スパイスカレーに使われるターメリックは、ウコンと呼ばれる生薬で皮膚病薬や鎮痛薬として使うほか、肝臓の働きを助ける作用を持っています。コリアンダーやクミンも健胃薬・胃腸薬として使われ、おなかの張りや、ガスだまりに有効とされています。【解説】小泉久仁弥(くにやクリニック院長)
解説者のプロフィール
小泉久仁弥(こいずみ・くにや)
くにやクリニック院長。日本東洋医学会指導医、日本医師会認定産業医。昭和60年岩手医科大学医学部卒業。福島医科大学、国立療養所翠ヶ丘病院、北里研究所東洋医学総合研究所、東京都立大塚病院東洋医学科を経て、くにやクリニックを開業し、漢方を専門とした診療を行っている。平成7年、昭和大学より生薬(漢方薬)と肝臓の薬物代謝酵素関連の研究で博士(医学)を受ける。カレー好きの医師としても有名。
漢方薬の材料と共通のものが多い
日本の「国民食」といわれるほど人気の高いカレー。そのカレーに、「食べる漢方薬」といえるほど、優れた薬効があることをご存じでしょうか。
カレーは、インドで生まれてイギリス経由で日本に伝わり、明治時代に広まりました。現在は固形のカレールーが普及していますが、元来はさまざまなスパイスを使って、具材を煮込んだ料理をカレーといいます。
「食べる漢方薬」といえるほど健康効果が高いのは、そうした「スパイスカレー」です。なぜかというと、スパイスの原料には、漢方薬に使う生薬(しょうやく)と共通しているものが多いからです。
私は昔からカレーが好きで、カレー好きが高じて、一時期、医業をしながらカレー料理店を営んでいたほどです。その店では、体によいスパイスをふんだんに使った「薬膳カレー」を提供していました。
私自身、悪化した体調を回復させるために、カレーの力を借りた経験もあります。
その頃、診療の多忙さに加えて、電子カルテへの切り替えやパソコン環境の変更などが重なり、私は疲労困憊していました。食欲が低下する一方、ストレスからつい飲み過ぎることもありました。
そんな毎日の中で、中性脂肪値が231mg/dlまで上がりました(正常値は150mg/dl未満)。また、肝機能値のγ‐GTPは71、ALT(GPT)は55と、いずれもかなり高くなったのです(正常値はγ‐GTPが50以下、ALTが30以下)。
そこで私は、好物のカレーを、体調の改善に役立てられないかと考えました。
例えば、カレー特有の色を作るスパイスであるターメリックは、漢方では鬱金(うこん)と呼ばれる生薬です。皮膚病薬や鎮痛薬として使うほか、胆汁の排泄を促して、肝臓の働きを助ける作用を持っています。
同じくカレーによく使われるコリアンダーは、最近、エスニック料理で人気のパクチー(香菜)の種ですが、和漢薬(日本で開発したものを含む生薬の総称)では「胡荽子(こずいし)」に当たり、健胃薬として用いられます。消化を助けたり、おなかの張りを除いたりする作用があります。
カレーに使われるもう一つのポピュラーなスパイスであるクミンも、和名を「馬芹(うまぜり)」という薬用植物で、やはり胃腸薬として使われ、おなかの張りや、ガスだまりに有効とされています。
胃腸を整え全身の不調に効果をもたらす
漢方では、食べ物から生命力(気)を得ると考えるため、胃腸を整えると全身がよくなるという基本的な考え方があります。ですから、胃腸の不調はもちろん、全身のさまざまな不調に効果をもたらします。
また、これらのスパイスは、いずれも食欲増進作用や血行促進があることが知られており、その意味でも幅広い効用が期待できます。
そこで私は、週に2〜3回、これらのスパイスを使ったカレーを食べるようにしました。漢方も使いながらですが、こうしてスパイスカレーを常食していると、次第に体調がよくなり、体が軽くなってきました。
数年後の血液検査では、中性脂肪値が56mg/dl、γ‐GTPが60、ALTが27と、いずれも大幅に改善し、その後もいい状態を保っています。
もちろん、カレーだけで検査値が改善するとはいえませんが、スパイスの働きが改善の助けになったと実感しています。
スパイスカレーは、食欲がない人や元気が出ない人、私のように生活習慣病関連の検査値を改善したい人には、特にお勧めです。
また、小麦粉を使わずに野菜をたっぷり入れれば、低エネルギーのダイエット食にもなります。ですから、メタボの気になる人や、ダイエットしたい人にも役立つでしょう。
健康づくりに役立てたいとき、カレーを食べる頻度は好みでよく、好きなら毎日でも大丈夫です。
インドやネパールでは、毎日カレーを食べています。ただし、頻繁に食べる場合、トウガラシを入れ過ぎると刺激が強くなるので、控えめにするか、入れないほうがよいでしょう。
私は、最近、ヒッチハイク感覚で料理を楽しむ「キッチハイク」というアプリを使い、訪れた人にカレーを振る舞うこともしています。
先日は、訪れた皆さんにキーマカレー(ひき肉のカレー:レシピは下記)を出したところ、大好評でした。チキンカレーもよく作りますし、最近のお気に入りはメカジキのカレーです。
どんな肉・魚・野菜でも使えて、自由に作れるのも、スパイスカレーの魅力です。ぜひおいしく味わいながら、健康づくりにお役立てください。
小泉先生のスパイスカレーレシピ手作りキーマカレー
【スパイス】
カルダモン(粒・殻を砕いて中身のみ使う)……1個
クミンシード……小さじ1/2
コリアンダー(粒)……小さじ1/2
ターメリック……小さじ2/3
【材料】(1人分)
ニンニク(みじん切り)……1片分
タマネギ(みじん切り)……中1/4個
トウガラシ(種を抜いて刻む)……小さじ1/2
合いびき肉……90g
ジャガイモ(さいの目に切る)……中1個
ニンジン(さいの目に切る)……中1/4本
プレーンヨーグルト……80g
水……200~300ml
サラダ油……大さじ1
塩、しょうゆ……各少々
【作り方】
❶フライパンにサラダ油を入れて中火にかけ、カルダモン、クミンシード、コリアンダーを入れて熱する。
❷スパイスの香りが立ったら、ニンニクとタマネギを加えて色づくまで炒める。
❸ターメリックとトウガラシ、ひき肉、ジャガイモ、ニンジンを入れて炒める。肉に火が通ったらヨーグルトを加え、すぐに具材が隠れる程度の水を入れてふたをし、野菜に火が通るまで弱火で煮る。
❹塩としょうゆで味を調える。
※カルダモンの粒やクミンシード、コリアンダーの粒がない場合は、パウダースパイスを使用してもよい。その場合は、(3)の手順のところで、ターメリックと一緒に入れる。
※この記事は『安心』2020年6月号に掲載されています。