や糖尿病、アルツハイマー病、がんなどにもかかわっています。

血液中で酸素の運搬役を担う赤血球、炎症にかかわる白血球は、普段は血管壁やお互い同士でくっつくことはありません。

しかし、TNF‐αのある場所では、表面に細胞同士をくっつける接着分子ができてしまいます。さらに血管壁も、その接着分子がくっつきやすいように変化します。

酸化したLDLコレステロールを食べた白血球は血管壁に潜り込み、動脈硬化の引き金となります。

また、糖尿病ではない健康な人の場合、血液中のブドウ糖は、インスリンの刺激でつくられるGULT4という運び屋の働きによって細胞へ送られ、エネルギーとして消費されます。

しかしTNF‐αは、GULT4を「作るな」という指令を出すのです。これでは血糖値は下がりません。

このように、TNF‐αはありとあらゆる病気の元凶になっているのです。

ケルセチンがTNF-αをストップさせる

細胞の線維化を抑えてNASHのがん化を防止

タマネギの皮に含まれるケルセチンには、このTNF‐αが出るのを止め、炎症が起こるのを抑制する働きのあることがわかっています。

血液中へ入ったケルセチンは、炎症と出合わなければ、そのまま体外へ排泄されます。しかし、炎症と出合うとそこへ入り込み、TNF‐αが作られすぎるのを抑制します。そのため、過剰な炎症が起こりにくくなるのです。

近年の研究では、ケルセチンの強い抗炎症力は、細胞の線維化(硬化)も抑えることがわかってきました。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、放置すると幹細胞の線維化が進み、肝硬変や肝臓がんに至ります。

しかし、NASHのマウスにケルセチンを投与すると、肝硬変や肝臓がんを発症しないという報告があります。

治療の難しい間質性肺炎(肺線維症)に対しても、ケルセチンは改善が期待できます。

ケルセチンによって慢性炎症が抑えられれば、生活習慣病の多くは予防・改善が期待できます。次項では、もう少し詳しくタマネギの皮とケルセチンについて解説します。

画像: 細胞の線維化を抑えてNASHのがん化を防止

ケルセチンは血液をサラサラにする効果も

皮は可食部の20~30倍ものケルセチンを含む

タマネギの皮の黄褐色の色素は、「ケルセチン」というフラボノイドの一種で、TNF‐αが出るのを止め、炎症が起こるのを抑制する働きがあることは前項でお話ししました。

ケルセチンには、血流をサラサラにして動脈硬化や心臓疾患、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)を予防する力や、高血圧を改善する力、体脂肪を分解する力、関節痛の症状を緩和する力などが、さまざまな研究で証明されており、大いに注目が集まっています。

タマネギの中で、ケルセチンは「配糖体」という形で存在しています。配糖体とは、糖と結合しているという意味で、水に溶けやすいという特徴を持っています。

タマネギに含まれるケルセチンの量は、品種や産地、収穫時期によって変わってきますが、基本的には秋タマネギに多く、干すことでケルセチンの量はさらに増えます。

普段、私たちが食べるタマネギの可食部のケルセチン量は、100g当たり22mgです(米国農務省のデータベース)。

ところが、タマネギの皮は、なんと可食部の20~30倍ものケルセチンを含んでいるのです!

つまり、タマネギの皮100gには、440~660mgものケルセチンが含まれていることになります。どうでしょう?もうタマネギの皮を捨てる気にはなれなくなりませんか?

玉ねぎの皮は食物繊維も豊富

腸内環境環境を整える

さらにタマネギの皮には、食物繊維も豊富に含まれています。皮の約70%が食物繊維、約2~3%がケルセチンです。常食すれば、腸内環境は整いやすくなります。

人間の腸内には、食物繊維やフラボノイドをエサにして、「酪酸」という物質を作る腸内細菌もすんでいます。

近年の研究では、この酪酸が「制御性T細胞」という細胞を増やすことがわかってきました。

関節リウマチなどの自己免疫疾患や、花粉症、ぜんそくなどのアレルギー性疾患は、過剰な免疫の働きが原因で発症すると考えられています。制御性T細胞は、この免疫の働きを制御する細胞です。

腸内環境が整って腸内に酪酸が増えれば、制御性T細胞も増えます。制御性T細胞が増えれば、過剰になりすぎた免疫の働きが抑えられるため、これらの病気の予防や改善が期待できると考えられます。

私は以前、あるチームとの共同研究で、タマネギのケルセチンの関節リウマチへの効果を調べたことがあります。この実験では、人為的に関節リウマチを発症させたマウスを使用しました。マウスの関節の腫れは、一定の基準でスコア化しました。

実験では、関節が腫れてからケルセチンを投与したマウスと、ケルセチンを投与しないマウスの、2パターンの経過を調べました。

画像: Endocrine,Metabolic & Immune Disorders-Drug Targets,2019,19,000-000

Endocrine,Metabolic & Immune Disorders-Drug Targets,2019,19,000-000

すると、ケルセチンを投与したマウスは、何も投与しなかったマウスより腫れのスコアが有意に低下したのです(上のグラフ参照)。

この実験の結果から、関節リウマチを発症した人にも、ケルセチンはある程度の効果が期待できると考えられます。

玉ねぎの皮の摂り方

タマネギの皮のとり方ですが、タマネギの皮を軽く水洗いして乾燥させて、煮出してお茶にするか、あるいは粉末にしたものを食べるとよいでしょう。(作り方は下記別記事参照)量は、1日に小さじ1杯(5g)を目安としてください。

粉末にする手間が面倒という場合は、タマネギの皮の粉末の市販品もあるようです。

ケルセチンを配合したサプリメントも市販されていますが、なかには、タマネギ以外の植物から抽出したケルセチンを使用している物もあります。

食経験のない植物から抽出した化合物のケルセチンを利用するより、タマネギの皮を食べたほうがよいでしょう。タマネギの皮にはケルセチンに加えて食物繊維も豊富です。

人間の体は、日々の食習慣によって作られます。腸内細菌叢も同様で、長年培われた食習慣によって、その種類や割合が形成されています。

つまり、タマネギのように常食されている食物なら、腸内細菌叢に受け入れられ、栄養として吸収されやすく、高い効果も期待できるのです。

余談になりますが、病気の予防・改善には、タマネギの皮と並行して、ビタミンDの摂取もお勧めします。

ビタミンDは、サケやサンマなどの魚類や乾燥キクラゲにも含まれますが、日光に当たれば体内で作ることもできます。

日焼け止めをぬらずに、毎日10分程度の日光浴を習慣にしてみてください。ケルセチンとの相乗効果が期待できます。

画像: この記事は『安心』2019年6月号に掲載されています。

この記事は『安心』2019年6月号に掲載されています。

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