ふだん私たちが手を使う場合握る動作が多く、しっかり指を開いたり伸ばしたりする動作は意外と少ないのです。それが腱鞘炎の一種、バネ指の誘因の一つではないかと考え、「グーパー運動」という運動療法を勧めています。【解説】青木孝文(山王病院整形外科部長・国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授)

解説者のプロフィール

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青木孝文(あおき・たかふみ)
日本医科大学卒業、同大学院修了。医学博士。ボストン大学神経筋研究センター留学。現在、山王病院整形外科部長、国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授。手や足の病気の改善に役立つ独自の治療法を考案し成果を上げている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本手外科学会認定手外科専門医など。

腱の柔軟性が回復し滑らかに動く!

50~60代の女性に多い手の病気に「バネ指」があります。指の腱鞘炎の一種で、曲げた指を伸ばそうとすると、バネのようにカックンと弾けてしまうことから、そう呼ばれています。

主な症状は、指のつけ根の痛みや腫れ、指の引っかかりなどです。痛みや腫れは、朝の起き抜けがいちばんひどく、昼ごろになると少し和らぎます。しかし、悪化すると、指が動かなくなってしまうので、注意が必要です。

手の指には、屈筋腱という腱(骨と筋肉をつなぐ強い組織)が通っており、この腱の働きで指をギュッと握ることができます。屈筋腱は親指に1本、それ以外の4本の指には2本ずつあり、1本は指先まで、もう1本は第2関節まで伸びています。

この腱は、指を曲げたときに浮き上がらないように、腱鞘というトンネルの中を通っています。普通は、2本の腱が腱鞘の中をスムーズに動きますが、過度に使うと、腱が腫れたり、腱を覆っている腱鞘が、かたく分厚くなったりしてきます。

すると、腱が腱鞘にこすれて炎症が起こったり、引っかかったりして、バネ指になるのです。

腱鞘炎の一般的な治療は、痛み止めとしての薬物療法と、腱鞘内へのステロイド注射があります。注射は針を刺すときに強い痛みを伴うものの、即効性があります。それでも改善しない場合は、腱鞘を切開する手術を行います。

私は、そうした一般的な治療を行う前に、手指の運動療法を指導しています。

手を開いたり握ったりする簡単な運動で、私は「グーパー運動」と呼んでいます。これを15年前に考案してから、ずっとバネ指の患者さんに勧めています。

ふだん私たちが手をよく使う場合、握る動作が多く、しっかり指を開いたり伸ばしたりする動作は意外と少ないのです。

それがバネ指の誘因の一つではないかと考え、最初、手のひらを思い切り開いて指を伸ばすことを重視しました。しかし、伸ばすだけでは、腱は柔軟になりにくい。そこで、指を伸ばしたあとに、しっかり握って曲げることも必要だと考えました。

これをくり返すことで、腱を包んでいる膜(腱鞘滑膜)が引き伸ばされて、腱の柔軟性が回復。その結果、腱のむくみも取れ、腱鞘の中を腱が滑らかに動くようになると考えられます。

朝の痛みが軽くなり早い人は2週間で改善

バネ指は、親指、中指、薬指によく起こります。親指は、ほかの指と起こる機序が少し異っている可能性があるものの、グーパー運動は、どの指にも効果があります。


■グーパー運動のやり方

グーパー運動は、とても簡単です。

画像: 指を伸ばすときは、指の間をしっかり広げ、指が反るくらい強く行う。

指を伸ばすときは、指の間をしっかり広げ、指が反るくらい強く行う。

手の指を思い切り開いて、5本の指を伸ばします。それぞれの指の間をしっかり広げ、指を反らすくらい伸ばします。これを3秒間維持したあと…

画像: 朝の痛みが軽くなり早い人は2週間で改善

今度はギュッと2秒間、手をしっかり握ります。親指は指の中に入れても入れなくてもけっこうです。

①〜②を10回くり返します。

いつ行ってもかまいませんが、入浴時に行うと、指の動きがよくなり、より効果的です。


このグーパー運動を続けていると、まず朝の痛みが軽くなり、早い人なら2週間で症状が改善します。時間のかかる人でも、2ヵ月ほどでよくなります。これまで私が指導した患者さんの6〜7割は、グーパー運動を行うだけでバネ指が治っています。

では、バネ指の改善例を紹介しましょう。

Aさん(50代・男性)は、朝になると明らかに右手の中指が曲がっていて、自分の力では伸ばせなくなっていました。左手を使って伸ばそうとすると、パンと弾けてしまいます。午前中に指を動かしているうちに、なんとか使えるようになるという、典型的なバネ指でした。

Aさんにグーパー運動を指導したところ、注射は避けたいと思って、毎日熱心に実行されたそうです。1ヵ月後、「もう中指が引っかかることはありません」と報告してくれました。

Bさん(50代・女性)は左手の薬指にときどき引っかかりがあり、指を握ろうとすると痛みが出ました。そこで、セルフケアとしてグーパー運動を指導。2ヵ月後に来院されたとき、「グーパー運動を続けたおかげで、すっかりよくなりました」と話してくれました。

症状が軽いうちに行えば早く治りますし、ステロイド注射や手術後の再発予防にも効果があります。また術後に、指の第2関節の腹に痛みが出る人がいますが、そういう人にもグーパー運動はよく効きます。

画像: この記事は『壮快』2020年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年1月号に掲載されています。

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