サツマイモというと、その甘さのせいか太るものというイメージがあるようです。それがなぜダイエットや便秘解消につながるのか、その秘密は「食物繊維」そして、冷やすことででんぷんが変化した「レジスタントスターチ」という物質にあります。【解説】笠岡誠一(文教大学健康栄養学部教授)
解説者のプロフィール
笠岡誠一(かさおか・せいいち)
1967年生まれ。文教大学健康栄養学部管理栄養学科教授。農学博士、管理栄養士。東京農業大学大学院・食品栄養学専攻修了(食品学修士)。山之内製薬(現・アステラス製薬)健康科学研究所研究員、文教大学専任講師、アメリカ国立衛生研究所客員研究員を経て、2015年より現職。専門分野は栄養生理学、食品化学。レジスタントスターチに早くから注目し、レジスタントスターチを増やした「ハイレジ食」の開発なども行う。テレビや雑誌などメディアでの解説も多い。
サツマイモを加熱して冷蔵庫で冷やす
肥満の人や太りやすい体質の人には慢性的な便秘に悩む人が多く、それがまた太る原因にもなっています。
便秘が気になっている人、食生活に気を使っているのに便秘がいっこうに改善しないという人は、ぜひ「冷やし焼きイモ」を試してください。
冷やし焼きイモとは、サツマイモを一度過熱し、冷蔵庫で冷やしたサツマイモのことです。この冷やし焼きイモが、便秘解消やダイエットの強い味方になってくれるのです。
一般にサツマイモというと、その甘さのせいか、太るものというイメージがあるようです。それがなぜダイエットや便秘解消につながるのか、その秘密は「食物繊維」にあります。
食物繊維は、便秘を改善したり、脂肪の蓄積を抑えたりといった働きでダイエットをサポートしてくれます。この食物繊維には、水溶性と不溶性の2種類があります。
水溶性の食物繊維は小腸で糖質やコレステロールの吸収を抑え、血糖値の急激な上昇を防ぎます。また、大腸では便を適度な軟らかさにします。さらに、善玉菌のエサとなり、腸内環境を改善してくれます。
一方の不溶性食物繊維は、腸を刺激して排便を促します。サツマイモは、水溶性・不溶性ともに食物繊維が豊富なのです。
しかも、サツマイモに含まれるヤラピンという成分にも、腸を刺激し、働きを活発にする作用があります。ヤラピンは、サツマイモを切ったときに皮の近くからにじみ出てくる白いネバネバした液で、サツマイモを皮ごと食べることで摂取できます。
サツマイモは皮にも不溶性食物繊維が豊富に含まれるため、サツマイモを皮ごと食べれば、食物繊維とヤラピンの二重の効果で便秘解消に効果的です。
冷やすと食物繊維と同じ働きが得られる
そして、冷やすことで、サツマイモのでんぷんが「レジスタントスターチ」という物質に変わります。「レジスタント」とは消化されにくいという意味で、「スターチ」はでんぷんです。
生のでんぷんに水を加えて加熱すると、隙間なく規則的に並んでいたでんぷん分子の構造が壊れて広がり、柔らかくなります。この現象を「糊化(こか)」といいます。
この、糊化したでんぷんが冷めると再びでんぷん分子の隙間が閉じて硬くなります。これを「老化」といいます。この老化の過程で、でんぷんの一部が消化されにくい構造に変化します。それがレジスタントスターチです。
4℃以下で冷やしていくと老化がゆっくり進み、レジスタントスターチが増えます。
レジスタントスターチは、腸で食物繊維と同じ働きをして、血糖値やコレステロール値の上昇を防いだり、排便を促したりしてくれます。
サツマイモはもともと食物繊維が多い上に、レジスタントスターチにも変わりやすいため、食物繊維の効果が非常に得られやすい食材なのです。
冷やし焼きイモに含まれる4つのやせ成分!
《サツマイモ自体のやせ成分》
水溶性食物繊維
・腸内で善玉菌のエサになる
・便の水分量を増やす
・小腸での消化吸収を抑える
・急激な血糖値の上昇を防ぐ
・血中のコレステロール値を減少させる ……など
不溶性食物繊維
・便のかさや重量を増やす
・腸の動きをよくして便の排泄を促進する ……など
ヤラピン
・皮の付近にあるネバネバした白い液体。サツマイモにしか含まれない
・腸を刺激してぜん動運動を促す
+
《冷やし焼きイモのやせ成分》
レジスタントスターチ
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維両方の性質を持つ
シャーベットみたいでおいしい!
レジスタントスターチは一度加熱して冷やされることで生成されます。ですから、加熱した後に冷やしてレジスタントスターチが生成された「冷やし焼きイモ」が、ダイエットや便秘に効果的というわけです。
私は、調理法が簡単な焼きイモを一度冷凍にしてから、自然解凍して半解凍の状態で食べることを勧めています。
冷凍保存することで長期保存が可能ですし、半解凍の焼きイモは食感がなめらかで、食べた人たちからは「シャーベットみたいでおいしい」と好評です。
なお、冷凍した焼きイモをレンジで急速に解凍してしまうとレジスタントスターチが減少してしまうので、自然解凍でゆっくり戻すのがよいやり方です。
また、焼きイモを作るときは、低温でじっくり時間をかけると甘味が増します。簡単なのは、炊飯器の玄米モードで作る方法です(次項参照)。
サツマイモ2分の1本(約100g)は195kcalです。平均的な大人の茶わん1杯の白米が235kcalですから、主食を2分の1本分の冷やし焼きイモに置き換えれば、カロリー減になります。
さらに、サツマイモが主食だと、おかずがそんなになくても食べられるので、脂質の過剰摂取予防にもつながります。腹持ちもいいので、よけいな間食や過食を防ぐこともできます。
このように、実はダイエット食であるサツマイモ。これを利用しない手はありません。
冷やし焼きイモの作り方と基本のダイエット法
加熱したサツマイモを冷やしてから食べると、ダイエット効果が高まります。「おいしく食べて、きちんとやせる」冷やし焼きイモダイエットの方法をご紹介します。【『安心』編集部・編】
冷やし焼きイモダイエットの方法
◆便秘解消や美肌に効く【入門編】
「1日に100g程度の冷やし焼きイモを食べる」
*基本的に食事や運動などの生活は変えず、おかずやおやつとして冷やし焼きイモを取り入れるようにする。もちろん、運動や腹八分目を心がけるなどの生活習慣の改善を取り入れれば、ダイエット効果はさらにアップ!
◆つらさを感じずにやせる!【基本編】
「1日のうち1食の主食を冷やし焼きイモに置き換える」
*1日1食だけ冷やし焼きイモ+おかずの食事を作る(ごはんやパン、麺類などの主食は食べない)。1 回の食事で主食として食べる冷やし焼きイモの量 は、150g程度。
*1日2食までは主食を冷やし焼きイモに置き換え てもいいが、おかずはきちんと食べるようにする(栄養の偏りを防ぐため)。
冷やし焼きイモの作り方
同じサツマイモを使っても、作り方で味や食感が変わります。好みの焼きイモを見つけてください。
なお、サツマイモは黄色みが強いほど甘く、焼きイモに適したイモになります。
(1)サツマイモを加熱する(焼きイモを作る)
◆炊飯器で作る
❶サツマイモ200g(大きめ1本)を洗い、皮つきのまま炊飯器に入れる。
❷水100ccを加えて「玄米モード」で炊飯する。
*サツマイモは炊飯器やイモそのものの大きさに応じて、丸ごと入れてもカットして入れても可。
◆オーブントースターで作る
❶サツマイモ200gを洗い、皮つきのままオーブントースターに入れる。
❷15分焼き、ひっくり返してまた15分焼く(編集部では800wのトースターを使用)。ワット表記ではないオーブントースターは180℃で15分焼き、返してさらに15分焼く。
*ワット数が高いトースターは、アルミホイルを敷いて焼くとよい。
◆電子レンジで作る
❶サツマイモ200gを洗い、濡れたキッチンペーパーで包んでから、ラップで包む。
❷「解凍モード」ないしは200w前後で10分間チンする。
❸上下をひっくり返して再度10分間レンジにかける。
(2)焼きイモを冷やす
焼きイモの粗熱が取れたら、ラップでくるむか、保存容器やジッパー付きの保存袋に入れるなどして冷蔵庫へ。この状態で3日ほど保存が可能。
◎冷やし焼きイモを作る際のポイント
いいイモを使うとおいしい
加熱方法でも味は変わりますが、サツマイモそのものの違いも大きいです。いいイモが手に入ったら、ぜひ焼きイモにしてみてください。
「低めの温度で長時間加熱する」と甘味が出る
電子レンジやオーブントースターはワット数が種類や機種によって異なりますが、基本的に「低めの温度で時間を長くする」と甘味が出ます。サツマイモの大きさや太さによっても軟らかくなるまでの時間が異なるので、上記の数字や時間を参考に、おいしい焼きイモを作ってください。竹串がスーッと通ればOKです。
冷蔵庫で冷やすとやせ効果が高まる
4℃くらいの温度で冷やしたサツマイモが、最もやせ効果が高まります。常温で冷ますだけでなく、ぜひ冷蔵庫で冷やしてみてください。作った焼きイモは冷凍もできるので、たくさん作って冷凍し、解凍して食べるのもお勧めです。
冷やし焼きイモ満腹レシピ
甘くておいしい冷やし焼きイモも、毎日食べ続けたら飽きてしまうかも。そこで、ここでは冷やし焼きイモを用いたおかずやデザートのレシピを紹介します。いろいろな食べ方で冷やし焼きイモを楽しんでください。【レシピ考案・料理・スタイリング】古澤靖子
*材料にある「冷やし焼きイモ」とは、上で紹介した「一度過熱してから冷蔵庫で冷やしたサツマイモ」を指します。加熱法はなんでもOK。
*サツマイモはすべて、皮つきのまま使います。
冷やし焼きイモのトライフル
【材料】(2人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・プレーンヨーグルト……200g
・ハチミツ……大さじ2
・リンゴ……1/8個
・レモン汁……小さじ1
・飾り用のリンゴ……適量
【作り方】
❶ざるにキッチンペーパーを敷き、ヨーグルトを入れて包み、上に重しをのせて30分置き、水切りヨーグルトを作る。出来上がった水切りヨーグルトにはハチミツ半量(大さじ1)を混ぜておく。
❷リンゴは皮ごと1cmくらいの角切りにする。
❸冷やし焼きイモはフォークでつぶし、レモン汁、残りのハチミツ、(2)のリンゴを加えて混ぜる
❹(3)を2等分にして器に入れ、(1)のヨーグルトをかける。
❺リンゴの薄切り(分量外)を飾って出来上がり。
冷やし焼きイモの冷たいスープ
【材料】(2〜3人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・タマネギ……1/4個
・バター……大さじ1/2
・牛乳……400ml
・コンソメ(顆粒)……小さじ1/2
・塩、コショウ……各少々
・あればオリーブ油……少々
【作り方】
❶タマネギは粗みじん切りにし、バターで透き通るまでフライパンで炒める。
❷ミキサーに(1)のタマネギ、輪切り(2cm程度)にした冷やし焼きイモ、牛乳、コンソメ顆粒を入れ、なめらかになるまで撹拌する。
❸塩で味を調えたら器に盛り、コショウとオリーブ油をかける。
冷やし焼きイモとタマネギのサラダ
【材料】(2〜3人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・タマネギ……1/2個
・レタス……2〜3枚
[ドレッシング]
・塩、コショウ……各少々
・酢……大さじ1
・オリーブ油……大さじ2
【作り方】
❶タマネギは薄切りにし、ドレッシングの材料をかけて軽く混ぜておく。
❷冷やし焼きイモは1cm程度の輪切り、大きければ半月切りにして、(1)に加えてあえる。
❸ちぎったレタスを敷いた器に(2)を盛る。
冷やし焼きイモとヒジキのヨーグルトサラダ
【材料】(2人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・乾燥ヒジキ……5g
・ロースハム……2枚
・ヨーグルト、マヨネーズ……各大さじ1
・塩、コショウ……各少々
【作り方】
❶ヒジキはたっぷりの水で軟らかくなるまで戻し、熱湯でサッとゆでてざるにあげておく。
❷ロースハムは千切りにする。冷やし焼きイモは1cm程度の輪切り、大きければ半月切りにする。
❸(1)と(2)をヨーグルト、マヨネーズで和え、塩、コショウで味を調えて出来上がり。
冷やし焼きイモの白和え
【材料】(2人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・シュンギク……1/2袋(80g)
[和え衣]
・白すりゴマ……大さじ1
・木綿豆腐……1/3丁(150g)
・塩……小さじ1/3
・きび砂糖……大さじ
【作り方】
❶冷やし焼きイモは1〜2cmの半月切りにする。シュンギクは塩ゆでにし、3cm長さに切り、水気をよく絞っておく。木綿豆腐はペーパータオルにくるんで水気をよく切っておく。
❷すり鉢に白すりゴマと豆腐を入れてなめらかになるまですり、塩、きび砂糖を加えさらに混ぜ、和え衣を作る。
❸(2)の和え衣に(1)の冷やし焼きイモとシュンギクを加えて和える。
*すり鉢がない場合は、ポテトマッシャーや泡立て器を使って豆腐をつぶして作る。
冷やし焼きイモとブロッコリーのおかかポン酢
【材料】(2人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・ブロッコリー……5房
・レンコン……2cm長さ
・ポン酢……適量
・カツオ節……1パック
【作り方】
❶ブロッコリーは小房に分ける。レンコンは皮をむいて半月切りにする。
❷ブロッコリーとレンコンは塩ゆでにしてざるに上げ、冷ます。冷やし焼きイモは1cm程度の輪切り、大きければ半月切りにして、野菜と一緒に器に盛る。
❸ポン酢をかけ、カツオ節をのせる。
冷やし焼きイモと豚しゃぶのネギだれ
【材料】(2人分)
・冷やし焼きイモ……200g
・豚しゃぶしゃぶ用薄切り肉……80g
[ネギだれ]
・しょうゆ、酢……各大さじ1
・ゴマ油……小さじ1
・青ネギ(小口切り)……4〜5本分
【作り方】
❶冷やし焼きイモは1cm程度の輪切り、大きければ半月切りにして器に盛る。
❷豚しゃぶしゃぶ用肉はさっとゆで、水にとる。水気をよく切り、(1)の冷やし焼きイモにのせる。
❸ネギだれの材料を合わせ、(2)にかける。