アイリスオーヤマはちょっと変わった家電メーカー。その理由は「なるほど家電」にあります。なるほど家電のひとつ、自走式のスティック型掃除機 i10「IC-SLDCP9」も、かなりユニーク。手で使う静電モップと電気で動く掃除機のコラボの便利さが印象的なモデルになっています。
アイリスオーヤマのスティック掃除機がユニーク
アイリスオーヤマは、ちょっと変わった家電メーカーです。普通の家電メーカーがしてこなかった、別の言い方をすると避けてきた方法で、この分野成功しつつあります。それがメインモデルの価格縛りです。他のメーカーがありったけの技術を詰め込んだフラッグシップモデルを作り、そこから仕様を落とし、価格を下げていくのに対し、アイリスオーヤマは価格に見合った仕様に、ユーザが欲しいと思うような仕様を1つ加えます。いわゆるなるほど家電です。アイリスが作ったスティック型掃除機 i10「IC-SLDCP9」も、かなりユニークなものでした。
「自立型」は流行遅れ?
スティック型掃除機は、大きく2タイプに分かれます。1つは自立式と言われる床に掃除機が自立するタイプです。もう一つは手持ち式と言われるタイプで、こちらはずっと手に持って掃除をします。アイリスオーヤマの「i10 IC-SLDCP9」は自立式タイプを採用しています。
長所はそれぞれありますが、自立式の良いところは、重さを床が受けてくれること。手持ち荷重が軽いのです。要するに、長時間掃除しても、手が疲れないのです。
このため、掃除機の本体が少々重くても問題ありません。軽く操作ができます。これの意味するところは、例えば、バッテリーが少々重くてもよいということです。掃除機はモーターをぶん回しゴミを吸います。モーターをぶん回せば回すほど、あっという間にバッテリーを消費していきます。このためできる限りは最新の小型軽量高性能バッテリーを使いたいとなります。そうしないと、強吸引力なのだが、3分しか使えない掃除機が出来上がってしまいます。いわゆる使えない掃除機です。重さをあまり考慮しなくてもよいのでしたら、バッテリーのセルを追加するなどして容量を増やすことができます。いろいろなバッテリーが使えると言うわけです。
便利な自立式掃除機ですが、日本では、手持ち型が優勢です。これは、日本市場で最強の掃除機ブランドがダイソンだからです。ダイソンが手持ち式にして以降、日本の全メーカーが手持ち式を主流としました。手持ち式のいいところは、掃除するところまで掃除機を移動させるのが楽なことです。それは軽く作られているからです。そうでないと、ずっと手で持つことはできません。その仕様を満たすためには、どうしても最新のモーター、最新のバッテリーなどを使わなければなりません。スティック型掃除機の価格は、どうしても高めになります。
ダイソンは、自分が持っていない技術、例えばバッテリー等は、M&Aで会社を買って自分の中に取り入れます。しかし、それは高く売ってもいい、もしくは高く売れるからできることです。低価格を魅力の1つとするアイリスオーヤマの場合は、そんなことはできません。既成に手に入るものでやり繰りします。
自立式は、そういった意味で有利です。流行に乗ってないのは事実ですが、非常に合理的にできているのです。かく言う私自身、自立式のスティック型掃除機を愛用しています。
トレンドはサイクロンでも「紙パック式」を採用
現在、スティック型掃除機にはもう一つトレンドがあります。それは、ほとんどのメーカーがサイクロン方式を採用していると言うことです。サイクロン方式は、ダイソンがものにした「吸引力が変わらない」方式です。ダイソンの強力モーターによって、サイクロン=吸引力強と思ってる人が多いですが、吸引力が変わらないと言う事のがサイクロン方式の特長です。
一方、昔から使われてきた紙パックのメリットは何でしょうか?
紙パック式の最大のメリットは、紙パックがフィルターでもあるため、極めてシンプルな構造で、掃除機を作ることができるということです。何を意味しているのかと言うと、軽いのです。確かに、紙パック式掃除機は、ゴミが詰まってくると吸引力が落ちます。しかし、最近のモデルは、落ち方がはなはだ少ない。サイクロンシステムに対抗すべく、紙パックの方も目詰まりを起こさないように、工夫されているのです。その1つが多層化。多層紙パックの場合、これはフィルターの表面積が増えたことと同じです。その分、目が塞がれるまでに時間がかかるわけです。
しかも、それだけでなく、サイクロン式の問題点、ゴミを捨てる時、散らばるという問題がありません。これはハウスダスト、花粉他、アレルギーがある人には福音です。折角、注意して部屋を掃除したのに、ゴミ捨て時に、アレルゲンが再度飛び舞うようなことがなくなるからです。アレルギーを持っている人、花粉症の人には、紙パック式をお勧めします。
手で使う「静電モップ」が便利!
P9は、標準とターボ、2つの掃除モードを持ちます。当然ターボの方が強いです。
標準で、吸わせてみますと、ちょっと弱いかなと思いました。実際には吸っているのですが、音が余りにも弱く、吸引もゆっくりした感じです。
一方、ターボはスゴイ。標準の3倍以上ありそうな吸引に、甲高い音。ここまで差がある掃除機はなかなかないです。ターボは使う時、ちょっとドキッとする感じ。ここまで吸引すれば、吸えないゴミはないって言う感じです。
実際の掃除する時は「自動」がお勧めです。標準よりいい感じで掃除できます。またゴミがキチンと取れ、残ってないかは、「ほこり感知センサー」が教えてくれます。このセンサーはとっても便利です。ここら辺は、時流をしっかり掴んでいます。
ちょっと感心できなかったのは、自走式パワーヘッド。前に行くのが早過ぎるように感じました。実装されているからパワーヘッドを使うのではなく、ほこり感知センサーを見ながら掃除をすることをお勧めします。
しかし、テストしていて一番感心したのは「静電モップ」があることです。100均でも売ってそうで、スティック型掃除機の特長としては、キワモノのようにも思えますが、これがなかなかどうして便利なのです。実際、手放したくありませんでした。
自分で掃除機をかけるときのことを、思い浮かべてください。理想的には、整理整頓が全て終わってから掃除機をかけるのが一番良いのですが、まぁなかなかそうはいきません。部屋の一部が完全に片づいていなくても、掃除を始める人は多いと思います。その時便利なのが、静電モップなのです。掃除機だと、てこずりそうな本の山、段ボール箱の隙間など、ちょっとした隙間からほこりを掻き出してくれます。スティック型掃除機の場合は、ハンディー掃除機が原型になってますので、こんな隙間はハンディー掃除機で対応するのが基本ですが、静電モップは、より的確でより楽です。軽いし、細いし、実にハンドリングしやすいのです。手の延長みたいなものですからね。
もう一つ良いのは、掃除機にくっつけられていることです。意識しないでも、常に使える位置にあるということです。スティック型掃除機の場合、各メーカーいろんなオプションを用意します。しかしオプションが、本体にくっついてないものですから、使おうと思った時、逐一オプションを取り出して来なければならないと言うことです。これは結構面倒です。家事は、同じことを連続してやったほうがはかどります。そう言う意味では、常に静電モップが手元にあるのは、大正解なわけです。
スティッククリーナー i10
IC-SLDCP9
▼充電時間:最長約5時間 ▼連続運転時間(※満充電、バッテリー初期温度:20℃):標準:約35分、ターボ:約6分、自動:最長約70分(ブラシ回転「切」で使用時、使用環境によって異なる) ▼集じん容積:0.3L
最後に
P9は実によく考えられて開発された掃除機です。ただ惜しいのは、少々バランスが悪いように感じます。名前は出しませんが、あのメーカーならここはこうディテールを詰めるだろうな、と考えてしまいます。アイリスオーヤマは、まだパーツ1つ1つの細部が詰めきれていない感じを受けます。家電経験が浅いのと、コスト制約が大きいのかも知れません。素性がいい分、そんな感じを受けました。
とはいえ、それは厳しくチェックを入れた時の話。まずは、手で使う静電モップと電気で動く掃除機のコラボの便利さが印象的なモデルです。今回P9も十分いいモデルですが、今後の洗練度が楽しみなモデルでもあります。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。