こむら返りの原因を中国医学から見ると、圧倒的に多いのが「腎の弱り」です。ですから、腎の気を強くし、その流れ道である腎経の流れをよくすることが重要です。そのために効果的なのが、腰の背中側にある「腎兪」というツボです。【解説】田中勝(田中鍼灸指圧治療院)
解説者のプロフィール
田中勝(たなか・まさる)
田中鍼灸指圧治療院院長。1948年北海道出身。鍼・灸・あん摩マッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あん摩、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
こむら返りに悩む人は意外と多い
突然、ふくらはぎの筋肉がつって、激しい痛みを起こすこむら返り。夜中に起こり、寝床でもだえ苦しんだ経験は、多くの方がお持ちでしょう。
「こむら」はふくらはぎを意味します。主に、ふくらはぎにある腓腹筋という筋肉がけいれんして起こるのがこむら返りです。
当院に、こむら返りを主訴としてみえる患者さんは少ないのですが、肩こりや腰痛といった他の症状で来院された方に、「足がつりませんか」と聞くと、たいていの人が「つります。困っています」と答えます。こむら返りで困っている人は、かなり多いようです。
厄介なことにこむら返りは、どんなときに起こるか予測がつきません。じっと寝ているときに起こるかと思えば、運動中に起こったり、当院での治療中に起こることもあります。
一般には、足の冷えや全身の疲れがあると起こりやすく、マグネシウム不足が一因になるともいわれています。年齢的には、50〜60歳代に起こりやすいのも特徴です。
こむら返りは、糖尿病などの病気の影響から起こることもありますが、ほとんどは一過性で心配いりません。時間は、たいてい1〜2分、長くても5〜10分で治まります。
とはいえ、痛くてつらいので、その時間が非常に長く感じます。できることなら、「少しでも早く痛みをとりたい」「できるだけ起こらないようにしたい」と、誰しも思うでしょう。
そこで、こむら返りを早く鎮めるとともに、習慣的に行えば、こむら返りが起こりにくくなる方法をご紹介します。
それは、こむら返りに特効のあるツボを刺激する方法です。こむら返りの原因を中国医学から見ると、圧倒的に多いのが「腎の弱り」です。
中国医学では、重要な12の内臓に対応する気(生命エネルギー)の通路があり、これを経絡といいます。ある臓器の気が弱り、その経絡の流れが悪くなると、病気や各部の痛みが現れます。逆に、その流れをよくすれば、病気や痛みが改善するという考え方で治療します。
腎の気が弱るのがこむら返りの主な原因
そして、こむら返りは、「腎の気」が弱り、腎経の流れが悪くなるのが主要な原因とされているのです。ですから、こむら返りの痛みを早く和らげたり、こむら返り自体を起こりにくくしたりするには、腎の気を強くし、その流れ道である腎経の流れをよくすることが重要です。
そのために効果的なのが、腰の背中側にある「腎兪(じんゆ)」というツボです。
背中側のツボですが、あおむけに寝て背中と床の間に、握りこぶしか、あればテニスボールなどを挟めば、らくに効果的に刺激できます(詳しいやり方は下項参照)。
こむら返りが起こったとき、誰でも反射的に痛む部分をさすったり、もんだりするでしょう。それも悪くはないのですが、足から離れた腎兪を刺激することで、速やかに痛みが軽減します。
また、痛む筋肉の場所によって、足にあるツボを併用すれば、さらに効果的です。ふくらはぎの内側がよくつるときは、腎の弱りが非常に強いことの現れなので、腎経のツボである陰谷(いんこく)と照海(しょうかい)を押します。
ふくらはぎの外側がよくつるのは、腎とともに胆嚢も弱っていることの現れで、酒量の多い人に見られやすい反応です(中国医学では、肝臓の弱りが胆嚢に強く影響するため)。その場合は、胆経のツボである陽陵泉(ようりょうせん)と足臨泣(あしりんきゅう)を押します。
ふくらはぎの中央がよくつる場合は、腎とともに膀胱が弱っていると考えられるので、膀胱経の委陽(いよう)と申脈(しんみゃく)を押します(それぞれ詳しいやり方は下項参照)。
腎兪とともに、よくつる場所に応じたこれらの足のツボを習慣的に押していると、こむら返りが起こりにくくなってきます。腎兪の刺激とあわせてやってみてください。
つりやすい部位で弱った内臓が分かる!
ふくらはぎの内側▶︎ 腎臓が非常に弱っている
ふくらはぎの外側▶︎ 胆嚢と腎臓が弱っている
ふくらはぎの中央▶︎ 膀胱と腎臓が弱っている
こむら返りに特効のツボ押しのやり方
【ツボ押しの基本の流れ】
(1)共通のツボを押す▶︎ (2)こむら返りが起こりやすい位置に対応したツボを押す
こむら返りを予防するツボの押し方をご紹介します。まずは腰にある共通のツボを押して、その後、内側、外側、中央と、よくつるところに対応するツボを刺激しましょう。
(1)共通のツボ押し
●腎兪
左右の腰骨の最も高いところを結ぶ線の高さにある背骨の出っ張り(棘突起)が第4腰椎棘突起。その1つ上の骨の出っ張りが第3腰椎棘突起。さらに1つ上が第2腰椎棘突起。第2腰椎棘突起の左右の骨の先端に1つずつある。見つける目安はひじの高さ。
●志室
腎兪から人さし指の幅2本分外側に一つずつある。
❶平らなところであおむけになる
❷両手で握りこぶしを作ってツボを刺激
左右の腎兪を両手で同時に刺激する。30秒~1分くらい刺激したら、同様に志室も押す。
◀︎人さし指の根元部をツボに当てると、刺激を伝えやすい。
●テニスボールだと刺激しやすい
テニスボールは1個だけ使うのがポイント。左右いずれかの腎兪を刺激する。30秒~1分くらい刺激したら、反対側も刺激。同様に志室も刺激すること。
(2)タイプ別ツボ押し
●両手の親指を重ねてツボを押すと、力が伝わりやすい
●ツボを押すのに決まった姿勢はないが、いすに座って、押したい側の足を上げると無理なくツボを押せる
内側がつりやすい人のツボ
弱っている内臓:腎臓
■陰谷
ひざを曲げるとひざ裏に横ジワができる。そのシワの足の親指側の側面端にある。
■照海
内くるぶしの中心(最も高いところ)から、親指の幅1本分下がったところ。押すとジーンと響く。
外側がつりやすい人のツボ
弱っている内臓:胆のう
■足臨泣
足の甲の第4指と第5指の、骨の付け根が交差するところ。くぼんでいて、指で押すと響く。
■陽陵泉
外くるぶしからひざに向かって真上になで上げると、ひざの下に突出した骨(腓骨頭)がある。その骨のすぐ下にあるくぼみ。
中央がつりやすい人のツボ
弱っている内臓:膀胱
■申脈
外くるぶしのすぐ下で、指で押すとくぼむところ。
■委陽
ひざの真裏にある横ジワの左右中央から人さし指の幅2本分外側。
痛い最中に歩くのも有効
当院にみえた患者さんたちにも、これらのツボを用いて治療を行っています。あるとき、「酒を飲むとふくらはぎの外側がつる」と訴える男性が来院されました。中国医学では、お酒を飲むと、肝と深く関わる胆に強い影響が出ると考えます。
ふくらはぎの外側には胆経が通っているので、この男性はお酒の影響で胆が弱り、この部分のこむら返りを起こしやすいと考えられました。そこで、先に挙げたツボを中心に治療したところ、こむら返りが起こりにくくなったとのことでした。
なお、こむら返りが起こったときは、安静にして我慢するしかないと思いがちですが、実は、痛みに耐えて起き上がり、少し歩くと速く痛みが消える場合もあります。
ちょっとがんばりが必要な方法ですが、効果は申し分ないです。できる方は、これも試すとよいでしょう。
■この記事は『安心』2020年7月号に掲載されています。